東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第20話 「究極の魔獣」

ついにマガノ国の支配から解放された幻想郷。しかし、再び魔の手が忍び寄るのも時間の問題だ。

本居新子、茨木華扇、そして二ッ岩マミゾウの三人は、マガノ国に囚われた人間と妖怪を救い出すため、新たなる旅へと出るのだった。

 

地底での滞在を終え、月の民の力を借りてついにマガノ国へと足を踏み入れた新子たち。囚人たちを救うためのダイヤサカを奪うための作戦は開始された。

しかし、王都へ突入した新子たちの前に現れたのは、本来そこに居る筈のない者であった…。

 

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第20話 「究極の魔獣」

 

転換計画始動まで、あと5時間。新子たちの作戦決行まで、あと1時間を切った。

 

「皆、準備はいいか?」

 

「ああ…」

 

正邪の問いに、新子がそう呟きながら頷く。他の者も準備万端、と言った表情で返事をする。

 

「お前ら…腹くくれよ!!」

 

 

 

正邪の檄とおよそ同刻、謁見の間を後にしたゲムルルは、王宮の出入り口で立ち止まり、頭を掻いていた。上空では絶えず戦艦の動力音が響いており、赤黒い雲が頭上を覆っている。いつものは建物の一部が如く暗く佇んでいるダイマガノに明るく光が灯されている。

ゲムルルは、幻想郷へ軍隊が向かう事を知らされてはいなかった。本人は先日にアナトが言っていた通り、作戦を把握できるほどの知能が無いために、いくら力があっても役に立たないだろうと他の三禍のメンバーと同じように軍に編成されることは無かった。

ゲムルルはただそれを不思議に想いつつも、自らの持ち場である正面門の外まで歩いて向かう事にした。

 

「くそっ…」

 

まだ頭の痛みが取れない。ゲムルルはそれがうっとおしいとでも言うように、顔をしかめながらこめかみを押さえた。

禍王に言われた答えは、正直釈然としない部分もあった。だがゲムルルは、それを受け入れようとしていた。

 

 

 

 

「突入一分前。集まってくれ」

 

全員が立ち上がり、正邪の近くへ集まった。

転換計画始動まで、あと四時間一分。新子たちの作戦決行まで、あと一分を切った。

その日は、幻想郷のほとんどの人々にとってはいつもと変わりない夏の夜の入り口。しかし、その隣のマガノ国では、敵の本拠地である王都から、幻想郷を制圧するための大艦隊が出撃しようと準備を進めていた。

幻想郷とマガノ国の戦いの歴史上、最大級の戦いの火蓋が落とされようとしている。敵の戦艦の数300隻以上、兵士1000人、戦闘魔獣200匹。それを止めるために立ちはだかるのは…

犬走椛、リグル・ナイトバグ、赤蛮奇、星熊勇刃、二ッ岩マミゾウ、茨木華扇、そして鬼人正邪と本居新子の計八名。

 

「新子、頼むぞ」

 

「おう」

 

新子は小槌を手に持ち、それを振った。

 

「『マガノ国軍が幻想郷へ行けなくなりますように』」

 

「これで、ひとまず幻想郷は無事だ」

 

「ああ、ダイヤサカを奪えれば、マガノ国に閉じ込められた的戦力を全て壊滅できるからな」

 

「突入10秒前」

 

その会話の直後、正邪の声が響いた。

 

「9」「8」「7」

 

アタシが持ってるのは、このバットに、神子から貰ったマント、そして打ち出の小槌。それに、こんな頼もしい仲間たちも居る。それだけあれば十分だ!

 

「6」「5」「4」「3」「2」…「1」

 

 

「『アタシ達を、王都の中へ連れていけ』!!」

 

 

新子はそう高らかに叫ぶとともに、手にしていた打ち出の小槌を勢いよく振り下ろした。小槌は地面に当たり、直後眩いばかりの閃光を発する。その閃光は新子たちの体を包み込み、王都へと瞬間移動させた。

 

 

 

 

「いかん…」

 

道は…どっちだったか。知らない場所に来てしまったぞ。

ゲムルルは王都の町並みを歩きながら、来たことのない場所へ迷い込んでしまっていた。

 

「ええい、どっちだったかな…」

 

