東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第6話 「赤い砂丘」

鈴奈庵の娘、本居新子は両親から、禍王の”四人の歌姫計画”を知らされる。新子は仲間の茨木華扇と共に、歌姫計画を打ち破るために旅立った。

まず最初に、南の歌姫が隠されている赤い砂丘へと進み始めるのだった…。

 

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第6話 「赤い砂丘」

 

華扇と新子がようやく元通り動けるようになったころには、すでに日が傾いていた。だが、華扇は今夜中にでも赤い砂丘へたどり着くために進むべき、と提案した。あの果樹の小川の、魔法のトラップにかかってあやうく死にかけるところだったのだ、すぐにこんな森など出たいに決まってる。

 

「それに、森と砂漠の境目まで行けばここよりかは安全になります。砂漠に棲む生き物は森へは行けないし、森に棲む生き物は砂漠には行けませんから」

 

それから、二人は休むことなく夜の森を歩き続けた。時折、今日の昼間に自分らがかかってしまったような魔法の罠らしきものをいくつも見かけたが、決して誘惑に惑わされる事なく、すぐにその場を立ち去っていった。

それを繰り返しているうちに、だんだんと頭上を覆っていた深い緑の葉が薄くなり、苔生したりキノコが生え放題だった湿った地面に乾いた砂が混じるようになってきた。いよいよ、赤い砂丘に近づいているのだ。さらに足元の地面は砂に変わり、赤い砂粒が多くなってくる。砂漠特有の夜の寒さが容赦なく二人に突き刺さる。

 

そして、砂まみれの枯れた木の横を通り過ぎると同時に、月の光に照らされて赤く光る、広大な砂漠が視界に広がった。砂丘がまるで波のように高く重なっていて、乾いた砂を踏む足が滑る。

 

「アタシら、行かなくちゃ」

 

新子は感じ取っていた。この広大な砂漠の中心にある、とてつもなく邪悪な存在を。こんな力を放ち続けている”南の歌姫”をのさばらせてはいけない。必ずアタシが始末しなければならない。いや、始末してやる。許せるものか。

 

「待ちなさい!」

 

華扇は、何かに駆られたように駆け足で進みだす新子を追いかけた。だが、新子は一つ目の砂丘を上りきったところで立ち止まった。

目の前に広がるのが、真っ赤に輝く、今昇った砂丘よりも高い次の砂丘だった。新子は危なっかしく砂の斜面を駆け下りると、次の砂丘も勢いよく昇りきった。砂丘、また砂丘。ちっとも代わり映えの無い景色が、新子の気力をどんどんそぎ落としていく。

 

「危ない、頭を下げて」

 

突然新子は頭を砂の上に押し付けられた。驚いて隣にいる華扇の見つめる先を追う。今居る砂丘の下に、何やら太い植物のような物が風に揺れている。あれがどうしたというんだ?

 

「もっとよく見て」

 

新子も目を凝らしてみると、動いている植物のようなものは、大きなミミズのような生物だと気付いた。頭部らしき部位からピンク色の管が飛び出していて、それをしきりに動かして辺りを見渡している。

 

「確かに歌姫は一刻も早く始末しなければならないけど、焦ってはダメ。このまま進んでたらあの化け物にやられてたわ」

 

さいわいにも、あのミミズの化け物はまだこっちに気付いていないようだ。

 

「避けて通りましょう」

 

二人は、化け物に気付かれないように大きく回って、その場を離れた。

 

 

そうして歩いている間に、日が昇り始めた。日の光が赤い砂を照らすと同時に一気に気温が上がり、靴越しでも分かるくらい砂が熱せられている。日差しとやわらかい砂は、砂漠の中心へ向かう新子と華扇の体力を確実に奪って行った。

