東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~ 作:ねっぷう
ついにマガノ国の支配から解放された幻想郷。しかし、再び魔の手が忍び寄るのも時間の問題だ。
本居新子、茨木華扇、そして二ッ岩マミゾウの三人は、マガノ国に囚われた人間と妖怪を救い出すため、新たなる旅へと出るのだった。
地底での滞在を終え、月の民の力を借りてついにマガノ国へと足を踏み入れた新子たち。囚人たちを救うためのダイヤサカ奪還作戦は開始された。
敵に奪われていた輝針城へ乗り込んだ一行の前に、三禍の一人であるメンドーサが立ちふさがるのだった。
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第22話 「蛇の試練」
「よし、突き刺さった艦首から城内部へ移動するのだ」
正邪は、コクピット内の壁に矢印を突き刺したままそう言った。その声にこたえた華扇やマミゾウ、椛たちが輝針城へと乗り込んでいく。
崩れた壁の穴をくぐり、城内部へ潜入する。薄暗いが、壁は赤く、障子や屏風が金色に輝き、畳には白く光る灯篭が置かれていて、豪華そうな内装をしている。しかし、外からの外見と同様に内装までも逆さまになっており、床は上にある。静かな城内に、ダメージを負ったドゥルジが唸る音のみが響いていた。
「機関部へ行きましょう」
一行は正邪に教えてもらった、輝針城の天守閣中央部にあるという機関室目指して進み出した。少し進むと、一行は少し広い部屋へと出た。部屋の一部が段になっており、見事に煌めく風神・雷神や、龍と虎の屏風が飾られている。
その時だった。その部屋に、不気味な少女の声が響き渡った。
「なるほどね、そういう事だったの。お前たち侵入者が、ドゥルジを奪い、私のマグツヒ艦隊を壊滅させたのね」
部屋の衾の奥からこちらへゆっくりと歩み寄ってくるのは、三禍の一人、メンドーサ本人であった。その姿を見た途端、椛とリグルは思わず固く身構え、数歩後ろへ下がった。先日、工場に潜入した時に中央階段で感じ取り、この目で見たアイツ!
他の者も、この二人ほどではないにせよ、思わず恐怖の念を抱いた。ゲムルルのただただ途方もない膨大な魔力とはまた違った、それに比べればまだ理解できる範疇であるがその非常に洗練された濃い魔力は、明らかに彼女がこの上ない強敵であるということを示していた。
「丁度、このクリュサオルからドゥルジへ移動する手間が省けたようね」
「クリュサオル、じゃと?」
「そうよ、この要塞型戦艦の名前よ」
かつてダイヤサカを敵に奪われたのと同時に、ダイヤサカの動力エネルギーを増幅させるためのギアの役割を果たしていた輝針城も、同じく敵に奪われ、敵の艦隊に加えられていた。クリュサオルと名を改められた輝針城がメンドーサに与えられ、この場に現れたことは、偶然か否か。
「わざわざ侵入者排除の為に艦隊まで使ったのに、それを壊滅させられたら、私の立場が無いじゃない…。だからここで、お前たちを完全に殺す!!」
メンドーサが立っていた床がゆっくりと開いていく。それと同時に、開いた床の下から巨大な頭部が出現した。続いて胸、胴体、足…。
黒と金色を基調とした、巨大なロボットが床下から姿を現した。兜をかぶったような角のある顔、そしてその胸部には巨大な顔があり、鋭い目と牙は蛇を思わせるようである。
「くくく…」
メンドーサは不敵な笑みを見せるとともに、空中に浮かび上がった。背後のロボの胸部の顔の口が開き、コクピット室が露わになる。そのコクピット内に座り、腕を組むと、胸部の口がガシャンと音を立てて閉じた。
ロボットの頭部の目が怪しく光を放ち、動き出した。
「で、でっか…!」
リグルも思わずそう呟く。正に、”魔人”と呼ぶにふさわしいその風貌は、巨大ながらもメンドーサの特徴を反映したような圧倒的な威圧感が感じられた。
「この”メドゥシアナ”で、お前たちを始末する!」
メンドーサ専用大型戦闘鎧”メドゥシアナ”、と彼女はこのロボットを呼んでいる。先刻、飛行中の一行を襲った憲兵団が装備していた戦闘鎧と同系統であり、メンドーサだけが操りメンドーサだけがその力を制御することのできる特別性である。
メドゥシアナは巨体に見合わぬほどのスピードで、その拳を一行へ向けて振り下ろした。華扇が咄嗟に右腕の包帯をシールド状に展開し、それが直撃することを防ごうとするが、やはりというべきの圧倒的なパワーを前にシールドごと吹き飛ばされた。
「ぐ…!!」
「あはははは!メドゥシアナの昂ぶりを感じるわ!」
華扇のシールドの裏側から飛び出したマミゾウや椛たちが、メドゥシアナの装甲に攻撃を加えていく。
「かゆいわね」
しかし、目立って効いている手ごたえは無かった。
「私を阻む者は誰であろうと許しはしない!死になさい!!」
メドゥシアナの頭部と胸部、計四つの目が怪しい光を放ち始める。直後、目から紫色の閃光と共に鋭いレーザーのような光線が放たれた。
光線は一直線に華扇たちへと向かって行く。
─避けられない…!
