東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第二部 新たな幻想は禍に抗う ~Last Rebellion
第1話 「独白」


 そろそろ、手と目が疲れて来た。12本あった部屋のロウソクも、最後の一本が尽きようとしている。それも当然だろう、私は3日も寝ずにずっとこうして机に向かっていたのだ。

 

私が幻想郷縁起を編纂し始めたのは、一代目の阿一の時で18歳くらいになった時の事だから、もう千二百年以上も昔の事である。この私が、めでたく十三代目として生まれ変わることが出来てから、もう40年は経つだろうか。私たち稗田の一族は代々短命だが、私だけは異例で、十二代目までと比べてかなり長生きをしてきた。もう、いつ私が死んでしまってもおかしくないのだ。

実際のところ、本当ならば私は死んでいたはずだった。20年も前の事だ、私は禍王が支配する山の向こうにあるマガノ国からの使いに殺されかけた。私を痛めつけ、柱に縛り、その周りに本を積み重ねて火をつけた。炎が強くなり、火をつけた使いもその場を後にしたころ、縛っていた縄が焼き切れた。だが、私にはもうそこから逃げるほどの力は無かった。私が気付いてしまったこの幻想郷の真実を友人に知らせるために、自分の血を使って手紙を書いたりもした。そこで意識が途切れた。

しかし、目を覚ますと、私は生きていた。顔や腕に酷い火傷が出来ていたが、とにかく生きていたのだ。周りには、見知らぬ子供たちが居た。どうやらこの身寄りのない浮浪の子供たちが私を助けてくれたようなのだ。

私の住む屋敷には、私でさえも知らない秘密の地下通路が有ったらしい。炎で床が焼け落ち、私は瓦礫ごとその地下通路に落ちてきたようだった。私は子供たちに、自分がしなければいけない事、そして自分が今は上には出れない理由を伝えた。

今では、その子供たちのほとんどがそれぞれの道を歩んでいった。こんな憶える事しか能のない私にここまでついてきてくれたのは、助手の迪郎だけだ。

 

さて、その助手の迪郎は、他の子どもたちと同じく、盗みや小売りで生計を立てていた。何度もパンや野菜を持ってきて、笑顔で私に差し出してくれたのを鮮明に覚えている。それが、盗んできた物や汚いお金で買ったものだと分かっていても、私のために用意してくれたものを、笑顔で受け取っていた。私は迪郎を実の息子のように可愛がった。

迪郎によれば、3年前、地上では物凄い動きが有ったとか。何でも、本居の鈴奈庵の娘が、四人の歌姫を全て倒し、その後に待ち受けていた禍王による幻想郷への復讐も退けて見せたらしい。その話を聞いた時、私はそれを成し遂げた本居新子に影ながら感謝し、泣く事しかできなかった。

私が彼女の父親の本居に託した言葉を信じ、ついにやってくれたのだ。そこまでするのには、かなりの苦労をしただろう。

そもそも、私が禍王の歌姫計画に気付いたのは、たまたま「四人の歌姫」の物語の冊子を見つけたところから始まった。その冊子は幻想郷縁起の一冊に付属していたもののようだが、どこかで抜け落ちてしまい、家具の裏側に入り込んでいた。それを見つけた時は、不思議に思っただけで特に何も考えなかったのだが、自分の記憶をたどり、先代が書き記した幻想郷縁起を見返すと、驚くべき事実に気が付いた。200年前の大戦の直後、七羽のガルルガが東西南北四つの魔境の上を飛んでいたこと、そしてその範囲に荒廃が集中していたこと。それだけで十分だった。

後は、私のもとで働くとある使いの者がヒントをたくさん与えてくれた。私はそれを自分で発見した私だけの情報だと思っていた。その使いは禍王の手の者だった。それに気づいた時にはもう、その使いは全ての情報を私に教え、私は歌姫計画の全てを知ってしまっていた。

禍王は計算高く、狡猾なケダモノだ。無数の罠を貼り廻らせ、どう転んでも幻想郷を手玉に出来るように仕組んでいた。歌姫計画は、まず東西南北に配置した四人の歌姫の魔力で、幻想郷を腐らせる。それを知った誰かが、歌姫を全て退治してしまえば、たちまちにして幻想郷は滅びる。

もしも私が後に述べた事を知らず、私自身が打倒歌姫を目指していたら、私が残りの人生を禍王の手の平の上で転がされるところだった。だが、知ってしまったがゆえに、殺されかけた。

私は恐れていた。私が本居に伝えた事を、彼は曲解してとらえてしまうのではないか。だが、その心配は無用だったようだ。本居新子とその仲間、そして神獣の生き残りたちが歌姫計画を見事に最もいい形で打ち砕いてくれた。

 

しかし、まだ幻想郷には課題が残されている。マガノ国の滅亡はもちろんだが、もう一つやらなければいけないことがある。

そろそろ、助手の迪郎が帰って来る頃だろう。帰ってきたら、私は支度をして、いよいよ上に出ようと思う。

 

