蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
梅津らは刑部邸事件の際の電波障害についての調査に動く。その原因を知っていると予想できるのが空軍、特殊戦であった。梅津は運良く気さくな人物に出会い調査を依頼する。
一方、安斎は梅津の防戦一方な考えに不満を抱いていた。
「このまま特に目立った事もしないのか?」
内心梅津も焦りを感じつつあった。
自分たちにはこの横須賀を守る事以外に戦う目的、意味を見出せずにいた。むろんこの横須賀を守るというのも立派な戦う意味ではあるが。
あの「蒼き鋼」対するあの一種の対抗心は単なる出来心なのか。今の自分にあるのは第3特務艦隊――「深き蒼の艦隊」そして特務中尉というどうにでもなる肩書きであった。
しかし、裏方としては活躍はしている。注目されなくとも昇進した事実がそれを物語っていた。そして、こちらにも蒼き艦隊とは同等の力はある。勿論ヴィルベルヴィントの事である。
「確かにそうかもしれんな」
「だがこのまま外に飛び出しても17年前と同じ結果になる」
「だから……今のうちに出来る事はしておくべきだ。安斎」
携帯が震えた。
「お偉いさんが呼んでいる。行くぞ」
「はいはい」
軍務省、例のブリーフィングルームへ向かった。
その男は別段緊迫感もないような面持ちで言い放った。
「君に汚名返上のチャンスを与えよう」
「ま、先日の『一件』は我々の不手際であったが」
なにが不手際だ。おかげでこちらは船を一隻失った。
しかし馬鹿正直に口に漏らすことはしない。我々は軍いや、兵器だ。上からの命令は絶対である。特に「コード」からの命令は。
「期待しているぞ――ドレッドノート」
「全力を尽くします。ヴァイセンヘルガー様」
「次は無いと思え」
去り際の一言は余計だ。
「君たちを呼んだのは、正直に言うと面倒な事が起きたからだ」
メンバーを呼び寄せたのは相変わらず多忙な上陰龍二郎次官補である。噂によると近い内に昇進するらしいが。
「そういうのにはいい加減慣れてきましたんでね。用件は?」
「海軍情報軍からの依頼だが、ここ数日横須賀港周辺の潜水艦監視システム
海軍情報軍といえば梅津たちの行動に注目し、戦略軍情報局とはしのぎを削りあっている組織である。
「それの正体を探って欲しい」
SOSUS(Sound Surveillance System)は海底に設置された潜水艦監視装置である。
海底一面にソナーを設置する事により、敵潜水艦の襲撃をいち早く知る事が可能である。またパッシブ、アクティブと切り替えも可能である。通常はパッシブソナーとして機能し敵の動向を探る。
また機密保持のレベルも高く、音の分析などは海軍の諜報機関的組織、海軍情報軍が行っている。
「確かに、敵の可能性がありますしね。それにこちらにはメンタルモデルもいるので敵が奪還しに来るかもしれませんね」
それでこの深蒼艦隊に出番が回ってきたのであると解釈した。
「もしその音の正体が敵だとしたら単艦でうろついていたら当然向こうから仕掛けてくる」
岡が発言する。
「しかし、逆に言うと誘い込むという事にもなります」
「いつまでも攻撃を受けていてはたまらんからな」
「では、了承したという事で」
「必要な機材も言えば揃えておこう」
ドック内を歩きながら打ち合わせを行う。
「今回の敵は潜水艦と考えられる。ヴィルベルヴィントから侵食魚雷を『みらい』のVLSに装備しアスロック代わりにする」
「既にその作業は始まっているわ」
「うむ」
「多目的ブイはECMブイ、デコイ、魚雷ジャマーとして使う」
「恐らくそれが最善の策ですね」
「未だに湾内には先日の戦闘の後始末が――おかしな現象が続いている所がある。注意して戦うぞ」
「了解」
「メンタルモデルとの接続状態良好。テストプログラム作動させます」
「了解した」
梅津たち――第3特務艦隊、通称「深き蒼の艦隊(深蒼艦隊)」はイージス艦「みらい」の新機能の試験を行っていた。表面上ではそれをしているように見せかけていた。また陸軍に横槍を入れられることを危惧した上陰の提案であった。
また、その機能はメンタルモデルとの連携機能であった。
先日の刑部邸襲撃事件において電波障害の原因を探る方法にイージス艦の強力なレーダーに加えて、メンタルモデルの計算能力を相乗させるのが効果的だと判断されたからである。
先日は突貫工事でその専用の装置がヴィルベルヴィント――ウインドの協力の元取り付けられたが今回は開発隊も協力しスピード工事で装備された。偽装の目的とはいえかなり本格的であり、深蒼艦隊を良く思っていない陸軍もまんまと引っかかった。
「まさに一石二鳥だな」
「油断するな安斎。一羽も落とせないまま終わるかもしれない」
梅津がたしなめた。
現在は低速で移動を行っていた。こちらの動きを悟られないようにする為である。
SOSUSの件と同時進行であるため、全員がSMCに集まりそれぞれデータの解析などを行っていた。
「今の所異常なーし」
「了解」
咲嘩部の腑抜けた声に対し梅津は冷静な声で返す。
「ソナーは?」
「やはり『ハルナ』、『キリシマ』撃沈地点では異常な雑音があるわ」
「そこは敵が潜む場所としては絶好の場所だが訳のわからん状態が続いているからな。恐らく敵は潜んでいないだろう」
現在で作業を開始してから2時間が経過した。メンタルモデルとのデータリンクは順調だったがSOSUSの方は一向に収穫は無かった。
「情報軍の見当違いか?」