それだけではない、新子はもちろんのこと、華扇でさえも赤い砂丘に隠されている”南の歌姫”の放つ魔の歌声を感じ取っている。きっと、この砂漠ももとはあの魔法の森の一部だったに違いない。だが、200年前、禍王の命令でガルルガが森の南の方に歌姫を隠したとたん、そこを中心に森の植物は枯れて、長い年月の間にここに棲む全ての妖怪はここを離れ、ここは歌姫の邪悪な歌声に毒された砂漠と化してしまったのだろう。ところどころに転がっている、朽ちて乾いた大木の残骸がそれを物語っている。

 

新子はふと後ろを振り向いた。

丁度さっき超えたばかりの砂丘の頂上で、小さな恐竜のような生き物がちょろちょろと動きまわっていた。薄い赤色の地に、黄色の模様が走っている。一見すると、その恐竜たちは座り込み、爪や胸元を舐めてくつろいでいるように見えるが、その鋭い捕食者の目はたびたび新子と華扇を見つめていた。

 

「昔は深い森だったようだけど、今じゃならず者の巣窟ね」

 

今じゃ、妖怪でもないただの怪物や珍獣の根城か…。

 

 

砂漠を歩くにつれ、あたりに漂う歌姫の邪悪な力は強くなっていく。ついには、新子は膝を地面に付いて倒れ込んでしまう。すると待ってましたと言わんばかりに、ずっと後ろから狙っていた恐竜が走り寄ってきた。後ろ足のカギ爪を伸ばし、今にも新子に飛びかかろうという態勢だ。

 

「離れなさい!」

 

華扇は新子の前に立ち、飛びかかる恐竜を跳ね除ける。新子も背中のカバンに入れていた、香霖堂で買った金属のバットを抜こうと手をかける。だが、まるで風邪で熱でも出した時のような気持ち悪い感覚のせいでうまく力が入らない。

華扇も同じだった。じわじわと砂丘に染み込んだ邪悪の力が、足から体中へと流れ込んでくる。

 

突然、地面の砂が大きく揺れた。砂の間から灰色の鋭い棘が飛び出し、瞬く間に恐竜の一匹を掴み上げた。なんと、地中から巨大な怪物が現れたのだ。砂からその全貌を見せた怪物は、虫のような外見であった。小さな頭、恐竜を掴んだまま離さない鋭い棘の生えた鎌の腕、でっぷりと膨らんだ柔らかそうな腹、細長い4本の脚。

 

「な…!でけぇ…!」

 

虫の怪物は別の恐竜をもう一方の腕ですばやく掴む。仲間を救おうと飛びかかってくる仲間をよそに、ゆっくりと掴んだ獲物に口を近づけ、目いっぱいに開いた牙を突き立てた。鮮血が飛び散り、赤い砂に染み込んでいく。

更には、騒ぎを聞きつけて、夜に見かけた巨大なミミズのような生き物までもが出現した。ブヨブヨした身体に電気を纏わせながら新子に噛みつきかかる。思わず、新子は叫びながらミミズの喉元を掴んで自分から離らかそうとする。と、その瞬間、バチッと電気が走った。ミミズが電撃を流したのだ。

憲兵団の電気棒よりも何倍も強い衝撃によって新子は倒れ込んでしまう。ふと横を見ると、華扇の両足にもミミズが巻き付いている。そして捕らえた恐竜を食べ終えた虫の怪物が素早く歩み寄って来る。口からはみ出した恐竜の尻尾をぶらぶらさせながら。最悪だ、虫の目は明らかにミミズではなく、新子と華扇を見ている。

虫は鎌を二人に伸ばし、それと同時にミミズは大きく開いたぬるぬるした口をガッと開く。

 

しかし、突然、空が急に暗くなり、周囲でうろうろしていた恐竜たちがけたたましい鳴き声を上げながら四方八方へ散っていく。

雷鳴のような金切り声が響き渡る。巨大な影が舞い降りてきた。ミミズはその場でぐねぐねと動き回り、虫の怪物は上を見上げる。大きな翼が羽ばたく音と共に、新子の視界に大きな黄金色のカギ爪が飛び込んできた。次の瞬間、虫の怪物はひょいとその爪に抱きかかえられ、空へと連れ去られた。