あたりをキョロキョロと見渡すゲムルルの10メートルほど前方の地面の上に、光の紋章のようなものが浮かび上がる。

 

「ふわぁ…眠くなってきた」

 

欠伸をするゲムルルをよそに、その場所から次々と新レジスタンスのメンバーが姿を現した。神子のマントの能力で姿を隠した新子、そして華扇、勇刃…。

その全員がほぼ同時に、前方に立ち尽くすゲムルルの存在に気付く。椛、リグル、バンキ、そして正邪以外はゲムルルを目にするのは初めてであったが、シロウトでも咄嗟に理解できるほどの余りある魔力を目にして、これがあのゲムルルだと気付いた。作戦検討時には一度も上がることが無かった、本来王都の正面門の前に位置取り、決してその場から離れない筈のゲムルルが王都内部に居るという状況。

 

「…ん?」

 

そこで、ゲムルルも彼女たちの存在に気が付く。

正邪がここへ来た途端に思った事は「やっぱりな」、であった。この有り得ない場面に直面しても、正邪は平静を保つ事が出来た。

 

─何だコイツらは、どこから湧いた…?

 

”ありえない場面”はゲムルルにとっても同じであったが、ゲムルルはすぐに考えるのを辞めた。

表情に力が入り、細かった目が大きく見開かれ、顔に対して垂直に釣りあがっていく。そして足を開いて正邪らの行く手を阻むように立ちふさがる。普段は背中に折りたたんでいる、太く長い肩から伸びるもう一対の腕、通称”背脚(はいきゃく)”を目いっぱいに展開した。

 

─我ハ盾…身ヲ以テ、王都ヲ守ル…

 

マガノ国の魔獣や三禍の中で、唯一複数の妖怪との混成。その身に組み込まれたありとあらゆる妖怪の特性を使用することができる。しかし、まだこの段階では本来のゲムルル自身の力しか出しておらず、この形態は”警戒形態”と呼ばれ、主に侵入者や敵を発見した時、それらに警告を与え時にはその場で始末するための形態である。

 

「スゥゥゥ…」

 

ゲムルルが形態変化と共に好戦的な笑みを浮かべた時、前に居た勇刃は動きを止めた。しかし、それは勇刃が精神的に後れをとったからではない。「自分がこれ以上接近するとゲムルルはそれを迎え撃つ」、「その攻撃が万が一にも姿を認識できないようにして前に居るはずの新子に命中することを防ぐため」である。

ゲムルルの注意をさらに自分に向けるため、勇刃が格闘の構えを取ろうとしたとき、それはきた。

今、大きく息を吸ったゲムルルの顎の下から胸にかけてが、まるで風船を思わせるように膨らんでいく。ゲムルルの身長の倍ほどの大きさに風船が巨大化した瞬間…ゲムルルは息を吸っていた口を一度閉じ、また大きく開いた。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

轟く咆哮。あまりにも大きすぎ、周囲の建築物にひびを入れ、街路樹を揺らす程の大音量。鼓膜に響く衝撃によって、勇刃が思わず固まる。他の者も同様だった。この大咆哮は、いわゆるサイレンのような役割を持っており、音は王宮にまで届いているだろう。すなわち、軍隊に侵入者の存在を伝えたのである。

その中でただ二名、華扇と、ゲムルルが、敵だけを見ていた。

 

─馬鹿な!?

 

─暴走!?

 

─作戦では一番厄介なゲムルルとの戦闘を避けることが重要なポイントだったはずじゃ…!…いや、違う!

 

やや遅れてマミゾウが、さらにコンマ数秒遅れて他の者が理解する。

 

─あの華扇、この状況で…なんてことに気付くんだ…!

 

他の者は耳を塞ぐなりしてダメージが入ることは避けれたが、新子は先頭に居たはず、近くに居たはず。”万が一”、新子が姿を消すマントを発動したまま、今の爆音をもろに喰らい死んでしまっていたら?能力は解除されるのか?それとも、このまま誰にも認識されないまま朽ちるのか?答えは分からない。仮に後者が正解ならば、今新子の無事を確かめるすべはない。

そして、ゲムルルが目の前に立ちはだかっているという状況。ならば、誰かがゲムルルをこの場に足止めし、他のメンバーを空へと無事に飛ばさなければならない者がいる。

 

─本来ならば、新子の次にいて、かつ先に構えを取った俺の役目…!華扇…ッ!

