東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第4話 「不思議な香霖堂」

鈴奈庵の娘、本居新子は両親から、禍王の”四人の歌姫計画”を知らされる。新子は仲間の茨木華扇と共に、歌姫計画を打ち破るために旅立った。

まず最初に、南の歌姫が隠されている赤い砂丘へと進み始めるのだった…。

 

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第4話 「不思議な香霖堂」

 

 

ガルルガは未だに頭上を旋回している。翼を振るうたびに風圧で林が揺れ、新子も木の根元に掴まっているが風で吹き飛ばされそうになってしまう。

 

「うおあーッ!」

 

「しっかりして」

 

飛ばされる新子の腕を掴む華扇。しゅるりと伸ばした包帯の大きな手はしっかりと新子をつかんで離さない。きっと注意深く下を睨んでいるガルルガの無機質な目が飛ばされる新子か華扇を捉えれば、すぐさま物凄い勢いで降下してきてあの大木の幹のような足で掴まれて連れ去られるか、あの先端が槍のように鋭利なしゃくれた嘴によって瞬時に引き裂かれるか…。考えるだけでなかなかぞっとする。

 

だがその時、突然ガルルガは風を起こすのを止め、甲高い叫び声を発した。新子と華扇は何事かと思って上を見上げる。その光景を見て、二人は思わず息を呑んだ。

今まで風を起こしていたガルルガのもとへ、他の二羽のガルルガが姿を現したのだ。翼膜や背中の甲殻の一部がまるで苔でも生えているように緑色に変色し、顔の右半分が痛々しくえぐれている。先に新子を襲ったガルルガよりも傷は大きいが、体の大きさはすこし小さいようにも見える。もう一羽のガルルガは、他の二羽よりも一回りほど大きく、身体には外傷一つ見当たらない、ガルルガ本来の美しさや気品のある様が見て取れる。もともと戦闘を好まない個体なのか、それとも強すぎるがゆえに傷を負うような戦いをしていないだけなのだろうか。

 

新たに出現した二羽のガルルガは最初のガルルガを同じく無機質な目で睨みつけると、合計三羽の怪鳥は向きを変えて再び北の方角へと飛び去っていった。華扇が言っていた通り、禍王かその周辺の者から無駄な戦いは避けろと伝えに来たのか。大体、通常別々で行動すると幻想郷縁起に記されているとおり、こうして二羽以上のガルルガが一か所に姿を現すのは滅多にないらしい。

 

「行ったの…か?」

 

既に空の彼方に黒い点となっている三羽のガルルガを見ながら服にくっついた葉を払い落としながら新子がつぶやいた。

 

「やっぱり、森を超えるのは危ないみたいね。仕方ないわ、森を通ることにしましょう」

 

また竿打に乗って飛んでいればいつガルルガが目ざとく発見して襲ってくるか分からない。もし次見つかれば、さすがに見逃してはもらえないだろう。上は危険すぎる。

 

「貴方はこの林に居なさい。もし私たちが貴方の力を借りたいときは呼ぶから…」

 

そう言われた竿打は、翼を広げて軽く飛び上がると、林の中の木の枝にとまった。爪を枝に食い込ませ、凛々しい顔つきでピクリとも動かないその姿は、あんなガルルガたちよりもよほど気高く、利口そうに見える。

もし森の中で新子と華扇に何かが起こり、竿打が呼ばれれば彼はすぐさま駆けつけてくれるだろう。

 

「マジか…結局森を歩いて渡るのか…」

 

ぶつぶつと悪態をつきながら重く足を動かす新子に、この旅がどれほど大変でそれだけ幻想郷にとって重要なことなのかを言い聞かせながら、華扇は背の高い草が生い茂る草原を歩いた。

 

 

1時間は歩いただろうか。いよいよ森の入り口が見えてきた。深すぎる緑に生い茂った魔法の森は、真っ黒に見えて、まるで暗黒の空間の入り口であるかのようにも見えた。

と、その時、草に隠れるように立てられた古臭い木の板でできた看板を発見した。草をかき分けて、その看板に書かれた文字を読む。里に学校は一つだけあり、そこそこの金が有れば最低限の読み書きや計算、その他歴史や科学も教えてもらえる。その学校も、半分がマガノ国の管理で動いているのだが…。

 

『古道具屋 香霖堂 何でもあります、買います』

 

「え~…古道具屋…かおる…こう、きりって読むのかこれ?どう?」

 

「こうりんどう、ね。へぇ、まだこんな店あったのかぁ…」

 

