東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第8話 「妖怪兎救出」

鈴奈庵の娘、本居新子は両親から、禍王の”四人の歌姫計画”を知らされる。新子は仲間の茨木華扇と共に、歌姫計画を打ち破るために旅立った。

グリフォンの協力を得て、一人目の歌姫、”南の歌姫”を討伐することに成功した。

一行は次なる歌姫が隠されている”竜の墓場”を目指して、西へと歩みを進めるのだった。

 

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第8話 「妖怪兎救出」

 

 

ここはどこだ?見覚えがある町並みだ…。

 

視界に映っているのは、昔から見慣れているような、人間の里の町並み。小さな雑草の生えた石ころだらけの路地裏、ボロボロののぼり旗が並んでいる商店通りだ。

 

あーん… あーん…

 

誰かが…泣いてるな。ああ、こりゃアタシの声か…。

なんで泣いているんだ?それに、誰かと手をつないで歩いているな…。誰だ…?背の高い…

 

 

 

 

「…あ」

 

目を覚ました。砂の上でたき火がぱちぱちと音を立てて燃え上がっており、近くに”火炎玉”の缶ケースが置かれている。空には雲一つなく、月の光がうっすらとあたりを照らしている。

 

「夢か…」

 

変な夢を見た。そうか…思い出した、夢で見た光景は…もう十何年も前の事だ。確か、一人で遊んでて、迷子になって…泣いているところに男の人が来たんだっけ…それで、家まで…。

 

「どうしました?」

 

横から声が聞こえた。そちらに振り向くと、座ったまま眠っていた華扇がこちらを見ていた。

 

「いや別に…。グリフォンは?」

 

「彼なら狩りに出かけましたよ。いつもこの時間に行ってます」

 

「そうか…」

 

既に、南の歌姫を討伐してから3日が経っていた。新子の手の傷も、邪悪を前にすると力を増すという能力によって治癒を速める事ができるが、生憎にその邪悪はもう近くにいないのだ。確かに今すぐにでも出発したいが、傷がある程度治るまで、ここで様子を見ることにしたのだ。

グリフォンの協力有って、ついに南の土地から魔の根源を葬り去った、この次に行く西の”竜の墓場”に隠されているという西の歌姫も、同じように退治してやる。何としても、絶対に…。

その時突然、新子の背中に何か冷たいものが流れた。冷たい指でスーっと撫でられたような感覚に、震えがくる。新子は戸惑いながら、自分に言い聞かせた。夜の砂漠は寒い、だから体が冷えたんだ。ただそれだけだ。

 

新子は毛布にくるまると、再び目を閉じた。視界の端に、遠くから、捕まえた虫の怪物を抱えながらこちらへ飛んでくるグリフォンの姿が見えた。

 

 

 

南の歌姫が消え失せた影響は、既に砂漠からはるか遠く、人間の里の南地区にも訪れていた。これまで、どんなに耕してもだめだった不毛の大地と、魚一匹捕れなかった川が、突然息を吹き返したのだ。釣り用のかごは魚で埋め尽くされ、狩人は毎晩、肉を土産に帰って来る。

長い飢えの時代が終わりをつげ、その上南の空に伝説の獣が目撃されたという。いったいどうしてこうなったのか皆目見当もつかないだろう。しかし、いくら食料が多く取れても、里にはびこるマガノ国の者どもには怯えなければならない。その事が禍王の耳に届くのも、時間の問題だ。

 

 

 

次の日、新子と華扇はいよいよ、西にある次なる目的地、竜の墓場へと向けて出発した。まず、汚れた毛布をマントのように体に巻き、これでただの旅人を装う事にした。これならば、多少は身を隠すことができるだろう。

砂丘を西へ向かい、ついに森の入り口が見えてきた。今居る赤い砂丘は、魔法の森の南部に円形に広がっているので、西の竜の墓場へ向かうには森の一部を通過しなければならない。森を通過すれば、あとは岩の荒野をただ突き進むだけだ。

 

「ようやく、この砂丘ともおさらばか」

 

