東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~ 作:ねっぷう
『魔法使いの話』
結界決壊大異変が起こるよりも、少し前から話を始めようと思う。これは私の勝手な憶測ではあるが、前章で語った『四人の歌姫』の物語は、大きな力を持った妖怪によって捻じ曲げられねつ造された、偽りの物語なのではないかと思う。この話は、この憶測が正しかった場合の、私が真実に基づいて考えた物語である。
ごく普通の魔法使い、霧雨魔理沙は、魔法の森に構えた自宅から出て、人間の里に向かって箒を飛ばしていた。黒い三角帽をかぶり、黒いドレスの上に白いエプロンを身に着け、ポケットの中には自慢の武器であるミニ八卦炉がしまい込んである。
何故こうして箒に乗って急いでいるかというと、彼女だけが、幻想郷の異変を感じていたからだ。このところ、ひょっこりと人間の里に現れた、おかしな4姉妹。あの4姉妹が人間の里で毎日歌を披露するようになってから、どうも周りの様子がおかしいのだ。最初の内は、その姉妹の歌を魔理沙も聞いていた。だが、いつもいつも同じ歌ばかりで、少し面白みに欠けるという事から聞くのを辞めたのだが、自分の知り合いたちは飽きもせずに毎日聞いている。
「よく毎日同じ歌ばかり聞いていて飽きないな」
と言っても、
「何言ってるの、毎日違う歌じゃない」
と返されるばかりであった。
これはおかしい、何かがおかしいぞ…。
異変、である。魔理沙だけが気付いた異変。魔理沙は、レミリア・スカーレットらの住む紅魔館へと向かっているのだ。そこにある図書館の行けば、何かこの異変について分かることがあるかもしれない。
異変解決の専門家である、博麗霊夢に頼めば、何とかなるかもしれない。だが、今回ばかりは彼女を頼らずに自分の力で何とかして見せる。幸いにも、霊夢はまだこの異変に気付いていないようだ。
紅魔館の図書館へと入った魔理沙は、まず驚いた。図書館には誰も見当たらないのだ。いつもは、図書館の主であるパチュリー・ノーレッジや、その召使である悪魔たちが仕事をしているはずなのでは…。
まさか…!
魔理沙が里に行くと、やっぱり歌の公演は開かれていた。いつにもまして集まった人は多く、そこには、紅魔館の住人も混じっていた。これはおかしい。滅多に人里になどいかない奴らが、食い入ったように歌を聞いている。
一般の人間の中にはもう何日も家に戻らず何も食べていないような、やつれた人もいる。
「これは異常だぞ…」
その日の講演が終わった直後、魔理沙は4姉妹を魔法で作った網に閉じ込め、連れ去った。
姉妹の末っ子だったミラを博麗神社に居た霊夢に事情を話して預からせ、三女のコアを妖怪の山に捨て、フラを無縁塚に置き去りにし、長女だったセナを魔法の森にある自宅へと幽閉した。
これで、もう四人の歌姫とまで呼ばれたこの妖怪四姉妹は、もう共に歌う事はない。これで、この異変も終わりだ。里の人間たちも元の暮らしに戻る。
「それでいいのか?」
鉄格子の扉から、セナが魔理沙に呼びかけて来た。正しく妖怪らしさを感じられる表情で、甘い声を使って魔理沙に話しかける。
「私たち姉妹が歌うことを辞めていいのか?人間どもは歌を聞いて満足しているし、私が歌うことを辞めればきっと大変なことになるぞ」
「…勝手にしろ」
そう、魔理沙は四姉妹を東西南北別々に引き離す事が出来たのだが、それでも妖怪四姉妹は歌うことを辞めなかった。距離が離れてどんなに障害があろうとも、四姉妹は共に歌い合った。
魔理沙はセナの歌声を聴いても、どこがいいのかわからない。むしろ不快だ。今すぐにでも止めてほしい。だが、鉄格子の部屋の中で、セナは休むことなく歌い続けた。里は何事もなかったかのように以前のように戻ったが、魔理沙自身は精神をすり減らし、もう限界だった。
