東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第6話 「新レジスタンス」

ついにマガノ国の支配から解放された幻想郷。しかし、再び魔の手が忍び寄るのも時間の問題だ。

本居新子、茨木華扇、そして二ッ岩マミゾウの三人は、マガノ国に囚われた人間と妖怪を救い出すため、新たなる旅へと出るのだった。

 

ひとまず紅魔館を後にした一行。河童たちのアジトに立ち寄り、いよいよ地底へと向かうのだが、道中で目にした人物とは…?

 

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第6話 「新レジスタンス」

 

目の前に立ち、ずっとこちらを見つめている紅美鈴。分かっている、これは幻だ。本物の紅美鈴は、時計の針で貫かれ、今も屋上で揺れているはずだ。

 

「貴方たちには、まだやるべきことが有る。破魔師シャムの相手をするのは、その後でもいい。信じて…自分たちの示す道を」

 

紅美鈴の幻は、一度まばたきする間に、その場から消えてしまっていた。

シャムは、さっき一度は居れば決して抜け出せないと言っていた。だがしかし、紅魔館そのものと、かつてその魂を使ってシャムを閉じ込めた住民たちは、新子たちを助けてくれたらしい。さっきのゲームの妖精も、自分たちに行き先を教えてくれた。

 

「しかし、胸の悪い話じゃ」

 

「そうね。確かに私たちには、もっと大切なことが有るわ。それが終わったら、しっかりシャムも懲らしめてやらないと」

 

「だな、あの野郎はただじゃおかねぇ…」

 

 

三人はそんな話をしながら、妖怪の山を目指して歩き続けた。道中は険しかったが、足止めを喰らうほどの危険はなかった。

ようやく妖怪の山の麓にたどり着いた時には、すでに日が暮れようとしていた。

 

「そうだ、さっきは貴方に金を預けていたから、ひどい目に遭ったわ」

 

華扇はマミゾウから財布を受け取ると、金を三等分に分け、それぞれに渡した。ポケットに入れてあった、例のゲームの部屋で手に入れた金も自分の財布に一緒にしまう。

 

「そんな汚い金なんて捨てちまえよ」

 

新子がボソッと悪態を付く。

 

「がめつい奴と思われるのは心外だけど、お金は多いに越したことはないわ。これから行く地底でも、どんなことが有るか分からないのだから」

 

「なぁ、ところで地底ってどんなところなんだ?やっぱりあぶねぇ妖怪とかが居るのか?」

 

マミゾウはちらっと華扇を見やった。華扇はため息をついてから話し始める。

 

「そもそも地底って言うのは、元は地獄の一部だったの。でもコスト削減の為に地獄から切り離されて、そこには跡地の繁華街だけが残った。そこへ、かつて幻想郷で暮らしていた鬼たちが目をつけ、住むようになった。その後も人からも妖怪からも嫌われるような者たちが地底へと逃げ、地底はどんどん賑やかになっていったわ。でも、それに危険を感じた地上の妖怪は、地底の妖怪たちと不可侵条約を結んだの。それきり、地底と地上が交流することは滅多になくなった」

 

「まあ、地底がマガノ国の手に落ちていないという証拠はないのじゃがのう」

 

「その時はその時よ。やっぱり地底の妖怪は危険よ。あんな連中、相手にするもんじゃないわ」

 

「ふーん」

 

 

 

新子とマミゾウは華扇に案内されて、河童のアジトを訪ねた。河童のアジトは麓からほど近い場所に作られていた。

 

「新子に華扇じゃないか!よく来たねぇ。それに、狸まで…」

 

まず迎えてくれたのは、河城にとりだった。

河童たちは、200年前のマガノ国軍の襲撃後、故郷であった妖怪の山を追われ、山から離れた岩地に地下街を作ってずっとそこで暮らしていた。妖怪の山にはマガノ国の怪物が巣くっており、その怪物たちに山に居られなくなった妖怪のケチャルコチルに苦しめられていたのだ。しかし、3年前、偶然にも出会った新子と華扇により、ケチャルコチルは倒され、妖怪の山も長い荒廃の時代から解放された。”神の夜”の戦いのあと、マガノ国軍が追放されてからは、こうして山に戻り、元のアジトを作り直して生活している。

 

「久しぶりじゃないか、新子」

 