メドゥシアナが最初に発した光には魔力が込められており、それを直視してかつ浴びてしまった者は体の自由を奪われる。だから思うように動けず、避けられなかったのだ。
が、しかし。その時、周囲を揺るがす咆哮と共に、何か巨大な塊が目の前に降り立ち、光線を弾き飛ばして見せた。直後に吹いた突風が止み、その方向を見た。
まず目に飛び込んだのは、視界一色の群青色であった。青い巨体がこちらに背を向けるようにして立っている。竜のような短い脚、長い尻尾、筋肉質な上半身…太くたくましい腕は地に付くほど長く、勇ましく目つきを釣り上げた顔は真っすぐ敵を見つめている。
「馬鹿な!メドゥシアナの攻撃をはじき返すなんて…!何者よ!?」
驚きながら、そう叫ぶメンドーサ。
「あ、あれはまさか…!」
華扇には見覚えがあった。いや、忘れられるはずはない。
天に向けて拳を突き上げ、高らかに雄叫びを上げるのは…
「『
三年前、新子は東の歌姫の魔力を吸収し、それを使いこなすことに成功した際に発現した化身。その時よりも大きくなっているような気がするが、それは正しく『東の反逆者』であった。
「お前らァ!アタシがこのメカの相手をする、今のうちに機関部へ行け!」
化身のうなじ部分に手足の先を同化させた新子がそう言った。
「…わかったわ」
化身の股下をくぐって、華扇たちが城の奥へと向かおうとする。しかし、メンドーサがそれを許すはずもなく、行く手を阻もうと腕を伸ばした。
「行かせないわ!!」
「おっと、行かせてやろうぜ」
しかし、東の反逆者はメドゥシアナの腕を掴み、ギリギリと握力で締め付けながら上へと上げた。
「チィイ、お前…噂の本居新子か!」
「それがどうしたよ?」
メドゥシアナは化身の手を振り払い、踏み込むとともに拳を向けた。しかし、新子も負けじと化身を動かし、拳と拳を衝突させる。両手で互いに押し合い、熾烈な鍔迫り合いを繰り広げた。
「うわ~~~!」
天井からパラパラと崩れる瓦礫から頭を守りながら、リグルが情けない声を上げる。一行は間一髪、メドゥシアナの股下をくぐり、機関部目指して衾の奥へと駆けて行った。
「オラァ!!」
東の反逆者がメドゥシアナの腕を思いきり引き、地面に引きずりながら壁へと投げ飛ばした。
「三年ぶりだが、なかなか衰えないモンだな…」
新子は、このメンドーサとメドゥシアナの魔力を糧に化身を生成していた。自分自身、三年前から今までに至るまでこの化身を使う機会など無かった。しかし、今回の旅に出発してから、充分に『東の反逆者』を使用できるチャンスはあったはずだ。破魔師シャム戦や一龍齋等…。だがその時にも化身を使わなかったのは、新子に一縷の不安があったから。
三年という時は、何かを忘れ去るのにちょうどよい期間であり、その間、新子は闘う事はなった。それ故に、新子はこの化身をきちんと使えるのだろうか、熱風と戦った時のように暴走してしまわないだろうか…、と考えていた。
だがそんな心配は無用だった…!この化身は不備無く生成され、かつ以前よりもパワーを増していた…
「キエエエエ…舐めた事言ってくれるじゃないの…」
メドゥシアナは立ち上がり、クラウチングスタートのような姿勢を取り、構えた。そして、床が崩れ落ちるほどの勢いで地を蹴り、新子へ向かう。
『東の反逆者』もそれを迎え撃つ構えを取り、両者は同時に拳を振り上げる。そして互いにぶつかり合う距離まで接近した瞬間、同時に顔面を殴りつけた。
「ク、クロスカウンター…か!」
両者の頬に拳がめり込む。
「しかし、パンチだけしか能のないお前に、負けるはずはないのよ…!」
メドゥシアナは化身の顔にめり込ませていた拳を開き、手の平にある孔を向けた。直後、孔より射出された刃が如きレーザーが、まるで獲物の首に食らいつく蛇のように、『東の反逆者』の首を貫いた。
「うおっ…!?」
『東の反逆者』の首の後ろの位置に居る新子の顔の横を、レーザーがかすめた。頬に血が滲み、髪の毛が少し焦げる。
まずい…今の一撃で化身が崩れる…!
