蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
事態の鎮圧に空軍が動き攻撃機を向かわせる。一方刑部藤十郎博士の救出に館に侵入した「ヴィントシュトース」と岡はすんでの所で救出を阻まれてしまい館は崩壊し、岡にとってそれが刑部藤十郎の最後の姿となった。
博士の最期にはやはり謎の男、宮戸の影があった。
「うむ、そうか。頼んだぞ」
ここ最近の激務は先日の横須賀港海戦の成果のお陰だろうと上陰は合点した。
電話の次は厄介な人物と話さなければならない。
「先日は御苦労だった――梅津特務中尉」
「あの轟音で耳をやられてしまったのかな……中尉ですって?」
「君の裏舞台での活躍が功を奏したのだ」
「このご時世での昇進は珍しいですね」
「ところで……どう発表したのですか?」
「それは陸軍がメンタルモデルからあの2人を守る為動いたと発表した」
「しかし、あの動きはメンタルモデルや刑部家の混乱に乗じたクーデター。としか見えませんでしたが」
「電波障害……それに三沢基地からの攻撃機の発進そして北管区の介入……」
「だがこのように発表しなければならないものなのだよ」
「それが政治というものだ。梅津君」
「北良寛の圧力ですか?それとも楓首相ですか?」
「今度は硫黄島ですか?色々と忙しいですね。陸軍は」
「折角得たこの立場を棒に振りたくなければこの部屋から出た方がいい」
「……失礼します」
どうやら癪に触ってしまったらしい。
5分と立っていないだろう。
上陰はとりあえず梅津が昇進したとだけ伝えるつもりだったのだろう。
確かに仕方が無いと言えばそうだがあの出来事を生で見た梅津はどうしても納得がいかなかった。
昇進というのは確かに嬉しいが素直に嬉しがる訳にはいかなかった。
岡はあれから永田の家に篭っている。
これも仕方が無いだろう。
父親を失った時の自分と同じ行動をしているからだ。
しかし、あのまま岡を放っておく訳にもいかない。
「政府の公式発表がこうなのか」
「結果がどうであれ我々のアクションは無駄では無かったな」
「次は硫黄島か。全く北さんは行動が早い。どちらにせよそれは我々にとっては得だな」
「成功の確率は低いと思いますが」
「確かにね。既に手は打たれているかもしれないね」
「……それにしてもあの無人機を墜とせるとは……中々のものだな」
「イージス艦『みらい』だと聞いていますが」
「誰が乗っているのかな?」
「不明です。秘匿事項となっています」
「ふーん」
「それにしてもあそこにあった……あれ?」
視線の先にある筈のコアが無かったのだ。
「あれあれ……コアは?」
「さあ、私は知りませんけれど」
秋吉はしれっと答えた。
「……チッ、困るんだよな~秋吉君」
「メンタルモデルの力を甘く見ていましたね」
宮古は頭を掻く。癖になっていた。
「また出掛けないとな~」
(しかし、刑部眞……A-10Jまで導入させるとは……刑部家には警戒しなくてはな)
大きく嘆息し、モニターを操作する。
「しかしあのイージス艦はこう、同じ表舞台には出ない者同士としては要注意だね」
彼の頭の中ではスケジュールが書き込まれつつあった。
永田さんは良い人だとつくづく思う。
こんな身勝手を許してくれるのだから。
しかし、このまま篭り続けるの良くないと心では思っているが体は上手く動かなかった。
気を紛らわす為に地下室の資料をがむしゃらに読んでいた。
知識だけは頭に積もっていくと感じる。
そして資料に読みふけっている中ある自分なりの意見が頭の中をかけめぐった。
そう、霧の艦隊自体は地球で生まれたものではなく――
そして自分たちは戦う為の存在であるために旧時代の軍艦の姿に扮しているかと駆け巡る。
しかしその仮説は霧の艦隊では陸の戦力が今の所確認されていない点で矛盾している仮説であると自分自身で揉み消した。
が、その可能性は0では無いと岡は信じていた。
ちなみにこれらは梅津の計らいだった。
学院の宿題などは雪に教えてもらっていた。
「大丈夫?岡」
「ええ、はい
「……永田さん……格好がラフ過ぎやしませんか」
永田のその服装では視線の先はいつも胸元へと向いてしまう。
「え?家ではこうだけど」
「はぁ……」
雪とも何度か言葉を交わしたが長続きしなかった。
つくづく異性との会話は苦手だという事を思い知らされた。
が、逆に新鮮だった。
来客のようだ。
「はい」
制服の男が立っていた。普通の来客では無いらしい。
「どなたですか?」
「軍務省、海軍局の者です」
「永田元少佐の御自宅で間違いありませんね」
「そうですが」
反射的に警戒する。
こういう立場の人間と関わるとろくな事が無い。
「御用件は」
「岡紐楼さんとお話がしたいと梅津特務中尉からの呼び出しです」
「中尉……?」
梅津は特務少尉という階級のはずだったがと思う間もなく言われるがまま車に乗り込んだ。
しかし、岡を乗せた車は軍務省へと向かわなかった。
警戒心を強める。
降ろされたのはとあるボウリング場だった。
そこに普段のメンバーが揃っていた。
「強引にでも連れ出す方法はこれしか思いつかなくてね」
