東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

28 / 67
第28話 「無限の闇を光に変えて」

ついにその姿を現した禍王。新子はその絶対的禍に抗う事は出来るのか。

今、幻想郷の存亡をかけた戦いが始まった。

 

─────────────────────

 

 

第28話 「無限の闇を光に変えて」

 

残るガルルガは三羽。その三羽が煙と炎の向こうに見たものは、牙を剥いた五つの口、無数のカギ爪に棘。ガルルガたちは挑戦的に鳴きながらも、その場をうごかず、勝算を推し量っている。

正義と友情の象徴の竜。力と名誉の象徴の麒麟。勇気と知識の象徴のグリフォン。愛と不屈の象徴の天狐。そして希望と純潔の象徴のケツァール。

五匹の神獣が一斉に吠えると、三羽のガルルガはくるりと向きを変えて逃げ出した。そして、自分たちがされた仕打ちを誰かに言いつけるように、わざとらしく悲壮感漂う声で鳴いた。

 

「愚か者共が…。この私に反逆したお前たちを、この禍王自らが始末してやろう」

 

妖怪の山にしがみ付いていた黒雲の一部が地上に降り立った。雲の中にギラギラと光る二つの目には瞳が何個もあり、雲から真っ黒い腕が突き出した。地面に付いた腕は力強く大地に食い込み、まるで地を這う昆虫のようだ。だが、その黒雲には今までの歌姫等では比べ物にならない程悪意に満ちた邪悪が込められている。

 

あれが、禍王…!

 

博麗神社のあった丘を降りた人間の里では、バンやツムグ達が遠くに現れた禍王を見つめていた。300メートルもあろうかという大きさで、巨大な目がギョロギョロと動き、幻想郷をぐるりと見渡す。

 

「幻想郷の愚民共が…。お前たちは何も理解していない、お前たちは自らの手で自らの進化の可能性を封じ、怠惰への道を歩む…!だから滅びなければならないのだ。だが、幻想郷そのものは美しい。あの妖怪の山も、魔法の森も、お前たち愚民共の手にあるというのが許せない」

 

「な、何を言ってやがる!」

 

ロックの背の上から新子が叫ぶ。

禍王の無数にある瞳の一つが新子を睨んだ。

 

「黙れ!この幻想郷は私のモノだ、もう灰色の海をとめることはできないぞ…クハハハハハ…」

 

高らかな笑い声が幻想郷中に轟く。それに呼応されるように、灰色の中心に居た三角形の怪物が動き出し、固まった灰色の上に立った。そして目玉模様から光を発し、液体の固まる範囲を拡大していく。ガルルガが再び雲の中から現れ、神獣たちに向かって行く。突風が吹き、新子と華扇は竜の背中から落ちかけて宙づりになった。

 

「ロック、ようやく敵が出て来たんだ…一発ぶちかまそうぜ」

 

「そう言うと思ったぞ、新子」

 

ロックは前足で新子と華扇を抱え込むと、ガルルガの猛攻をかいくぐって地面に降り立った黒雲へと向かって行く。

 

「小癪な神獣めが…」

 

禍王の目が光り、魔力の光線が放たれた。ロックは空中で見事に回りながら光線を避け、確実に距離を詰めていく。当たりそうになる光線には特大の炎を吐きつけ、相殺する。

 

「ついに来たぜ、禍王!」

 

『東の反逆者』が力を溜める。禍王と言う最大最強の魔を前にして、新子の力も今までにないほど、限界を超えるほどに高まっている。禍王は巨大な腕を持ち上げ、新子たちを叩き潰そうと襲い掛かる。竜が禍王の腕の一振りを前足で押さえ込み、腕に炎を吐いた。黒い煙状の腕が炎の勢いに晒されてわっと散る。

 

「おのれ…ウラァア!!」

 

禍王が反対側の腕を振るうと、疾風と共に灰色や黒、紫や赤色の星型の光弾が無数に展開された。竜は咄嗟にそこから離れ、飛び交う光弾を避けようと宙を舞う。

 

「やられっぱなしってわけにゃいかねぇよ!!行くぜ、華扇!」

 

「ええ!」

 

