東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第10話 「迫りくる悪意」

 

ついにマガノ国の支配から解放された幻想郷。しかし、再び魔の手が忍び寄るのも時間の問題だ。

本居新子、茨木華扇、そして二ッ岩マミゾウの三人は、マガノ国に囚われた人間と妖怪を救い出すため、新たなる旅へと出るのだった。

 

地底の旧都、地霊殿にて、打ち出の小槌を手に入れることに成功した新子たち。

 

しかし、一方そのころ、人間の里では…。

 

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第10話 「迫りくる悪意」

 

新子たちが新都に滞在している頃、遠く離れた人間の里では。新子らが旅に出てから、実に4日が経過していた。当然、いつも旅に出るのは華扇だけだったのに今回は新子も同行していることは勘の良い里の住人にばれてしまったのだが、知り合いの河童たちの宴会に招待されただけだ、と言い張って何とか誤魔化している。

 

 

「ふぅ」

 

昼下がりの午後。昼の飯時にやって来た客の皿などを片付けているツムグ。基本的に客が多く訪れるのは昼と晩飯時だけで、それ以外の時間はほとんどガラガラなのでゆっくりする時間もとれる。

 

「こんにちわ」

 

ツムグが皿を運んでいる途中、店のベルが鳴った。振り向くと、そこには小柄な少女が立っていた。片目は濁り、その周囲は痛々しい火傷の跡が残っている。

 

「今日も来たのか、稗田さん」

 

彼女は、稗田阿富。

 

「いいじゃないの、別に。私は本居さんの家に住まわせてもらっているのよ。毎日ご飯を御馳走してもらうのは悪いわ」

 

「そんな見た目して40越えてんだろ?無理するなって」

 

「やかましいわ。いつものちょうだい」

 

「へいへい」

 

その時、もう一度店のベルが鳴った。店へ入って来たのは、青い毛糸の帽子を被った青年だった。ブカブカのズボン、そして銀色のネックレスといい、身なりだけだとかなりガラの悪い印象を受ける。

 

「すまない、遅れてしまった」

 

「いいのよ」

 

「アンタもいつものか?」

 

「ああ、頼むよツムグ」

 

彼は、”迪郎(ゆうろう)”という名前で、20年近くも阿富の助手として彼女を支えてきた。身なりこそ悪いが、その性格は誠実であった。

迪郎は阿富を母親のように慕い、阿富もまた迪郎を実の息子のように可愛がり、互いに信頼し合っていた。

 

「…新子たち、上手くやってるだろうか」

 

ツムグがふと口にした。

 

「大丈夫じゃないかしら?記憶によれば、地底には過去に何度も人間が出入りしているわ。当時のその意識を持った妖怪が居れば、きっと最悪の事態は免れていると思うけど…」

 

「だといいがな」

 

「…あっ!」

 

その時、阿富が声を上げた。

 

「財布を置いてきてしまったわ…。悪いけど迪郎、取って来てくれる?」

 

「えっ、俺がか?」

 

「そうだぜ、それぐらい自分で取り行って来いよ」

 

「こう見えて40越えてるから無理はできないわ~」

 

「はいはい、取ってくるよ」

 

迪郎は席を立ち、一旦食堂から出ていった。

 

 

 

何分か歩き、阿富と迪郎が世話になっている鈴奈庵の場所までたどり着いた。

財布を持って戻る頃には、もう料理が運ばれてしまっているだろうか。だとしたら、冷めたものを食うのはちょっと嫌だな。取ってきたら、走って戻ろう。

 

そんな事を考えながら、裏手の玄関口から中に入った。台所の机の横を通って、阿富と迪郎が普段生活している部屋へ向かう。部屋に入り、ざっと辺りを見渡す。すると…あった!机の下に阿富の財布が置かれていた。

迪郎はそれを手に取ってポケットに入れると、足早に部屋を出た。

 

「そうだ、本居さんに何か言って行こう」

 

