東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~ 作:ねっぷう
第一章 ヤクモユカリの話
第一章 ヤクモユカリの話
私が編纂したこの幻想郷縁起には、幻想郷の秘密の歴史がおさめられている。皆さんからすれば、奇想天外な話に聞こえるかもしれない。だが、事実である。
例えば、「ヤクモユカリの話」などは、一見するとちぐはぐな物語であるが、読む順番に注意し、幻想郷に実在した人物と照らし合わせると、なんとこの幻想郷の昔を物語っているのだ。今回は私がその正しい順番にあらかじめ入れ替えておいた。
どうか、実際に読んで、それぞれの目で確かめてほしい。
稗田家13代目当主
「幻想郷の歴史」~ヤクモユカリの話より
『東方の地の話』
ここは幻想郷。人間と妖怪、そして人ならざる者たちが絶妙なバランスで共存し合い、古き良き豊かな自然に囲まれた、まさに楽園と呼ぶべきの土地だ。幻想郷は、もとは日本の東にある山に囲まれた盆地であった。そこを、当時の人間たちは国の東にある人里離れた辺境の地として、「東方」と名付け、そう呼んでいた。そこには他の土地と比べて、恐ろしく、不思議な能力を持つ妖怪がたくさん住んでいたのだ。だが、そこに住む人間たちは、自分らの住む「東方」の外の世界を全く知らなかった。たまに訪れるは行商人、そして妖怪退治を目的としてやってくる人間だけだった。
そして自分らは、ただ大空の下に取り残されていることしかわからなかった。たまに、外の世界への想いを語る人間が居た。だが、その話を大半の人は笑い飛ばした。はなから外に行くなど無理と分かっていたからだ。それでもときどき、勇敢な者、いや、愚か者と言うべきか、そのような者がありったけの武器や道具、食料を持って真実を知るために外へ出た。しかし、戻ってきた者は数えるほどしかいない。
行方不明になった者はどうなったのか。無事外に出て、そこでたくさんの人間に囲まれ、豊かに幸せに暮らしているという希望にすがりつく者もいた。だが、山の妖怪の餌食になったのだろう、という見解がほとんどだった。苔生した木々の間に横たわる、白骨の夢を見た者も多い。
妖怪は恐ろしい。休みなく身をよじり、暴れ続ける。残酷で、いつも腹を空かせている。山の妖怪も、森の妖怪も、全てが恐ろしいのだ。このケダモノを怖れないのは、時折空に姿を見せる長大な龍だけだった。龍だけは、たまに地上へ降りてきて無数の妖怪を獲物として空へ連れ去っていった。
だが、妖怪にも、龍に匹敵するような巨大で、かつ強大な妖力を蓄えたものも多くいる。その中には、人間に化けて社会に溶け込む妖怪もいた。人々は、これらの妖怪に名前を付けた。玉藻前、酒呑童子、スキマ妖怪、花愛で女などがそれである。
これが、まだ幻想郷が若かったころの姿である。妖怪に支配され、それは決して終わりが無いと思われていた。人々は怯えながら、大地にしがみ付いて生きた。そして、東方の地は、運の訪れを待っていた。
『幻想郷の話』
数え切れない年月にわたり、日本の人々にとって、妖怪は何一つ変わらなかった。相も変わらず人間に恐怖を振りまき続け、血を味わい、肉を攫って行く。だが人々の目には見えなかったが、妖怪は人間に見られない所で、密かに計画を進めていた。
確かに、人間から見れば妖怪は変わらなかった。しかし、妖怪から見た人間は明らかに変化していたのである。
まず、人口が圧倒的に増えた。この時代の人間の数は、最も妖怪が猛威を振るっていた平安時代の人口の約二倍にまで増加していたのである。それは、「東方」でも同じだった。中心にある人間の里は拡大し、人と建物、文化と食物でにぎわった。さらには妖怪に対抗する力を持つ人間が大量に訪れ、里で暮らし始めた。結果、増加した人間とその技術によって、妖怪の勢力は押され気味になってしまっていたのだ。
これには東方の妖怪たちも黙ってはいなかった。ここで、東方の地とその外を特別な結界で遮断してしまおうという意見が出され、これに賛同するものは日に日に増えていった。
ついに、妖怪たちは進めていた計画を実行に移したのである。妖怪は”幻と実体の結界”で東方の地を囲い、これ以上人間が滅多にやってくることのないようにし、妖怪だけが自由に行き来できるようにした。
