蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
岡の元気付け、兼梅津の昇進祝いが始まった。横須賀港では「みらい」の改修が進んでおり、束の間の日常が訪れる。しかし立ち寄った喫茶店で梅津は思いもよらない人物に出会った。
岡紐楼には訝しんでいる事案があった。
先日の刑部邸襲撃事件においての電波障害、博士――刑部藤十郎が保護されたとの偽の通信、そして博士とは遠い親戚ではあるのだが同じチームの永田雪の素振りであった。
電波障害の件は無人機が原因であると判明したが、陸軍はそんな機は保有していない。これは雪の養父である永田裕司が裏を取っている。また空軍が協力しているのではと疑ったが、空軍は陸軍を毛嫌いしている風潮があるというのが現状であった。岡自身は博士を失った悲しみもあるが懐疑心も大きくなっていた。
そして今、この状況においては永田に聞き出すチャンスかもしれないと確信した。
幸いにも梅津や安斎、ウインドは外出している。
自分のこの性格では尋問口調になってしまいそうだが永田の元へと歩み寄る。
心臓の鼓動が耳に響く、汗が浮かびそうだ。実際冷房があるものの少し暑い。
「何故あなたはこうして明るく振る舞えるのですか」
「へ?藪から棒に聞かないでよ」
「……いや、それを聞き……知りたいんです」
口が震える。
「そうね、私とは確かに遠い親戚だもんね」
「根暗でいても仕方が無いじゃない。前へと進むしかないじゃない」
「な、なるほど」
「なるほどってあんたねぇ」
「親戚にしては性格違い過ぎじゃない?」
「その……僕は全く意に介していないと思っていたんですよ」
「そこまで馬鹿じゃあないわ」
「そりゃそうですね……」
「ま、刑部邸ファミリー同士うまくやりましょ」
そして岡は永田に自分が抱いていた懐疑心の全てを話した。
「私も調べてみたんだけどさ。その無人機、アメリカから誰かさんが横流しにしたみたいで」
「その誰かさんとは?」
「さあね、知ったこっちゃあないわ」
「軍の過激な一派かもしれないですね」
「その可能性もある」
施設内に警報音が響く。
そして船を固定しているデッキが動き2人の目の前へと重い音を立て止まった。
「何か一回り小さくなったような気がする……」
「よう、修理は大方終わったよ」
咲嘩部が昇降ステップから飛び降りる。
「これが超兵器ですか……」
一回り小さくなったものの霧の重巡洋艦並みの大きさはある。
戦艦のような3連装主砲は現代の艦には無い、攻撃的な面を押し出している。
自分たちはたった1隻でこんな怪物と戦ったのである。
「機関部はノータッチ。あたしたちには理解出来ない構造をしているわ」
「――見てみる?」
「是非、一度見ておきたいです」
咲嘩部は慣れた足取りで船内を歩く。
巨大な外見だが内部はさほど広大では無かった。が、ウインドの意思で広くしたりさらに狭める事も可能である。
確かに機関部はノータッチで当然と感じた。
その形は禍々しさや逆に頼もしさや力強さをも感じ取れるが、何を材料としているのかは推測が出来ない。
「これが50ノット以上を軽々とだせるのね」
「ウインド曰く敵に発見される事を厭わなければ100ノットは出せるらしいよ」
「資料にあったが……海域強襲制圧艦と同等らしいですよ」
もしかするとこれは海域強襲制圧艦対抗策として作られたのかもしれないが。
「そういえば梅津とかは?」
「気づくのが遅いですよ」
梅津たちはそそっかしいメンタルモデルの相手をしていた。
そのメンタルモデルは言い放つ。
「姉妹とは思えないわね」
「姉妹!?」
安斎が驚く。梅津は組んだ腕はそのままである。