 

新子はよろよろと立ち上がった。ミミズはとっくに砂の中に潜って遠くへ逃げていた。強風に足をすくわれ、新子は砂の上を転がってしまう。何かが裂ける音や、殴るような鈍い音が聞こえる。

風がやみ、あたりがしんと静まり返る。新子はやっとの思いであたりを見渡すと、ぎょっとした。目の前の低い砂丘のてっぺんで、巨大な毛むくじゃらの鳥が虫を食べていた。いや、それはよく見ると鳥とは違った。鷹のような大きく鋭い目、湾曲した黄色いクチバシのある頭や白と茶の羽毛の生えた体と翼は鳥のものであったが、黄色い鱗が並んだ、4本のカギ爪のある指の脚が前足となっており、下半身は獣のような強靭な太い腰と後ろ足になっている。頭から胴体までが鷹のような鳥と、獅子になっている下半身が合体したような大きな動物だ。

 

「この砂丘の食物連鎖ね。恐らく、あれがこの砂丘の頂点。見つからないうちに逃げましょう」

 

華扇が新子の腕を掴んでそこから立ち去ろうとするが、新子はあの動物を見つめたまま動かない。

当然だ…あれを見て驚けないわけがない。新子が何度も読み返した、幻想郷縁起に記述されていた、今は絶滅した伝説の生物。見間違うはずもはずもない…”グリフォン”だ。

 

「やあ、小さな旅の者よ」

 

新子が見ていることに気付くと、陽気な調子で、そのグリフォンは声を発した。黄金色の目がじっと新子を見据える。

 

「…ふぅ~…。不思議だ、お前の身体からほとばしる力が、私の身体に流れ込んでくる。お前が予言された女だな」

 

予言された女?アタシが?誰がそんな予言を?それに、幻想郷縁起では既に絶滅した伝説の存在として描かれていたグリフォンが、なぜここにいる?

言いたいことが頭の中に浮かんでは消え、新子はオーバーヒート寸前になる。

 

「あ、えと…あの…」

 

口ごもる新子と、驚きに動けない華扇を遮って、再びグリフォンは口を開いた。

 

「私は…夢を見ていた。良き時代の夢だった。私は仲間と共に森の上を自由に舞い、空は甘い空気に満ちていた。だがこれは何だ…?美しかった森が、こんな醜い砂漠と化しているではないか!!私には邪悪の存在が分かる。この砂漠の中心に存在する邪悪から、波紋のように毒が漏れ出している!私が眠っている間に、誰がこのような事を?」

 

グリフォンはあたりを見渡し、怒りを露わにして叫んだ。

 

「マガノ国の禍王です」

 

華扇がそう言った。

 

「そうか、やはり…”神の友”の予言通りか。私が今、寝起きと空腹で弱っている。この虫一匹では足りない、もっと食べて体力が戻ったら、つぼみに巣くう害虫のように南に潜む邪悪を、探し出して滅ぼしてくれよう」

 

それを聞いた新子は、ようやく口を開いた。

 

「幻想郷にある邪悪は一つじゃないんだ。東西南北に4つある。禍王はそれを”四人の歌姫”と呼んでやがる。そのうちの一つは、今は赤い砂丘と呼ばれているこの砂漠の中央にある」

 

「そうか、東西南北に4つか。だがな、教えてやろう、不思議な力を持つ予言された女よ。私はこの自分の南のなわばりを愛している。だから、私は南の邪悪さえ始末できればそれでいい」

 

「だけど、結局は4つ全てを滅ぼさなければ本当の安らぎは訪れないわ!」

 

「他のなわばりには行きたくても行けないのだ。昔にたてた”神の友”との誓いを破ってしまうからな」

 

