蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結)   作:チキンブロス

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——前回のあらすじ——
当局は何者かが引き起こした電波障害によって硬直状態に陥っていた。陸軍以外で刑部邸に向かったのは梅津たち、超兵器のメンタルモデル「ヴィントシュトース」、北管区の男二名のみであった。
そしてヴィントシュトースは岡の心情を察し、戦場となる館内部へと二人は向かった。


12kt:クーデター完遂せず その3

電波障害は解消した。

しかし制服の男2人は焦っていたのだ。

「もう一つ、言っていなかったが……我々と通信が不可能になった場合には……北管区は即座に陸軍のクーデターと判断する」

「そしてその一定時間が経過した」

「?どうなるんだ」

「そして、三沢基地から攻撃機……A-10J、コールサイン『オリオン』と爆装したF-2C、コールサイン『バンク』がこの周辺を一掃する」

「何!?」

「連絡を今取ろうとしたが……手遅れだった」

「引き返させるのは無理なのか?」

「これはこの事態に対する措置だと決まっている。お上が決めたんだ。どうしようもない」

「何もかも無にしてしまおうと。いう事か」

しかしもう1人の男は何やら連絡を取っていた。

「約25分後に到達します。刑部親子は保護するとの事です」

「屋敷でドンパチしているメンタルモデルは?」

「本人の希望があれば、とのことです」

「しかしそれまで博士と岡が危ない」

 

F-16Vをモデルにし、大型ドーサルスパインを機体背面に、エアインテーク下部に下半角のついたカナードを追加し、かつてロッキード・マーティン社が提案したものの提案だけで終わった「F-2 Super Kai」に酷似し、より対地攻撃に特化した戦闘攻撃機「F-2C」、そして霧の艦隊の脅威に煽られ兵器体系の多様化という名目の下、なけなしの予算で配備した退役寸前の攻撃機「A-10J」のパイロットは共に辟易としていた。

今回の出撃のその任務は霧の艦隊に対するものでは無く、同じ、協力し合わなければならない人間であったからだ。 ましてや、目標は同じ日本人でもあったからだ。

しかし、これは任務である。嫌だと断る訳にも行かない。

全部霧の艦隊の陰謀だと信じ込むしか無かった。

 

後方を飛行中のE-2D(AEW&C)から通信が入った。

『〈エクセル〉より各機、目標の情報が入った。目標は陸軍の多脚戦闘車輌〈岩蟹〉である。なお目標は無人である』

『また付近への被害は可能な限り最小限にとどめよ』

『コピー〈オリオン〉1、2』

『……コピー〈バンク〉1、2』

今回の任務において攻撃目標が無人機だというのが唯一の救いとも取れた。

しかし、誘導爆弾を搭載し身重な機体と同様にパイロットの気の重さは変わらなかった。

そしてより詳細な情報が入った。

『〈エクセル〉より各機、輸送ヘリが我々より15分後に到着する。それまでに片付けろ』

『輸送ヘリが到着次第離脱、帰還せよ』

『この機体の初めての実践が霧相手じゃなくて陸軍相手だなんて……喜ぶのは海軍の連中だけだ』

『〈オリオン2〉私語は慎め』

『ただの独り言ですって』

『やかましい。目標地点まで誘導する』

『了解』

 

断続的に銃声が響く、そこは立派な戦場だった。

メンタルモデルには依然として手も足も出ない。

既にヘリ1機、岩蟹3機を失っていた。

「戦況は芳しくありませんな」

「くそ、海軍の奴らがこうなるように仕向けたのか?」

苛立ちは募る一方である。

「三峰のヤツめ……鶴の一言でこうだ。たまったものでは無い」

 

木から木へと飛び乗りつつようやく屋敷が見えた。

銃声、それに爆裂音も響いている。

「……行くわよ」

「はい」

ヴィントシュトースは窓に足から突っ込んだ。

しかしクラインフィールドを展開していたので傷一つ無い。

「誰だ!」

しかし窓が割れる音は陸軍の兵士を呼び寄せた。

「あ……」

「構わん。撃て!」

89式騎兵銃、20式小銃が向けられる。

細長い廊下であったので両側から銃弾を浴びせられた。

「ひぃぃぃぃぃ!」

硝煙が収まった。

しかし、ヴィントシュトースは勿論クラインフィールドで銃弾を弾いた。

「クソッ!」

もう一度兵士たちは引き金に指をかける。

するとヴィントシュトースはポケットから球体を取り出した。

そしてそれを地面に投げつけた。

白い煙がそこにいた全員の視界を遮った。

「ええい動く物は全て撃て!」

「やめろ!同士討ちになるだけだぞ!」

「早く!行くわよ」

「分かった」

 

梅津たちは相変わらず茂みに身を潜めていた。

制服音は絶えず連絡を取っている。

一部情報によると「北良寛」がこの事態に気付いたとあった。

ますます政治的な面では難しくなるだろう。

恐らくこの事件によって「北良寛」の政治家としての立場に終止符を打つだろう。

 

「博士~!刑部博士~!」

岡はこの屋敷の構造を把握していなかった。

また、この屋敷には隠し扉や通路が至る所に存在した。

きっとこの事態を想定したものだろう。

ので、思いの他時間がかかる。

時折ばったりと遭遇する兵はヴィントシュトースが対処した。

(何故ここにきている?)

