東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~ 作:ねっぷう
『幻想郷の戦い』
後に、「幻想郷の戦い」として知られることになる大戦争は、妖怪の山から人間の里までにかけて広がる平原で起こった。冬の間、マガノ軍隊は妖怪の山のすぐ麓に野営地の本部を構えていた。雪が解けたらすぐに、マガノ国からの援軍を待たずに一気に南へ進んでくるだろうとレジスタンスは考えていた。
河川敷で禍王の手下の二人が話していたことも偶然聞くことができて、正邪はとても役に立つ情報を得ていた。たとえば、こんな事だ。何十年もの間、悍ましい地で侵略の計画を練っていた禍王は、もう待ちきれなくなった。野望をかなえるために作りだしたよたよた歩きのマガノ兵はまだ不完全だ。それでもマガノ兵の力の強さと数から勝利できると計算し、大々的な攻撃を始めた。
確かに、凍てつく冬に足止めを喰らうまでは、マガノ兵は勝ち進んでいた。北部の妖怪は制圧された。抵抗できたのは力のある妖怪だけである。長い冬の間ずっと待たされ、苛立ちを募らせた禍王は一刻も早く侵略を完了したいと焦っているだろう。実際に図らずも後れをとってしまい、禍王は邪悪な野望をよりいっそう募らせていた。
待つことが嫌いで、せっかち。これは禍王の弱点ともいえる。そしてもう一つ、より重要な弱点が有った。
初期の攻撃による勝利で、禍王は多いにうぬぼれたはずだ。もう誰も自分に歯向かえる者はいないと極度に自信を付けているだろう。この冬の間、幻想郷に起きた大きな変化に、奴は気付いていない。
禍王を迎え撃つために、今までバラバラだった幻想郷の民が結集したことを禍王はまだ知らない。焦りを募らせたばかりに、攻撃を再開した愚かなマガノ兵が相手をするのは以前のようにバラバラに単独で動く妖怪ではなく、幻想郷の大連合だとは知りもしなかった。
天狗から、彼らがこっそり見張っていたマガノ兵が居なくなったという報告が有った。さらに幻想郷を偵察しているようなガルルガも見かけたという。マガノ軍隊が活動を再開し、進軍の準備をしようとしているのは明らかだ。幻想郷の命運をかけた戦いが始まろうとしている。
夜明けごろ、マガノ軍隊は動き出した。まだひたすらに南に進み、ただ前を見ていた。すると、盛り上がった丘の上に妖怪たちがきっちりと列を組んで並んでいた。その数はたかが百程度だったかもしれない。といっても、敵の何十分の一ほどしかいなかった。強靭な体、細い体、剥き出した牙、前を見つめる鋭い目、キラキラと光る牙。獣のような妖怪、人型の妖怪、武器を持った妖怪と様々だ。
敵の指揮官が声を上げて笑った。法玄という名の堂々とした男だった。背の高い青い犬のような魔獣に跨っている。
「これがガルルガが言っていた守備って奴か、焦熱」
法玄は別の犬に乗っている隣の女に言った。
「ふん、信じられるか?あの馬鹿どもは本気で俺達が里を通過するのをとめる気らしいぞ。マガノ兵共は思ったより早く血を味わえそうだな」
すると、焦熱が顔をしかめた。
「でも怪しいね。あのずっと後ろに浮かんでる変な形をした城、ガルルガの報告でもあったけどアタシはどうもアレが怪しいと思う。今攻撃しても得より損の方が大きいよ!」
