蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
岡紐楼、その出自は謎に包まれていた。
彼の出自にはデザインチャイルドを生み出した「刑部藤十郎」が関わっていた。彼その実験体として遺伝子の一部を組み替えられていた。彼はその出自に苦悩するが、意外な人物が相談相手となった。
轟音を立て哨戒任務の警戒機が帰還する。
霧の艦隊などの早期発見、早期対処といった体らしいが仮に早期発見をしても、対処する戦力は心もと無いだろう。
そもそものんびりと飛行する警戒機が墜とされずに帰還する事自体が珍しいが。
こうした行動をとる人間への興味もあるが、近頃は機械に対する興味も「発生」した。戦うための機械に対して、だ。
人間にも私のように戦うための機械が好きな人間はいるだろう。
これは自分も機械故に発生したものなのだろうか?
しかしあくまでこれは人間らしく行動する為のロジックの一つらしいが。
「401」や「ズイカク」からのレポートを拝見しているが役に立つ。
白い包帯をたなびかせヴィルベルヴィント――ウインドは思考していた。他の艦は要領の無駄遣いと理由付けてしないだろう。
「――人間側についた方が得だと私は思うが」
ウインドは天を仰いで呟いた。
反応はなかった。がこの言葉に対する返信ではない、別の反応が検出された。
「救難信号?」
自身のバグではないかと疑ったが確かに検知出来る。
しかもそれは同胞でもある超兵器からのものだった。
これほど微弱なものは初めてだ。コアから直接発信しているのだろう。
考えるよりも早く体が動く、自分は確かに離反者だがコアのまま放置する訳にはいかない。
思考が追い付く。待て、と。
見下ろすと発信源の付近にブレーキ音を立たせながら一台の車が急停止した。
かなり焦っているようだ。
男が一人、車から出る。乱暴な運転の割にはさほど焦っていないようだった。
何か隠しているとアピールせんばかりに周囲を警戒している。
何かを話しているようだ……左手が耳の位置にある。
しかし顔は見えない。
おもむろに男の右手が上着の中に入った。
そして、取り出したのは拳銃だった。ベレッタか?御丁寧に
ウインドはすぐさま「戦闘モード」に移行した。
……感情シュミレーター-OFF
戦闘システム-ONLINE
軍務省、公安組織等のデータベース、アクセス開始――セキュリティ、クラッキング。
顔さえ分かれば誰かは分かる。
しかしこの位置からでは見えない。
隣の倉庫の屋根に飛び移れば見えるが、気付かれる可能性-大。
コアと通信するという手段は有効だが恐らく気付かれるだろう。
この体での格闘戦は難しい。
しかし、運が良かったのか男が周囲を見回したタイミングで顔は分かった。
照合開始……一番怪しい陸軍内ではない。
では海軍か……該当者無し。空軍……無し。軍人はおろか軍務省内で合致する人物はいなかった。
マフィアか?
その可能性は高い。
そして、その男は車からケースを取り出しコアへと手を伸ばす。
……仲間を見捨てる事は出来ない。
こんな時になっても感情シュミレーターがそう言っている。
仕方がない……ごめん、梅津。
するとウインドは気付かれぬよう、倉庫の屋根から飛び降りた。
「あの~」
やはり男は銃をサッと隠した。
「ごめんなさい。道に迷ってしまって」
「何だ君は?」
「ム……怪我をしているじゃないか。大丈夫かい」
自分の正体を問わない男の態度に意外なものを感じる。
「その……これから病院に行かなくちゃいけないんですけど道に迷ってしまって……」
「携帯を持ってないの?」
「ハイ……」
「それで、ここはどこなんですか?」
「ここはね統制空軍横須賀基地、さ」
「さて、どうして君はここにいるのかな?柵を乗り越えた訳ではあるまいし」
男は再び拳銃を取り出し、銃口をこちらに向ける。
「……初対面の人にいきなり銃を向けるのは失礼極まりないと思います」
「君は何者何だ?何故こんなに冷静でいられる?」
「……」
「あと、君は見てはならない物も見てしまったようだ」
乾いた、小さい音が響く。
男は無言で発砲した。手慣れているのだろう。
