蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
陸軍の動きはクーデターの如く性急であった。裏で糸を引いていたのは謎の男、宮戸。
梅津は単身現場に急行する。もちろん、この動きに気づいたのは梅津たちだけではなかった。
「どのチャンネルもダメです。通じません」
「しかし、航空機との交信は可能です」
「直ぐにAWACSをおろせ」
百里基地を始めとし各空軍基地同士での連絡がつかなかった。
「くそ、何が起きている」
「やはりこれのせいでしょうか」
極秘とは名ばかりの資料を手に取る。
「司令、まさか……」
「まるきりクーデターだな、構図は」
宮戸はモニターへと目をやる。
事は彼の頭の中のスケジュール通りに動いていた。
「しかしだ秋吉君。中央管区だけだと思っていたが北、南にまで通っていたとはね」
「しかし、クーデターの制圧までは時間がかかります」
「ま、多少の誤差は付き物か」
モニターは各空軍基地同士を繋ぐラインが交信不能を示すバツ印で覆われていた。
「どの道これが収束した所でどう頑張っても我々の所へは辿り着けない」
「そう断言できますかね」
秋吉自信満々な宮戸を横目で見る。
「一体どこに向かっているんですか!」
「安全な所だ!決まっているだろう!」
しかし、軍靴の音は近づいていく。
国道が見えた。2人の制服男は待て。と指示する。
「もう向こうは住宅街だぜ」
「陸軍の車輌が通るかもしれん」
言ったそばから通過した。当然気付かれなかった。
国道を見下ろせる位置で息を潜めていた。
程なくして、上空を数機の影が通過した。
「攻撃ヘリ!」
「本気のようだな」
「空軍は何をしているんだ?」
「その事情を……はい梅津」別のヘッドセットを手渡す。
(?)
「あーえっとこれは『携帯型量子通信機』……今名付けた」
「みらいと繋がるようにしてあるから」
早速梅津取り替え、交信する。
「梅津だ。『みらい』聞こえるか?」
『艦長』
「その呼び方はやめてくれ」
「しかし、よくこんな物を短時間で作ったな」
『えーとそれはウインドちゃんのお手製だってさ』
『そうだ。約6パーセントをナノマテリアルで構成している』
(ウインドの体の……一部……か……)
途端に複雑な気分になった。
安斎が今の梅津の顔を見てどんな表情を浮かべているかは火を見るよりも明らかであろう。
「さてと、これからどうする?」
「このまま帰るのが一番の得策だがな」
「ここら一帯は陸軍が目を見張っている、ここから動かない方がいい」
「……」
そばにあった茂みが動いた。
「うわッ」
「誰だ!」
男は茂みから現れた影へと拳銃を向ける。
「よう」
「……じゃあなかった。今晩は人間の皆様」
「は?」
頭は「?」で埋め尽くされる。
(誰だ……この少女……この変な物言い……まさか)
「新たな……メンタルモデルか?」
梅津が素早く問う。
「自己紹介をしよう」
「私の名前は――覚えにくいが『ヴィントシュトース』だ」
「その名前!お前はいつぞやの!」
安斎の言葉に岡、咲嘩部がつづいてあ。と言った。
構わずヴィントシュトースは続けた。
「わたしは先日、人類のフリゲート艦ミライに沈められた。船体は失ったがどうにかメンタルモデルの形成に成功した」
その姿は身長は「ヴィルベルヴィント」と同じだったが、物静かなヴィルベルヴィントと比べると快活な印象を受ける。
「わたしは仲間から『不名誉な艦だ』とか『沈んでイカレちまった』などと言われているが、普通の人間に見えるだろう?」
「変人にしか見えんぞ」
「それは褒め言葉か?」
安斎はもうメンタルモデルとのやりとりには慣れてしまっているようだ。
「はぁ……」
梅津は大きく嘆息する。
(ますます面倒な事になった)
一方、制服男2人は口をあんぐりさせていた。
そしてヴィントシュトースは唐突に、「あのデカイ家に入る手伝いをしようか?」
「バ……バカ何いって――」
「あら?あんたは行きたそうね」
岡を見ていた。
ヴィントシュトースは岡の「事情」に勘付いているようだ。
「では行くわよ、オカ」
「ええっ、ちょっ」
しかし拒んではいないようだった。
「心配いらないわ。わたしはこんなことも出来るんだから」
突然、ヴィントシュトースの姿が消えた。
「うわッ」
「光学迷彩……ではないようですね」
「確かに」
その実態は周囲の景色と同化しているだけのものであった。
しかしこの暗闇の中では見つける事は困難だ。
また、鉄壁のクラインフィールドも装備している。