「焦熱、お前が決める事じゃない」
「でも、アタシも人間だから分かるんだ、妖怪は思っているよりずっとずる賢いんだよ」
「ならお前がご主人様にそう申し上げればいいだろう」
焦熱は怒ったような怯えたような顔になって、黙ってしまった。法玄は焦熱から顔を背けた。過熱の助言通り、焦熱をそばに置いておいて正解だった。今すぐにこの女を殺してしまってもいいが、あのマガノ兵共は焦熱に懐いている。もし目の前で焦熱を懲らしめれば、法玄に向かってくるかもしれない。
だが、ここを制圧した後は…何とかした方がいいだろう。もし必要なら、焦熱のマガノ兵も始末してしまえばいい。
後ろに居るマガノ兵の弱い目が、ついに敵の姿をとらえた。彼らは戦いに飢えていた。そもそも戦うために生まれて来たのだ。それがマガノ兵にとって唯一の楽しみだった。
さて、そろそろここから安全な場所に移動しなければならない。マガノ兵はじきに命令を待たずに敵に突撃するだろう。彼らの前に居れば、踏みつぶされてしまう。
動かないように焦熱に命令したい気持ちに駆られたが、踏みとどまった。焦熱はああ見えて強力な戦士だ。生き延びたら、これからの戦いでうまく利用できるかもしれない。それに、女としても上玉だ。金だっていくらでも稼げるかもしれない。
法玄は焦熱と共にマガノ兵の前を突っ切って安全な場所へ移った。
丘の上の妖怪たちは叫び、雄叫びを上げながら飛び跳ね、こちらを挑発している。いったいどういうつもりだ?マガノ兵を煽って何の得がある?どんなに険しい丘だろうと、マガノ兵はあっという間に登ってしまう。敵は皆殺しだ、これは見ごたえがありそうだ!
マガノ兵が喚き、隊列が崩れたのを見て、法玄はにんまりと笑った。マガノ兵は激しい足音と共に、敵に向かって走り出した。妖怪たちは一歩も動かなかった。顔をしっかりと上げたまま、向かってくる敵を正面から睨んでいる。相変わらず挑発的な行動を繰り返しながら。
大虐殺を楽しみにしながらも、思わず法玄は敵に感心してしまった。あんな軍隊を持てたら、どんなに鼻が高いだろうよ。頭もあり感情もありながら、じっと立って…
「ねぇ、嫌な予感がする!兵をとめなくちゃ…」
「だまれ、もう遅い」
マガノ兵と妖怪の距離がどんどん縮まっていく。それ、あと少しで激突だ…!
先頭のマガノ兵の一団が、勝利の雄叫びを上げて敵に襲い掛かった。だが次の瞬間、マガノ兵が消えた。何百人ものマガノ兵が文字通り、消えてしまった。
驚きのあまり、指揮官は目が飛び出そうになった。それから、ようやく何か起こったのかを悟った。
丘の手前の地面に、長く深い巨大な溝が掘られていた。布か何かでおおわれ、土砂がかけてあったのだろう。
「とまれ、戻れ!」
そう呼びかけるも、マガノ兵は止まらなかった。何千ものマガノ兵が落とし穴に飲み込まれた。それだけ穴は大きく深かったのだ。
「そうか…!」
法玄は思った。ガルルガが気付かない時、つまり夜にあの穴を掘る作業は行われていたのだ。そして、あんな大規模な罠を短期間で作れる妖怪は奴らしかいない。河童共だ!