新子と『東の反逆者』、そして華扇は竜の背から飛び降り、星の光弾を足場のようにして飛び跳ねながら禍王へと向かって行った。『東の反逆者』は空中で一回転すると、拳を天に掲げ、そこに霊力を集中させる。そして華扇が新子の肩に手を置くと、掲げた拳の周りに華扇のような包帯の帯が出現する。包帯は拳の周りを螺旋状に囲い、『東の反逆者』の右腕は巨大なドリルと化した。

 

「喰らえぇ…『リベリオォオオン…ドォリィルゥ…フィストオオオオ』!!」

 

『リベリオンドリルフィスト』。華扇と新子の力が合わさり、右腕に作った巨大なドリルを回転させながら、まるで青い流星の如く禍王へと突撃した。目の前を邪魔する光弾さえも粉々に砕きながら、一直線に。

 

しかし、禍王の煙の体の中から飛び出した、ワイヤーのような細長い触手が『東の反逆者』に突き刺さった。それによって勢いが落ちたのを皮切りに、次々と尖った触手が青い巨体に突き刺さる。霊力で作った巨体が崩れていく。だが新子は諦めない、崩れかけの化身の体で、禍王にまでたどり着こうと力を込める。

だがその時、禍王の巨大な手が、新子と華扇、そして崩れかけの『東の反逆者』を握りこんだ。

 

「そんなものかァァア?本居新子オオオオ!!!」

 

そして新子らを握ったまま、その手を地面に何度も何度も叩きつける。地面がめくれ上がり、爆発のような衝撃が起こった。その後、禍王は手の中にある愚かな塵を、はるか遠くへと投げ飛ばした。

 

「いいか!私こそがこの世界の…支配者なのだ!」

 

幻想郷の空に、大地に、邪悪な笑い声が轟いた。

 

 

 

投げ飛ばされた新子たちは、物凄い勢いで空を飛んでいく。どうすることもできず、ただ投げられた時の勢いのままに飛ばされる。邪悪な光を放つ三角形の怪物が眼下に通り過ぎた。それでも止まることなく、人間の里の上を通過する。そして、彼女らがぶつかった場所は、博麗神社だった。鳥居を破壊し、そのまま神社に突っ込む。衝撃で神社はガラガラと音を立てて崩壊する。その時、新子は華扇の腕を掴もうと手を伸ばすが、上から覆いかぶさってきた大量の瓦礫と粉塵によって遮られた。

 

新子がやっとの思いで目を開けると、当たり一面は木片に覆われ、上からは大きな瓦礫に押しつぶされ、足を動かすこともできない。動かせるところといえば、目と口、そして左腕だけだった。

だが右腕と両足の先はまだ『東の反逆者』と繋がっているようで、ボロボロに崩れた青い巨体が自分の下に横たわっている。

 

「動いてくれ…ッ…動いて、この瓦礫を退かしてくれ…!」

 

しかし、動かそうとするが、巨体はカタカタと壊れたおもちゃのようにふるえるだけで、一向に動く気配はない。大きな顔の目の光が完全に消え失せ、辛うじてつながっていた手と両足も巨体のうなじから外れてしまった。『東の反逆者』は芯を抜かれた達磨落としのようにバラバラになり、液体となって流れて消えてしまった。

 

くそ、どうすればいい…?

 

ふと視線を前にずらすと、目の前の瓦礫の奥に、ピンク色の髪の毛が見えた。華扇が目を閉じて、新子と同じく瓦礫の下敷きになっていた。

 

「華扇…!」

 

呼びかけても返事はない。

 

「華扇…おい!!」

 

もう一度呼ぶと、華扇の瞼がぴくっと動いた。そして目を開け、新子を見た。

 

「新子」

 

か細い声でそう呟いた。

 

「ああ、新子だ。アタシはここに居るぜ」

 

「…明るいわね」

 

そこで気付いた。この瓦礫の中が、ほんのりと明るい。上の瓦礫の隙間から、わずかに光が差し込んでいる。いや、この明るいのはそれだけではない。新子の体から、僅かではあるが光が発せられていた。

その時、瓦礫の上から音がした。何かを退かすような、ガタンと言う音。上に誰かが居て、瓦礫を退かしているのか…。

 

ガラン

 