 

青ざめ、その場でがっくりと肩を落とす勇刃。

 

─自分を責めるな勇刃…!私たちですら気付くのはマミゾウより遅かった。この間に、新子の無事を確認しゲムルルを避けるんだ!

 

そう胸中で勇刃に呼びかける椛。しかしこの時、勇刃の胸中には、全く別の感情が湧いていた。そう、号泣し絶叫したいほどの…感動!!

 

─茨木華扇…!できるならば世界中の人々に叫びたい…アレが華扇だ…俺の恩人だと!

 

危険や好機に全力で向き合う事を怖れ逃げて、安全な檻の中で自分の言葉すら隠し何者からも傷つけられまいとしていた。お前は出来損ないの鬼だ、そう言われるのが怖かった。そんな自分が嫌だった。でも直せなかった。新都の仲間の言葉すら、気を遣っているだけと本当には聞いていなかった。

 

─けど、なのに!華扇、そして新子…お前たちが俺の心の檻を壊してくれた!生きてお前たちに言う、ありがとう、と!

 

確かに勇刃は、豪快な性格として知られる鬼としては、内気で穏やかな心を持っていた。だが逆境時には独特の思考展開や戦術によって、本領発揮することに本人すら気付いていない。

 

「…!」

 

その時、ゲムルルへと向かう華扇の真剣な表情がほんの少しだけ緩んだ。そのわずかな変化に気付いたゲムルルも、一瞬だけ好戦的な笑みを失った。

直後、ゲムルルの脇腹が、何かがめり込むようにへこんだ。直後、ズンという重い音と共に、ゲムルルの体が1メートルほど横へずれた。

 

「!!?」

 

神子のマントによって姿を隠していた新子が、渾身のパンチをゲムルルへと食らわしていた。

 

─新子は生きてる!

 

華扇や勇刃、マミゾウの顔に安堵の笑みがこぼれる。

 

─何だァ!?誰に攻撃された?見えなかったぞ!!飛び道具?死角からか?

 

ゲムルルは三本指の脚を地面に食い込ませ、それ以上吹き飛ぶのを防いだ。その間にも、次々と華扇、マミゾウたちが横をすり抜けていく。

 

─ダメージや異変は無い…ならば、今はそれより

 

ゲムルルが疑問を棚上げし、押し寄せる敵に意識を集中せんとしたのは至極当然の流れである。ここまでは新レジスタンスの思惑通りであった。しかし、見事初撃を撃ちこんだはずの新子と後ろに居たメンバーに、戦慄走る。

 

「ぐっ…まじかよ…!」

 

ゲムルルの頭部がスライムのようにぐにゃりと形を崩し、無数に入った切れ込みのような線が開き、丸いギョロ目が無数に浮かび上がる。

異形。ただそう呼ぶにふさわしかった。首も髪もない頭部には牙の並んだ涎だらけの口、そして無数に開いた目玉。大きく展開した背脚は見る見るうちに分裂し、もともとの通常の腕と合わせて、計6本の長く鋭い腕となった。足は鳥のように大きく湾曲した構造となり、まるであのスラッグを連想させるような蹄へと変化した。

”殲滅形態”。”警戒形態”を以ってしてもなお引き下がらない、あるいは戦闘の意志を見せた敵に対して使用する形態であり、この状態になるとゲムルルは多くの妖怪の特性を引き出すようになる。実のところ、ゲムルルがこの殲滅形態へと移行するのは初めての事である。今までの敵は全て警戒形態でどうとでもなった。しかし、この殲滅形態を見せたという事は、すなわち、ゲムルルが初めて脅威を感じた相手が新子たちであるという事に他ならない。

「鬼」の怪力を宿し、合計八本の手足は「土蜘蛛」の特性を引いており、「一つ目小僧」のような大きな目玉を「百目」の能力で無数に増殖している。このようにあらゆる妖怪の混合でありその力を使いこなす、禍王が心血を注いで完成させた”究極の魔獣(アルティメット・クリーチャー)”、それこそがゲムルルなのだ。

 

「魔力の底が見えねぇ…!」

 

思わずそう口に出した新子の声すらも、もちろんゲムルルには聞こえない。新子は今までの戦いで、自分よりも強い者と出会う事はそう珍しくはなかった。しかし、過去最高に自分の力が高まった敵を据えてすら天秤の対として軽すぎるほどの力を持つ敵!遥か膨大な魔力を内包する怪物!