穴の中に、灰色の塊が見えて、少しほっとした。穴にどんどんと落ちるマガノ兵たちで穴は塞がれつつあった。マガノ兵は落ちた衝撃で死んだのではない、上から落ちて来る仲間に潰されて死んだのだ。ひどく恐ろしい光景ではあったが、法玄の胸は躍った。
「すすめ!」
マガノ兵に命令を下す。更に数百の灰色の死体が積み重なり、溝がゆっくりと埋まっていくのを眺めながら、法玄は後ろに下がった。憎しみを込めて、丘の上に居る妖怪どもを睨んだ。
「逃げられないぞ…待っているがいい…!」
マガノ兵はついに落とし穴を越えた。穴の中は全て死体で埋め尽くされていた。マガノ兵と妖怪は、ついに本当に衝突する。だがその時、法玄はあんぐりと口を開けた。妖怪共の後ろから、更に妖怪が現れた。そこに居た妖怪よりも、妖力や魔力はけた違いに高い。数が膨れ上がった妖怪軍団はマガノ兵とぶつかった。吸血鬼が、手にしている魔力で作った巨大な槍でマガノ兵を薙ぎ払う。強力な怪力で、マガノ兵を吹っ飛ばす。さらに空からは細い槍のような物が降り注ぎ、マガノ兵を的確に貫いた。上を見上げると、何百もの天狗が空を埋め尽くしていた。
マガノ兵はそれでも敵と戦っていた。ほとんどは上空から攻撃されていることに気付かない。視力が非常に弱いため、分からないのだ。マガノ兵はいつも通り凶暴に戦ったが、今までにないペースで殲滅されていく。今までの戦いでは、敵より自分たちの数の方が多く、それに物を言わせてきた。だが今回は、敵が自分たちと同等かそれ以上の数だった。物量で叩く戦法が通用しないのである。
相変わらず槍がふってきて、さらに多くのマガノ兵が敵陣に付く前に息絶えた。
「何だと…」
「あははは、こりゃ参ったね!敵はアタシらの気付かない所で、こんな作戦を練っていたらしい。あそこには河童と天狗、あっちには獣と幽霊まで居る」
神々しい光を放つ集団が、まるで歯車のように息の合った動きで敵陣に斬りこんでいく。まるで歩くだけで、その身体から発せられる光でマガノ兵を殺しているようにも見えた。
「ありゃ妖怪の山の湖の神様だ。その後ろで矢を放ってるのは…永遠亭の奴らじゃないか。まんまとやられちまったね、逃げようにも、後ろも塞がれちまってる」
焦熱はそう言いながら、乗っていた犬の向きを変えた。
「何処に行く!?」
法玄は声を荒げ、剣の先を焦熱に向ける。頭の中がぐちゃぐちゃだ。耳鳴りもする。
「アタシの兵は皆死んじまった。最初に落とし穴にはまってね。ならアタシはもういらないだろう?」
法玄は怒りに叫ぶと剣で斬りかかり、焦熱の心臓を突き刺した。しかし、焦熱は笑っていた。
「ありがとうよ。禍王の手中で待ち受ける運命より、ここでさっさと死んじまったほうがましだ」
焦熱は犬の首に崩れ、ずるずると地面に落ちた。主を失った犬は戸惑った表情を浮かべたが、すぐにその場を駆け去った。
空に浮かぶ輝針城の中から、鬼人正邪は丘での戦いを見ていた。隣には、巨大な落とし穴づくりを監督した河童の長が立っている。
「見ろ、あの男が眼帯の女に剣を向けたぞ。しかも殺してしまった。なぜあんなことを、仲間なのに」
「分からねぇな。でも、もしかしたら怯えているのかも…」
正邪がそう呟くと、後ろから荒々しい笑い声が聞こえた。
「そりゃそうさ!この私、伊吹萃香が集めた荒くれ共が前線に居るんだ」
鬼の伊吹萃香が、大股でこちらに歩み寄った。小柄だが、自らを売り出すようにレジスタンスに入ってきた。実際、その実力はやはり目を見張るものが有った。流石は鬼だ。萃香は窓から身を乗り出した。
「だがどうした、天邪鬼。何が気に入らん?」
萃香は正邪に問いかける。
「…これから先、どうなるんだろうな?何かおかしい、ガルルガはどこに居るんだ?これまでの報告だといつもマガノ軍にくっついていたそうじゃないか」
「これから来るのかもしれないな。だが、この私がすぐにあの首へし折ってやる」