そう呟きながら、迪郎は台所から鈴奈庵の店の方へと繋がる廊下へ行こうと、机を回る。その時、迪郎は異変に気が付いた。

さっきは急いでいたので気付かなかったが、机の上には何かのどんぶりが置きっぱなしだった。それも、半分くらい食べかけのまま、箸もほっぽりだして放置されている。一本は床に落ちていた。はて、あの本居さんはこんなだらしない人ではなかったはずだが…。

一歩足を踏み出した瞬間、足が何か硬い物に触れた。何かと思って下を見ると、信じられない光景がそこにはあった。

 

「こ、これは…!も、本居さん!」

 

迪郎は大声で新子の母親を呼んだ。すると、すぐに母親は飛んできた。

 

「迪郎さん?どうしたっていうの?」

 

「ちょっと財布を忘れてしまったので取りに来たのですが…これは一体!?」

 

迪郎が指差す先を見て、母親もあっと息を呑んだ。

そこには、一人の若い男が胸を押さえて横たわっていた。靴を履いたまま、口の周りにご飯粒をつけ、いかにも悶えてましたと言う風だ。白目をむいたその顔は、苦しみに歪んでいる。

 

「…死んでる」

 

迪郎はその男の脈を調べながらそう言った。

 

 

時間は、1時間ほど前にさかのぼる。昼時、ツムグの食堂が混む時間帯の頃だった。新子の母親から出前を頼まれたツムグは、自転車で鈴奈庵へと運んでいた。

 

「ありがとうね」

 

「いえいえ、毎度っすよ」

 

ツムグは新子の母親に出前を渡すと、店の方も忙しいからと言って自転車を走らせた。それを見た新子の母親が自宅に入り、机の上に出前のどんぶりを置いた。

 

「まだ仕事があるから…終わってからゆっくり食べようかしら」

 

そう言って、台所から鈴奈庵の店の方へと歩いていった。

 

時を同じくして、店の外では。物陰に隠れた不審な男は、ツムグが自転車で走り去るのを見て、にやりと笑みをこぼした。この男、最近民家に忍び込み食べ物や金品を盗んで回っている窃盗犯だった。色々な家をターゲットにしてきた。そして今回、この本居家に目を付けたのだ。

 

「この鈴奈庵、前から狙ってたんだ…。あの本居新子は留守で居ねぇ…今しかチャンスはない…。キシシシ…」

 

壁の上の方に付いている窓は、換気の為に開けられていた。そこから目を覗かせ、中を見渡す。すると、新子の母親が店の方へ移動していくのが見えた。しめた、と言わんばかりに壁をよじ登り、大人一人がギリギリ通れそうな大きさの窓から侵入した。

 

「さて、この貸本屋はかなり儲かってるはずだ…何かスゲェ宝石とかあっても不思議じゃあねぇ」

 

男は、棚などを片っ端から開け、高価そうなもの、もしくは金庫でもないかと漁り始めた。しかし、何もないと分かると、小さく舌打ちをした。

 

「何にもねぇじゃねぇか…!俺の見立ては間違いだったか?」

 

男が引き出しを開けようとしたとき、丁度ツムグが持ってきた出前のどんぶりが目に入った。

グウと腹の虫が鳴った。そういえば、少し腹も減ってきた。よし、先にこれをちょうだいするとしよう。この程度の量、すぐに食べられる。腹が減っては戦もできぬというしな!

そう思いながら、男は置かれていた箸を手に取り、なるべく音を立てないように、すばやくどんぶりをかきこんだ。

その時だった。男の体に異変が走る。胸が苦しい!!男は箸を机の上に置き捨て、胸と喉を押さえた。胸がぎゅうぎゅうと締め付けられるように痛み、喉も焼けるように熱い。それに、腹も痛い…!!