頭上にあった瓦礫がボコンと下に落ちた。空いた穴の向こうに見えたのは、こちらを覗き込む少女だった。さっき、博麗神社で見た幻に映っていた、掃き掃除をしていた巫女の少女だ。その少女は穴の中に、手を差し出した。新子よりもずっと細く小さいが、何故だかとても力強く見える。

新子は訳も分からないまま、その手を握り返した。

 

その時、沈黙が訪れた。中を照らしていた光はだんだんと小さくなり、やがて消えた。何も聞こえない。華扇でさえも黙っている。

 

 

 

そのころ、戦いの場所では。やっと激戦地へたどり着いたバンやツムグたちは巨大な雲を見上げていた。そのそばでは、五匹の神獣と三羽のガルルガが戦っている。

 

「この地から去るがいい!」

 

麒麟が緑色の炎を吐く。だが、禍王から魔力を供給されたガルルガは以前よりも素早い身のこなしで炎を避け、麒麟の胸元に5本の指を突き刺した。麒麟が前足でガルルガを掴もうとするが、触れられる前に素早く脱出する。

 

「兄さんの仇…!」

 

天狐も白い炎を吐きながら飛び回る。4本の尻尾でガルルガを殴り、炎を浴びせる。しかし、ガルルガは尻尾に噛みつき、下顎のクチバシの突起を突き刺した。フックのように逆立った突起は天狐の尻尾に抉りこみ、ガルルガが頭を引くと尻尾は切り裂かれた。血が流れ、天狐が悲鳴を上げる。

そこへすかさずグリフォンが舞い降り、ガルルガの背中に爪を立てる。だが紫色の甲殻は異常に固く、爪も通さない。

もう一匹のガルルガがグリフォンの背後から蹴りを入れた。

 

もう神獣たちも満身創痍だ。その様子を禍王はじっと笑いながら眺めていた。

 

「この暗黒のパワー…素晴らしいぞ。やはり力こそが全て…戦いはパワーなのだ!!」

 

 

その時だった。遠くの博麗神社の残骸の中から、一筋の光の柱が出現した。青い光は天に上り、幻想郷中を覆い尽くしていた赤い雲を貫いた。

 

「なに…こ、これは…!?」

 

青い光は炸裂し、そこへガルルガが近寄った。青い光の中から、大きな袖を纏った腕が現れた。腕は一瞬でガルルガを掴み、握りつぶすと、禍王の居る方角に向かって投げつけた。続いて、巫女服に身を包んだ巨大な女性が丘の上に現れた。女性の巨像は青く輝き、その大きさは禍王よりも頭一つ分ほど大きい。

青い巨像はゆっくりと足を踏み出した。禍王を睨みつける険しい表情をした頭の内部には、『東の反逆者』が、更にその背後には新子が立っていた。巨像は歩く速度をだんだんと早め、ついには走り出した。そして人間の里の目の前で大きく飛び跳ねた。その拳を振り上げ、落ちざまに禍王の煙のような体を殴りつけた。

 

「ぬおおあああ…!!」

 

殴られた禍王は、地面を転がった。

 

「あ、アレは…!」

 

竜のロックが血の滴る口から声を発した。巨像から発せられる淡い光に曝されて、ガルルガが苦しそうに顔を背ける。

 

「あれは…”神の友”ではないか…!!」

 

戦いを見ていた河城にとりも、思わず目の前の光景に目を疑った。神社の瓦礫の中から立ち上がった茨木華扇は、にとりと同じ名前を口にした。

 

「博麗霊夢…」

 

 

転がる禍王を見ながら、博麗霊夢と同じ姿をした巨像は腕を組み、堂々と直立した。そして、その口から本居新子の声が聞こえた。

 

「英霊の想いをこの身に宿し、無限の闇を光に変える。威風堂々、英姿颯爽!『新博麗幻影(しん・はくれいげんえい)』!!」

 

「キエエエエ…くくくっ、何かと思えば博麗霊夢!貴様が本居新子に力を貸したというのか。だが、今やお前如きに負ける私ではない!一瞬で消し…」

 

禍王がそう言いかけた途中で、新子は拳を上げた。それに連動するように『新博麗幻影』も腕を振り上げる。そして一気に禍王との間合いを詰め、その脳天に拳を叩きつけた。

 

