東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第14話 「月の民」

「とりあえずコイツはどうするんだ?」

 

新子が檻に入れられた火光獣を指差してそう言った。自らの弱点である水を被った火光獣の炎の体は消え、後には黒いチリ毛の大きなネズミだけが残った。蓄えてきた熱を失った火光獣は何をするでもなく、おとなしく檻の中でへたり込んでいる。

 

「さて、どうしましょう。とりあえず…地霊殿にでも持っていく?」

 

「そうだな、古明地さとりに何とかしてもらおう」

 

 

その後、火光獣は地霊殿に引き取られた。主の古明地さとりは新しいペットが増えて良かったと言っていたらしい。一度消えた火光獣の炎は二度と元には戻らないようで、再燃の心配はない。

 

 

 

さて、翌日。温泉の効果もあってか、新子たちの体の具合はすこぶる良くなっていた。

新子は例の金属バットを腰に下げ、その他の荷物は新都へ置いていくことにした。マガノ国では、決して敵に存在を悟られる事なく、迅速に、隠密に任務を終えなければならない。そう、マガノ国へ囚われた妖怪と人間たちの救出、これを成功させるために。

 

「それでは、頼んだぞ。すまないな…ともに行けなくて」

 

新都の出口で、八坂神奈子がそう言った。新子たちの出発の際には、今まで新都で関わってきた色々な者たちが見送りに来てくれていた。星熊勇刃、八坂神奈子、聖白蓮、豊聡耳神子、古明地さとり、藤原妹紅、そして易者までもがそこに居た。

 

「いいさ、もともとアタシ達だけの旅なんだ。無理に来る必要なんてねぇよ」

 

「新子、これを」

 

神子が前に進み出た。その両手には、紫色の綺麗な布が覆いかぶさっている。心なしかわずかに発光しているように見え、何か神聖な雰囲気に満ちている。

 

「私が力を注いで織ったマントです。強い意志を以ってこれを纏えば、必ず貴方たちを守る事でしょう」

 

「おっ、サンキュー」

 

新子がそれを受け取り、背中に羽織る。裏地は見る角度によって赤にも青にも見ることができる。

 

「あら、似合ってるじゃない」

 

「へへ、そうか?」

 

「それでは、成功を祈っている」

 

「ああ!じゃあな!」

 

「達者でのーう!!」

 

新子、華扇、マミゾウはくるりと向きを変え、その場から歩きだした。教えられた月都ミクトランへ向けて。

 

「…あ」

 

どんどん小さくなる三人の背中を、勇刃はじっと見つめていた。

 

「行ってきてもいいんだぞ」

 

神子が勇刃の肩を軽くたたきながらそう言った。勇刃は振り向き、周りの者たちを顔を見渡す。

 

「新都は私たちが守ります。勇刃は勇刃の道を往きなさい」

 

「お、俺は…」

 

「何を弱気になってる?」

 

「そう、だな…。アイツらを見てたら、自分も頑張れるんじゃないかって思う…。決めた、俺は母さんを探してくる!見つけたら、俺達が築いたこの新都に連れ帰る。それで…俺はこんなに頑張ったんだぞって、自慢してやる」

 

勇刃は神子の目を見つめ返した。その目は、新都の守り手の臆病な光ではない、一人の鬼として、かつての家族の行方を追い求める者としての覚悟が込められていた。

 

「しかし、アンタがあの仙人みたいなのがタイプだったとはな」

 

「な、何故それを…?」

 

からかうように肘でつついてくる妹紅に対して、目を丸くしながらそう尋ねる。

 

「気付いてないとでも思ってたのか?」

 

「…ふふ、そうか…」

 

勇刃は目を閉じ、少し笑った。

 

「じゃあ、行って来る」

 

勇刃はそう言い残すと、新子たちを追いかけるように、速足でその場を後にした。

 

「くくくっ、昨日言いそびれた占い…アレ、全てにおいて絶好調だったぞ」

 

易者がぼそりとそう言うと、彼は影のようにその場から姿を消した。

 

 