 

「ハァ…だ、誰…か…」

 

助けを求めるが、声も掠れて出ない。ジタバタと暴れまわり、足が机に当たった。カラン、と箸が机の上を転がり、床に落ちるころには、男は息絶えていた。

 

そして、少し時間が経ってから、ツムグは店へと戻り、そこへ阿富と迪郎がやってきて、今に至る。

 

「この男の人…盗みに入ったのかしら…?」

 

「最近、多発している空き巣の犯人なのだろうか…。まさかコイツ、これを食って死んだのか…?」

 

迪郎が半分食い散らかされたどんぶりを指差した。

 

「毒…とか?でも、一体誰が何のためにそんな事を…!ツムグ君がそんな事をするとは思えないし…」

 

「これは…確かめてみる必要がありそうだ」

 

 

 

場所は戻り、ツムグの食堂。ここには、里ではあまり見慣れない姿もあった。阿富の座っているテーブルに、バンが加わっていた。河童たちが着ているものと似たデザインの服に、長い金髪を後ろで一つにまとめている。

たまたま里に訪れたついでに、ここへ寄ったようだ。彼女が元憲兵団という事は、三年前、共に戦った仲間しか知らないため、自由に里で動くことができるらしい。

 

「明日は山で採れた猪の肉を持ってくるわ」

 

「おっ、猪か~。うまくいけば新しいメニューが作れそうだな」

 

そんな会話をしながら、お茶の入ったコップをカラカラと揺する。阿富は隣でお茶をすすりながら、ふと厨房の中の流し台の方に目線が釘付けになっていた。

 

「ねえ、あのお婆さんは?」

 

阿富は、流し台の前で割烹着を着て、皿洗いを黙々と続けている老婆の背中を指差しながら言った。

 

「ああ…テルミさんか。あの婆さんがどうしてもここで働かせてくれって言ってきたから、今日から皿洗いをさせてるんだ」

 

と、ツムグ。

しかし、阿富は不思議に思った。これだけ、あの老婆について話をしても、彼女自身はこちらに気付く素振りさえ見せない。それほど仕事に熱中しているのだろうか。

試しに咳払いをしても、反応を示さない。その時、老婆は洗い終わった皿を運ぼうと、こちらに体を向けた。腰が曲がって背は低く、高い鼻がくっついた顔はしわくちゃだった。

 

「あっ!!」

 

だが、阿富があっと声を上げた。あの、人当たりの良さそうな眉毛と口元を忘れるはずがない。

 

「テルミ!」

 

阿富が席から立ち上がりながら、婆さんの名前を呼ぶ。しかし、テルミという老婆はこちらに見向きもせず、黙々と皿洗いをしている。

 

「あれ…?」

 

「あ、その人は…」

 

ツムグが何か言おうとするのを無視して、阿富は駆け出し、カウンターの上に身を乗り出した。それにようやく気付いたテルミが阿富に顔を向ける。老婆のしわくちゃの顔、眼が驚きに見開かれる。引き結んでいた口元がパッと上がり、阿富の顔に手を触れる。

 

「貴方は…もしや稗田阿富さんでは!?」

 

「やっぱりそうなのね、テルミ!」

 

「どんなに傷が有ろうとも、変わらない貴方の顔を忘れるはずはありません」

 

「でも貴方、自分の果樹園はどうしたの?主人は?」

 

そう問いかける阿富の顔を見ながら、テルミは眉間にしわを寄せ、申し訳なさそうに首を横に振った。

 

「すみません、稗田さん…。貴方は何か喋っているのは分かるのですが、生憎、私は耳が聞こえなくなっているのです」

 

阿富は胸が痛んだ。さっきからこちらの話を全く聞いていなかったのも、耳が聞こえないからだったのだ。少なくとも阿富が地下通路で暮らし始める時まで、テルミは里の果樹園を夫と夫婦で経営していた。

テルミは、わきに置いてあった分厚いメモ帳を阿富に手渡した。

 

「悪いけど、これに書いてもらっていいですかね?」

 

阿富は、一緒に渡された鉛筆でさらさらと文字を書いた。

 

”果樹園はどうしたの?何故耳が聞こえない?”

 

それを見てから、テルミは口を開いた。

 

「…果樹園は3年ほど前に、マガノ憲兵団に乗っ取られました。私とお爺さんは工場で働かされ、丁度先週くらいにお爺さんは亡くなりました。あてが無くなった私は、ここで働かせていただいているのです。耳が聞こえないのは…そうですねぇ、工場に居た時、動きがトロイからといって何度も殴られた所為、ですかね…」

 

それを聞いて、阿富は胸が痛む思いをした。テルミの手を取り、優しく握る。

 

「こっちに来て、少し話をしましょう?」

 

”こっちに来て、少し話をしましょう?”