「があ…え」

 

禍王がうめく。だが間髪入れずに放たれたアッパーが禍王の体を上へと吹っ飛ばした。落下する禍王に、追撃として容赦のない拳の殴打をお見舞いする。

禍王は再び倒れ込む。だがすかさず新博麗幻影は禍王の体を掴み、妖怪の山に向かって投げ飛ばす。煙の体が山の斜面に激突し、ずるずると斜面をずり落ち、地面に叩きつけられる。

 

「ぬううう!!まさかこの私がここまでやられるとはな。だが、喰らうがいい!!」

 

禍王は態勢を立て直すと、無数の瞳が宿る縦に裂けたような赤い目が光り出した。そして次の瞬間、悪夢のような地を揺るがす轟音と共に、目から極太の光線が発射された。

 

「『ダークネススパーク』!!!敵を焼き尽くせエエ!!」

 

それを避ける間もなく、新博麗幻影は光線をモロに受けてしまった。巨体が後ろへ倒れ込み、跳ねた光線が地面に流れ星のように降り注ぐ。

 

「ウラアアア!!」

 

禍王が勝ち誇った声を上げた。が、しかし、皆が見守る中、新博麗幻影の頭の中にいる新子だけは、倒れては居なかった。すぐに巨像は立ち上がった。そして、新子はいつの間にか手にしていたあの金属のバットを振り上げる。すると巨像の動きも新子と連動し、腕を振り上げた。その手には、巨大なお祓い棒が握られていた。

新子が力を溜めると、新博麗幻影も霊力を一気に放出した。

 

「…おお…」

 

神獣たちも巨像の周りを飛びながら歓声を上げた。だが禍王はそれをうるさいとでも言うように叫び声をあげると、再び目から極太の光線を発射した。

新博麗幻影もお祓い棒の切っ先を敵に向け、突っ込んでいく。そしてお祓い棒と光線がぶつかり合う瞬間…まばゆい閃光があたりを覆い尽くした。光線はお祓い棒の切っ先に当たると、まるで前に壁でもあるかのように弾かれた。

 

「な、何だと…!?」

 

お祓い棒は光線を切り払い、その腕を高らかに挙げた。

 

「新博麗幻影奥義…『リベリオンエッジ』!!」

 

そして、お祓い棒を一気に禍王に向けて振り下ろす。お祓い棒が眉間に突き刺さり、雲の体が揺らぐ。赤い目が飛び出しそうなほど大きく見開かれ、禍王の苦痛にうめく声が轟く。

 

「ぎ、ぎえ…ぎゃあああああ!」

 

脳天から真っ二つに両断された雲の体は崩れ、頭上を覆う赤黒い雲に取り込まれた。その赤黒い雲の中心に黒い人影が見えたが、すぐに赤黒い雲は転がるようにして一目散に妖怪の山を越えて、マガノ国へと逃げていった。残された二羽のガルルガも哀れっぽく鳴きながら退却していく。

 

役目を終えた博麗霊夢は、そっと新子の体から離れ、優しく微笑むと流れ星のように博麗神社へと戻っていってしまった。

 

神獣たちも、新子も、後を追わない。黄金色に輝く月に照らされて、今にも広がりゆく灰色の波が眼下に見えるからだ。全てを死に至らせる冷気を感じて、何をすべきか分かっていた。

五匹の神獣は灰色の海を取り囲む輪となった。その後ろで、新子が固唾をのんで見守る。

次の瞬間、何の合図もなく、神獣たちが一斉に吠えた。口から炎が噴き出す。真紅、緑、黄金色、白銀の炎に、虹色の炎。

 

─敵は余程、我ら神獣が怖いようだな。たった二匹の神獣で手一杯のようだ─

 

新子は竜のロックの言葉を思い出した。二匹で手一杯なら、5匹ならどうだ?

