蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
陸軍の動きは政治的な駆け引きによって事なきを得る。しかし岡紐楼の心は傷ついたままであった。梅津は不器用ながらも岡を元気付ける為に行動を起こす。
昇進祝いが始まった。
安斎、梅津はがっつりとしたものを頼む。
一方ヴィルベルヴィント――ウインドはサンドイッチだけという質素なものだった。
「これだけでいいのか?」
「我々メンタルモデルは空腹というものは感じないんだ」
「スナック菓子、チョコレートなどをつまむメンタルモデルもいるらしいが人間の真似ごとに過ぎないわ」
「そう固くなりなさんな」
「いくら食べても太らないなんて羨ましいよ」
永田も頷く。
そうこう話しているうちに料理が運ばれてきた。
「そういえば梅津」永田が尋ねた。
「どうして昇進出来たの?」
「さあな。俺の知らない所で色々動いていたのかもしれないな」
「まあ、俺には都合の良いことだが」
「あと俺たちはどうやら第3特務艦隊という肩書きを得たらしい」
「おお!それっぽくなってきたぞ」
「ま、遊撃隊と言っていいかもしれんが」
「ちなみに第1特務艦隊は『蒼き艦隊』と便宜上そうなっている。そして第2はあの白鯨で第3が旗艦『みらい』となっている」
「扱いにくい奴らを集めたみたいだな」
「フ……確かにな」
梅津が唇を歪めた。
「あーあ、そちらさんは楽しく昼食ですか?」
「いいよなぁ暇で。日曜日がきちんと休みになっていて」
「伝統墨守唯我独尊だねぇ」
声の主は隣の席にいるようだった。
「きついジョークだ」
「こんなブラックジョークのセンスは俺も持ってないぜ」
「……誰だ」
「誰だって……同じ海軍でしょう」
そう言いながら現れたのは先日すれ違い様に梅津に嫌味を言った男であった。
「何の用だ?まさか嫌味を言う為にここまでつけてきたのではないだろう」
年齢から見て学院から引き抜かれたらしい。
「先日助けてやった恩をもう忘れたのか」
「は?」
「横須賀海戦だ。忘れたとは言わさんぞ」
「上の厭戦気分がうつったか」
梅津が一方的に畳み掛ける。
「それに俺は特務中尉だ」
「……」
「抗命罪、侮辱罪で訴える事だって多分出来る。罪名は適当だが似たような意味だろうな」
「フン……いつも暇だった癖に」
「フム、お前さんは何か功績を残したのか?」
「……」
男は返答に窮する。
「小物が……」
「その目……いちいちイラつかせる……」
そう捨て台詞を吐き、店から消えた。
「何て男だ」
梅津は嘆息し逆に弱気になり「折角の昇進祝いがなぁ」
「ウインドが提案したってのに」
「え!」
梅津を除いたが意外という目でウインドを見つめた。
「そうだ。息抜きも重要なプロセスだと思っている。
「仕切り直しといこう」
梅津、安斎はあっという間にたいらげた。
咲嘩部は腕時計を見つめ
「これからどうする?」
「横須賀港でも行くか」
梅津の意見に賛同し一路、横須賀港を目指した。
少し日にちが経ったとはいえ未だに戦いの傷跡が至る所に残っていた。
しかし、それでも町は活気があった。
そこは以前とは変わっていなかった。
「なぁ知っているか?」
「うん?」
「ここら辺りでは魚を持って物々交換をしに現れる少女がいるんだってよ」
「こんな昼時に幽霊話をされても怖くないよ」
永田の突っ込みに介さず安斎は続ける。
「でもそいつはよ、霧と共に現れるってのが専らの噂なんだぜ」
「何か隠れていると思うだろう?梅津」
「ただの噂話だろう」
そう言ったがウインドは梅津の服の袖を引っ張った。
「何だ?ウインド」
「多分それ――」
轟音が耳をつんざいた。
横須賀空軍基地から編隊発進した警戒機と戦闘機であった。
また、その戦闘機はよくよく見ると垂直尾翼は無かった。
最近になってようやく哨戒任務の回数が落ち着いた。
「E-2DとRF-3ですね」
「よく分かるな~」
安斎が感心するのをよそに岡が得意の解説を始める。
「RF-3はF-3を元にした戦闘偵察機で軍事衛星『オオトリ』でも捉えられなかったものを捉える為の機体です。かなりの高度までの上昇が可能なんですよ。ステルス性は『F-3』より上です。それに偵察ポッドの『SHARP』を装備して――」
(第13特殊戦術偵察航空団か……霧の情報を何としてでも持ち帰れ。が至上命令のはずだ)
第13特殊戦術偵察航空団。通称特殊戦。
それは霧の艦隊の電波妨害をうち破る高度な電子戦が可能な「RF-3」や無人偵察機のみを保有、霧の艦隊の情報を持ち帰る事だけを目的とした航空団である。どんな戦場にも必ず現れ、貪欲に情報を収集する。
基本的に一機で出撃する。
「オオトリ」の視界外の情報を集める――というのは表立った情報だろう。
また、主要機「RF-3」は日本が度重なる苦労の末に完成させた第6世代ジェット戦闘機「F-3」を母体とした複座型戦闘偵察機である。
しかし、第6世代と言ってもレーザー兵器などは実現されておらず既存のステルス技術の強化という事になっている。
「F-3」からの変更点は垂直尾翼の廃止、さらなるステルス性の向上、主翼は「F/A-4 震電Ⅱ」のノウハウより最適な形状に可変する構造になっている。また偵察ポッドの装備、電子戦能力の向上が施された。しかし限りあるスペースを圧迫した構造である為兵装の積載量は減少している。