 

─────────────────────

 

 

幻想郷、人間の里。

商店街は今日も大勢の人々でにぎわっている。幻想郷を荒廃させ、飢餓をもたらしていた四人の歌姫が全て倒され、平和が訪れてから、3年の年月が流れていた。里の中央地区は丘のように盛り上がっており、新築の家々が立ち並び、中心には高く天を突くようにそびえる集会場の塔がある。ほとんどの家に水道管が通され、自転車が普及するなど、工業化も進んできた。妖怪も人間の里で暮らし、人間と協調している。

 

そして、人間の里の外でも注目すべき点はいくつもある。荒廃していた大地が以前のように息を吹き返した影響で、自然の化身である妖精がちらちらと誕生し始めた。

魔法の森へと続く公道が作られ、森の果物を採取、栽培できる。今までは未踏だった範囲にまで人の手が行き渡り、人間にとってより良い、暮らしやすい環境へと変化していった。

 

「よしっと…」

 

そう手記に書き記しながら、人間の里の門をくぐった、マントを着た旅人。旅人はマントのフードを外し、顔を上げた。ターバンのように頭に巻いた布で髪の毛を中にまとめ、手首に巻かれた鎖のようなアクセサリーが日の光を受けて光る。

旅人はさっさと歩き、人のにぎわう商店街をざっと見渡す。そして、目についた飯屋に足を踏み入れた。

 

「いらっしゃい!」

 

机を拭いていた男が顔を上げた。この男はツムグ。新子の古くからの知り合いでもあり、3年前の戦いでは大いに勝利に貢献した人間だ。

実は、ツムグの家は細々と飯屋を営んでいて、里がマガノ国の支配から解放された後は見せも大きく改築し、飯時には寄っていく人も多い。カウンター席の奥ではツムグの両親が鍋に向かっている。

 

「って、華扇さんじゃないっすか」

 

ツムグは旅人を見るなり、そう言った。旅人もマントを脱ぎ去り、顔の汚れをぬぐった。

 

「久しぶりね」

 

旅人深い赤色の服に身を包んだ華扇だった。華扇は適当な席に座り、ツムグが置いた水をぐいっと飲んだ。

 

「新子とはどう?」

 

華扇が徐にそう尋ねた。

 

「あ、アイツとっすか?どうっていうか、別に…」

 

「だってあれから付き合ってるんでしょ?」

 

「…アイツは最近になってずっと思いつめたような感じで機嫌が悪いんすよ。ていうか、今回はどこへ行ってたんすか?」

 

「竹林をぐるっと回ってきたけど…」

 

華扇は、旅から旅の日々を送っていた。一月ほどの旅に出て、帰って来ては三日も経たずに次の旅へ出る。旅の目的は、幻想郷の調査である。どの場所がどうなっていてどう変わっているのか、そこにどんな妖怪が住んでいるのかなどを記録しているのである。

 

「奥の方では、妖怪兎が暮らしていたわ。でも、皆暗い顔をしてた」

 

「へぇ…」

 

「他の妖怪もそうよ。皆不安そうな、悲しそうな表情をしているの。人間だってそうだわ、一見するとこの平和を謳歌しているように見えるけれど、瞳の奥底では悲しみを募らせている…何故だか分かる?」

 

「え?う~ん…」

 

「分からない?」

 

「分かりますよ」

 

その時突然、後ろから別の声が聞こえた。2人が驚いて振り向くと、そこには本を抱えた少女が一人佇んでいた。紫と黄色をした着物を着て、髪には花の髪飾りを付けている。顔には痛々しい火傷の傷跡が有り、片目の色が灰色に濁っている。小柄な外見は少女のように見えるが、その雰囲気は並ならぬものを感じた。

 

「お客さんっすか?こちらの席にします?」

 

「そうですね、そこで」

 

少女は華扇が座っているカウンター席の隣に座った。

 

「…ところで、誰かしら?分かりますって言ってたけど…」

 

「ええ、私は貴方の問いに答えることができますよ。私は稗田阿富(ひえだのあとみ)と申します」

 

その名前を聞いた華扇があっと声を上げる。稗田阿富といえば、新子の父親から聞いた。彼の友人であり、マガノ国の手下に殺され、幻想郷縁起と遺言を託したという、稗田家13代目当主…!

 

「驚いているようね、茨木華扇さん。私がこうしてここに居るのは、話せば長くなるのでまた別の機会に。さて、本題にうつりますが…さっきの話の貴方の問いに答えると、ズバリ…」

 

 

 

─ろろん ろろん…─

 

まただ。この何かを振るような、聞き心地の良い音が頭に響いてくる。楽器とかの類ではない。美しい音が頭から離れない。

それに、声も聞こえてくる。

 

─さぁ、私の願いを叶えろ!