 

灰色の縁の縁が黒く焦げた。やがて、縁がドーナツ状にすっかり黒く焦げると、神獣たちは焦ることなく、ゆっくりとその輪を縮め始めた。

神獣たちはただひたすらに炎を吐いた。炎を浴びせた灰色の波は、焦げて動かなくなる。神獣たちは灰色の円を、外側から一分の隙も無く焼き尽くしながら、中央に向かってじりじりと進んだ。神獣はますます前進し、輪は縮まっていく。大きな月は空高く昇って青白い光を放ち、真っ黒な空には満天の星空が浮かぶ。

じわじわと黒こげの帯が太くなるにつれ、灰色の部分は狭まっていく。中央に居た三角形の怪物が困惑し始めるころには、黒が灰色に勝っていた。人間の里の住民たちがその光景を驚いて見つめている。

神獣の輪はいよいよ小さくなり、互いの体が触れ合うまでになった。五匹が一斉に炎を吐くと、炎の色が混じって、虹色になる。そして、ついに一本となった炎が止んだとき、禍王の恐ろしい計画は息絶えていた。そこには、ただ途方もなく大きな丸い焼け跡が黒々と広がるだけだ。

神獣たちは、まるでこの時が終わってしまうのを惜しむかのように、真っ黒な円の中心にとどまっていた。灰色の液体の魔力を動力源として光を発していた三角形の怪物は、赤い火花を散らしながら、ゆっくりと崩壊していった。

 

竜、麒麟、グリフォン、天狐、ケツァールは共に勝利を喜び、失われた物を嘆き、そして新しい幻想郷に未来を託していた。そして、この光景を見た人々は皆、喜びと驚きの波にのまれた。輪を成す五匹の神獣たちの体は輝いて、まるで空に浮かぶ幻想郷の縮図そのものだったのだ。

 

 

────────────────

 

こうして、幻想郷最後の神獣たちの意志と本居新子によって、禍王の陰謀は大詰めで挫かれ、幻想郷には平和が訪れた。

やがて、この話は伝説となるだろう。この夜は”神の夜”と呼ばれて、幻想郷一番の祭りの”博麗神社例大祭”の日となり、人々はごちそうや酒、踊り、ゲームで祝う。僅かに幻想郷に残された妖怪たちが花火を作り、神獣の炎の輪を思わせる輪となって幻想郷の空を飾る。

子供たちは、色を塗った木に光る布を巻いて作った神獣や『東の反逆者』を模した彫刻に跨る。そして真夜中になれば、人間の里の真ん中で大きな火が炊かれ、里中に人々の歓声が響き渡るのだ。

 

幸いにもあの”神の夜”の戦いでは、死人は出なかった。バンやツムグ、にとりとアリスたちが必死に住民を避難させたのだ。新子は、声もなく感謝の言葉を口にするぐらいしかできなかった。だが、黒こげの地面に降り立った時、神獣たちにまじまじと見つめられ、新子と華扇は何か話さなければならないと思った。

 

「アタシの名前は本居新子だ。”神の友”が胸の内にしまっていた名前を使ったことをゆるしてくれ。アタシたちの、そして彼女を地を救う為だったんだ…」

 

神獣たちはその言葉を噛みしめ、やがて五匹とも頭を下げた。誇り高い麒麟まで、ぎこちないながらも会釈した。

 

「だが、謝って済むことか?」

 

麒麟が口を開いた。

 

「お前が我らの名前をまとめて呼んだために、今や我らはお前の名前だけでなく、互いの本当の名前を知ってしまった。どいつがどの名前かは馬鹿でもわかる。これは取り返しのつかない罪だぞ」

 

「取り返しはつかないわ。でも、それは本当に罪かしら?」

 

という華扇の言葉を聞いて、ケツァールがせせら笑う。

 

「本当の名前を知っていれば、ソイツを支配できるではないか!」

 

「つまり、我々はみな平等に互いを支配し、支配されることができるというわけさ」

 

グリフォンのアーゴルが生意気な口を叩く。

 

「だが、私はもうお前に付きまとわれるのは嫌いだな、ワブルさんよ」

 

「だったら、しっかりと一言言ってからわが北の領域に入るがいい、ロック」

 

「私はカムナと申します。神の名前でカムナ…ふふっ、面白いでしょう。ちなみに兄はカミナといったのですよ」

 

「我はセトレーナ。こう見えても女だ。あの時は寝起きだったし、突然の事で気が立っていたんだ…」

 

神獣たちは互いに微笑みながら牙を剥いたが、それ以上何も言わなかった。

 

「おーい!」

 