本居新子、茨木華扇、二ッ岩マミゾウ、鬼人正邪の新レジスタンスは星熊勇刃を新たなメンバーに加え、いざマガノ国へと向かって行く。

その様子を皆が期待を込めて見守る中、神奈子だけが、悲しげな表情で見つめるのだった…。

 

 

 

十分ほど歩いただろうか。林を抜けると、いよいよ街のようなものが見えてきた。銀色に輝き、背の高い塔や建物が多く見える。

 

「あれが…」

 

「月都ミクトラン…」

 

一行はいよいよミクトランへ近づいていく。いつの間にか足の下はタイルが敷き詰められた道になっており、チリ一つ見当たらない。よほど、月の民というのは潔癖らしい。

 

「おや?」

 

マミゾウが額に手を当て、目を細めて遠くを見た。新子たちもその方向を見ると、道の上に、まるで揺らめく陽炎のように何かが立っていた。真っ白いタイルとは対照的に、その何かは真っ黒だ。影や光沢さえもない、闇のように真っ黒。

 

「待っていたぞ、地上の民よ」

 

明らかに、人間とも妖怪とも違っていた。虚無的で、どこから見ても平面的。その身体の輪郭と唯一特徴と言える目と口だけが白い。まるで切り絵が立っているようだ。

目は大きく丸く、口もパックリと裂けた切れ込みのような形をしている。現実に存在するもので例えれば、顔文字のような顔だった。

 

「貴方は?」

 

華扇は聞いた。

 

「我々は月の都に住む月の民。八坂神奈子から話は聞いている」

 

自ら月の民と名乗ったその存在は淡々とそう話す。

 

「月の民…ミクトランに住むのは皆アンタみたいなのか?」

 

「口を慎め、地上の人間。我々が住むのは月の都、ミクトランと呼ぶのは愚かな新都の民だけだ」

 

それを聞いた新子は少しカチンと来て、思わず声を荒げる。

 

「月の都だって?そりゃおかしいぜ、あの都は月になんて無いじゃねぇか!」

 

「ちょ、ちょっと新子…やめなさいって」

 

「ふん、お前たちには我々の事は決して理解できまい。いや、してもらう必要はない。付いてくるがいい」

 

月の民は、ただ無感情にそう言うとタイルの道を歩いていった。新子たちがそれに着いていく。ミクトランの入り口は、巨大なトンネルのようになっていた。そのトンネルの中に入ったとたん、新子たちは不思議な感覚に包まれた。

 

「ん、何だこれは…」

 

一番後ろに居た勇刃がそう声を漏らすのが聞こえる。

何だか、体が異常に軽くなったような、あるいは裸にされたような気分だ。決して悪くはないのだが、自分が生きているのか死んでいるのか分からない、不気味な感覚。

 

「お前たちの体を覆う”穢れ”を、一時的に取り除いた。我が月の都に、穢れを侵入させることはできない」

 

「へぇ~、すごいな、何の術だ?」

 

「…教える必要はない」

 

「なっ!それくらいいいだろ別に!!」

 

「月の都の技術じゃ。儂らとも外の世界とも比べ物にならない高度な技術…じゃな?」

 

「その通りだ」

 

そう話しているうちに、入り口のトンネルを抜けた。その瞬間目に飛び込んできたのは、銀色の世界だった。床はさっきの道と同じく白いツルツルしたタイルで出来ていて、道のわきには美味しそうな実を付けた桃の木が街路樹のように立ち並んでいる。建物は中華風で緑っぽい銀色を基調とし、金や赤の装飾が施されている。

 

「…桃の木以外、生き物は居ないのか?それに、人の気配もしないぞ」

 

「他の月の民も、アンタみたいな格好してるのか?」

 

「この月の都には、我々しかいない」

 

「我々って…アンタ一人しかいないじゃん」

 

「そう…我々は一つしかない。しかし、我々は民の数だけ名前を持っている」

 

「????」

 

そう答えた月の民の言葉に、新子が首をかしげる。

 

「…いいだろう、教えてやる。お前たちは地上から来た。元より地底に住む者たちではない、我々の事を教えてやる価値はある」

 