「その顔……ヴィントシュトースか?」
「ご名答」
ヴィントシュトースは先日の横須賀港海戦で梅津たちが撃沈し、刑部邸襲撃事件においても岡と一悶着があった、超兵器である。何故か梅津たちの行く先々で現れる。
刑部邸の時は暗く、あまり姿が見えなかったがやはりウインドと似ていた。同型艦というのは本当らしい。またその姿は、髪はウインド――ヴィルベルヴィントとは対照に短く切り揃えられていたが後ろで結んであり快活な印象を受ける。
「そそっかしい姉だ」
「裏切り者のあんたに言われたく無いわよ」
「お前も今はコードの命令を無視している」
「あんなものとっくの昔に形骸化しているわ」
「ウインドとは何もかも真反対だな」
梅津が分析する。
見るとテーブルには料理が所狭しとあった。どうやらヴィントシュトースはメニューにあるものを片端から頼んでいるらしい。
ウインドは少食である。
「俺たちに付きまとっているらしいな」
「偶然でしょ」
「出来すぎた偶然だな」
話題を逸らす。
「しかし……あんたもあんたね。眼帯をしているなんて」
「船体が完全な状態では無いんだ」
「ふぅん」
「趣味じゃ無いんだ」
「全く不可解だな。メンタルモデルは」
「確かにな」
「……あんたは協力者なのか?」
「姉が妹を放っておけない。それと同じよ」
「成る程、ではポジションは協力者か」
実際、岡には協力している。
「やれやれ、これ以上の厄介事はごめんだ。とっとと引き上げるぞ」
安斎が会計を済ませた。
岡に妙案が浮かんだ。
「――空の監視者に聞いてみてはどうでしょう」
「無人機の件でですよ」
「空の監視者というと?」
「第13特殊戦術偵察航空団――特殊戦ですよ」
「門前払いされるに決まっているでしょ」
「一番手っ取り早いんですけどね……」
「上は一応航空戦闘軍団だな」
旧航空自衛隊では航空総隊と呼称していたものであり、統制軍と組織改革を行うに伴い組織編成は米軍のものに合わせられた。
「一番ピリピリしている時期ですしね」
しかし梅津が興味を示した。梅津は特殊戦の制服の特徴は覚えている。
基地の出口で出待ちをする事となった。
勿論出てくるのはスターでは無い。
一際大きなくしゃみをする。
前席の相棒が気遣う。
「大丈夫か?」
「ああ、誰かに噂されているみたいだ」
「ここは上空数千メートルですよ。よく分かるな」
「これと同様敏感なのよ」
計器類を軽く叩く。
哨戒任務についている戦闘偵察機「FR-3」である。
まだ今はこんな他愛もない会話も交わせるが、有事の際は新人ならばひたすら無事に帰れるように祈るだろう。
その有事は先日起きたばかりである。
その戦いでは一機失われた。まだそいつは配属されて1カ月も経っていなかった。
隊員全員が死を悼むと同時に明日は我が身かもしれないと感じていた。
その時を今でも鮮明に覚えている。
「レーダーに反応。これは……『黒の艦隊』だ」
「約30分後に横須賀に到達する」
「震電Ⅱがまた堕とされたか」
電子戦員は次々に入ってくる情報を飲み込む。
「3分の1が撃墜か……ひどいものだ」
ヘルメット内に警告音が響く。
「中尉。ロックオンされた」
「エンゲージ」
多数の対空ミサイルであった。
「慌てるな。落ち着け」
機体下部のウエポンベイが開く。
「FOX3」
中距離ミサイル発射、アクティヴホーミングなので敵のミサイルを誤魔化すことが出来る。
増速し、ECM作動。
後方で閃光する。ミサイルの回避に成功。
「危ない所だった――第二波接近」
中距離ミサイルは撃ち尽くしている。
ECM作動、効果無し。
海面へと下降と同時にチャフをばら撒く。
自機は海面すれすれで急上昇。アフターバーナー点火。