そう思った新子は、化身の崩壊が始める前に、メドゥシアナの顔に当たっている拳を下へと移動させ、その胴体に思い切り腕を突き刺した。
「ああ、殴る事しかできねぇから、そうさせてもらう!」
「こ、コイツ…!!」
結果、メドゥシアナの胴体に有った顔は破壊され、中のコクピット室、そしてそこに座っていたメンドーサの姿が露わになる。その間にも、新子の『東の反逆者』は崩壊を初め、遂にメドゥシアナも機能停止にまで追い込まれた。
「クソ、メドゥシアナが…」
コクピットのハンドルを動かすが、やはりメドゥシアナは動いてはくれない。
新子は崩れかけの化身から両手足を分離させ、メドゥシアナの上まで歩いていき、メンドーサを見下ろした。
「まだ…やるかい?」
メンドーサはキッと新子を睨みつけ、やがて目を閉じた。
しかし、その直後、急にコクピットから身を乗り出したメンドーサは新子の首を掴み、後ろへ押し倒す。
「当り前よ!」
「そうか…だったら!」
新子はメンドーサを押しのけると、右腕を後ろへ引き、その拳へ力を溜める。周囲に赤と青のオーラが渦巻き、その渦はメンドーサの身から放出される魔力すら巻き込んで右拳へと集約されていく。
「ここでぶっ倒してやるぜ、『リベリオントリガー』!!」
新子の一撃が、一直線にメンドーサへと向かって行く。『東の反逆者』がメドゥシアナの胸部を破壊した時のように、メンドーサの胸を目がけて。
一撃はメンドーサの金色の胸当てに当たると同時にそれを粉々に粉砕し、守る物が無くなった胸に命中した。周囲の粉塵を巻き上げるほどの衝撃が起こる。
ガキン
「な…!」
砕けた胸当ての破片が全て落とされ、メンドーサの胸に当たっているであろう拳が見えた。が、しかし、それを見た新子は思わず言葉を失った。何と、自分の拳が、真っ白く鋭い牙のある大きな口によって受け止められていたのである。釘のように並んだ牙が新子の拳にガッチリと食い込み、血が流れだす。
メンドーサの胸にも、別の顔が存在していた。今まで胸当てに隠されていた”
「これからお前に与えるのは蛇の試練よ!私が可愛いだけじゃないって事…その体に教えてあげる!」
メンドーサの目が黒く塗りつぶされ、黄色い瞳が輝きを増す。銀色の長い髪の毛は、四本の触手状に纏まり、まるで蛇のように自在に動き出し、見様によっては蛇の口に並ぶ四本の牙のようにも見えた。
メンドーサの先端が刃状になった髪が新子に襲い掛かり、その肩を斬りつける。
「きゃはははは!!」
拳が未だ第二の顔に噛みつかれたままで、離れることのできない新子に一方的に攻撃を加えていくメンドーサ。笑い声をあげ、蛇のような髪を振るい続ける。
「クッソォ…顔が二つたぁ生意気な…!!」
「ぶっ飛びなさい!!」
拳のような塊を作ったメンドーサの髪が新子の顔面を殴りつけた。その勢いで新子の手は第二の顔から外れ、新子は地面を転がりながら吹っ飛んでいく。
床のヒビのある個所で引っ掛かり、そこで止まった。
「クソォ…」
「…もう終わりなの?本居新子ちゃん?」
メンドーサは新子の目の前にしゃがみ込み、顔を覗き込む。
「三年前、禍王様が幻想郷へ行って、負けて帰ってきた時があったわ。その時の話を聞いて、幻想郷の人里で生まれたとある人間に興味を持ったの。その人間って…もう分かったでしょ?でも結局、お前は別に何の力もない、フツーの人間だったようだけどね…」
「そうかい…だったら本当に、アタシが普通の人間か…もっと確かめてみないかい?」
「え?」
その瞬間、目にもとまらぬ速さで飛び上がった新子の不意打ちの飛び蹴りがメンドーサの顔面に直撃した。後ろへ仰け反るメンドーサに追撃を加えようと新子が前に身を乗り出したとき、メンドーサはそのままの勢いでさらに後ろへと下がった。
「今のは油断したわ!切断してやる!」
剣のように鋭くなった髪を伸ばし、新子を切断しようと襲い掛かる。が、新子はその場をうごかなかった。その顔には好機を見出した表情が浮かんでいる。
「新子の姉御ォオオ!!」
二人の間に現れたのは、あのバットであった。バットはメンドーサの髪を口で受け止めている。
「よく来たな、待ってたぜ!」
新子はバットを手にすると、それを上へと振り上げた。バットはメンドーサの髪の一部を喰い千切ると、髪は溶けてオーラのような気へと変わり、新子の体に吸い込まれるように消えていった。
「一度ならず、二度までも私の力を吸収するとは…」
「これで、バットを合わせてこっちも顔が二つだ。対等に…やろうじゃねぇか」
「人間がァ!!」
逆上して襲い掛かるメンドーサの一撃をバットで押さえ込む。そのまま、体を回転させ威力を殺し、その回転の力を利用してバットをスイングさせた。
一撃はメンドーサの胴体に命中した。が、彼女は先ほどように第二の顔でバットに噛みついた。牙がバットに食い込み、ミシミシと音を上げる。しかし…その時だった。
バキン
「ふふん…」
メンドーサの顔に余裕の笑みが浮かぶ。
ところが、砕けたのは…第二の顔の牙だった。真っ白い牙がバットを噛み砕くことなく、逆にへし折られてしまった。第二の顔は叫び声をあげ、メンドーサの表情が苦痛に歪む。
「せェのォ!!」
次の瞬間には、もう一度振りかざしたバットによる攻撃が、メンドーサの頭部を捉えていた。