東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第23話 「誤算」

ついにマガノ国の支配から解放された幻想郷。しかし、再び魔の手が忍び寄るのも時間の問題だ。

本居新子、茨木華扇、そして二ッ岩マミゾウの三人は、マガノ国に囚われた人間と妖怪を救い出すため、新たなる旅へと出るのだった。

 

地底での滞在を終え、月の民の力を借りてついにマガノ国へと足を踏み入れた新子たち。囚人たちを救うためのダイヤサカ奪還作戦は開始された。

三禍の一人、メンドーサを見事倒した新子たち。一方そのころ、単身でゲムルルと戦う事を選んだ勇刃は…

 

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第23話 「誤算」

 

バットによる攻撃を頭部に受け、気を失ったメンドーサが、地面に音を立てて倒れ伏すころには、既にこのクリュサオルもとい輝針城のハッキングは完了していた。

 

「やったわ、輝針城を乗っ取れた!」

 

空中に浮かぶ城は、見る見るうちに配色が変わり、込められた魔力を全て妖力へと変換した。

 

 

「やっと、輝針城が私たち新レジスタンスの元に…」

 

機関部に移動した正邪は、壁の赤丸の印が描かれている部分に矢印を突き刺す。すると、輝針城はわずかに震え、その直後に動き始めた。城の窓から五本ほどの先端が矢印状に尖ったワイヤーが飛び出し、壁に突き刺さっていた戦艦ドゥルジに巻き付いた。そしてドゥルジを引っこ抜くと、大きな穴の開いた箇所が瞬時にして修復される。さらにワイヤーを引き寄せてドゥルジを城と合体させ、さながら天守閣に銀色に輝く角が現れたようなデザインへとなった。

 

「さて、これを使いダイヤサカまで向かうぞ」

 

「そうね、早く増援が来る前に…」

 

「待てよ」

 

輝針城を王都の中心に向けて移動させようとしたとき、機関部の部屋に誰かが入ってきた。振り向くと、そこにはメンドーサとの戦いで傷を負った新子が立っていた。

 

「新子!大丈夫だった!?」

 

「ああ…アイツはもう倒したぜ、下で寝てる」

 

「そう…」

 

「それでな、今から…ダイヤサカへ向かうのか?だったらよ、一人だけ…忘れてる奴がいるぜ」

 

「…あ!!」

 

その言葉に、華扇が何かを思い出したかのようにハッと口に手を当てる。

忘れてる奴…!

 

「アタシが、ソイツを助けて来る。だから、正邪…お前はこの城で先に行っててくれ…すぐに戻る」

 

「…了解した」

 

 

 

 

その時と、およそ同刻、王都の一角。

縦横無尽に軽いフットワークでその場を駆け、無数に放たれる拳の乱打。それと相見えるのは、十二本の鞭のような触手。致命傷すら恐れぬ無謀な突進が、逆に勇刃を生き長らえさせていた。

他にあるとすれば、かつて地底にて勇刃が新子と戦った時、彼の攻撃を続けて避けた新子の動き。それを真似することにより、さらにゲムルルの攻撃を回避することに成功していた。が、それでも勇刃は傷だらけ、最初に動かなくなった右足の他に、今や身体中から血が流れ出し、既にボロボロであった。

 

ドギュ

 

ゲムルルの触手が勇刃の胸に直撃した。今までに蓄積されたダメージとあと一寸で即死を免れぬほどの深手と引き換えに勇刃が上げた功績と言えば、肩に有った複眼一つ潰したことのみ。ゲムルルが少し体の形を変えてしまえば無くなってしまう傷なので、肉体的なダメージは無いに等しい。

だが、ゲムルルは攻めきれずにいた。

 

─…何だ?コイツと戦い始めた途端、我の頭痛が更に悪化した…何でだ?痛みで…全神経を集中させることが出来んッ…!

 

ゲムルルの殺意をわずかにかき回すその念と、先ほどの透明化した新子から貰った二発のパンチが精神に与えた影響は大きい。ゲムルルは一歩退き…

 

─コイツをこれ以上王都内部に近づける訳にはいかない!

 

─コイツを仲間に近づける訳にはいかない!

 

双方の利害が、一致した。

しかし、ゲムルルの攻撃は徐々に勇刃の命を削っていた。血に染まりながら、もう10分近く猛攻を受け続けている。

 

「面倒クセェ…」

 

─何か来る!

 

ゲムルルの小さな悪態を聞き取った勇刃は、すぐに何かを感じ取った。腕を腹の前に丸め、背を見せたゲムルルの背中から無数の針が飛び出した。

 

─速い…避けきれない!

 

「串刺しの肉、一丁上がりだ…」

 

針は勇刃に迫る。左足の踵を返し、その場から離れようとした勇刃は、自らが流して地面に垂れた血により足を滑らせ、後方へ倒れ込んだ。

 

─転んで、上手い具合に回避したか…まあいい!