「では行くわよ~」
「うわぁッ」
ヴィントシュトースは岡をがっしりと掴み、人間業とは思えないジャンプであっと言う間に屋敷へと向かって行った。
「追いかけるだけ危険か……」
「それにメンタルモデルといえども戦闘能力は伊達ではないからな、陸軍はその事は知っているのだろうか?」
「梅津さん。私たちも仕事があります」
「何です?」
「このクーデターという事態を北管区に伝えなければいけない」
「成る程……そうだ」
梅津は再び「みらい」と交信する。
「ウインド、この電波障害の原因は分かるか?」
『調べてみる』
そして別の相手へもコンタクトを取った。
ウインドの助けもあり彼の自宅の電話に割り込んだのである。
上陰次官補にである。
「みらいを出します。よろしいですね」
『構わん、私も情報収集を急いでいるのだが……この電波障害は普通ではないがある程度臨機応変に対応出来る君たちという存在はありがたいよ』
「ええ、ありがとうございます」
「みらい」のチャンネルへと回す。
「ウインド、永田!『みらい』出せ。安全な場所で待機だ」
『了解』
『レーダー換装完了。各兵装……
「出航次第各種レーダー作動、電子戦だ」
『大出力レーダーで打ち破ってみる』
「それは任せる」
『了解』
『各種接続、問題ありません』
『みらい、出航。目標地点との距離を
「よしわかり次第報告してくれ」
「あーそうそう。絶対にわたしから離れないでね~」
「銃弾を防ぎきれなくなるから」
「分かった」
銃弾か飛び交う音、そして爆裂音が断続的に響いてくる。
「何故ヴィントシュトースは岡を連れ去ったんだ?」
「……」
珍しく安斎が途端に黙り込んだ。
「安斎?」
安斎は腹を括る。
「いや、その岡は刑部博士とは親戚で……」
「なんだ、それだけか?」
「そうじゃあなくて!」
「岡は刑部博士に遺伝子操作をされて生まれてきたんだ」
「……」
「通りであいつは浮いていたんだよ。賢すぎてね」
「あと、刑部博士は生まれて間もない岡は政府にマークされることを恐れて里親に出して行楽地に住まわせたんだよ」
「えっじゃあ岡君の本当の親は」
「さあ……今となっては誰も知らねーって言ってたよ」
「フ……このチームは複雑な人物が密集しているよ」
梅津は自嘲気味な笑みを浮かべる。
「けれどもこんな大胆な事も出来るんだぜ」
「そうだな……」
再び通信が入った。
『みらい、固定完了』
「電子戦開始」
『了解。電子戦開始』
ウインドは目を瞑る、すると体に文様が浮かび上がった。
本気の力を出しているという状態である。
それと同調するように「みらい」の各種レーダーが作動を開始した。
それは並大抵のものでは無く、甲板上や艦の周囲にいる人間を一瞬で料理してしまう程のものであった。
と、同時にディーゼルもフル稼動に入る。
徐々にモニターに輝点が表示される。おびただしい量のものであった。
『フム、鎌倉沖にタカオ型、マヤがいる。マヤは刑部邸のメンタルモデルとデータリンクをしている』
『
「すごいな……ウインドは」
『フム、遥か上空にステルスの無人機が数機飛行中だ』
「機種は特定出来るか?」
『オオトリハッキング開始……』
『機種特定、EQ-47Cペガサス』
「EQ-47C?」
EQ-47Cは米軍の開発中止となった艦上無人機「X-47」の機体を流用した無人電子戦機である。従来の無人機では到達不可能な高度での飛行が可能であり、ステルス機能をも持つ。
「撃ち落としてくれ」
『2人じゃ大変ですけどやってみますよ!』
『スタンダードミサイルはコンピュータが一杯一杯……やはり
『了解、ウインド』
『トラックナンバー、1001から1004まで24式艦対空誘導弾を使う』
『了解24式1001から1005、発射』
「みらい」後部VLSより24式が上昇した。かなりの高度での迎撃である。
『命中まで25秒』
ウインドの秒読み通り命中、撃墜した。
EQ-47Cとある輝点がモニター上から消えた。
『全機撃墜……はぁ』
通信機の向こうから疲労が伝わる。
「よく頑張ったな。休んでいてくれ」
『了解』
「徐々に通信障害は回復していく筈です」
梅津の携帯には上陰から「よくやった」とメッセージを受信した事を知らせた。
「おや、回復が早いな」
「くそー岡を待たなきゃいけないじゃん」
「しかし『みらい』の電力の消費量は凄かっただろうな」
しかしひとまず安堵した梅津たちとは裏腹に北管区から来たという制服姿の男2人はソワソワししきりに北管区と連絡を取ろうと模索していた。