にとりの横で、帽子を外しながら話しかけてきたのは、バンという女だった。このバンは、元はマガノ憲兵団の一人だった。しかし、マガノ国の在り方に疑問を持ち、新子たちと共に死線を潜り抜けた。今は河童と共に生活しているようだ。

 

「ああ、2年ぶりくらいか?」

 

「それくらいね。ところで、今回はどうした?」

 

「…そうね、大事な話があるわ」

 

三人は、にとりとバンと共に、少し離れた所へ移動した。沈む夕日が良く見える川原で、赤く染まった景色が神秘的な雰囲気を醸し出している。

 

「大事な話って何だい?いつもの調査の旅とは違うの?」

 

にとりが切り出した。

 

「ええ、今回の旅はね、特別なのよ。確かに、幻想郷はマガノ国の支配から解放されたけど、それは一時的な物に過ぎないらしいわ」

 

「そうなのか?」

 

「幻想郷とは、元は妖怪が作り出した世界。だから、結局は妖怪で幻想郷を満たさなければ、いずれ結界は破れて再びマガノ国の軍勢が入り込むことになるわ」

 

「それでな、マガノ国に沢山の人間や妖怪が囚われたままってのは知ってるか?」

 

「もちろん知っている」

 

バンが言った。

 

「マガノ国に居た頃、数多の妖怪を見たわ。ほとんどが奴隷として働かされていたり、闘技場で娯楽の為に地獄のような目に遭っていた」

 

「そうだよ、私たちの河童の仲間だって、何十人も捕まっちまった。彼らはどうしてるんだろう」

 

「そこでじゃ。儂らは地底を通って直接マガノ国へ赴き、囚われた者たちを幻想郷へ連れ戻す」

 

「…本当かい?」

 

にとりが呆気にとられた様子で呟いた。そして、華扇の手を握り、ブンブンと振り回す。

 

「じゃあ、囚われた河童の仲間たちも救い出してくれるって事かい?」

 

「え、ええ…」

 

「でも、どうやってそんな事を成し遂げるんだ?マガノ国へ行ったら、無事に帰還できる保証なんてないぞ」

 

バンが警告した。それもその通り、マガノ国へ行って帰って来た者は数えるほどしかいない。それに、元はマガノ国関係者であるバンだからこそ、マガノ国の危険さは一番よく分かっている。

 

「それが、あるんだぜ。今は詳しくは言えないがな」

 

「…そうなのか」

 

「まあ今日は疲れただろう、休んでいきな!お前たちが来たってみんなに教えたら、きっと御馳走だってたんまり出るだろうさ」

 

 

その晩、三人は河童が用意してくれた家の中で眠った。華扇はすぐに寝静まり、マミゾウはしばらくしてから眠りについた。

しかし、新子はしばらく眠ることができなかった。

頭の中に響くのは、ろろん、ろろんという甘い音。鈴とも、笛とも違う。数日前まではこの音の正体は分からなかったが、今ならばわかる。きっと、この音は打ち出の小槌の発する音。その音が、まるで新子に何かを訴えかけるように頭の中でこだまする。それは、妖怪の山に入ってからというもの、以前よりももっと大きく、はっきりと聞こえるようになっていた。

 

”打ち出の小槌よ、我の願いを叶えたまえ”

 

声もだ。きっと、これは今まで打ち出の小槌に願いを叶えさせてきた者たちの声だ。他愛もない、ささやかな希望を願う者、私利私欲の為に願う者。その中には、聞き覚えのある声も混じっていた。

 

”打ち出の小槌、私の願いを叶えて見せろ”

 

だが、眠い。その覚えのある声の正体を探る間もなく、新子はようやくの眠りについた。既に、空は青みがかっていた。

 

 

”目を覚ませ 鈴奈庵の本居新子”

 

朝、その声で目を覚ました。部屋に日の光が差し込み、華扇とマミゾウは既にこの部屋には居なかった。

 

「誰だ!?」

 

”私の元へ来い 鈴奈庵の本居新子”

 

声は何度も新子の頭に呼びかけて来る。

 

「新子、起きたの?」

 

華扇が部屋のドアを開けて入ってきた。

 

「あ、ああ」

 

”こっちへ来い”

 

「ご飯が用意してあるから早く来てね」

 

その後、朝食を終えた三人は、いよいよ出発することにした。目指すは、妖怪の山の頂上付近にあるという地底世界への入り口。

 

「それじゃあ、健闘を祈ってるよ」

 

「もしもお前たちが必要とするならば、私たちもすぐにマガノ国へ向かう」

 