「あのよ、さっきから言ってる予言の女とか、神の友とか一体何のことだ?」

 

新子は思い切って疑問をグリフォンに尋ねた。グリフォンは前足の爪で首をかくと、大きなあくびをした。

 

「300年ほども昔、まだ若かった私のもとにある女が現れた。赤と白の装束に身を包んだ女だ。女は不思議な技能を多く持っていて、ある予言を私に聞かせた。今から100年後、山の向こうより憎しみと支配に燃える赤い目をした邪悪が、大量の怪物と共に幻想郷を攻撃してしてくると。だから、その時には私たちにも戦ってほしい、と懇願してきたのだ。もちろん、私を含めたグリフォン全てがヨタ話だと言って信じず、女をあざけった。だが私だけは…何故だかその女を信じてみる気になったのだよ」

 

グリフォンは続ける。

 

「それからほどなくして、神の友は生涯を終えた。さらに時が経ち、私が神の友と出会ってから、実に100年が経った時の事だ。本当に北の山脈の向こうから邪悪の軍隊が現れた。私たちの決死の努力も甲斐あって、邪悪は引き返していきおった。だがな、神の友の予言にはまだ続きが有った。もし邪悪が撤退しても、まだ刺客を送って来るかもしれない。そうなれば確実にグリフォンは滅んでしまう、だから100年後の戦いが終わったら、すぐにひたすた身を隠して眠りにつけ、とな。やはりここでも予言は当たった。七羽の邪悪な鳥が私たちの空をうろつき始めたのだ。奴らはまとまって、一匹ずつ仲間を殺していった。だが私だけは滅ばなかった。私だけは神の友の予言を信じ、隠れていたからだ」

 

では、幻想郷縁起にかかれていた、既にグリフォンは絶滅したというのも、七羽のガルルガの所為だったのだ。二つ目の歌姫が隠されている、西で竜がガルルガに滅ぼされたのと同じように。奴らの手口が分かった。普段は別々で行動して、纏まって行動することはないと思わせておいて、いざという時に全員でまとまって奇襲をかける。そうして、如何な強力な存在も殺してきたのだ。

 

「だが…ふふっ。目覚めてみれば、森は消え失せ、生き残ったのが私だけだとは…思わなかったがな」

 

そう呟くグリフォンの表情や声色は、どこかもの悲しそうに見えた。

 

「グリフォンよ、それは悲しいでしょう…私も、昔の仲間はもう居ない。どうか、その怒りを…この砂漠に巣くう歌姫にぶつけてはくれないだろうか?」

 

「神の友が告げたことはまだある。何百年も経ったある時、邪悪に打ち克てるチカラを持つ者が現れた時、その者に従えと。私は友の言葉に従い、ここに巣くう歌姫とやらを滅してくれよう」

 

「悪いな、グリフォン。そうと決まりゃ、一刻も早く歌姫を探そう。アタシには分かるんだ、歌姫に近づくほど、何かが身体に滾って来る」

 

 

二人と一匹は、灼熱の砂漠の上を歩いて進んだ。華扇とグリフォンは徐々に強まる歌姫の魔力によって飛ぶことも走ることもままならない。邪悪な敵の力に比例して強くなる新子でさえも、膨大な魔力の前には徐々に気分が悪くなるのを感じた。

 

そして、見つけた。砂漠にポツンとある、屋根が吹き飛び壁もボロボロに崩れた煉瓦の建物を。いや、中も赤い砂に満たされ、外壁しか残されていないあれを建物と言えるのかどうかはわからないが。あの建物の中に、きっと南の歌姫が隠されているとすぐに理解した。

 

「…立チ去レ」

 

何故なら、その崩れた建物を守るように、巨大な槍を持った人形が立っていたからだ。




この小説のタイトルを変えました。
英文の意味は、「新たな幻想は禍を打ち砕く」、みたいな意味です。
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