「じきにマガノ兵は降伏するだろう」
河童の長が戦いを見つめながらそう言った。だが、マガノ兵は決して降伏などしない、そのやり方さえも知らないだろう、と正邪と萃香は思った。
そして再び、戦いが繰り広げられている丘を見た。その時、空に灰色の雲が湧いているのに気付いた。その雲を目で辿って、正邪と萃香は戦慄した。雲は北に行くにつれて赤黒くなり、その中央には邪悪な塊が蠢いていた。塊は頭上の雲から分離し、妖怪の山の斜面にしがみ付いた。その雲の塊の中央に、一対の真っ赤な目が現れた。その目をしきりに動かして、戦場を見渡した。すると、今度は山の斜面から麓の地面に降り、物凄い速さでこちらに向かって流れて来る。その上には、七体の悍ましい影が旋回していた。
「ガルルガだ!」
萃香がそう叫んだ。正邪は城の警鐘を鳴らし、丘の戦士たちに危険を知らせた。だが、退却の時間はない…逃げ切れない。雲塊は既に丘に向けて転がるように進んでいた。ガルルガは早くも、激しい戦闘が繰り広げられている上空を飛んでいる。
雲は丘の前で止まった。すると、雲から二本の長い腕が突き出し、地面を掴んだ。そして二つの赤い目玉を光らせ、手の平を地面にくっつけた。手を退かすと、何もなかったはずの平原に七体の緑色の怪物が立っていた。
あっという間に新たな恐ろしい戦力を引き連れて、ついにこの場にやってきた禍王に、正邪は愕然とした。萃香でさえも窓から身を乗り出したまま凍り付いたかのように恐怖に固まっている。
ガルルガは急降下して丘を逃げ惑う妖怪に飛びかかり、引き裂くと勝利の金切り声を上げ、クチバシと爪から血を滴らせながら再び舞い上がった。禍王がもう片手を地面にかざした。するとそこには、何千人ものマガノ兵が座っていた。日差しを浴びてほんの一瞬だけまぶしそうに瞬きしたが、すぐに攻撃を開始する。また、緑色の筋肉質なトカゲ人間の怪物も一緒に飛び出し、薄ら笑いを浮かべたような悍ましい口で敵に食らいつく。
「お前は一人で抱え込みすぎる。レジスタンス創始者としての責任もあるかもしれないが、これはわしら皆の戦いだ。お前以外は誰も後悔していない」
河童の長が正邪にそう囁きかけた。その言葉を聞いて、正邪は体にぐっと力を込め、窓から離れた。
「萃香!しっかりしろ、戦いはまだ終わってないぞ」
まるで夢から覚めたように、萃香は動いた。髪をかき上げ、後ろに居た妖怪部隊に大声で命令を出す。
「使うのか?私たちの、最終防衛システム…」
「ああ、起動する」
いよいよ、秘密裏に製作していた最終防衛システムを起動させる時が来た。正邪は空に浮かぶ輝針城の中心部へと向かって行く。そして、とある部屋に入り込み、壁にあった赤いボタンのような箇所を見つめた。そして、使い古したレプリカの打ち出の小槌を、そこに思い切りたたきつけた。
正邪の妖気がその部屋中に溢れ、部屋が赤く光り出す。さらにその妖気は膨大なエネルギーとなって輝針城全体に波のように伝わっていく。
その時、空に浮かぶ城が揺れた。まっつたつに割れたかと思えば、中から別の塔や屋根が飛び出してくる。空中で城は見る見るうちに変形し、巨大な人型の兵器となって戦場へ降り立った。
「これが最終防衛システム、”輝針城”─」
すると、至る所で歓声が上がった。戦っていた妖怪たちが鼓舞され、一丸となって恐ろしい軍勢と正面からぶつかり合った。
マガノ兵と緑の怪物は、打ち負かしたかに見えた敵が勢いを増して再び向かってくるのを見て怒号を上げた。妖怪の弾幕が当たり、ガルルガが怒り狂って叫ぶ。怪鳥ガルルガの鱗と甲殻で守られた皮膚にはその程度の攻撃は通らない。しかし、炎は翼を捕らえ、薄い羽毛から煙が上がり出す。
ガルルガの目が輝針城に向いた。群れに纏まり、突進してくる。
その時、大空を裂くような物凄い咆哮が響き渡った。きらめく長い巨体が空を飛んでいる。虹色に輝き、蛇のように空をうねりながら日差しを遮る。