華扇は看板の裏側に書かれた赤い矢印に気付き、それが示す方向を見た。森の入り口とは少し右側に離れたところに、小さな建物が見えた。遠くからなのでよくわからないが、薄茶色の壁に、黒い瓦の屋根があるのがわかる。

そして、二人は一気に走って店の前に駆け寄った。店の横には変な埃まみれの機械や、赤い線の入った小さなボールなど、色々なガラクタが山のように積まれていた。小さな窓の付いたドアの上には、「香霖堂」と書かれた看板がある。少し緊張しながらドアを開けて店の中に入ると、ドアの内側に付けられていたベルの音が、静かで埃っぽい嫌な空気が広がる店内に響き渡った。

 

「まぁ、思ってた通りというか…」

 

壁に所狭しと並べられた棚、店の中央に置かれた3つの丸いテーブル。棚にはおかしな形をした壺や食器類、動物の置物などのガラクタが置かれ、テーブルの上には見たこともないような、使い方さえ分からない機械が並べられている。

 

「懐かしいわね」

 

華扇は店の棚をじっくりと眺め始める。懐かしい、と言っていたか?ではアイツは以前にもここに来たか、それともここを知っていたのだろうか。

新子も華扇のマネをして、棚をざっと見渡すように店内をぶらぶらと歩く。と、そこで本棚が置いてある場所で足を止めた。表紙を見せるように置かれている本は、どれも里じゃ見かけないようなものばかりだ。これが、父親が言っていた外来本というやつだな。不思議と直感で分かった。何でも禍王が現れる前は鈴奈庵でも外来本を取り扱っていたらしいのだが、そういった本や、また妖力の込められた妖魔本…とやらは大変貴重だったらしいので、マガノ国に奪われてしまう前に先祖がどこかに隠してしまったらしい。父親も子供の頃に探し回ったそうだが、結局見つかる事は無かったらしい。その外来本が、こんな店に置いてあるなんて。

その本をもっとよく見ようと手に取ろうとした瞬間。新子は異変に気付いた。

 

「あれ?」

 

本を持ち上げようとどんなに力を込めても、棚から本が持ち上がらない。

 

「何をしてるんですか?」

 

「ふん、どうやらこりゃサンプルだったらしい。棚に固定されて持ち上げられねぇや」

 

手を離して本を手放そうとしたとき、またもや新子の動きがとまった。

今度は手が本から離れなくなっている。まるで超強力な接着剤でも塗られていたかのようだ。だが流石にそこまではしないだろう。触る前に気付くはずだし。何か魔法の類の不思議な力が働いているかのようだ。

 

「その商品が…お気に召したのかな?」

 

その時、カウンターの奥の部屋から声が響いてきた。続いて姿を現したのは、白髪で、青と黒を基調とした柄のシャツを着て眼鏡をかけた背の高い中年の男だった。

 

「テメェ、どういうつもりだ!こりゃ魔法か何かだろ?さっさと解きやがれ…!」

 

新子は棚の段に足をかけてそのまま引っ張る。が、本とくっついた手はやはりビクともしなかった。

 

「まぁ~、このご時世だからねぇ。一度触った商品は必ず購入してもらう事にしてるのさ」

 

薄いくちびるを曲げながら、男はそう言った。

どうせこんな魔法の森のそばに建ってる店なんかに、普通の客も盗人も来ねぇんじゃないか?

 

「私からもお願いしますわ。私たちは大事な用事の途中…急がないといけませんの」

 

「おぉ、君は確か…仙人の…。ほうほう、まだ僕のように…おっと、これ以上はいけないか、危ない危ない…」

 

眼鏡の位置を直しながら、ブツブツと独り言を言っている。そしてカウンターの机の裏側に手を突っ込み、何かを探るように身をかがめた。その拍子に、新子の手が本から離れ、勢い余ってバランスを崩し、床を転がってしまった。机の裏に、何かボタンがレバーのようなものが設置してあって、それを使って解除したのだろう。これには新子ももともと短気な性格であることも相まって、怒りが有頂天にまで達した。怒りに目つきを変えながら、店主の男の胸ぐらを掴んで持ち上げ、椅子から立たせる。

 

「テメェ…!!」

 

「新子、落ち着いて」

 

そのまま握った拳を振り上げる新子の腕を掴み、もう片方の腕を胸に回して押さえ込み、落ち着くようにさとす華扇。新子はため息をつくと、華扇の腕を振りほどいた。どうやら落ち着いたようだが、その長いまつげに囲まれた目はいまだに店主の男を睨みつけている。

 

「すまないねぇ。僕はこの香霖堂の店主、霖之助っていうんだ。君ら、用があるって言ってたけど、一体何かな?」

 