新子は後ろを振り返りながらそう言った。前に襲われた時よりもやや元気な様子の恐竜が、ぴったりとあとを付けてきている。

 

「急ぎましょう」

 

二人は、赤い砂丘を抜け、再び森へと入っていった。

 

「西には、竜か。竜もグリフォンみてぇにアタシらに協力してくれるかな?」

 

「分からないわ。そもそも、いくら身を隠して眠りにつけと言われても、そこが見つかっていないという保証はないし。それに、聞く話では竜の墓場は無縁塚の上にガルルガに殺された仲間の竜たちの死体がゴロゴロ転がっていることからそう呼ばれ始めた場所…。そんな場所に何百年も眠っていたんじゃ、少しくらい体や頭がおかしくなっていても不思議じゃないわ」

 

─もし息絶えていたら、その時は…その時だ─

 

グリフォンに言われた言葉が頭に蘇る。

竜と言えば、里の人間のほとんどが知っている種族だ。他の神獣はあくまで自分らの領域だけで暮らしていたのに対し、竜だけは自分の領域を超えて幻想郷中の空を飛びまわっていたのだ、だから知名度は高い。グリフォン、麒麟、天狐は今や幻想郷縁起にしかその存在が記されていないので、全くと言っていいほど知名度が無い。

いやいや、元から華扇と自分の二人でどうにかするつもりだったんだ。あまり他に頼ろうとするのはよそう。

 

陽光が頭上の葉の隙間から差し込み、赤い砂の混じっている地面に模様を映し出す。

そして、歩いているとじきに、森はだんだんと開けた場所が多くなり、林へと変わっていた。魔法の森を抜けようとしているのだ。その時、上空から何かが羽ばたく音が聞こえた。

華扇があっと声を出す。

 

「竿打!」

 

頭上からやって来たのは、大鷲の竿打だった。森を抜けて砂丘へ入るときに、いつの間にか居なくなっていた。その時は、ただこの場を離れているだけだと思ったし、砂丘のような開けた場所で竿打が飛んでいればまたすぐにガルルガに見つかってしまうと考えたからあまり気に留めていなかったが…。

 

「お前、一体どこにいたの?」

 

華扇の横に降り立った竿打。

 

「怪我をしてるじゃない」

 

華扇は、竿打の背中に固まった血が付着しているのに気付いた。周囲の羽毛の中をのぞくと、小さいが深くできた切り傷のような跡があった。傷は血こそ出ていないものの、まだ全然治っていなかった。竿打はその傷口に触られると、少し嫌がるように体を震わせた。

 

「え?私たちと別れている間に敵に襲われた?」

 

「何だと?」

 

「…憲兵団ではないみたいだわ。こう、背の高い男だって」

 

「…背の高い男…?」

 

「その男に襲われたそうよ。きっとマガノ国の奴に違いないわ」

 

新子は少し考え込んだ。

 

「どうしました?」

 

「い、いや…何でもない。先を急ごうぜ」

 

変な感覚に囚われながらも、新子と華扇、そして頭上の木々の枝を渡るように飛んでいる竿打と共に目的地へと急いだ。

 

 

 

そしてかなり歩いた。日も暮れようかという頃だった。続いている獣道の遠くの方から、何やらガヤガヤと騒ぐ声が聞こえてくる。二人はとっさに太い木の後ろに隠れた。

 

「あの声は憲兵の野郎どもだな…」

 

「上へ登って様子を見ましょうか?」

 

そう言っている間にも、聞こえてくる憲兵たちの声は大きくなる。

そしてついに、道の向こうからやってくる、灰色の軍服に身を包んだ憲兵団が見えた。

 

「まさか、禍王は既に南の歌姫が倒されたことを知ったのかしら?」

 

「それに半端じゃねぇ数だ…30人は居るぜ」

 

二人は木の太い枝の上からじっとそれを見ていた。

たのむ、このまま通り過ぎてくれ…!