「幻想郷」の誕生である。それからしばらく時が経った時、人間は幻想郷誕生以来初めての大きな動きを見せる。妖怪の人間に対する暴挙はますます増え、ついに人間は不満を爆発させた。最も単純で、騙しやすい妖怪をターゲットに大量の妖怪退治を行ったのだ。
個々では人間よりもはるかに力の勝る妖怪だったが、個々は弱いが高い団結力と知恵を有する人間の前には手も足も出ず、妖怪は一匹ずつ確実に倒されて行った。このころ、妖怪の山での妖怪社会の頂点に立っていた鬼は、ついに幻想郷を見限り、人間が居ない新天地を求めて地底世界へと逃げ込んだ。
鬼達は、地底に残された元地獄の繁華街跡地に目を付け、ここに社会を築いた。鬼達は自分達以外にもこの社会に、地上で嫌われた妖怪を率先して受け入れた。その事に地上の妖怪は危険を感じ始める。そこで地上の妖怪の賢者達は、鬼達地底の妖怪に新しい地下都市を作る事を認める代わりに条件を出した。 それは「地底の怨霊を封じる事」である。その代わり地上の妖怪は「地上の妖怪の地底世界への不可侵」を約束した。あくまでも妖怪同士の条約なので、地上の人間の出入りは許されているらしい。 こうして鬼達は地上との交流を断ち、地上の妖怪社会とは完全に違う新しい社会生活を楽園として楽しみながら営み続けることになる。
さて、それからさらに数百年の時が経った。幻想郷の外の世界では、明治維新という革命がおこり、科学が飛躍的に進歩した。それと同時に、人間は妖怪や神、人ならざる存在のことを完全に否定するようになってしまった。
このままでは、外の世界の進んだ文化が幻想郷に入り込み、人間が力を持つのも時間の問題。そう判断した妖怪たちは、博麗の巫女の力を借り、博麗大結界を張った。これにより、妖怪でも外と幻想郷を行き来することができなくなってしまった。ただし抜け道がまったくないわけではなく、力のある大妖怪や、強力な神々は行き来を可能としている。
結界といっても、幻想郷をドーム状に包むような明確な壁があるわけではなく、結界の境界へ辿り着こうとしても同じ景色が延々と続き、逆に戻ろうとすると一瞬で元の場所に戻れるのだという。
コアとなるのは、必須という訳ではないが博麗の巫女と博麗神社周辺の木々。神社そのものに直接的な力はない。
ちなみに博麗神社はその結界の境界の中にあるため、外の世界からでも「外の世界の博麗神社」へ行くことは可能。 しかしそこに博麗大結界があるため、「幻想郷の博麗神社」へは結界を越えない限り辿り着くことはできない。
幻想郷ではこの時、空には龍神が姿を見せ、何週間も嵐が吹き荒れ土地は水浸しになってしまったという。
ここで、今と全く同じな幻想郷の体制が出来上がった。
しかし、幻想郷の空の果ての果て、誰にも分からない場所で、龍神は、もっと怒りを吐き出す準備を始めていた。
『結界決壊大異変の話』
人並み外れた身体能力、誰にも負けない霊力を持つ博麗神社の巫女、博麗霊夢は何かとてもおぞましいものがやってくると感じた。人間の里では、長者たちと占い師が占いを始めた。出現、火、水、死、破壊が同時に何度も起こると示された。だが、人々はどのように解釈すればいいかわからなかった。
妖怪たちも、変化の兆しに気付いていた、大地の揺れは知力で感じ取った。大気からも匂いがする。けれど、その変化の意味を考えようとはしなかった。ただ待ったのである。
そして、ある朝の事だった。美しく、静かな朝で、大気は青く澄み渡り、なめらかなガラスのように空を覆っていた。ふいに、鳥や虫の鳴き声がやみ、草原に居た動物が顔を上げた。妖怪たちは、時が来たと悟ると同時に、勢いよく棲み家から空へ飛び出した。山や岩石地帯、丘、森、平原、竹林、湖など、妖怪は幻想郷のいたる場所から舞い上がった。それは何百、何千という数だった。空の妖怪は様々な色合いで、虹の七色に輝き、日差しを遮った。
人々は恐ろしさのあまり、呆然とした。博麗霊夢でさえも、その場で立ち尽くした。空は妖怪に覆われ、真っ暗になった。だがたった数名ばかりの人間は、空を覆う妖怪の隙間から、何か巨大な物が身をくねらせながら暴れまわるのを目撃した。