 

「どこまで上がるんだ…!?」

 

その魔力に反応して、新子も自分の能力によって霊力を高めていた。しかし、ゲムルルの魔力は先ほど新子が言ったように、底が無かった。際限を知らず、新子の力はぐんぐんと高まりに高まり続ける。

新子は恐怖を感じた。このままアタシ自身の力が膨れていけば、アタシ自身が耐えられねぇ…!このままじゃあ…破裂して死に…!!

およそ数秒後の自分の姿を想像した新子は、意図的に能力にブレーキを掛けた。このままでは自分自身の体がもたない。

恐怖を感じたのは、他の者たちも同様だった。禍々しい暗黒の魔力が、新レジスタンスのメンバーの全身を包み込んだ。その強張りをゲムルルは見逃さなかった。

計三本の右腕を一つにまとめ、自分の胴体の何倍も太い巨大な腕へと変貌させる。その先に付いた鉄球の如き拳を、地面へと叩きつけた。爆発のような衝撃が起こると同時に、大量の粉塵が舞い上がる。華扇たちの視界は何も見えなくなった。

 

突入開始より 七点五七(7.57)秒が経過していた。

 

 

ヒュン ヒュン

 

ゲムルルが鞭状に変化させた腕が、舞い上がる粉塵を切り裂く。

先ほどまでタイルが敷かれ、脇に街路樹が植えられたこの道は、今や巨大なクレーターが出来上がっていた。もちろん、今のゲムルルの一撃によるものである。そしてこの一撃により、新レジスタンスは分断されていた。

この通りを完全に破壊し、なお動く者を迎え撃つ構えのゲムルル。その背後に、マントの能力を発動したままの新子と華扇。

 

瓦礫の中に、最も間近で攻撃にさらされた勇刃の姿が。

 

「く、足をやられたか…!?」

 

その勇刃の背後からゲムルルに迫る、マミゾウ。

舞い上がる粉塵ではない、マミゾウが発生させた立ち込める煙にゲムルルが異様を感じ取った時、何体ものマミゾウの分身と、バンキの全部で五つ存在し自由に動かせる頭部たちが襲い掛かった。

 

「しゃらくせェ…!」

 

ゲムルルは鞭状の六本の腕をさらに枝分かれさせ、十二本以上にも増やした腕を振り回し、マミゾウの分身を迎え撃った。ゲムルルの攻撃で瞬く間に破壊された分身だが、マミゾウに”そうしやすい様”巧みに配置されたものだった。

 

「葉っぱ…!?」

 

ゲムルルは破壊された分身が葉っぱに戻り、それを見るまでこれが分身だとは気付けなかった。

出来た死角から、バンキの飛び回る頭部がゲムルルの胴体に向けて突撃していく。

 

─アイツらは囮か…?

 

そう思いつつ、腰辺りから新たに生やした腕でバンキの頭部を押さえ込む。

 

─いや、これは煙じゃない

 

そう理解すると同時に、その腕でバンキの頭部の一つを粉々に粉砕した。しかし、その頭部に気を取られた一瞬の隙で、マミゾウが発生させた煙の中に居たマミゾウやバンキ、椛とリグルがゲムルルの横を通過しようとする。

 

「馬鹿が、逃がすか!」

 

もはや彼女らには走る以外の術は残されていなかった。ゲムルルは狂気染みた笑みを浮かべながら、先端を槍のように尖らせた触手状の腕を振り回し、マミゾウたちを木っ端みじんに切り刻もうと襲い掛かった。これで王都に仇なす侵入者たちを始末できる。ゲムルルは殲滅形態へ移行したことによって、性格もより好戦的に、残酷に変化していた。

 

ドゴォ

 

しかし、新子は言われなくとも分かっていた。新子の二度目のパンチがゲムルルの脇腹に突き刺さり、下卑た笑みを浮かべたままゲムルルは横へとよろめいた。

 

 




今回はHUNTER×HUNTERのキメラアント編、宮殿突入の部分を大きくっていうかそのまま流用しています。
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