しかし、銃弾は静止していた。
と同時に小型の「盾」も形成されていた。クラインフィールドである。
その盾が銃弾を防いだのだった。
「……やはりか」
「では、これならどうかな?」
今度は銃口をコアに向ける。
その口調は自信で溢れている。
相手は勝利を確信しているな。
「残念だったな。コアの状態でも銃弾は防ぐ」
人質を取ればこちらが降伏するとでも思っているのか。
しかし、男は物怖じせず
「なるほどそうなのか」
「貴重な情報に感謝するよ」
男がわざとらしく感心している。
ウインドは隙を突き拳銃をはたき落とす。
「お前は誰だ?」
「それはこちらのセリフだ」
拳銃の次は携帯を取り出し
「これで海軍基地がぶっ飛ぶ仕掛けになっている」
「つまり、私はこんな事も出来る力を持つ人物だ」
抵抗の方法が無い。
これ以上梅津を心配させる訳にはいかない。
「……そのコアはくれてやる」
「最初からそう言えばね」
再び拳銃を手に取り上着にしまう。
男が車に乗る際振り返り
「君は『どちら側』のメンタルモデルかは分からないか」
「君と私はもう一度関わる事になるだろうね」
「ま、せいぜい頑張りたまえ」
「それと陸軍の動きは注意することだ。既につけられているかもね」
男の正体を聞き出す前に取り押さえておけば……
――これが「後悔」か。
「あいつは小物だろう霧だとしたら偵察、諜報タイプ……つまりは潜水艦か潜水艦といえば401だがあれではないね」
ペンを顎へやり思考する。
「では未確認のタイプでしょうか?」
「それもあるし、もしくは超兵器かな」
「それもあるでしょう」
聞き役をしている女性の、キーボードを叩く手は休まない。
「しかしハッタリが効いたとは驚いたよ」
「怪我人を装っていたようだが気付かなかったよ」
「それは結構なことで」
「超兵器の中にも勝手にメンタルモデルを形成して活動しているやつがいるのかな」
「さあどうでしょう」
女性は男の話には興味は無さそうだ。
「やれやれ、『コード』は緩いね~形骸化しているよ」
「……局長これでどうでしょう」
局長と呼ばれた男はモニターへと見やる。
「フム、これでいいでしょう。さすがは秋吉君だ」
「後は情報が来るのを待ちましょう」
秋吉はそれを保存する。
「まくれぐれも慎重に動いとくようにって頼んどいて」
「?どうしてです」
「最近空軍の動きが大きくてね。下手に動いて勘繰られたら困る」
「警戒機やら無人警戒機がブンブン飛んでるよ。一番先に手柄を立てようとしてる」
「ほら、この間のやつで新鋭機のF/A-4が墜とされたでしょ。それで彼らカリカリしてるんだよ」
「そうなんですか」
「頼んだよ」
「それともう一つだ」
「この間のやつの後、どんな動きがあった?そろそろ信頼のおける情報が来るはずだが」
「ええ、あの後確かに各国で動きがありました。むろん帝国は警戒していますが」
「あの人は欧州で一杯一杯なんだよね――いやそうでもないか……」
「それと『振動弾頭輸送計画、改訂版』が楓首相に承認されました」
「へぇ~上陰は本気で米国まで配達するつもりなのか」
「……まあそのくらいです」
「さて、事はおおかた動き始めたか」
「アレの解析は、済んだ?」
「ええコンピュータの回答は『不明』の一辺倒です」
「カチ割って調べる訳にもいきませんしね」
2人は夕食後再び会話をしていた。
「……それで、最近の米軍の動きは?」
「何度も帝国へ侵攻していますが弾き返されています」
「辛酸を嘗められているな、ハハ」
「対地ミサイルを撃とうが迎撃され、戦略爆撃機を向かわせようが墜とされ、そもそも機体が高すぎるから議会が反対しているのかもね」
「ロシア、中国は介入していないのかい」
「国力増強に徹しています。中国は新型空母『江西』を竣工させました」
「ふうん艦載機は『殲-20』あたりかな」
「ま、いいでしょう」
携帯の着心音が鳴り響く。
「失礼」
「私だ……ほう、それは朗報だな」
「第三東部方面隊がいいな。確かあの部隊の司令は三峰だったな」
そう言うや別の相手に掛ける。
「宮戸だ。君らが動ける口実を作ってやったぞ」
「――つまり、陸軍の出番だ」