 

「…すみません、今残っている分で最後ですので、これが終わってからにします」

 

”わかった”

 

そんなやり取りを終えた後、阿富は席に戻った。

 

「あの婆さんがあの果樹園の人だったとは驚いたぜ。果樹園の事は知ってたが、経営してる人までは知らなかった」

 

その時、店の戸が勢いよく開いた。そこには、息を切らして戻ってきた迪郎と、新子の母親が立っていた。

 

「あら、遅かったじゃない。財布はどこにあった?」

 

「それなら、机の下に…」

 

そう言いながら、迪郎は慎重に店内を見渡す。見知らぬ女が加わっている以外は、やはり特におかしいところはない。

 

「あれ、新子のお母さん…さっき出前を届けたはずじゃあ…」

 

「いや、それが、ね…ちょっと…」

 

迪郎は、今度は厨房に目をやった。丁度、ツムグの父親が皿に料理を盛っている。途中で、父親が鍋の方へと体を向けた。その瞬間、迪郎は驚くべき光景を見てしまった。

皿洗いをしていた老婆、テルミが、その老いた見た目からは信じられないように素早い動きで、ポケットから何かのチューブのような物を取り出し、中身を料理に垂らした。

 

「おーい、ツムグ!運んでくれ!」

 

「やっとできたのか」

 

ツムグが料理を運ぼうと立ち上がる。料理が机まで運ばれ、並べられる。

 

「もうお腹ペコペコだわ。早速いただくとするわ」

 

阿富が割り箸を割り、いよいよその料理に箸をつけようとする。

 

「やめろ!!それを食べるな!!!」

 

迪郎は思い切って叫んでいた。その場の全員が、頭の上にハテナマークを浮かべながら、迪郎に視線を向ける。テルミが青ざめた顔で慌てて厨房から飛び出し、新子の母親の顔を見て、しわくちゃの顔が引きつっていく。

 

「どうしたの?」

 

「そうだ、アンタが誰だか知らないが…何のつもりかしら!?」

 

バンに詰め寄られ、迪郎は一歩たじろいだ。

 

「それを食べてはいけません」

 

「だから、どういう事なんだ?」

 

「俺が説明する」

 

迪郎はバンから離れ、そこで話し始める。

 

「ツムグ、君はさっき鈴奈庵へ出前を届けたな?」

 

「あ、ああ…1時間くらい前だ」

 

「君が届けた後、本居さんは今の仕事が片付いてから食べようと思って、台所に出前を置いたままだった。そこで、最近多発していた空き巣の犯人が鈴奈庵へと忍び込んだ。きっと腹が減っていたんだろう、置かれていた出前を食べた空き巣犯は、死んでしまった。毒か何かが入っていたんだ。そして俺は見た…さっきそこの皿洗いの老婆が、その料理に何かを垂らしていた!」

 

「な…婆さんが…!」

 

「さっき、あの老婆は俺と一緒に来た本居さんを見て血相を変えていた…当然だ、出前に毒を混入させ、殺したつもりだったのに、それが別の奴に食べられたおかげで死ななかったんだからな!」

 

「だとしても、何が目的で…」

 

テルミがガタン、と音を立てて床にしゃがみ込む。今度は、全員の視線がテルミに向けられた。

 

「…くくく…本居、お前を殺し損ねるとはな…。やはりこのような老婆ではなく、別の者にやらせるべきだった」

 

テルミの口から、彼女のものとは思えない、低い声が響いた。その目の瞳の奥に、何か別の邪悪な者が渦巻いているようにも見える。

 

「シンスケも本居新子の暗殺に失敗し、マイエも返り討ちにあった。今度こそはとこの老婆を使ったが、今度も失敗に終わった…」

 

「シンスケにマイエと言やぁ…新子を殺そうとしてた、マガノ国と繋がっていたスパイの連中…!」

 

「テルミ…貴方は何が目的なの?」

 

阿富がそう問う。

 

