東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第23話 「東の歌姫」

鈴奈庵の娘、本居新子は両親から、禍王の”四人の歌姫計画”を知らされる。新子は仲間の茨木華扇と共に、歌姫計画を打ち破るために旅立った。

新子の前に現れた熱風に乗せられて、新子は怒りを爆発させる。そして、ついに姿を現した東の歌姫に手を伸ばすのだった…。

 

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第23話 「東の歌姫」

 

「くくく…」

 

熱風は宙に浮かびながら下を見ていた。自分が放った化身である双頭の犬はスライムに変化し、近くに居た裏切者の女憲兵、そして邪魔くさい大男を絡めとり、締め上げている。そしてスライムの半分以上は穴から神社の内部へ流れ込み、同じように本居新子を始末してくれるだろう。俺が叩き落としてから何も動きが無い。

だが、さっきから何度もやってきて邪魔をしている竜が居る。あの竜は壁に向かって炎を吐き、爪で引っ掻き、壁を壊そうとしている。この神社には東の歌姫の魔力が働いており、いくら伝説の竜だろうと簡単に壊せる代物ではない。

 

が、その時、熱風は神社の中から猛烈な霊力を感じた。

新子と『東の反逆者』は、天井の穴から飛び出し、屋根の上へ着地した。『東の反逆者』の逆立った赤い髪が揺れる。そして熱風に鋭い視線を向ける。

 

「なに、本居新子…!その姿は…!馬鹿な、お前如きが、歌姫の支配から脱せられる訳がない…」

 

「ナメんじゃねぇ!歌姫の力をも取り込んで、この化身は完全にアタシが支配した!それがこのアタシの『東の反逆者』だ」

 

そう、新子は鬼人正邪と戦った時のように、敵の魔力を吸収し、それをコントロールすることに成功したのだ。

東の歌姫の魔力は、吸収してしまうと霊力に変換されずに魔力として残り、それが暴走しだす。それは新子が東の番人としてまだ未熟だったから。だが今の新子はもう東の歌姫の番人などではない。溜まった歌姫の魔力、すなわちこの化身は霊力へと再変換され、こうして新子の意のままに、正に手足として使う事が出来る。

 

「くっ…!小癪な女め!」

 

「散々好き勝手言ってくれたなぁ…。このアタシの力…見せて…やるぜぇ!!」

 

新子は熱風に向かってパンチを繰り出した。

 

「はやい…!」

 

熱風が避ける間もなく、巨大な拳が熱風を砕いた。身体がグシャグシャになった熱風は揺れながら下に落ちかけた。だが、すぐに身体が回復し始める。

神社の屋根の上に立ち、新子に向けて手をかざす。そして魔力の衝撃波を放ち、反撃した。

 

「効くかよ!」

 

剛腕を振り、衝撃波をいとも簡単にはじき返した。

 

「アタシはもう歌姫なんて守らねぇ、今からぶっ壊してやる!そうしたらお前とご主人の計画は丸つぶれだ。お前の面目も立たねぇぜ?」

 

新子は再び天井の穴から神社の中へと滑り込んだ。

 

「くそ…この俺が、立つことができないだと…奴の強大な霊力をぶつけられて治癒が遅れ、立ち上がることができないだと…!吐き気がする、目まいもだ…」

 

 

新子と『東の反逆者』は土煙を上げて地面に落ち、転がった。東の歌姫の歌声が頭に突き刺さる。ナイフで刺すような痛みに新子はうめき、化身の巨体がドスンと前のめりに倒れ込む。

だが、じわじわと力が湧き上がってくる。東の歌姫の魔力を前に能力が発動し、新子に霊力が湧き上がってくる。心を静められ、勇気づけられ、何とかして目をこじ開けた。

すぐ横に壁があった。壁向こうから竜の咆哮と地面を掻く音が聞こえてくる。痛む頭を無理に動かして、横を向く。新子が落ちた時の衝撃で退けられた瓦礫の上に、”東の歌姫”がすぐそこにあった。

それは、幻想郷の景色と同じだった。赤色は緑へ、緑は夜のような青へと様々な色に変わり、さっき見た昔の幻想郷の風景とよく似ている。でも、これはそんなものではない。今ならわかる。人を馬鹿にした、紛い物だ。

表面こそ美しく磨き上げられているが、命あるもののように脈打つツルツルした赤い皮膚の下は、芯まで冷たく死に絶えた灰色だ。

 

新子は見たくないと思いながらも、惹きつけられた。こんなものを欲しがった自分が理解できない。それでも新子は、なかなか目を逸らすことができなかった。見上げると、天井の穴から日の光が差し込んでいる。だが、それもごくわずか。穴はじわじわと流れ込んでくる黒いスライムで塞がれていた。

思った通り、あの犬は熱風の意志に従ってアタシを追って来た。それも、あわてて。今度は向こうが新子の口車にまんまと乗せられたのだ。敵の思考力を落とすために、頭を潰しておいて良かった。