幻想郷の中央領域に住む神獣、ケツァールがやってきた。続々と同じような虹色の巨体が空を埋め尽くすように飛び回り、炎を吐き、空の領土を侵したガルルガを攻撃した。ガルルガは直ちに旋回し、神獣に向かって行った。飢えた狼の群れのようにケツァールをぐるりと囲んで攻撃する。
更に、北の方角から緑色の巨体が、東からは純白の獣が、南からは巨大な翼を羽ばたかせる巨体が、西からは様々な色合いを持つ竜の群れが飛んできた。妖怪たちはその攻撃を見て恐れ戦いたが、神獣たちは闘志のままにこの場に集っていた。昔に神の友から教わった予言の時が来た、とこの場にやってきたのだ。
輝針城が歩き出した。つついて攻撃してくるガルルガなど目にもかけずに、一直線にゆっくりと歩く。その先には、ふんぞり返っている禍王がいる。禍王も、こちらに向かってくる城を睨んでいた。邪な笑い声をあげ、ついに目の前まで迫ってきた輝針城を両腕で掴んだ。
二つの巨大な塊がつばぜり合いを繰り広げる。殴り合い、押し合いをする。その上空では神獣とガルルガが戦い、他の神獣は下に降りてマガノ兵や怪物を焼き尽くしている。丘にはそこら中に第一陣のマガノ兵の死体が転がっている。しかし、死体は他にも沢山あった。友人、兄弟、勇ましい妖怪の仲間が数多く命を落とした。
そして新たに到着したマガノ兵はどんどん進軍する。禍王に行動の一つ一つを指示されていた。ガルルガと同じように新しいマガノ兵は禍王と繋がっているようだった。どうやら、禍王は自ら造り上げた手下をさらに改良したらしい。
その時、禍王の裂けたような赤い目が光った。直後、まばゆい巨大な光線が目から放たれ、輝針城に直撃した。輝針城は後ろへ倒れ込み、大きな地震を起こした。
輝針城機関部にいた正邪は絶望した。幻想郷の連合軍も、もう勝つ見込みはないと分かっていた。しかし、諦めなかった。何が有っても諦めたりしない。
「お前はレジスタンスのリーダーだろ」
後ろから声が聞こえた。振り向くと、伊吹萃香が自分の肩を力強く握っていた。更にそこに続く、戦友たち。その戦友たちから聖なる妖気が電気のように伝わってくるようだ。
「そしてお前は何でもひっくり返す…この戦況でさえもだ!私たちと自分を信じろ。そうすれば…」
もうそれだけで十分だった。皆から正邪に伝えられた妖力は機関部中を覆い尽くし、やがて輝針城全体に行き渡る。そして城のいたる部分から、巨大な矢印が何本も突き出す。矢印は高らかに掲げられた右腕に集まり、さらに巨大な矢印を作り出した。
「喰らえ…必殺!『リベリオン…トリガー』!!」
その矢印を正面に向け、前方の禍王に向かって飛ぶように突進を仕掛ける。赤と青の巨大な矢印が雲を裂く。断末魔の叫びに似た、耳をつんざく音が響き渡る。赤黒い雲の塊が震え、縮んだかに見えた。そして雲は、激しい風にあおられ、転がりながら北へ後退しやがて山脈を越えてマガノ国へ逃げ込んでしまった。
ガルルガも途方に暮れ、鳴き叫びながら雲についていった。神獣たちは傷つきながらも力を振り絞ってしばらく追いかけた。だが、そのうち戻った方が良いと思い、傷を舐めながらそれぞれの領域に帰り始めた。
後から送り込まれたマガノ兵は主人の力を失ったとたん、その場に倒れ込んで蒸発した。妖怪たちは訳も分からぬまま声をあげ、嬉し涙を流した。しかし、一部の凶暴な妖怪は胸を叩き、雄叫びを上げると、残っていた緑の怪物と戦いだした。
「勝った…」
かくして、幻想郷はマガノ国に初めて勝利をおさめた。妖怪は歓び、人間たちは唖然としたまま妖怪に感謝した。幻想郷中がお祭りムードに包まれたという。
しかし、敵は完全に滅んだわけではない。【禍王、狐の如く狡猾にして諦めることを知らず。そのケダモノの怒りと嫉妬においては、千年の時も一瞬に過ぎない】。やがて間もなく、幻想郷に新たな危機がふりかかることを、彼らは考えていなかった。