月の民はくるりとこちらへ向き直り、新子たちを見渡す。すると、真っ黒い体に、白い四角形の模様が浮かび上がった。やがて白い模様には、何かの映像のような物が映し出された。

 

「我々月の民は、元はお前たちと同じ、地上に住む一族だった。しかし原始時代、地上は弱肉強食による生存競争が展開されたことによって穢れが蔓延した。穢れとは、生命のエネルギーのようなものだ。 本来、寿命というものを持たぬ我々もその穢れによって寿命が生まれ、その寿命も短くなる一方であった。 だがその時、これ以上穢れに侵され、寿命が短くなることを危惧した月夜見王が、当時全く穢れていなかった月への移住計画を提案した」

 

胸に映し出されたのは、月の民の歴史。何億年も昔に生き物が陸に進出した事、起こった生存競争により寿命ができた月の民は次々と滅んでいく様子。

 

「月への移住は成功。我々は月の都を興し、そこで暮らすようになった。しかし、今より200年以上前…奴が、お前たちが禍王と呼ぶ存在がやってきたのだ」

 

月の民から発せられた禍王という言葉。

 

「奴は狡猾だった。我らの月の都に侵入し、その機能を停止させ、月の都を奪い、乗っ取ったのだ。そして、奴は月の都を…この穢れない月の都を地上へと引きずりおろした。禍王の圧倒的な力を前に、我々は月の都を捨てて逃げた。逃げた先が、この地底世界。我々はこの場所に月の都と全くそっくりな街を作ったのだ」

 

「じゃ、じゃあ…今のマガノ国は、元は…月の都…?」

 

「その通りだ。奴は我々が安心して暮らせる唯一の居場所を滅茶苦茶に変えてしまった」

 

初めて、月の民の口調が変わった。どこか力強く、後悔や怒りを感じさせる。

 

「そして、我々は地上に戻ってきた事によりまた寿命が発生した。そこで我々は、技術を結集させて全ての月の民を仮死状態にし、肉体と精神の変化、すなわち寿命を封じ込めたのだ」

 

「なるほど、人一人見当たらないのはそのためなのね」

 

「だ、だったら、アンタは一体…?」

 

「我々…いや、私は、仮死状態に陥った月の民たちの集合思念体。月の民そのものなのだ」

 

一行は何も言えなくなった。彼らが初めて明かした真実。

 

「同情はするな。これは我々が自らに与えた罰なのだ。我々の高慢さや無駄な自意識が引き起こした事。かつて月の都では、罪人を地上へと堕とす罰があった。こうして我々が地上へ堕ちたのも、罰として我々は受け入れたのだ」

 

「何を言ってる」

 

その時。新子が月の民に近寄り、目の前で腕を組んだ。

 

「アンタは悪くねぇよ。話を聞いてりゃ、全部禍王が悪いんじゃねぇか」

 

「そんな事は無い。我々も、何度か地上へ攻撃を行った。これは今、マガノ国が幻想郷を攻撃しているのと同じ事だ」

 

「だったら、どーしてそれと同じように禍王と戦おうとしなかったんだよ?自分の居場所が取られちまったんだろ?」

 

「…それは…」

 

「アタシらは、幻想郷を禍王に目茶目茶にされても逃げなかった。自分の故郷を抗って奪われたくなかったからな。立ち向かって抗って、ようやくマガノ国を追放できた。さっきの映像を見てりゃ、アンタらはアタシ達地上の民よりもずっと強かったはずだ」

 

「我々は…」

 

「それにさっきからすました態度してやがるが、さっき少しだけ怒ってたじゃないか。それと同じように、禍王に対しても怒ってみろよ!」

 

「…それでも我々は、我々の罪を償わなければならない。他に出来ることは…お前たちに希望を託すことだけだ」

 

「アンタ…」

 

「して見れば、お前たちは中々の面構え。あと、我々はアンタではない。そうだな…我々には月の民の数だけ名前があるが、あえて唯一欠けている名を教えよう。カグヤ。我々の事は、カグヤと呼ぶがいい」

 

そう言うと、くるりと振り向き、道を先に進んでいった。それを見て、華扇とマミゾウが顔を合わせて少し笑った。

 