新子と華扇は互いに目を合わせた。自分らの四人の歌姫討伐は、誰にも気づかれず、もちろんできれば禍王にも知られる事なく進めたい。ここで喋ってしまうべきではないだろう。

 

「…まぁいいけどね。さて、ここも一応店だ、何か買いたいものはあるかな?」

 

先ほどの無愛想な態度とは打って変わった、突然商売人らしく気さくに、下から出てきた。

華扇はふらりと店の中を見渡しながら歩き回り始める。それをマネして、新子もざっと商品を見ることにした。

 

 

「これ、お願いします」

 

華扇は中からじゃらじゃらと音がする小さな缶の箱、ビニール袋に入れられたお菓子のようなもの、そして腰から下げれるウエストポーチを触れないように、慎重に指さした。

 

「えぇ~と、火炎玉に、アップルブレッド…それにウエストポーチだね」

 

割るとそこから火を起こす事が出来るビー玉、火炎玉。少量の水を加えるとリンゴ味のパンに変化するアップルブレッド、それらを携帯できるようにとウエストポーチを選んだのだ。霖之助はマジックアイテム、魔法の道具の作成技術を持っており、たまにそれらを作っては店に置いておくらしい。華扇の選んだ火炎玉やアップルブレッドも、そういった魔法の類のアイテムである。

 

「新子はどうしますか?」

 

「ん~、そうだなぁ…これといって特には…」

 

最後にもう一度店内を見渡す新子だが、その時、あるモノが目に入った。銀色に塗装され、グリップ部分を黒いテープで巻かれた、金属製の棍棒のようなものだ。

 

「こりゃ何だ?」

 

「あぁ~それはねぇ…ベースボールっていうスポーツでボールを打つのに使う、バット…っていう道具だね」

 

新子はそのバットを手に取った。今回はちゃんとこれを買う、という明確な意思が有ったので、手が離れなくなる魔法は発動しなかったらしい。

 

「それにするんだね?」

 

「ああ」

 

「それと、この二本の水筒と、これに入るだけの水をくれないかしら?」

 

華扇はもう二つ、棚から何かを選んで指差した。その先にあったのは、二つの円柱の形をした水筒だった。ピンク色に塗られたステンレス製の水筒だ。確かに、新子がカバンに入れて持ってきていた、二人分の水筒は先ほどの怪鳥ガルルガの奇襲によってボコボコにへこんで形が悪くなってしまった。変形したおかげで蓋も上手く閉まらないようになっている。新しい水筒と、水を買うことにしたのだ。

 

「毎度あり」

 

店主の霖之助は、満足そうに代金を受け取り、水筒がいっぱいになるまで水を入れた。

 

 

「新子、本当にそれでいいのですか?」

 

「ああ。何か一目見た時にピーンと来た…これなら妖怪だろうが禍王の手下だろうが何でもぶっ倒せる気がする!」

 

新子はブンブンと銀色に光るバットを振り回した。振るうたびに風を切る音が鳴り、バットの重さと勢いによって足が少しよろめく。これならマガノ憲兵団にばったり出くわしてしまっても、すぐに撃退できるだろう。今、自分の横には華扇も居る。華扇は自分が相手をした憲兵を口封じとして、一人残らず始末していた。それほどの実力がある仙人と旅をするのだ、何が来ても負ける気がしない。

 

「こら、危ないですよ…」

 

負けん気に溢れる新子を心配そうになだめながら、華扇はふと上を見た。もう太陽がほとんど沈みかけ、空は薄暗くなってきている。

 

「ガルルガの所為で思ったより時間を喰ってしまったようですね」

 

「ああ…これから森を渡るんだろ、もっとかかるぜ…」

 

二人は、香霖堂の有った場所から、森と草原の境を沿って歩いていた。そして、空が真っ暗になり、夜のとばりが訪れた頃、突然森の中で何かが遠吠えを上げた。森のどこで叫んだのか分からないが、声は木々の間を反響しながらこの森の外まで届いた。上には、先ほど華扇が待っていろと命令したはずの竿打が低く飛んでいる。よくよく考えれば、幻想郷にも鳥は居るし、空飛ぶ普通の生き物も居る。あの時ガルルガが目ざとく襲い掛かって来たのは、鳥に人影が乗っていたから。

 

今、新子はあの恐ろしい魔法の森のすぐそばにいる。夜の暗闇を感じたとたん、今まで気にしていなかったことがしつこく頭の中に浮かんでは消える。心臓の鼓動がいつもより早く動いているのが分かる。

 

突然、横に生い茂っていた森に、開けた場所が現れた。魔法の森が、ぽっかりと真っ黒い口を開けて二人を待っていた。

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