魔法でセナを葬り去ると、黒い三角帽をかぶりなおし、箒に跨って西へ向かった。無縁塚で一人ポツンと座り込み、歌っていたフラを、自慢のマスタースパークで跡形もなく消し去った。次に妖怪の山へ赴き、岩の上で歌っていたコアを殺した。
「霊夢は留守だな…」
最後に、霊夢に預けていたミラ。霊夢の留守を狙って彼女を襲ったが、ミラは妖術を使って抵抗した。しばらく殺すのに手間がかかったが、最後は呆気なく始末できた。
しかし、魔理沙が自分の失敗に気付いた時には、もう遅かった。近いうちに、何か大変なことが起こる。
数日後、『結界決壊大異変』が起こった。
幻想郷自体は無事だったものの、自分が不用意に四人の歌姫を殺してしまったことで起こった大異変。ならばどうすればよかったのだ?その答えは…もう決して、人間の里で妙な動きをとる妖怪を見逃さぬことである。そう言った存在が出るのを防ぐのだ。
『夢の予言の話』
「結界決壊大異変」が終わり、幻想郷が新しく生まれ変わってから、2か月余りの時間が過ぎた。人々はもうすっかり四人の歌姫の事など最初からいなかったかのように忘れ、新しい幻想郷で優雅に生を謳歌していた。だが、魔理沙はその間、ずっと家に籠って魔法の研究に没頭していた。
愚かだったのは自分だった。あの四人の歌姫は、空の彼方で眠る龍神を、ずっと封印していたのだ。一人殺しても、何も起きない。2人、3人と殺してもまだ何も起きない。だが4人すべてを殺したとき、ずっと歌で眠りについていた龍神が目覚め、怒りと共に幻想郷に天変地異をもたらした。
今回は結果として良い革命へと導かれたが、二度と、このようなことを起こす訳にはいかない。次に同じことが起こった時は、いい結果で終わるとは限らないからだ。
魔理沙は考えた。私が里の妖怪を監視するしかない。そのために、もっと魔法を学ばなければ。もっと、自分だけのしもべを作り出せるような…そんな魔法を研究するんだ。
ある日、博麗霊夢は里から謎の怪物退治の依頼を受けた。どうやら、里の中を見たこともない怪物が徘徊しているらしい。
「こ、これは…」
霊夢がその怪物が居るという場所へ向かうと、そこには驚きの光景があった。まるで粘土を雑に組み合わせて作ったような青い犬のような生物が、むやみやたらに吠え、大通りをパニックに陥らせていた。
その風貌は正に魔獣と言った姿で、体に入ったヒビから緑色の液体を垂れ流し、肉に埋もれた小さな目は生気がまるでなく、牙はいびつで大小様々、まるで様々な生き物の骨から寄せ集めたようだった。その生き物が涎を垂らしながら吠え、左右で長さの違う足で右往左往している。
霊夢はお祓い棒の一振りで、その青い魔獣を粉砕した。魔獣はバラバラに飛散し、息絶えた。その死体を片付けた霊夢は、不思議に思った。コイツは一体何だったのだろう?生き物のようだが、こんなにも外見が不完全な生物など居るのだろうか?それに、ちぐはぐで不格好な姿。どう見ても、何者かが意図して人工的に造った生物のようにも見えなくはない。
「何だったのかしら」
そんな疑問を胸に、今日の仕事を終えた霊夢は神社へと帰っていった。
「ん」
自宅の研究室にて、浴槽のような培養カプセルの中をのぞき込んでいた魔理沙は、自分が造り上げた初めての魔獣が死んだのを感じ取った。誰がやった?いや、アイツしかいないかな。
魔理沙はより良い、もっと強く、頭が良い魔獣を作るために、研究をつづけるのだった。
また一週間もすると、里に2匹目の魔獣が現れた。前の奴よりも体のバランスがはっきりし、大きくなっている。さらに、間隔は不規則だが、たびたび魔獣は現れた。現れるたびに身体の一部を変え、以前は欠点だった部位や不格好な部位を直してやってくる。