 

「”点と点を瞬時に結び付ける能力”。かつて我々はこの力を使い、二度、妖怪をマガノ国へ送り込んだ」

 

「そうだ」

 

新子の背後から、にゅっと正邪が顔を出した。

 

「一度目は鬼、二度目は無数の艦隊を率いる妖怪軍」

 

「そうだった。しかし、その二つは、結局一人として帰ってこなかった。何千人の妖怪軍が戦いを挑んでもどうにもならなかったマガノ国を、お前たち数人がどうにかできるとは思えない。目的は何だ?」

 

月の都の中を歩きながら、カグヤがそう尋ねた。

 

「儂らの目的は、そのマガノ国に囚われている人間と妖怪の救出じゃ。事は隠密に成さなければならないのでな」

 

「なるほど、そういうことか。お前たちの中に、超高密度魔力内包源を発見した。”打ち出の小槌”、それを使うのだな」

 

そうこう話しているうちに、またさっきの入り口と同じようなトンネルが現れた。

 

「ここが出口だ。ここからさらに北へ向かう」

 

新子たちが出口だというトンネルに入ったとたん、またあの感覚が襲った。だが、今度は逆だ。どんどん体が重くなり、骨が軋んでいるようだ。身体に何かが纏わりつくような感覚もある。トンネルを抜けると、その感覚も、最初からあって当然だったように、何ともなくなった。

 

「本来あるべき穢れが戻った」

 

その後も、カグヤはどんどんと白いタイルの道を進んでいった。だが、先を行くほどに、道のタイルが汚れてくる。茶色い土を被り、隙間から雑草が生えている。

と、その時突然、あたりが真っ暗になった。

 

「うわ!?」

 

「ちょうど今、マガノ国の領域に入った。暗いのはそのためだ」

 

しかし、カグヤの体だけは、同じく闇のように真っ黒なはずなのに、夜空に浮かぶ月のようにハッキリと形が分かった。

 

「この上にマガノ国が…」

 

ごくりと唾をのむ。

 

「よし、ここからお前たちを送り届けよう」

 

カグヤは両腕を上に向かって掲げた。白くて丸い目に、赤い小さな光が宿る。

 

「認識転移システム作動…座標特定中。座標特定終了、これより空間転移を行う」

 

「す、すごいわね…」

 

「我々が一度認識した場所へなら、その座標を特定し、飛ばす事が出来る。しかし、今のマガノ国は我々の知っている頃よりもずっと複雑に改変されているだろう。マガノ国のどこに飛ぶかは決める事ができない」

 

その時、新子たちの体が勝手にふわりと浮かび上がった。

 

「任せな、いずれ本当の月の都も奪還して見せる」

 

「そんな事、できるはずがない。もうマガノ国は二度と月の都へと戻ることは敵わない。…だが、もしもお前たちなら可能だというなら…我々の希望を託そうではないか」

 

「…ああ!アタシ達…新レジスタンスに任せておきな」

 

「健闘を祈る」

 

その時、はっと息が止まった。物凄い勢いで天井に向かって押し上げられている。あまりの勢いに、息をすることもできない。

ぶつかる…!

そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

ザザー… ザザー… ザザー…

ドン… ドン… ドン…

 

聞こえるのは、何かが流れるような音と、ドンドンと響く太鼓のような音。少し目を開けると、一面は灰色の砂だった。起き上がろうとすると、頭がガンガン痛む。思わずうめき声を上げて、再び地面に突っ伏した。

少し経って気付いた。ドンドンという太鼓のような音は、自分の心臓の音だ。よかった、しっかり自分は生きている。では、ザザーという音は一体…?

新子がやっとの思いで顔を上げると、自分がいる場所は灰色の砂の上。その向こう側は、灰色ではなく紺色に埋め尽くされている。水…だろうか、大量の水が砂に押し寄せては引いていき、それを繰り返している。ザザーというのは、この音だ。

 

「海…」

 

新子は、初めて海というものを見た。当然だが、幻想郷に海は無い。

そして、ここが…。

 

マガノ国。新子は、マガノ国へとたどり着いていた。

 

 

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