 

圧倒的な力を誇りながらも、勇刃を攻めきれない理由の一つに、歴然とした力の差があるといえるだろう。「いつでも勝てる」という確かな手ごたえが、もともと策略を練るタイプではないゲムルルの無策に拍車をかけた。

ゲムルルの読みは概ね正しい。いつかはゲムルルに軍配が上がる勝負、それは正しい。誤算があるとすれば、勇刃がそれでいいと思い、ゲムルルがそれに気づいていない事だろう。

 

─まだ闘れる!俺は…また翔べる…まだ!!

 

しかし、それでも確実に、まるで、端っこだけを水に浸したタオルにもいずれ全体に水が染み渡っていくように、勇刃の命の限界は、刻一刻と近づいていた。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 

 

 

「テメェ、ゴルァアアァァアア!!!!」

 

 

 

 

「な…!」

 

その怒号に、勇刃とゲムルルは思わずそちらに目を向ける。そこに立っていたのは、血にまみれた右拳と、顔や胸に大きな傷を作った新子だった。

 

─上等、今度はアタシが奴を引きつければ、その分勇刃への注意が散漫になって助かるに決まってる!

 

「お前もさっきの奴らの仲間か?人間!」

 

「その通り!来いやぁ!!」

 

「ぬぅ…」

 

ゲムルルは触手の腕を新子へ向けて叩きつけようとする。新子は寸前でそれを避け、触手は地面を抉りとる。少し離れたところに立ち、高らかに叫ぶ。

 

「テメェの相手はこのアタシだ、来いよ単細胞!!」

 

「けぇああア!!」

 

新子はさらに遠くへ逃げ、ゲムルルはそれを追いかけていく。

その音を聞きながら、よろよろと歩いていた勇刃は、何かがこと切れたようにドッと地面に倒れ込んだ。

 

─気を失う訳にはいかない…このまま気絶すれば、そのまま…

 

「俺…は、まだ…やれる…」

 

地面を這うようにして、なお自分もまだ新子に加勢しようとしている。しかし、体の痛みが、気力が、文字通りの限界であった。

 

そして勇刃が額を流れる血を手で拭った時、新子は宙に居た。建物の屋根の上から上へと渡る新子を、同じく後を追ってくるゲムルルが触手で撃ち落そうとしている。

新子が自分が思う最大の長所は、逃げる事であった。里で、初めて憲兵団を殴り倒し、30人近くもの追っ手から逃げおおせたのが14の時。勇刃のためこの場に参じ、ヒットアンドアウェイのかく乱戦法を選択した新子は概ね正しい。誤算があるとすれば…意識の違いである。

 

「あれ…?」

 

ふと後ろを振り返った新子は、ゲムルルが隣の建物の屋根の上で立ったまま、自分を追ってきていない事に気付いた。伸ばしていた触手を全てひっこめ、展開した背脚を元の位置へ折り畳み、背を向け、屋根から飛び降りる。

 

「追って来ねぇ…!勇刃がやべぇ…」

 

新子や勇刃にとってゲムルルは警戒するべき重要な敵であるが、ゲムルルにとっての二人はそうではない。ゲムルルの任務は王都を守る事であり、主に敵を近づけない事を念頭に置いている。自分が”敵の排除”ではなく”王都の守り手”を任されている以上、こうしてゲムルルが王都の外側に向けて移動を始めたのは当然の行動であると言えるだろう。逃げた敵も瀕死の敵も警戒の範疇外なのである。

 

新子がさっきの場所までたどり着くと、勇刃は生きていた。位置から考えて踵を返したゲムルルの目に触れたのは明らかである。

 

「払って終いか、手前にとっちゃ…アタシも勇刃も、ただの蝿かよ!?」

 

ゲムルルにとって勇刃の死は全くの関心外。それは全身全霊をかけて戦っていた二人にかつてない屈辱を与えた。

 

「くくく…馬鹿野郎が、そうやってずっと王都の前でバカ面こいてやがれッ!アタシは勇刃を連れて、さっさと輝針城へ戻るぜ。ホラ」

 

新子が勇刃の腕を取り、肩を貸す。下を俯いていた勇刃は、よく耳を澄まさないと聞こえない程の、雨水が滴るがごとく小さな声で、ただ一言、こう言った。

 

「チクショウ…」

 

新子が誤算に気付いた時、新たな誤算は生まれていた。

 

─勇刃とゲムルルは目が合った…!その時、勇刃は死を覚悟しただろう。アタシ達はそういう闘いに臨んだ!

 

ついさっき自分で語った冷静な言葉とは裏腹に、新子の臓腑は生涯最高の怒りで沸き立っていた。血まみれの勇刃をただ一瞥し、ここを通り過ぎたであろうゲムルルの表情を想像し、新たに生まれた誤算に新子自身が気付いた。

 

─その勇刃を、あの野郎は黙ってシカトしたぁ?仲間を侮辱されたまま、黙って見過ごす?何のため?幻想郷のため?妖怪のため?人間のため?それで仮に任務を果たして、勇刃と握手を交わす?やったな、と…お互いに肩を叩きながら讃える!?仲間を侮辱…されたまま!!できるわけがねぇ。

 

「有りえねェ…」

 

勇刃を支えている力を解いてしまった新子の肩から、勇刃が崩れ落ち、地面に顔をぶつける。

 

「お…前な…」

 

「あ、ワリィ。そのワリィついでだ、ここでもう少し我慢してくれ。まだ面と向かって野郎の顔面に、パンチ一発も入れてねぇからよ…。必ずお前の分もぶち込んでくるからよ!!」

 

─ここで冷静に新子を止めるのが俺の役目…。「正気か?」「よせよ、黙って他の仲間と合流しろ」「お前が俺に敵わなかったように、俺も奴には敵わなかった」…それが、俺の…!!