気付いたのは刑部藤十郎が先だった。

岡たちが食堂へと辿り着いた時だった。

壁の一部、壁であったものが重い音を立てて動いた。

「博士!」

「岡君!」

思わず岡は駆け出す。

しかし、博士の元へは辿り着けなかった。

突如これまでには無い爆裂音がこだまし、地面は揺れ、岡は転倒した。

その時間が来たのである。

 

『マスターアームオン、準備良し』

『〈エクセル〉より〈オリオン〉建物正面玄関の岩蟹を攻撃せよ。ガトリング砲のみ使用を許可する』

『コピー、〈オリオン1、2〉』

『〈エクセル〉より〈バンク〉へ〈バンク〉は飛行中の攻撃ヘリへとレーダー照射、後離脱するよう勧告を行え。その意志が無いものとしたら即時撃墜せよ。威嚇はいらん』

『コピー〈バンク〉1』『2』

『突入する』

『オリオン1、攻撃開始』

 

「……何の音だ?」

「せ……戦闘機だッ!」

既に梅津達は安全地帯への退避は完了していた。

「来たぜ」

「アベンジャーが火を噴くな」

 

『よーく狙えよ』

『FOX3』

そしてA-10J「サンダーボルトⅡ」の機首下部に搭載されたGAU-8「アベンジャー」30mmガトリング砲が吠える。

それは雷鳴にも聞こえた。

30mmの銃弾は岩蟹の周囲の地面ごと爆ぜた。

「うわぁぁぁ!」

少し遅れて轟音が耳をつんざいた。

『オリオン1、離脱』

『オリオン2、攻撃開始』

オリオン2も同じく岩蟹目掛けてガトリング砲を連射する。

オリオン1が仕留め損ねた岩蟹をまとめて片付けた。

『あと数機残っている』

旋回し再び突入コースへと入ったオリオン1は岩蟹を逃さなかった。

『〈エクセル〉より〈オリオン〉屋敷の裏側にメンタルモデルがいる。援護せよ。……対地ミサイルの使用も許可する』

『了解』

そして〈オリオン〉1、2は大G旋回をかけ屋敷の裏側へと向かった。

『使うのは最低限にしろよ』

『了解』

対地ミサイル(AGM-65 マーベリック)発射、複数体の岩蟹が消え去った。

パイロットはメンタルモデルは真直にいたが傷一つ付いていない事に改めて霧の艦隊の脅威を感じ取った。

また、F-2Cは一機のヘリを炎に包んだ。

やはり自分たちがしている事はクーデターなのかと気付いたのか他のヘリは恐れをなしたのかあっさりと離脱していった。

 

轟音が轟続ける屋敷内では一部が崩壊していた。

このままでは自分たちも危ない。

そう感じたのかヴィントシュトースは岡の手を引っ張る。

「待て!まだ博士が!」

「このままだと私たちも危ないわよ!」

「構わん!君たちは先に脱出しろ!」

その言葉が岡にとっては博士との今生の別れとも捉えられた。

「迎えが来ている!大丈夫だ!」

輸送ヘリの音が近づく。

北管区のヘリである事を岡は確認した。

そして、今岡たちがいるその場所も崩壊が始まっていた。

 

ヴィントシュトースは無言で岡の腕をがっしりと掴み、無理矢理外へと連れ出した。

「おい!」

その足は無情にも止まらなかった。ヴィントシュトースの顔には表情は無かった。

感情シュミレーターを切っているのであろう。

「……博士、今までありがとうございました……」

その声は届いていないだろう。

 

程なくして梅津たちと合流した。

「無事でよかった」

「ええ……」

制服の男は連絡を絶えず取っている。

「無事、刑部蒔絵と博士は北管区へと向かっているようだ」

岡はようやく安堵する。

ヴィントシュトースの姿は無かった。

「廃墟になっちまったな」

「ええ、そうですね……」

「さあ、帰りましょう――」

 

岡の目にそれは捉えていた。

 

若い年齢の割には多い白い髪。寂しげな笑顔を持った人物が。

「博士ッ!」

「何!?」

「2……2階から!」

「どういう事だ!」男は怒鳴る。

そのような連絡はしていないとの事だった。

「……」

 

 

北管区の戦闘機が岩蟹を一掃している。

しかし死角というものは存在する。

現に蒔絵がその位置にいたのだ。

眞の部隊はそれに気づいていない。嘆息し拳銃を手に取る。

 

「博士ッ!」

懐かしい人物が現れたが構う事は出来なかった。

彼には幸せになって欲しいばかりである。

辿り着くとやはり負傷した狙撃手がいた。

「眞の部隊、誰か、おい」

無線が通じない。

しかし、あの狙撃手はまだ銃を握っている。

蒔絵をやらせる訳にはいかない。

 

気がつくともう自分は地面に向かい、そして倒れていた。

不思議と痛みは無かった。

(罰が……今頃下ったな……生命を自分の都合で弄んだ罰が……)

しかし満足だった。

「――先生、先生」また懐かしい声が響いた。

僅かに残った力で瞳を動かす。ぼんやりとしか分からなかったが誰かは判明出来た。

 

この期に及んでやって来たのは、宮戸だった。

最初にデザインチャイルドの研究から追放しその後の足取りは分かっていなかった。

「先生の研究は私が完成させます。安心してください」

この言葉にも裏があるだろう。

昔からそういう男だった。

 

残った力を振り絞り

「先に地獄で待っている」

と言ったがやはりあの男は不敵な笑みを浮かべていた。

 

輸送ヘリの音が遠のく。

生き延びてくれ。

と最後に祈り目を閉じた。

 

瓦礫が物言わぬ刑部藤十郎の体を隠した。




〜設定〜
「89式騎兵銃」
「短89式」「89式改」とも呼ばれる。
簡単に説明すると89式をM16に例えると89式騎兵銃はM4という立ち位置の銃。
統制軍において20式小銃の繋ぎとして開発された。
マウントレールによって様々なアクセサリーが装着可能となった。
また短縮化によって89式が抱えていた問題が解決した。
現在は20式が主流となった為配備されている部隊は少ない。
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