あとはやつがアタシの作戦に乗ってくれることを祈るしかない。東の歌姫を守ることに夢中になって、手遅れになる前にバンとツムグを手放してくれればいいんだが…。

 

『東の反逆者』はなんとか立ち上がった。新子と一緒になって、歌姫の声による苦痛に顔を歪ませる。だが、それに屈せずに大きな腕で歌姫を掴み上げ、もう片方の腕で連続でパンチを浴びせた。容赦のない連打が歌姫に襲い掛かる。歌姫の歌声が不規則になり、宝石のような硬い表面にひびが入った。

だが歌姫の声の魔力は弱まらない。歌声で頭が割れそうだ。すぐ後ろで、竜の咆哮が聞こえた。壁に炎を吐いているんだ。もうすぐ、壁の魔力が炎に負ける。そうすればたちまち壁は燃えて弱くなり、竜が爪で壊してくれる。そうすれば歌姫の相手は竜に任せて、自分はあのスライム犬と戦う事が出来る。

 

─急いでくれ!

 

新子は心の中で念じた。だがそれに答えたのは、苦しげな唸り声だった。外で憲兵が竜に攻撃しているのだ。

しかし今は、天井のスライムから目を離せない。耐えてくれ…!

 

そういえば、おかしいぞ…。ヤツは確かにプルプルと震わせながら下に向かって動いている。でも、一向に落ちてこない。なぜだ?

その時新子は背後に目をやって、ぞっとした。

 

へし折れられた天井の梁がスライムに覆われて真っ黒だった。スライムは天井を張って新子のすぐそばまで来ていた。壁の向こうからは憲兵団の怒号と、竜の怒り狂った声が流れ込んでくる。

そのとき、ひときわ大きな声が聞こえて、新子の心は踊った。

 

「やめなさい!この私が相手になるわ!」

 

華扇だ!どうにかして神社の外に出たんだ。華扇なら、竜に群がる憲兵も一掃できる。だが今の華扇は目が見えない。永くはもたないだろう…。

憲兵の怒号が悲鳴に変わる。つづく、何かが粉々になる音。その時、壁に小さな穴が空いた。そこから竜の爪の先が入ってきて、壁の穴を広げようとする。昼間の光が薄暗い内部に差し込み、ニセモノの宝石の上で踊る。

東の歌姫の鑑の如き表面が光を受けて輝く。頭に響いていた歌声が、耳をつんざく高音につりあがる。邪悪が全てを凍らせる風のように吹き出してくる。壁の向こうで竜もふらつくのがわかる。

 

天井から流れ込んできた黒いスライムが、一つの青い塊になりかけている。2つの突起が飛び出て、少しずつ大きくなり、双頭の犬の身体を形作る。犬の顔は歯を剥き、音を立てて首を振りながら迫ってくる。

 

「ちょうどいい、さっきの仕返しだ…喰らいやがれ!」

 

突進してくる犬の二つの顔を、両腕で受け止める。『東の反逆者』は物凄いパワーを発揮した。顔を掴まれた犬は戸惑い、前足をバタバタさせる。

…グシャ

そして指先にある短いが鋭い爪を喰い込ませ、そのまま犬の顔を握りつぶした。

 

「フルパワー!!」

 

犬の胴体を思いきり殴りつける。

さらに追撃をしようとしたとき、大地を揺るがす轟音と共に壁が内側に向かって砕け散った。大きな石と木片がいくつも飛んできて、双頭の犬を押しつぶす。犬は潰れた頭で唸り声をあげ、足で床を引っ掻く。

新子の視界に真紅が飛び込んできたかと思うと、巨大なカギ爪が見えた。『東の反逆者』の巨体を掴み、何が何だかわからないまま瓦礫と共に外へとかきだされた。

 

体が竜の胸に押し付けられている。竜の皮はぬるぬるとすべり、血の匂いがした。東の歌姫の歌声が耳を貫き、頭に響く。音はこれまでになく大きい。

でも、おかしいな。さっきよりも歌姫から遠ざかったはずなのに、なぜ…?

目をこじ開けた新子はぎょっとした。まだ神社の中にあると思っていた歌姫がすぐ近くの瓦礫の上に転がっているのだ。土埃の下で真っ赤な表面が炎のように燃えている。

わざとなのか偶然なのか、竜は新子と共に東の歌姫をも外で引っ張り出していた。余りに近くから発せられる邪悪な歌声にやられて、起き上がることもできない。

 

うちのめされているのは、新子だけではなかった。恐怖と絶望にすすり泣く声、叫び声やうめき声が聞こえ、新子は力を振りしぼって起き上がり、上を見た。

 

驚いた…。新子は竜とともに大きな穴の中に居た。竜は壁を削ると同時に、神社の壁の下の地面を掘っていたのだ。その穴の下に、壁の瓦礫と歌姫と共に新子が居た。よく見ると、穴の同じ深さまで神社の床下も掘っていた。

見上げると、穴の縁に何百もの顔があった。憲兵団も多いが、一般市民も多かった。憲兵から神社と竜を守るために、勇気を奮い起こして里から駆け付けたのだ。だが今は皆、東の歌姫の邪悪な歌声に曝され、ひざをついて耳を塞ぎ、うめき苦しんでいる。立っているのは3人だけ。神社の裏手に近い穴の縁に身を寄せ合っている。少し後ろに立つ人影はバン、その前に居る二人はツムグと華扇だ!華扇はツムグに手を取られ、髪は風でボサボサになり、月光のように青白い顔でふらついている。

よかった、3人とも無事だった!