幻想郷が震えた。大地には大きなひびが入り、丘が砕け散り、新たな丘がもりあがる。それと同時に、空から恐ろしい叫び声と轟音が轟く。妖怪の隙間から雨水が滝のように降り注ぎ、岩を砕くような爆音とともに放たれる雷を、妖怪はその身を以って幻想郷に襲い掛かるのを防いでいた。何十何百という妖怪の死骸が落ちてきて、だんだんと妖怪の向こう側の空が見えてきた。空がガラスのように砕け散り、そこから真っ黒なカーテンと規則的に並ぶ光が見える。
人々は泣きわめきながら、地面にしゃがみ込んで、耳を塞いだ。悍ましい音だった。見るに堪えない光景だった。誰もが、この幻想郷の終わりが来たと考えた。
ところが、幻想郷は終わらなかった。ただ、変わっただけだった。暴れ疲れた龍神がようやく幻想郷を見捨てて遥か世界の彼方へ飛び去ると、生き残ったものたちはゆっくりと立ち上がり、大きく息をついた。
地面に空いた穴に雨水がたまり、小さな湖が出来た。裂けた大地が谷となった。砕けた岩地の中から巨大なたくさんの塩岩がむき出しになった。そして、幻想郷そのものがより大きく、広くなった。西から北へ、北から東へかけて、薄く高い山脈も出来上がっていた。
たった一日の出来事だった。どんよりとした空気は死の匂いがする。だが次の日には豪雨が止み、新しい空が顔を出した。あたたかい光を有り難く浴びた。妖怪が地上に戻ってきた。
幻想郷の人々や妖怪は、この大革命を「結界決壊大異変」と呼ぶことにし、歴史の書物に記した。
だが、まず最初にもっと大きな変化に気付いたのは妖怪たちだけであった。幻想郷の至る所に、見たこともない生き物が出現していた。その生き物は全部で5種族いて、それぞれが幻想郷の東西南北と中央に落ち着いていた。彼らは幻想郷の結界が崩れた時に、安全に生活できる土地を求めて入り込んできたのだ。妖怪は、この生き物たちの強大な力を感じ取り、すぐさまこの地から出ていくように懇願した。だがその生き物たちは頑として断った。
何日に渡る交渉の末、この生き物たちが龍神に変わる幻想郷の守り神として、神に等しき力を持つ獣、神獣と呼ばれ親しまれるようになった。西の領域には竜が住み、北の領域には麒麟が、南の領域にはグリフォンが、東には天狐、そして中央の領域にはケツァールが住むようになった。どの神獣も、外の世界での生きる場所を失い、幻想郷へやって来たのだ。
これが、新しい幻想郷の姿と成るのだった。
『四人の歌姫』 ~ヤクモユカリの話より
何百年も昔、幻想郷の人間の里に、妖怪の4姉妹が住んでいた。清らかな心に甘い歌声の持ち主で、名を、セナ、フラ、コア、ミラといった。4人はいつからとも知れぬほど長いこと、里で暮らしていた。
姉妹は共に歌う事を愛し、その歌声は夜となく昼となく、温かいそよ風のように幻想郷中を流れた。時折外の世界からやってきた人間が通りかかったが、大抵の人々は姉妹の歌声を、葉の擦れ合う音や、草むらの動物たちが立てる音、砂の流れる音だと思ってしまう。ほんの一握りのものだけが、甘い歌声が聞こえると言ったが、みなから馬鹿にされるのがオチだった。だが、それが歌声だと知る者たちは、死するその日まで耳にした歌声を忘れることは無かった。
ある日、妖怪姉妹の歌声を耳障りに感じた魔法使いは、四姉妹を捕らえ、幻想郷の東西南北の四隅べつべつに幽閉した。だが、四人の歌姫は引き離されても夜となく昼となく歌い合い、その歌声のおかげで、幻想郷に満ちる美しさと平和は保たれた。
魔法使いは怒り、黒い三角帽を頭にかぶり、魔法の箒に跨った。そして東西南北を順番に襲い、歌姫をひとりひとり殺していった。はじめにセナの声がとまった。つぎに、フラ。そしてコア。ミラはしばらく一人で歌い続けた。しかし、ミラの歌声も止まった時、幻想郷は沈黙に包まれた。
そのとき初めて、魔法使いは自分の失敗に気付いた。幻想郷の中心の空の果てに、姉妹の歌声に鎮められ、幾星霜の時を眠り続ける龍神が居たのだ。その龍神が、幻想郷に舞い降りた。全身に怒りをたぎらせて。
龍神は大声で吠えながら、空を舞った。森をなぎ倒し、妖怪を燃やし尽くし、地形すらも変えてしまった。恐れをなして、魔法使いは、箒に跨り、北の方角へと逃げ去った。
その日以来、龍神と四人の歌姫を目撃した者はいない。だが今でも、どこかから甘い歌声が聞こえるという人間は少なくない。だが風の音しか聞こえない者には笑われるのがオチだ。だがそれが歌声だと知る者たちは、死するその日まで耳にした歌声を忘れることは無かった。