後ろから声がした。振り向くと、ツムグたちが息せき切って走ってきた。華扇のもとにはアリスやにとりがやってきて、バンは立ち止まって、その様子を見ている。

そして、ツムグはゆっくりと新子の前に歩み出た。拳を前に突き出す。

 

「…へっ」

 

新子は小さく笑うと、ツムグの拳をガン、と叩いた。これが二人なりの言葉の交わし方なのだ。

それを見た華扇が、ヒューッと口笛を吹いた。

 

「なるほど、新子とツムグ、ね」

 

「お前はどうするのだ?」

 

ロックがそっと華扇に囁いた。

 

「私はまた旅に出るわ。マガノ国の残党の始末をしたり、どんな妖怪がまだ幻想郷に残っているのか、調べなくちゃ」

 

 

 

戦いの後、華扇の調べにより、幻想郷の周囲に新しい結界が張られていることが分かった。200年前の禍王の襲撃時に、マガノ国との境目の博麗大結界が破壊されたそうなのだが、歌姫が全て破壊されたことにより、結界が復活したようなのだ。更に、この新しい結界は幻想郷内にマガノ国の者が立ち入るのを許さない。もう幻想郷に禍王がやって来る事はない。

 

 

二日後、里で新子の父親の葬儀が行われた。そして、里の共同墓地に墓を作り、そこに遺骨が埋められた。幻想郷の英雄にはすこし物足りないのであろうが、彼はきっとこれで喜んでいるだろう。自分が命を懸けて伝えようとしたことに気付き、それを実行してくれた。

 

そして、河童たちの高度な建築技術によって博麗神社は再建された。元通りになったのだ。壁は真っ白く、屋根の瓦は規則正しく並び、居住区もきちんと整えられた。新しい博麗神社の巫女を決めるべきという提案が出され、その巫女の候補として新子の名が挙げられたが、新子はそれをきっぱりと否定した。

 

「博麗の巫女?いやいや、そんなの今は必要はねぇのさ。あの神社には、まだ幻想郷を守ってくれる要が居るんだぜ」

 

 

里の中心は焦げた灰色で埋め尽くされてしまったが、これはかえって都合が良かった。禍王が無理に工場を建てた事によって悪くなった土壌の上に新しい地面が出来上がったことで、そこに家々を立てることができた。

里の畑は豊富な野菜で埋め尽くされ、狩人は毎日大量の肉を持ってくる。家畜はこれ以上増えたら困るというほど肥えに肥えてきた。今まで貧相な暮らしをしてきた者も立派な家を持ち、家族と一緒に暮らしている。

 

妖怪の山の荒々しく禿げた斜面には新しく緑が植えられ、河童たちはようやく故郷へ帰る事が出来た。山のてっぺんで、麒麟が力強い咆哮を上げた。

 

赤い砂丘には背の高い草や小さな木が生え、虫や鳥たちでにぎわっている。今まで砂丘に巣くっていた怪物や恐竜たちはその環境でも住めるように適応し、もう赤い砂丘ではなくなっていた。いずれ、もっと緑が増え、再び森の一部と化すだろう。草の上で、動物たちと一緒に眠るグリフォンの姿が有った。

 

空では、しょっちゅう竜が舞っている。里の上空を飛び、たびたび竜の形をした大きな影を地面に落とす。竜は在りし日の事を思い出しながら、この青く澄み渡った空を堪能するのだった。

 

竹林から飛び出した天狐は、大きなあくびをしながら丘へと飛んでいく。日の光を存分に浴びながら、ゆっくりと寝そべる。

 

人間の里のはずれの岩地では、ケツァールが巨大な身をくねらせながら地を這っていた。流れる川に身を浸し、泳いでいく魚たちと戯れている。

 

 

 

かくして、幻想郷からマガノ国を追放することに成功した新子たち。だが、敵は完全に滅んだわけではなく、今も国境の山脈の外は邪悪が巣くっていることを忘れてはいけない。

だが、幻想郷が元の表情を取り戻したことには変わりない。今はそれを喜べばいい。さぁ、これからだ。これから、アタシ達の新しい未来へ向かって行くんだ。

 

第1部 四人の歌姫 ~Rebellion trigger 完

  to be continued……

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。