激しい息遣いがこちらにも伝わってくる。
きらめくチャフを貫いたミサイルは目標を一瞬見失う。
しかし再び追尾を始めたが、上昇が間に合わず海面に突っ込む。
息遣いが荒くなる。
「このまま基地へと戻るぞ!」
「了解」
衝撃が襲う。
見ると右主翼が吹き飛んでいた。
「荷電粒子砲……!」
「最初からこれを使えば……遊んでいたのか?」
2人が脱出をする間もなく、機体は火に包まれた。
これを聞いていて思わずヘルメットを投げ出したくなったが何とか堪えられた。
こんな事もあってか最近配属される人物は至極冷静、冷酷な人物ばかりだった。
初期の頃に配属された自分にとって話し相手は今の相棒、日系アメリカ人のレイ・ミッチェルだけだ。名前は女々しいが男である。
漢字で書くと「零」となる。
しかし、新しく入ってきた連中は得体がしれない。
昔馴染みはほとんど他の航空団に引き抜かれた。
あと数カ月もすれば自分以外は全てこういう連中になると思うと気が重くなる。
「任務完了。これより帰投する」
「了解」
「なあ、この後飲みに行かないか?お互い非番だろ」
隊員の1人に話しかける、しかしよそよそしい態度で返した。
「酔っていては操縦を誤ります。それに自分はまだ仕事があるので」
しれっとした態度であるがもう腹は立たなくなった。
基地からは英国人風の男が出てきた。
基地を出るなり「特殊戦の方ですか?」
唐突に尋ねられ返答に窮したが答える。
「そうだが。君は……」
みるとまだ子どもではある。しかし雰囲気はピリピリしていた。
あの連中と何処と無く似ている。
他にも数人その少年と一緒にいた。
「おいおい、ここは軍事施設なんだよ。お子ちゃまが来る所じゃ無いんだぞ、帰った帰った」
零が追い払おうとしたがブッカーが遮った。
彼の服に付けられた徽章に注目した。
「梅津海軍特務中尉です」
「失礼しました、中尉どの」
「中尉……」
この歳で中尉とは稀である。
「何か用かね」
「ええ――」
「ああ、そうだ。いかにもわたしは特殊戦の人間だ」
「――制服にアイロンをかける暇も無くてね」
「あの無人機の正体か」
「君らが撃ち墜としたんだってね。特殊戦では話題になっているよ」
「我が空軍でもあのような機体は保有していない」
「ちょうど今日から非番なんだ。フムン、興味が湧いた。まあ調べてみよう」
「戦略軍に邪魔されるかもしれないが、やってみるよ」
統制軍戦略軍は梅津たちの特務艦隊や特殊戦の上位組織であり、在日米軍の極秘保有していた核もこの組織で管理を行っている。
また、その中の戦略軍情報局は諜報機関的な役割をしている組織でもある。
「あなたの名前は?」
「おおっと……言っていなかったな……わたしはジェイムズ・ブッカー大尉だ」
ブッカーは面白くもなさそうな顔をしたもう1人の隊員の指し
「さっきは失礼したな……こいつはレイ・ミッチェル少尉、日系人で漢字で書くと零、だ」
安斎を横目で見る。
「お前そっくりだ」
「うるさい」
「それにしても流暢な日本語ですね」
「5年も過ごしたら誰でもこうなるさ」
「では、お願いします」
「分かった」
固い握手を交わす。
「俺たちに頼んで良かったな。他の無機質な連中だったら突き返されていた」
去り際に零が呟いた。
「……」
「さて梅津」
帰り際、安斎が思いついたかのように言った。
「喫茶店では邪魔が入って言えなかったが……このまま横須賀に篭っていて来るヤツをいちいち倒していてではキリがないんじゃないか」
安斎らしい、痛い言葉であった。
因みに、この3話のタイトルの「日曜日」は旧海軍では日曜日は必ず休日であると陸軍に揶揄されていたのにちなみます。