「彼らがそんな勘違いをする筈は無い。敵はどこかに潜んでいる……勘違いであって欲しいが」
梅津の口からは思わず本音がこぼれ出た。
「確かにそうであってほしいですね」
岡が笑い、その笑いが伝染していった。
「おっと……あまりうるさくすると気付かれるかもしれない」
気を引き締め直した。
さらに30分が経過。データリンクの件は完了してしまった。
「冗談抜きで、マジで勘違いなのか?」
安斎がそう呟いたが全員がその事実を薄々認めつつあった。ウインドでさえも。
沈黙が襲った。
が、「ヴィントシュトース」
ウインドがそう言うや否やいきなりSMCのドアが開いた。
そこにはウェイトレスの格好をしたヴィントシュトースが立っていた。料理を両手に抱えて。
「!?」
全員が腰を抜かす。特に安斎はそうであった。
「全く、心臓に悪いぞ」
抗議の声が上がったがヴィントシュトースは構わず、
「夕食おまちどー」
と棒読みで言った。
梅津はあくまで冷静を装い、「いや……料理のデリバリーを頼んだ覚えはないが」
その言葉を聞きその他のメンバーは吹き出しそうな顔で梅津を見つめていた。
「やっぱり、厨房を使用した痕跡があるわ」
映像には料理に勤しむヴィントシュトースの姿があった。
安斎は嘆息する。
「どこまでお前はくっ付いてくるんだ?」
梅津は呆れた声で言った。
「せ……折角作ったんだから全部食べなさいよ。残すと二度と食堂へは入れないからね」
「仕方ない」
「監視は私がしておくから」そう言い、ウインドは梅津の席へと腰掛けた。
ヴィントシュトースは瞬時にイス、テーブルを出現させた。
ナノマテリアルがなせる技であろう。
なし崩し的な晩餐会が始まった。
「ステーキというものは左はしから食べやすい大きさに切って食べるものですよ」
「よく知ってるなぁ」
「テーブルマナーも教わったんですよ」
「なかなかうまい」
率直な感想であった。実際、それらの料理は高級料理店で出されてもおかしくはなかった。
「うん。おいしいよ」
女性陣の評価も上々のものであった。
安斎がステーキの一部をフォークで持ち、
「それで、どこで覚えたなかな」
「そうね。和、洋、中の本を全て読んで……あとは試行錯誤だわ」
ヴィントシュトースは即答したが梅津は内心危惧していた。
(やはり彼女たちの成長する速度は早い……)
ヴィントシュトースは喫茶店のメニューを片端から選んでいたようなメンタルモデルだったからである。
しかし、これは味方としては頼もしいものであった。人員不足の現状故すがれるものにはすがっておきたかった。
「あんたがあの時の超兵器だとは思いたくないな」
「あたしは問題児だったからね。クラインフィールドもどきの実験台にされて、艦のコントロールも奪われていて自律したAIが操艦していたのよ」
「そしてクラインフィールドもどき、防御重力場は採用されたわ」
「つまり用済みとなっていたわけ?」
「そう、そうの通りよ」
「全く、帝国がやりそうな事だ。たとえ使い辛くてもきっちりと利用する」
「帝国は手強い。GDP、人口、人種などは未公表というか不明。ロボットに頼っているらしい。ジュネーブ議定や核拡散防止条約にもそっぽを向いている国だ」
梅津が解説する。
実際、米空軍は帝国の戦闘機は無人機が大多数と報告している。
「でも、あの時の俺たちの行動はそれこそ一石二鳥だな」
自信ありげな口調である。
「その代わり船体を失ったけどね」
「メンタルモデルの姿のままでは行動は限られる」
「そう落胆するな」
そう言ったのは梅津であった。
「珍しいな、そんな口調だなんて」
「……これはあくまで俺の考えなのだが、ヴィルベルヴィントの船体の補修が終わったらこの船をヴィントシュトースに預けようかなと考えている」
「上への掛け合いが大変だぜ」
「だから俺の考えと言ったろう」
「しかし名案ですね」
「だろう?」
得意げになっていたがウインドの報告を聞き、いつもの調子に戻る。
「ソナー、異音感知。梅津」
「ディナーは終わりだ。仕事に戻るぞ」
そう言い、立ち上がった瞬間、椅子とテーブルが消える。ヴィントシュトースは皿をきちんと持っていた。
「良い夕食だった……ありがとう」
途端に彼女の顔が赤くなった。
「音紋、データベース不一致」
「何か他の音かもしれない」
しかし、次の瞬間、パネルに警告も表示が出た。
「!魚雷です!数、2!」
「どこへ向かっている?本艦か?」
「いえ……この方向は、特秘ドックの入り口です!」
永田がそう言うと同時に「ATT(対魚雷・魚雷)発射用意」
「間に合わない」
ウインドが呟く。
「やはりあの異音は、注水音なんですかね」
「分析は後だ。退避は……完了したか」
内心ほっとしたが安心できない。
爆裂音が響いた。長魚雷の豊富な炸薬が炎を上げる。
「被害は?」
「……コンピューターからの報告です。自動迎撃システム作動。命中1発、でも的確に狙っているわ。入り口を開け閉めする動作系統がやられたわ」
「増援は期待出来ないな」
「頼みの綱は空軍機だな。梅津」
「数分後に対潜ヘリが来るわ」
「動かない方がいいな……敵はこちらにも気づいていないようだ」
「超兵器でしょうか?それとも霧でしょうか」
「どちらでも関係無い。倒し方も変わらない」
「ですね」
「しかし、奇襲というものは『夜討ち朝駆け』というらしいな。梅津の予想通りだぜ」
梅津は改まった態度でヴィントシュトースを呼び寄せた。
「ヴィントシュトース、頼みがある」
「妹を守りたければ、聞いてくれ」
作戦は組み上がっていった。