そしてある時、また里に出現した魔獣を倒した霊夢。
「ふぅ、これでいいわね」
いつものようにその場に残る魔獣の死骸を片づけようとした霊夢の背中に、何かが走った。冷たい指で背中を撫でられたような、震えるような感覚。
「そうか…やっぱり霊夢だったのか」
そう物陰から呟いたのは、霧雨魔理沙だった。隈のできた目で、じっと霊夢を睨んでいる。
「魔理沙…。最近見ないと思ったら、そんなところで何してるの?」
「本当に…偶然なんだ。まだ、新しい魔法の研究をしていてな…それで生み出した魔獣が、逃げてしまうんだ…だから里にまで来てしまったのは、本当に偶然なんだ」
「…これを作ってるのはアンタなの?」
「ふん、そうだ。だが、私の研究をあまり邪魔するなよ」
魔理沙はそう言うと、影のように姿を消した。その時からだった。あんなに活発だった魔理沙はずっと家に引きこもるようになり、他者との交流も途切れた。始めの内は心配する者もいたが、だんだんと皆が魔理沙について触れなくなっていった。
──更にそれから、10数年余りの時が過ぎた。
「ねぇロック、もっと山の方へ寄ってみなさいよ」
「そうだな、霊夢よ」
真紅の竜の首の上に乗っている博麗霊夢、30歳。西の領域に生息する神獣、竜のロックと共に、幻想郷の空を飛んでいた。
「私も空は飛べるけど、あなたに乗って飛ぶ空はもっといいわ」
竜は高度を高め、眼下に見える妖怪たちを追い越して妖怪の山の斜面を駆け上がるように飛び抜いた。雲の上まで登り、幻想郷を見渡す。霊夢は、幻想郷の神獣たちと交友関係を築いていた。彼女の誰にでも平等に接する態度と、豊富な知識、そしてその不思議な雰囲気が神獣を虜にしたのだ。
次の日、霊夢は人間の里の商店街に買い出しに出かけていた。
「今日は何にしようかしら?」
そんな事をいいながら歩いていると、里の人間の叫び声が聞こえた。何事だと思ってその場へ駆けつけると、あの魔獣が暴れていた。八百屋の看板を破壊し、人々に襲い掛かる。
ここ数年は現れなくなっていた魔獣が再び姿を現した。だが、そこで霊夢はその魔獣が今までやって来た奴らとは何かが違う事に気付いた。物を壊し、見境なく吠えるその姿は獣そのものではあるが、動きや体形が人間のそれと同じだったのだ。
魔獣は地面を蹴り、霊夢へと飛びかかる。しかし、いくら博麗の巫女を引退して戦いの力量は衰えたとはいえ、この魔獣を倒すのには大したことではなかった。
「今の…まさか!」
「…何だ、久しいな」
霊夢は思い切って魔理沙の家を訪ねた。ドアを叩くと、中から黒い人影が姿を現した。10年近くの間顔も見ていなかった友人の姿だ。歳は自分と変わらないはずなので、すっかり大人になっていたが、その目の色や風格はとても30歳近くには見えなかった。
「アンタ、人間使ったでしょ?」
「…アレか。アレは外の世界から来た人間の死体を使っただけだ、なにもとって殺したわけじゃない。もっとも、殺したのは私のしもべだけどな」
「道を踏み外したのね。もうとんでもないところにまで踏み込んでるわ」
「ふん、何度でも言うがいい…」
「…どうなっても知らないわよ」
帰宅した霊夢は、一人考えていた。私の勘が言っている、この先、何か大変なことが起きる。霊夢は正座で座り込み、じっと考え込んでいたが、このままでは埒が明かないので、今晩はもう寝ることにした。
その日、霊夢は不思議な夢を見た。
霊夢は博麗神社の庭で、掃き掃除をしていた。自分の姿はまだ若かったころの姿で、一回りも小さい。
目の前で、最近は住処を移してしまい、見かけなくなった三妖精が遊んでいる。幽々子と紫の姿もあり、縁側では早苗と、あの魔理沙が座ってお茶を飲んでいた。
そして、鳥居から誰かが敷地内に入ってきた。参拝客かしら?