 

「総員、止まれ!ここでいったん休憩を取る!」

 

部隊の隊長らしき、角のついた仮面をかぶった憲兵が片手を上げてそう呼びかけた。すると他の隊員も続々とその場で止まり、座り込んだり背負っていた荷物を置いていく。

 

「かぁ~、最悪だ!奴ら当分動かねぇぜ、飯の準備始めたし…」

 

憲兵は置いたかごの中からパンや肉、果物をそれぞれ取り出して、また地面に座り込んで騒ぎながら食事を始めた。無邪気に大笑いしながらものを食べる姿は、里で威張り散らしている時と違って何か違った印象を感じる。

 

「おや?」

 

肉をかじっていた憲兵がふと後ろを振り返り、そばの木の根元を見た。その木の根元に太い鎖で縛りつけられていたのは、へんてこな姿をしている生き物だった。背格好は人間の少女のように見えるが、頭の黒い髪の毛の間から兎の耳が伸び、白いワンピースのスカート部分からは、丸っこいふさふさした兎の足がぐったりと伸びている。

その兎のような少女は、俯いて腹をさすっている。

 

「おい、あのチビも腹が減ってるらしいぜ!」

 

その憲兵がからかうようにそう言った。それにつられて、他の憲兵もそちらへ振り向く。

 

「あれは?」

 

「妖怪兎…かしら。おかしいわね、迷いの竹林の最果てでひっそりと暮らしていると聞いたけど…。でもあの様子じゃ、憲兵団に捕まってどこかに護送される途中みたい」

 

怯えた目でひたすらに地面を見つめている。

 

「囚人の癖に飯が食いたいだと?生意気な!」

 

「まあそう言ってやるなよ」

 

「ああ、これだけ歩かされりゃ腹も減るさ!」

 

憲兵の一人が立ち上がり、食べかけの骨付き肉を持ってその兎に歩み寄り、しゃがみ込んで肉を差し出した。

 

「ほらよ、食え」

 

憲兵の食べかけではあるが、肉汁がしたたり落ちそうな肉を見て、兎は喉をごくりと鳴らした。そして目を輝かせながら、差し出された肉を受け取ろうと手を伸ばす。

その時…

 

「バァ~~カ!」

 

その憲兵は足を振り上げると、思い切り兎の頭を蹴りつけた。あまりの力に、兎の軽く小さな体は簡単に吹っ飛び、首に付けられた鎖によって引き寄せられる。

兎は首を押さえてゴホゴホとせき込み、木にもたれかかった。

 

「オメーに喰わせる飯はねぇ!」

 

「ガハハハハハ!!」

 

「家畜以下だぜ、コイツ」

 

憲兵は肉を一気に食べきると、残された骨を兎に投げつけた。地面に落ちる骨に振り向いた兎の片耳は千切れかかってしまっており、血が流れている。

 

「アイツら…!もう我慢ならん!」

 

そう声を上げた新子は、カバンからバットを抜くと、それを持って木の枝から飛び降りた。そして着地ざまに最初に兎を蹴った憲兵の頭を踏みつける。

 

「な、何だお前は!?」

 

驚く憲兵の一人を、近くの石を拾い上げてそれで思い切り殴りつけてやった。憲兵は頭を押さえてよろめき、他の憲兵が怒号を上げて新子に襲い掛かる。

 

「あちゃー…」

 

すぐに乱闘が始まった。向かってくる憲兵の腕をすり抜け、顔面をバットで殴る。そして投げ飛ばしては地面に叩きつけ、蹴っては殴り、片っ端からねじ伏せていく。

その様子を、兎はただ驚きながら見つめていた。

 

「オラオラ!」

 

電気棒を振り回す憲兵の腕を殴り、痛みに声を上げて電気棒を落としてしまう。チャンスだと思い、再び殴りかかったその時、突如新子の横で爆発が起こった。

 

「な…!」

 

「驚いたか?ついこの前、俺達憲兵に支給された新しい武器だ。まだ試作段階だし、数も少ないので隊長でしか使えないのだがな」

 

仮面をかぶった隊長らしき憲兵が、右腕をこちらへ突き出すように向けていた。よく見ると、その右手にはカタパルトのようなものが搭載された手甲をはめている。そして、そのカタパルトを引き、そこに小さな爆弾を置いて、一気にカタパルトを離した。