 

この声は聞き覚えが有った。だが、誰なのか思い出すことができない。

 

 

本居新子、21歳。あの戦いの後、英雄としてたたえられた不良少女も、今ではただの一般人に過ぎない。母親と二人で鈴奈庵を営んでいる。

 

「よしっと…」

 

新子は新しい本が詰まった箱を床に降ろした。この箱に入っているのは全て妖魔本だ。妖魔本とは、主に妖怪が書いた本の事を指し、その種類には妖怪による古典書籍、人間宛に書いた書物、グリモワールなどが含まれる。特に妖怪の存在を記録した本が多い。

この妖魔本は鈴奈庵の物置小屋に眠っていたのを引っ張り出してきたもので、その他は森近霖之助が店主をしている香霖堂から買い取った。

 

「う~ん、さっぱりわかんねぇ」

 

本の一冊を手に取り、パラパラとめくる。ぶっきらぼうにそう言うと、本を閉じた。これはただ単に難しい本が苦手なわけではない。新子は、これでも3年前に比べれば静かになり、貸本屋の経営者らしく多少は本を読むようになった。だが、妖魔本の妖怪の文字は一般に人間には読むことができない他、書物によっては現在の妖怪にも読むことのできない程の古い文字で書かれているものもある。

 

もう一冊ぬき出し、適当にページを開いた。すると、あるページに挟まっていた物が床にはらりと落ちた。新子が何かと思って拾ってみると、それは木の葉だった。

 

「葉っぱ…?誰かがしおり代わりに挟んでたのか?」

 

そう口にしたとき、本のページとページとの隙間から白い煙が噴き出した。煙はあたりに漂い、更にモクモクと立ち込める。

 

視界が悪くなり、新子は目の前を手で払いながらせき込んだ。

 

「これは妖気…妖怪か!?」

 

煙には妖気が混じっている。それも、今まで出会ってきた妖怪とも違うタイプだ。その時、新子は金縛りにでもかかったようにその場から動けなくなった。飢えた獣のような気配を煙の中に感じて、眼を見開く。

 

「この儂を封印から解いたのはお主かの…?」

 

 

 

「確かに、華扇さん、貴女と本居新子はマガノ国軍を幻想郷から退けることに成功しました。あの博麗大結界が復活し、それがある限りは禍王は幻想郷へは二度と踏み込んでは来れないでしょう。しかし、忘れてはいませんか?マガノ国には、捕虜として連れ去られた人間や妖怪が多く残されているのですよ」

 

稗田阿富と名乗った女性はそう言った。ツムグが動きを止め、確かにと言った顔で頷く。

 

「それは…そうね、私が言おうとしたことだわ。皆、哀しみを秘めてるのよ。もう禍王に怯えなくてもいい。だけど、愛人や友人、家族をマガノ国へ連行された人々は、まだ悲しみに沈んでいるわ。妖怪だって同じ…同族だった者や仲間、兄妹でさえ行方が分からない」

 

「そうです!」

 

阿富はパアっと顔を輝かせた。

 

「それに、更に課題はあるのですよ。さっき、禍王は幻想郷へ二度と踏み込んでこれないといいましたが、それもつかの間の事です。いずれ禍王は再び博麗大結界を破って侵入してきます」

 

「何ですって?」

 

「ですがそれを防ぐ手段はあります。もう一度、この幻想郷を妖怪で満たすのです。もともと、幻想郷とは妖怪が妖怪の為に作った理想郷…いくら我々人間が進んだ文明を築こうが、妖怪が居なくては幻想郷は存在を保っていることが難しくなる…」

 

「つまり、アンタは何が言いてぇんだ?」

 

ツムグが言った。阿富はコホンと咳をし、高らかに叫ぶ。

 

「…もう一度、幻想郷から離れた妖怪たちを連れ戻す!今度は我々がマガノ国へと踏み込み、囚われた人間も開放するのです!!」

 

 

 

「な、何でぇテメェは!!」

 

煙の中で、黄色い目が光った。動物のような耳が角のようにシルエットを映し出し、巨大な尻尾が揺れている。長年閉じ込められていた妖気をむんむんに放ちながら、妖怪はゆっくりと新子に歩み寄り、手を伸ばす。

新子は咄嗟にその手を掴み、こちらへ引き寄せると同時に、固めた拳を素早く突き出した。しかし、パンチは難なく避けられ、逆に手を振り回され、地面に倒れ込んでしまう。

妖怪は再び手を伸ばし、新子の首元へと指を伸ばす。新子は目を瞑り、歯を食いしばる。

 

 

 

今、幻想郷だけではなく、マガノ国をも巻き込んだ、大きな戦いが幕を開けようとしていた。

 

 

 




第二部スタートです。この第二部は、第一部ではあまり登場しなかった東方の原作キャラが多数登場します。そしていよいよマガノ国へ…。
その結末は如何に!?
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