が、実質的には第2世代の「F-3」と言っても良い。
勿論その任務は危険度が非常に高く先日の横須賀港海戦では大戦艦「コンゴウ」率いる黒の艦隊に撃墜されている。
そして、特殊戦は他の勢力――例え同じ空軍だとしても介入される事を嫌っている為、統制軍内では突出した存在になっている。
どのような人物がいるのかは梅津すら知らないし、統制軍内でもどんな構成かを把握しているのは一部の上層部だけであった。
「ウインド、なんて言った?」
「いや何でもない」
「まあそれならいいが」
身分証をちらりと見せ、基地に入る許可をもらう。
真っ先に「みらい」へと向かう。
「また何か弄っているんですか」
「外見こそ変化はありませんが一層高性能になりましたよ」
主な改修点は次のようなものであった。
・VLSは各種国産ミサイルが搭載可能。
・ECMブイ投射機の改修、これによりECMブイ、ソノブイ、魚雷ジャマー等が投射可能。
・魚雷発射管はATT(対魚雷・魚雷)発射可能。
・メンタルモデルとの連携機能強化。
この機能はウインドが協力したらしいが。
梅津はその改修点を数分かけて聞かされた。
内心、資料を見ればここで聞く必要も無いがあえて説明を聞いた。
それはこの横須賀港の人達の機嫌を損なってはいけないと上官からは暗記してしまう程聞かされたからである。ここの人達がいなければ船の修理などが不可能になってしまうからである。
整備工達はおだてられてもしかし高慢な態度はとらなかった。誇りがあるからである。
ヴィルベルヴィントの船体の改修も進んでいた。これは永田が協力している。ウインドの希望などを聞き、それを伝え、小言を聞く役割らしいが不満は一切漏らさなかった、また溜め込んでいる様子も無かった。
梅津は永田の得意分野が結んだ結果だなと梅津なりに分析してみせた。
「そういえば
「さあな、聞くところによると硫黄島にいるらしいが」
「硫黄島……やはりな」安斎は不適な笑みを浮かべる。
「知っていて聞いたのか」
「そうじゃあなくてさ、噂は本当だったのかと思ってね」
「近々陸軍が硫黄島へ行くとかいう噂を耳にしてね」
それは梅津も上陰から聞いていた。刑部邸での汚名返上とばかりに今度は北良寛の議員人生と引き換えに発動される作戦であった。
今度は水入らずの作戦である。
噂とはいえこんな末端にまで広がっているとなると霧のスパイがいれば筒抜けであろう。
その作戦が成功する可能性は低いと梅津は確信していた。
しかし成功する可能性が低いとしてもやらねばならないのが政治だと上陰は言っていたがその言葉の真意は掴めないでいた
が、如何にして硫黄島まで辿り着くのかは疑問に思っていた。
ここからは1000キロ以上離れている。
「俺たちにはあながち関係の無い話とは思えんがな」
梅津は踵を返し整備を手伝いに向かった。
「おい梅津、外へ出ないか」
「丁度いい。小腹が空いていた所だ――もう4時か」
「1624であります。中尉どの」
「その呼び方は止めろと言った」
「喫茶店へでも行くか」
梅津の提案には何故かウインドが賛成し、付いてきた。
安斎はパフェを注文、梅津はコーヒーのみであった。
しかし内心スイーツを食べたかったが安斎がいるので好きに頼めない。だがこうやってコーヒーだけを頼んでも安斎は何か口出しするに違い無いが。
「コーヒーだけか?」
案の定である。梅津は話題を逸らす。
「ウインドは何を頼むんだ」
まじまじとメニューを睨んでいたがアイスクリームを頼む事になった。
「本当、カップルみてぇだな」
安斎が吹き出す。
「中尉として命令する――だまれ」
痛い所を突いてくる。しかしそう言われてみれば自分はウインドの事をどう思っているのだろうか。単なる心強い仲間と意識していると感じるが、それ以上の関係にはなるのだろうか。
梅津の思考を中断するように運ばれてきた。
コーヒーをすする。
「そういえば何故みらいには『スーパーキャビテーション魚雷』は搭載されていないんだ」
「規格が合わなかったと聞いている。あれを使うには専用の発射装置が必要だ」
「フム、俺も疑問に思っていたのだが――」
「どうやらこの『後世』においてはスーパーキャビテーション魚雷を装備している艦が少ない」
「確かにそうだな。霧の艦隊が現れる前と戦術やその他諸々があまり変わっていない」
ウインドが解説を始めた。
「この『後世』においてはスーパーキャビテーション魚雷の対抗策は編み出されている。それが
「これも歪みの一つなのかな」
安斎が関係なさそうな口調で言い放つ。
「そうかもしれないな」
「折角私が解説したのに」
ウインドはむくれる。
反射的に梅津は嘆息する。
隣の席が賑やかである。
次々と料理が運ばれていく。恐らく大食漢が集まっているのだろう。
しかしウインドが唐突に言い放った。
「そんな事をしているから世間知らずと言われるのよ」
「え!?」
安斎が真っ先にシートの上に中腰になり、目を見張った。
隣の席にいたのは大食漢でも無く、その逆でもなかった。
そこに座っていたのは1人の少女であった。
「余計目立ってしまうぞ――我が姉よ」
その少女は悪びれる様子も無く、照れて頭をかいた。
「お前……まさか」