「決まってる、本居新子と、その周辺の者の抹殺だ。今回、母親の殺しは失敗したが、一つだけ分かったことが有る。今、本居新子は人間の里に居ない!!どこか、茨木華扇と共に再び旅に出ているな!?」

 

「な…!」

 

「もうこのことはマガノ国へ伝わっている…。何が目的かは知らないが、対策を練られるのも時間の問題…くくくッ…」

 

そう言うと、テルミはポケットから透明なチューブを取り出した。中には、毒々しい黄色をした液体が入っている。そのチューブの蓋を開け、中身を一気に口にいれ、そして飲み込んだ。

 

「”転換計画”。これが禍王様の…新たなる計画、なのだ。人を意のままに操る事が出来る…」

 

テルミは目を見開き、腹を押さえながら床に倒れ込む。

 

「もうじき、禍の支配するときが再びやって来る…。転換計画が実用に移されれば、この幻想郷は終わりだ。その時まで、せいぜい怯えながら暮らすがいい…」

 

胸元をかきむしるように暴れた後、テルミは仰向けに転がった。その顔は白目をむき、苦しみに歪んでいる。

 

「テルミ…」

 

耳や口、鼻から、ねっとりと黒い煙のようなものが立ち込める。重たい煙は床を這うように広がり、やがて一か所に纏まり、虫のように動き回る紅い目玉になった。

 

「何だこの虫は?」

 

バンが足で虫を踏みつぶす。上げた靴と床には、黒いシミが残っているだけだ。

 

「分かったわ…」

 

阿富が呟いた。

 

「この虫は、きっとマガノ国で作られた。人の中に入り込んで、その人を操ることができるのよ」

 

「だが、未完成なんだ」

 

ツムグが繋ぐ。

 

「シンスケは工場での過酷な労働によって足を悪くしたと言っていた。マイエは、ある日突然口がきけなくなったという。その婆さんの言う通り、二人も敵に操られていたとしたら…きっとあの虫はまだ未完成、調整中なんだ。だから操る代わりに、体のどこかを壊してしまう。婆さんは耳、シンスケは足、マイエは口。三人は禍王の新たな研究の実験台に過ぎなかったってことさ」

 

三年前、里の中心に存在した例の工場では、きっとそのころから転換計画とやらの研究はされていたんだ。そして、そこで働いていた人たちが実験台にされた。虫を体内に入れられ、操られた人間は、しばらく工場で働きながら、普通に、今までと何ら変わりなく生活する。そして工場が壊され、解放されてからは、体に障害を持ってしまったものの、かつての家族や兄弟、友人と暮らす。しかし、その頭の中には禍王と繋がった虫を飼い、家族が寝静まったころ、ポケットに詰め込まれた目玉の虫を家族の枕元へと放つのだ…。

そうして、禍王の操り人形はものの数日にして膨大な人数までに増える。そうなれば…

 

「胸糞の悪い話だ、あのクソッタレもやってくれるね」

 

バンが怒りに顔をしかめながら言った。阿富は倒れて動かなくなったテルミに近づき、その身体を抱き上げようとした。

その時だった。テルミのしわくちゃな手が、阿富の首に触れた。阿富がびくっとして振り向き、ツムグや迪郎たちが構えるが、それは必要ないとすぐにわかった。

テルミの顔は苦しみから解放され、眼には以前のような邪悪な影は無かった。

 

「テルミ…」

 

「稗田さん…私は今まで、悪い夢を見ていたようです…」

 

「ええ、そうね…悪い夢だったわ…。でも、もう大丈夫…」

 

阿富のその言葉を聞くと、テルミはもう一度ガクリと腕を垂れた。テルミは目を閉じ、安らかな顔で、息絶えていた。

 

「…転換計画、ね。覚えておきましょう」

 

「今から、昔からの仲間だけを信用した方がいいかもな」

 

「そうですね…。新子が目的を果たし、帰ってくるまで…」

 

 

明かされた、禍王による新たな策、”転換計画”は既に実験も終わり…いよいよ実用へと至ろうとしていた。

この悪夢がいずれ新レジスタンスにも襲い掛かるとは、彼女たちは考えてもいなかったのである。

 

 

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