 

心ではそう思っていても…

 

「頼む新子…ッ!チクショウ、あの野郎…俺を…ゴミみたいな目で見やがった!!あのクソ野郎に、俺の分も…ッ!!」

 

「おう!!任せろ…」

 

新たな誤算、それは大切な物の重さ…。

 

 

 

「くそっ、頭痛が酷くなった…!」

 

ゲムルルは王都の外を目指して、道なりに歩いていた。既に”通常形態”にまで戻っており、手で頭を押さえている。

 

─さっきの奴と戦ってからだ、頭痛が酷くなったのは…何か術でも掛けられたのか?それにどうなっているんだ、空ではさっきから大きな爆発の音が鳴り響いてる…。しまった、さっきのカスを殺しておけば頭痛は治まったかもしれねぇのに。しかし早く正面門まで行かなければ

 

「イライラするぜェ…!!」

 

そう言いながら、ガシガシと頭を掻きむしる。その瞬間。ゲムルルが視界の端に何かを捉えた。ゆっくりとそちらへ振り向くと、そこには新子が立っていた。

 

「よォ」

 

ズン

 

「何なんだよォ、ドイツもコイツもよォォオオ!!!」

 

一度のジャンプで新子の目前にまで飛んできたゲムルルは、足を踏み鳴らし、腕を広げ、咆哮と同時に形を変えた。それは腹を括り身構えたはずの新子が一瞬にして態勢を回避に向けるほどの変貌であり、邪悪を具現化したかのような巨大な姿は、明らかに…破壊のみを求めていた。

 

ドゴォ

 

ギリギリその場を離れていた新子は、ゲムルルが叩きつけた巨大な拳を避け、それによる暴風や衝撃波も間一髪で回避した。

飛んでくる建物の瓦礫を潜り抜け、地面に倒れ伏していた勇刃を抱えてさらにこの場から離れようと走り出す。

 

「入れた…のか…?俺の分…」

 

「まだだよ!必ず入れるから待ってろ!その前に死なれちゃ困るからさっさと逃げ…」

 

直後、背後から刺した赤い閃光。振り向いた新子が目にしたのは、原形をとどめないほどに膨れ上がったゲムルルの姿だった。その身体は沸き立つ雲のように不定で、しかも周囲の建物よりも倍近く巨大であった。

ゲムルルは、生まれて初めて精神に過大なストレスを受けることにより、自身の本当の能力が実は王都を守る事とは著しくかけ離れた所にあり、激しい怒りを糧にして体積と魔力の総量が急速に増大していくのを自覚した。

巨大化した直後に起こす大爆発は半径100メートル以上を跡形も無く消し去り、新レジスタンスの王都突入時に拳を叩きつけて作ったクレーターよりも遥かに大きな焼け跡を形成した。

爆発には大きな快感が伴い、その直後に体積の減少と強い喪失感に襲われた。

ゲムルルの主な能力は、”状況に合わせて体の形を変える事”で、今の”感情を糧に爆発を起こす”能力は、本人さえも知りもせず、今まで自覚できなかった隠された能力なのである。そして爆発の際に膨れ上がった時、ゲムルルは自身に組み込まれた「全ての妖怪の力」を引き出していた。

 

「とんでもねぇ破壊力…!あれを故意に引き出させ、無傷でいようってのは虫が良すぎるか?しかし、それでもあの隙は…でけぇな…」

 

間一髪、建物が壁になり爆発の衝撃から逃れていた新子は、崩れた壁の下から焼野原を見渡していた。あの爆発は王都の南区を壊滅させていた。

 

「怒らせて爆発させる…その瞬間の『タメ』はアタシが一撃入れるのにちょうどいい」

 

新子が描いた作戦は忘我したゲムルルの状況を含めてほぼ満点と言えるだろう。だが、ゲムルルの真価は爆発の後に有った。

快感の余韻と虚脱感のはざまで、この利己的な能力を如何に王都の守りに役立てるかを考えそれのみに没頭しようとしていた。

 

─感情に流される事なく、この能力を使い王都を守る…すなわち、あの侵入者の排除に直結する!

 

禍王は、ゲムルルがいずれその身に組み込まれた妖怪の念に意識を左右されてしまうのではないと考えていた。ここ数十分の戦いで、ゲムルルは何度も何種類もの妖怪の特性を使用しており、その禍王の考えは現実に近いモノとなろうとしている。今の爆発で妖怪の特性を過剰に使用したことによりゲムルルの頭は冴え、以前よりも知能も、成長を果たしていたのだ。

冷静さと知性を手に入れたゲムルルに対して、新子が負うリスクはあまりに高い。

 

 

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