他にも、河城にとりを初めとした河童の姿も見える。そこに混じっている一つのシルエットは見覚えがあるが、何だか思い出せない。

 

行く手に何が居ようと、仲間がいる。それが何よりもうれしかった。それに、あの犬は壁の下敷きになって息絶えた。あとは歌姫と、熱風を倒すのみ!

 

─随分と厳つい姿を手に入れたのだな、新子。さぁ、今だ。私に力が残っているうちに─

 

竜の声はか細かったが、新子には聞こえた。そして、さとった。竜は最後の力を振り絞って東の歌姫を破壊しようとしている。新子は『東の反逆者』の手で竜の前足を掴んだ。土埃を被る歌姫を、鋭い目で睨みつける。

 

こいつは200年もの間、神社の拝殿の奥に潜んで、はるばる神社に祈りにやって来た人々の心に悲しみを与え、大地にじわりじわりと毒を流し込んできた。その毒は、この神社がある丘に、竹林へ、そして人間の里に広がって善良な者の力を挫き、悪しき者の力を強めた。

だが、ヤツの天下もこれまでだ。

 

竜が力を溜めているのを感じとり、炎の熱から逃れるために巨体の影に隠れた。だが次の瞬間、信じられないものを見た。東の歌姫の向こう、竜が掘った神社の床下の穴の中に、黒いドロドロが詰まっていた。瓦礫で息の根をとめられたように思えた双頭の犬が再びスライムに変化し、がれきの下から滲み出してもう一度犬の体を形作ろうとしている。

犬はまだ生きていた!目の前で完全に元の双頭の犬の形になった。群青色のつやつやした毛を日光で光らせ、立ち上がる。巨体から先端が鎌のように高質化した触手が伸び、空を斬る。怪物は悍ましい雄叫びを上げると、触手を鞭のようにしならせてせまってきた。

竜は吠えると翼を広げ、後ろ足で立ち上がり、炎を吐いた。犬の体を炎が焼き、犬は身を縮めて吠える。だが、今度は逃げない。再び迫りくると青白く柔らかい竜の首の下側を触手で切り裂いた。竜の鱗の筋を伝って、血が流れる。

竜は今にも襲い掛かろうと、輝く鋭い牙を剥きだした。

 

─やめろ、噛みついちゃだめだ!それじゃヤツの思うつぼなんだ、噛みつけば口に入り込んで喉を詰まらせてくるぞ

 

竜はたじろいだ。棘のある二股の尾が掘り進んできた穴の壁をイライラと叩く。そして一歩下がると、再び吠えて炎を吐いた。ジュージューという不気味な音。犬が狂ったように吠え、無数の触手がしぼんで地面に落ちる。その下の犬本体の肉も固くなり、焼けただれた。

 

そのとき何の前触れもなく、犬の体が伸びあがった。まるで青い大波のように、わっと竜に迫ったかと思うと、首に巻き付く。竜は逃れようともがき、纏わりつく敵に爪を立て、触手を掻き落とそうとした。だが、爪に引き裂かれた傷はみるみるうちに閉じた。触手は落ちるそばから生え変わり、他の触手に混ざって首を斬りつけ、しめつけていく。

竜が苦痛に吠え、前足を突いた。

 

「やめろ!」

 

新子はやっとのことで一歩踏み出し、『東の反逆者』とともに敵に飛びかかった。鋭い爪で怪物の首を切り裂き、胴体を殴る。片方の犬の首が新子に振り向き、狂おしく燃える目を向け、吠えた。唾の泡が飛び散る。双頭の犬と青い竜人が互いに向き合う。

もう片方の顔も血の凍るような勝どきの声をあげ、竜の首に噛みついた。

 

竜が苦しみの雄叫びを上げ、ぐったりと首を落とす。犬は竜の首に噛みついたまま、頭を揺らした。牙が首に食い込んでおり、血がドクドクと流れ出ている。

 

「テメェ!」

 

新子はもう一度犬に向かって突進した。竜に噛みつく犬の首を掴み、締め上げる。だが、今度は犬の首からも触手が何十本も飛び出し、青い巨体を斬りつけた。紫色の血が滲み、新子は眉間にしわを寄せた。

更に飛び出た触手が、化身の首の後ろにいる新子本体に向かってくる。あわてて化身を操作し、腕で触手を掴んで千切りとる。パラパラと地面に落ちた触手が他の触手と同化し、犬の胴体と合体する。

 

その時、頭上でまばゆい金色の光が炸裂し、穴の中まで光で満たされた。

 

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