こんな奇妙な誘い方をするのは勿論梅津だった。
「学生5名……それに軍人1名」
まだ若い梅津はジロジロと眺められたが事実であった。
「俺の昇進祝いだと思ってくれ」
かくして梅津特務中尉の昇進祝いが始まった
一球目はウインドだった。
「目を離さないでよ」
完璧なフォームでレーンに落ちる。
ボールは一直線に進み、ピンに直撃、ストライクである。
「おおー」
小さな歓声が出た。
続いて梅津。
ぎこちなく投げたボールは、序盤は直線を描いていたがボールが進むにつれ右へ右へと緩やかなカーブに入りやがて側溝へと落ちた
2回目も同様であった。
スコアは0である。
「……」
次は女子2人である。
2人とも梅津から見れば同じような腕であった。
「あー惜しいな」
と安斎が口から漏らす。
そして、順番は岡へと回った。
「……投げるか?」
頷き、投げる。
やや右よりだったがボールそもものの意思で軌道修正をかけるが如く手前のピンと向かい合い、心地のよい音を立てる。
ストライクである。
「さっすが岡」
この言葉には安斎お得意の嫌味などは含まれていない。
そして、順番は安斎に回る。
「フ……見ておけよ」
明らかに無駄な動作を入れボールを投げた。
不安定な足取りながらもピンが弾ける心地の良い音が響く。
しかし、ボールはピンの集合体の左側をえぐり取る形となった。
「ちぇっ」
「今のがか?」
「へぇ?聞こえないんスけど」
実際ウインドの少し小さめの声は周囲の喧騒に掻き消され、安斎の耳には入っていなかった。
「……今のがか」
ウインドからの容赦の無い言葉には返す言葉は思いつかなかった。
「まぐれだよ」
「フム、これがまぐれだったら普段はストライクなのね」
追い打ちをかけられる。
「……」
「ハハ……さすがに返す言葉も無いか」
梅津が客観的な立場で言った。
「お前はスコア0じゃあねぇか」
「船を動かす事は出来てもボールは動かせん」
「なんかじじむさいよ」
今度は永田が発言する。
「ええい、やかましい」
そう言い合っているうちにウインドはボールを投げる一連の動作を既に終えていた。
ダブルストライクであった。
「いつの間に……」
「言い合っている間だ」
「やれやれ」
梅津が投げる。
1回目よりかは改善したと見えるが、やはりぎこちないフォームであった。
(入ってくれよ)
しかしボールは梅津の思惑とは裏腹なコースをとった。
そして側溝に落ちる。
「……」
それでもめげずに2球目に入った。
ようやくボールはピンに触れた。
そして右側のピン数本が音を立てた。
点数は低い。しかし梅津にとっては貴重な点だ。
「どうやら俺はこういう競技は似合わないらしいな」
「だろうな」
安斎が食いつく。
そして岡には短く、梅津には長く感じたボウリングは終了した。
手加減というものをを知らなかったウインドが1位となった。
誰も見たことの無いスコアを叩き出したがために注目を集める羽目になったが。
ウインドは全く意に介していなかった。
しかし、他のメンバーは羞恥の念に駆られる。
全員の支払いは梅津が済ませていた。
財布の中身は温かい、熱いぐらいらしいが。
空腹を覚える時間帯であった。
岡は特にそうだった。
朝、ジャンクフードを少しつまんだ程度で呼び出されたのであった。
しかし今まで空腹は感じなかった。家の中で腐っていなかったからでもあるが。
目に入ったファミリーレストランでの昼食となった。
ロングシートに腰掛け、各々注文する。
俺のおごりだ。とここでも梅津は言った。
一体あの財布の中には札が何枚あるのかと安斎はいぶかしむ。
「……強引な呼び出し方で悪かったな」
「いえ、ああでもしてもらなくてはずっと篭っていましたから……構いません」
「そういえば何か分かった事でもあるの?」と咲嘩部。
「ウィルキア帝国の事がありまして」
「ウィルキア帝国ねぇ……アメリカは何をしているんだ。バーって攻め込んだら終わりだろうに」
「そうは出来ないんですよ」
「何でだ」
「どうやら議会内で揉めているらしいんです……霧が先か帝国かで」
「へぇ」
「むろん攻撃はしています。しかし対地ミサイルを撃とうが巡航ミサイルを撃とうが全てことごとく迎撃されています」
「核を使えば一発ですが……」
「ウィルキア帝国はアラスカ、つまり領土だぞ」
「ええ、腐ってもあそこは領土ですから、核なんて使えませんね……次の大統領選で勝てなくなりますから」
「大統領選なんて呑気だね」
「呑気にいたいんだよ。いるようにでも見せかけなくてはプライドが保てんからな」
「……それにロシアに頭下げて使わせる訳にもいかないわね」
永田が続ける。
「仮に首を縦に振っても運ぶ飛行機がのんびり飛んでいてはね」
「確かにな」
「帝国の対空兵器は強力です」
「まあ、超兵器の技術が使われているんだろうな」
「しかしだ」
梅津がきっぱりと言い放つ。
「元首ヴァイセンヘルガーは今はヨーロッパだ。意味が無い」
「……おっとすまない……ついつい固い話になりがちだよ職業柄ね」
「たらふく食べてくれ」
「では仕切り直して……」勿論安斎が司会役である。
「梅津の昇進に乾杯」
「カンパーイ」