入って来たのは女の人で、かなり背が高い。茶色い髪を汗で濡らし、その鋭い目は自分を見ていた。
「博麗神社へようこそ」
霊夢は、その夢の中で無意識にそう言っていた。その時、霊夢の視界は切り替わった。さっきまであった博麗神社は全壊して瓦礫の山となっており、地面は草が伸び放題、クレーターのような跡まで無数についている。
空を見上げると、幻想郷中の空が赤黒い雲で覆い尽くされていた。そして、遥か北の方角に見えるのは、ひどく邪悪な塊だった。黒い煙のような物体に二つの赤い目が光り、虫のように伸びた足で地面を掴んでいる。その邪悪は高らかに笑い声を上げていた。
霊夢には、何故だがこの状況を理解することができた。夢の中では、結構なんでも有りな事が起こる。現実では有り得ないことが起こっても、不思議と納得できてしまったり、疑問を抱いたりもしない。それと同じような感覚だった。
あの黒い塊は、北の山脈の向こうから来た帝王だ。帝王は何百年も前から幻想郷を支配しようともくろんでおり、その執念はただならない。
帝王は、ある時突然山脈の彼方より現れて、幻想郷を攻撃した。その攻撃によって、神獣は滅ぼされた。幻想郷の守り神たる神獣が。神獣が滅びれば、幻想郷そのものが無くなってしまう。それだけは避けたい。
今も、こうしてあの帝王は幻想郷にやってきている。そして、崩れた神社の瓦礫の中から、微かな力を感じる。あの帝王のような、禍々しい邪悪な魔力に抗う事の出来る希望の力を。
霊夢は瓦礫を一つ一つどかし、力の源を捜した。一個の瓦礫を退かしたとき、中に人が倒れていた。この人は、さっきの背の高い女の人だ。霊夢は瓦礫の中に手を伸ばし、その女の人に手を差し出した。女の人は戸惑いながらも霊夢の腕を掴む。そして霊夢は、そっとその女性に、自分の体を重ねるのだった。
「…はっ」
翌朝、霊夢は跳ね起きた。まだ頭の中には、夢で見た光景がくっきりと残っている。赤い目を憎しみで燃やしながら幻想郷に攻め入る禍の軍隊、空を飛ぶ恐ろしい獣のこと。また、敵と戦う少女。圧倒的な強さで敵と戦う、邪悪に抵抗できる力を持った少女の事。
ぐしゃぐしゃの布団から飛び上がると、霊夢は朝食を食べ、急いで歯を磨き、靴を履いた。冷たい水で顔を洗い、お茶を飲む。
霊夢の出発は、まだ太陽が赤くきらめく朝だった。彼女自身も、まだ眠っている人々にも、これから幻想郷の運命を変える出来事の引き金になるとは、思ってもいなかった。
霊夢は空に舞い上がり、南へと向かった。南には、グリフォンという神獣が居る。自分らの領域を愛し、よそ者を歓迎する、気前のいい連中だ。だが、よそ者は歓迎するが、自分たちはよそへと赴かない。それは自分の領土の誇りに思っているからだ。神獣たちに、”神の友”と呼ばれ信頼される霊夢には、それが分かっていた。
『神の友の話』
霊夢が魔法の森の上空辺りまでやって来ると、森の中から続々とグリフォンたちがやって来た。白と茶色の羽毛に身を包み、大きな翼をはためかせている。鷹のような鋭い顔とカギ爪の付いた前足。下半身は獅子を彷彿とさせる強靭なもので、これで地をも自在に駆け回る。
「どうしたのだ。神の友よ」
「実は、折り入って聞いてほしいことがあるの」
「ほう、何かな?」
数匹のグリフォンが霊夢に近寄り、興味津々に首を傾げた。話すしかない…。霊夢は心の中でまとめてあったことを、ハッキリと話した。
「何十年もしたら、北の山の向こうから憎しみと支配に燃える赤い目をした邪悪が、大量の怪物の軍隊を率いてやって来るの。だから、その時には皆にも戦ってほしいの。戦えば、皆は死なないから」
霊夢の話を聞いていたグリフォンは、いつもの陽気な調子で笑いたてた。
「面白い事を言うではないか。だが、おかしいぞ。北の山の向こうには、何もなかったはずだ」