「その時は、ね」

 

にとりとバンに別れを告げ、河童たちの元を後にした。

 

 

 

 

「なあ、華扇」

 

新子は歩きながら、隣に居た華扇に話しかけた。

 

「昨日から、ずっと声が聞こえるんだ。今もずっと…こっちに来いって、妖怪の山に入ってからずっと」

 

「もしかして…禍王?」

 

「いや、違う。小槌の音に混じって、聞いたことのある声だが、禍王じゃない」

 

その時、新子は水の音をかすかに聞いた。歩くにつれ、水の音は大きくなる。

歩いていた獣道の横に、川が現れた。川底には魚の群れが集まっていて、周りに転がっている石の隙間にはサワガニも見られる。

 

「こっちへ来い 本居新子」

 

「…!?今のは…」

 

木々の向こう側から、か細い声が響いた。今度は、新子だけでなく華扇とマミゾウにも聞こえたようだ。新子は声のする方向へと走っていった。川沿いを上流へと向かって、険しい獣道を。

後ろを華扇とマミゾウも追いかける。

 

「そっちは確か…」

 

華扇は気付いた。この道には覚えがある。いや、もともと華扇は妖怪の山の道は知っているのだが、その時には知らなかった道だ。そう、多分三年前にもここを通ったことが有る。だとすれば、行きつく先は…。

獣道を抜けると、広まった場所へと出た。砂利の地面には点々と雑草が伸びている。目の前には大きな滝が有り、ごうごうと音を立てて水しぶきを飛ばしている。

ここは、前にも来たことが有った。三年前、北の歌姫の在り処へと向かっている途中、憲兵団と怪物スラッグに襲われた場所だ。そして、あの滝の裏側には…

 

「…よし」

 

新子は、いよいよ自分を呼ぶ声が大きくなっているのを感じていた。

 

”ここだ ここへ来い”

 

なるべく早く、滝をくぐる。多少は濡れたが、問題はないだろう。滝の奥には、洞窟が有ったはずだ。その方から声は聞こえてくる。

そこで、新子は驚きの光景を目にした。少し先にある洞窟の前に立っている、血で文字が書かれた墓石。あの墓石は、かつて北の歌姫の番人であった、鬼人正邪という妖怪が立てた自分の墓だ。その墓の周りに、禍々しい紫色のオーラが渦巻いている。そして、新子への呼び声は、明らかにそこから発せられているものだった。

 

「ようやく来たな、ずっと待っていた…この時を」

 

紫色のオーラは赤色と青色に分かれ、どんどんと煙状に形作られていく。額から伸びる二本の角、赤と白が混じったメッシュの髪の頭部が、墓石の上に現れた。

 

「テメェは…鬼人正邪!」

 

そう、その顔は、正しく鬼人正邪だった。こちらを睨めあげるような目が見開かれる。

 

「どういうこと?」

 

後から滝をくぐってきた華扇とマミゾウが思わず声を漏らした。二人の視線も正邪へと向けられている。

 

「ククク…本居新子、茨木華扇…そして二ッ岩マミゾウか。私は待っていたのだ、お前たちが来るのをな」

 

「まだ死んでいなかったのか!?しぶとい野郎だ、今度こそぶっ飛ばして…」

 

「まぁ待て。少し私の話を聞いてもらおう。私は、死んだ。三年前、お前たちに敗れ、確かに死んで身も滅んだ。しかし、私の魂は風と成り、いつの間にかこの場所へと流れ着いた」

 

「幽霊ってこと?」

 

「そうだな、私はある物体を依代とする霊だ。私の、かつての戦士としての、天邪鬼の思念が、こうさせたのかもしれない」

 

「鬼人正邪…お主は、『幻想郷の戦い』で、レジスタンスの中枢として戦ったはずじゃ。それが、なぜこのような事に?」

 

「そう…私はレジスタンスの戦士として、かつてマガノ国と戦った。しかし、その後起こった飢餓と荒廃…これにより幻想郷に居る事が出来なくなった妖怪たちは、地底へと逃げ込んだ」

 

「何だって…妖怪が地底にじゃと?」

 

「知らなかったのか?ほとんどの妖怪は地底へ逃げたんだ。そして、今度はその妖怪たちを含めた地底の軍勢が、直接マガノ国へと殴り込みを仕掛けた。だが結果は惨敗、私は捕らえられた。死ぬ思いで、何十年もかけて脱走の機会を伺い、ついに幻想郷へと戻って来たんだが…そこで、私は”四人の歌姫”の計画の真実を知った。その後は…新子、お前が知っているとおりだ」