勢いよく射出された爆弾を、新子はギリギリで避けた。自分が立っていた場所で爆発が起こり、やけに臭い爆風と煙が広がる。しかも、着弾した場所に生えていた草が燃えてなくなるのではなく、溶けていた。毒薬のような物が混ざった火薬だったのだ。

 

「次は外さん」

 

隊長はもう一度カタパルトに毒爆弾をセットする。

と、その時、突然周りの憲兵が倒れ始めた。隊長も何事だと辺りを見渡す。気づけば、木に鎖で縛りつけていたはずの囚人が居なくなっている。

新子は見ていた、隊長の背後に、華扇が近づいていた。その少し上にいる竿打の足には、さっきの妖怪兎がしがみ付いている。

 

「あ…お前達、聞いているぞ…例の二人組か!」

 

隊長は腰に下げた短剣を抜き、華扇に向けた。そして素早く間合いを詰めると、一気に斬りかかる。しかし、隊長は後ろから軍服の襟を引っ張られた。

 

「コラ、テメェの相手はアタシだろ」

 

後ろにいた新子のパンチを間一髪で避け、地面を転がるように距離を取った。様子を伺うように、短剣を構えたままじりじりと後ろに下がり、勝ち目がないと分かると、一目散に逃げだした。逃げる隊長を、その場から起き上がった数名の憲兵が追いかけていく。

 

「さぁ、早くこの場を離れましょう」

 

二人と、兎を足で掴んだ竿打はすぐにその場から離れた。

 

 

「酷いわね…。片耳も千切れかけ、ほぼ全身が打撲…」

 

華扇は毛布の上に寝かせた妖怪兎の身体を調べながらそう言った。兎の身体はかたかたと震え、包帯を巻かれた頭を押さえている。首に付けられた首輪と鎖を、軽く切断する。

 

「た、助けてくれてありがとう…。私は…見て分かると思うけど、妖怪兎なの。”コト”って名前よ」

 

「なぁ、何が有ったか聞かせてくれねえか?そもそもよ、華扇から聞くにゃ、妖怪兎ってのは東の竹林にしか住んでいないみたいじゃねぇか」

 

「私は一月前に、仲間と一緒に新しく住める場所を求めて旅に出たの。最初は7人だった。でも、恐ろしい魔獣に襲われたり、事故で死んじゃったり、マガノ国の憲兵団に殺されたり…。私だけは何とか生き延びられたんだけど、丁度そこで憲兵に掴まっちゃって…」

 

そう話す”コト”は膝の中に顔をうずめてしくしく泣きだした。余程恐ろしい目に遭ったのだろう。見たところ幼いので、トラウマになってもおかしくはない。

コトは、華扇の持っていたアップルブレッドをひとつぺろりと平らげると、安心したからかすぐに眠ってしまった。

 

「もう日は遅い。進むのは明日だな」

 

「そうですね。でもこの子はどうするの?当然、この先連れて旅ができる訳じゃないし…」

 

「しょうがねぇな、朝になったら一人で帰らせるしかねぇ」

 

「帰らせるなら、ここはまだ危ない場所…。林を出てから、森の外側を回って竹林へ向かうように教えましょうか」

 

華扇は、ポケットから、何やらカラフルな柄の小さな木箱を取り出した。それを片手で持つと、真剣な顔でそれを弄り始める。

 

「何だそりゃ?」

 

「さっきの憲兵の落とし物よ。何やらからくり箱のようだけど…どうすれば開くのかしら?」

 

その時、華扇の指が箱のどこかに触れた時、カチッと小さな音がした。直後、箱の蓋らしき面の横から木の棒が一本飛び出した。華扇は慌てて箱の蓋を開けようとするが、まだからくり箱は開く気配を見せない。

 

「一本だけじゃだめみたいね。何か別の仕掛けがあるのね」

 

 

二人は、竿打を見張りにつけて今日は休むことにした。新子は背の高い男についての違和感、そして西の歌姫への不安を抱いて、眠りに落ちた。

 

 

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