「で、でも…」
「だが仮に、北からその邪悪とやらが攻めてきたとしよう。しかし、北とは正反対のこの南の領域に住む我らグリフォンに関係が有ろうか?」
そのグリフォンがそう言っている間に、ほとんどのグリフォンはその場からいなくなっていた。霊夢が必死で呼びかけても、一匹、また一匹と消えていく。
霊夢の心はひどく沈んだ。しょうがないと思えばいいのか、もっと怒ればいいのかわからない。どうしようもない気持ちを押し殺して、その場を去ろうとしたとき、小さな囁くような声が聞こえた。
「私は信じようか、霊夢」
その声に驚いて振り向くと、一匹だけのグリフォンが佇んでいた。見たところ、若いグリフォンだ。黄色い目でじっと霊夢を見据えている。
「アーゴルじゃない!…信じてくれるの?」
霊夢は、各神獣の中で一匹だけととりわけ仲が良かった。その一匹以外は、霊夢をそこまで好まなかった。馴れ馴れしく接する態度は嫌いではないのだろうが、名前を知られることを怖れているのかもしれない。神獣にとって、名前は命よりも大切なもの、と竜のロックから聞いた。神獣は名前を知った相手の事を支配することができるのだ。それは逆もまた然りで、神獣同士以外でもだ。
自身の名前を、すぐに教えてくれたグリフォンの目は真っすぐに霊夢を見つめ、信頼していた。
「もちろんだ。何故だろうな、信じてみる気になった」
「ありがとう!」
グリフォンがそう言い終わるのと同時に、霊夢はクチバシに触れた。グリフォンは目を閉じ、ゆっくりと降下した。それに合わせて、霊夢も降りていく。森の中に降り立つと、霊夢はさらに言った。
「じゃあ、信じてくれた貴方には、まだ話したいことがあるの」
グリフォンはしゃがみ込み、体を丸めた。霊夢は全てを話した。
「その軍隊との戦いが終わっても、油断はしちゃだめよ。きっと、敵の親玉は戦いにおいての敗因となった幻想郷の神獣を根絶やしにしようとするわ。だから、その時には…貴方だけでもいい、隠れて敵の攻撃から逃れてほしい。そして、いつしか、その邪悪に対抗できる力を持った人が現れるわ。その時にはその人に協力してあげて」
「それが、神の友の願いとあらば」
霊夢は、次に西へ向かった。西には、竜が住んでいる。竜は行動範囲が広く、誰とでも分け隔てなく接する。人間にも、妖怪にも。それに、ロックという竜の一匹とは何年も前からの名前で呼び合えるほどの仲だ。私の呼びかけに答えてくれる可能性は高い。
霊夢は、無縁塚近くの岩場にある竜の巣に降り立った。その周囲にも、すり鉢状の窪みが沢山あり、竜の卵や餌などが並べられている。霊夢の前にある巣はロックのものだ。
「ごきげんよう、霊夢」
岩の影からロックがのそりと出て来た。4つの足で動物のように地面を歩き、巨大な翼は折りたたんでいる。
「実はね、話があるの」
霊夢がそう言うと、他の竜がぞくぞくとやってきた。グリフォンの時のように、霊夢の話を聞こうとじっとこちらを見つめている。竜は血筋や生息域によって体の色が異なる。虹のように輝く無数の竜に囲まれて、霊夢はさっきと同じ話を始めた。
霊夢が話をすべて終えた時には、10匹ほどの竜がその場に残っていた。赤や青、緑や黒など、いろんな色の竜が集っている。彼らは、霊夢の言葉を信じ、何としても戦いに勝ち、そして生き続けることを誓った。
それから霊夢は、同じように、各神獣の中でたった一匹だけの信頼のある友の元を訪ねた。他の神獣では絶対に聞いてくれないようなことを、皆熱心に聞いてくれた。北の麒麟も、中央部のケツァールも、そして東の住む仲の良かった天狐の兄妹も、霊夢の予言を聞き、霊夢の言葉にしたがってくれた。
よかった、これでいい。霊夢は時を待った。