 

「ああ…四人の歌姫が全て倒されれば、幻想郷そのものが灰色の海に覆われてしまう。それを防ぐために、お前は番人となったんだ。そこの墓を立て、自分を死んだ存在としてな」

 

「そうだ…。その様子では、歌姫も全て倒し、幻想郷の破滅も止めて見せたようだな」

 

「でも、貴方今聞き捨てならない事を言ったわね?幻想郷から消えた妖怪は、地底に居るですって?」

 

「お前も知らなかったのか、華扇よ。今はどうかは知らんが、私が居た頃はな」

 

「大体、状況は掴めたが…、なるほどのう。他の妖怪と関わりを持たない奴らは、他のほとんどの妖怪が地底へ行ったのに気付かなかったって訳か」

 

マミゾウが苦い顔で言った。華扇もマミゾウも、その事については知らなかった。マミゾウは妖怪狸のグループだけで行動していたし、華扇は単身で幻想郷中を旅してまわっていたらしい。なので、周りで消えていく妖怪たちが、実は地底へ逃げているなど思いもしなかったのだろう。

 

「それにしても、正邪…お前さっきアタシらが来るのを待っていたと言ってたな…?」

 

「その通り。私も、元はマガノ国への叛逆組織、”レジスタンス”の戦士だった。しかし、四人の歌姫計画の真相を知り、絶望と暗黒の海に堕ちた。だがその時私は、ひそかに期待していたのかもしれない…この私を殴り、目を覚まさせてくれる奴が現れるのではないか、と。そして私は死に、魂だけの霊となってしまったが、そのおかげで闇の支配から解放されたようだ。そうなれば、このレジスタンス創始者、天邪鬼としての血が騒ぐ…!どうだろうか、これからの旅…この私を連れて行ってはくれないか」

 

突然の申し出だった。以前は敵として、その余りある凶悪な力を向けた正邪。マミゾウからすれば、天邪鬼として暴れまわっていた時の正邪からは想像もできない程の、真摯な顔つき。

 

「…まぁ、いいでしょう。私たちはこれからマガノ国へ行く…かつてマガノ国に居た貴方が居れば、多少は助かるかもしれないわ」

 

「何だと、マガノ国に?」

 

「ああそうだ。マガノ国に居る人間と妖怪を幻想郷へ連れ戻すんだ」

 

「なるほど…くくっ、面白い。そうなら、いずれ私の力が必要になる時がくるだろうな…」

 

「そりゃ頼もしい限りだ」

 

「では、今から私たちは反逆組織、レジスタンスだ。いや…”新レジスタンス”をここに結成する」

 

「”新レジスタンス”…か。いいじゃあねぇか」

 

今、ここに結成された”新レジスタンス”。かつてのレジスタンスの遺志を継ぐ戦士、鬼人正邪を仲間に加え、新子たちは旅を続けるのだった。

この先、どんな仲間や敵、戦い…そして運命が待ち構えているかなど、正邪も、新子も…想像すらしていなかった。

 

 

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<登場用語・人物紹介2>

 

・新レジスタンス

鬼人正邪により結成された、新たな反マガノ国対抗組織。今のところのメンバーは、本居新子、茨木華扇、二ッ岩マミゾウ、そして鬼人正邪の4人。

 

・本居新子

鈴奈庵のヤンキーガール。「魔に対して力を発揮する程度の能力」を持つ。初登場持18歳、現在21歳。身長182cm。

 

・茨木華扇

新子の姉的立ち位置であり、親友の仙人。「右腕を変化させる程度の能力」を持つ(この小説内の設定では)。趣味は旅をすること。

 

・二ッ岩マミゾウ

破魔師シャムによって封印されていた妖怪狸たちの頭領。「化けさせる程度の能力」を持つ。実は、自分が統括していた狸たちがどこに行ってしまったのか調べるためというのも同行した理由の一つ。

 

・鬼人正邪

言わずと知れた天邪鬼。初代レジスタンスの創始者であり、リーダー。もっとも長くマガノ国と戦い続けてきた戦士でもある。一度は北の歌姫として新子に倒されたが、正邪の心の根底部分にあった反逆精神が霊体としてこの世に残った。「ひっくり返す程度の能力」を持つ。

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