蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
梅津は安斎の問いにけんもほろろになるが、梅津が深く考える前に次なる任務が舞い込む。それは海底に敷設されたソナーが拾った雑音の正体を解明するものであった。
梅津たちはソナーの不調と結論を出そうとしたその瞬間に攻撃が仕掛けられた。
横須賀港の特秘ドックの出入り口は的確に破壊された。
数分もすれば対潜ヘリ、SH-60K改が到着する。
海軍の対潜ヘリとしてはSH-60Kの延命策としてのSH-60K改、能力向上型のSH-60Lを配備している。
「もし相手が通常の潜水艦ならば俺たちの出番は無いが……相手は霧か超兵器だ。通常の魚雷は通用しない」
岡が提案する。
「では、ヘリが位置を探り、そして侵食魚雷を撃ち込む作戦でいきましょう」
「それしかないでしょ」
咲嘩部が口を挟む。やかましい仲間である。
「ところで、本艦に搭載されている侵食魚雷の数は?」
「4発」
ウインドが素早く答える。データリンクにより手足のようにこの艦の情報が入っていた。
「侵食魚雷は1発で霧の軽巡を吹っ飛ばす威力だ」
梅津もあの「イ401」の鹿児島での戦いの映像は見ていた。
「4発もあれば心強いという言葉以外に当てはまらないな」
「4……嫌な数字ですね」
岡が呟いた。
横須賀基地より
「片っ端からアクティブソナーを打ちまくるように伝えてくれ」
「梅津にしては珍しいラフな戦い方だな」
「この戦い、どちらが先に仕掛けるかで決まる」
ウインドが呟いた。
「意味深な事言うなぁ」
「ウインドの言う通りだ。基本的に戦いはそういうものだ。いい加減シュミレーターじゃ無いと分かったろう?」
梅津は諭すような口調だった為、安斎は案の定聞いていないフリをした。
「しかし艦長、何でソーサスのアクティブソナーを使わないの」
「壊されたら面倒な事になる。それに戦略軍にそっぽを向かれたら本当に居場所が無くなる。使いたくても使えないのが現状だ」
「なるほど~」
「感心している場合か。もうすぐアクティブソナーを打つぞ。気を抜くな」
「りょーかい」
梅津はため息をついた。まだ学生気分が抜けきっていないようだ。
「全く、俺らを墜とす気か。あの船は」とSH-60K改のパイロット。
「さっさと探知して帰るぞ」
しかし、あまり成果は出ない事をパイロット達は知っていた。
磁気探知機やアクティブソナーを打ちまくる事が出来たとしても、もし敵潜水艦が海底に這っていたら発見は難しいからである。第一この横須賀港周辺の海底には、沈没船や旧市街地などで複雑になっているで判別出来ない可能性あるからでもあった。
「敵さんが海底に這いつくばっていない事を祈ろう」
しかし、その祈りとは裏腹に現状はやはり残骸で区別がつかなくなっていた。
「仕方が無い」
ソナー員はため息をつき「ディッピングソナー投下だ」と言い指示を出した。
自機の騒音の中での探知は集中力をすり減らす。しかしこれで根を上げていたら軍人として務まらない。
そしてアクティブソナーを打つ。これでもダメならあの船に文句を言ってやるつもりだ。
しかし変化があった。「これは潜水艦だな。かなり大きい」
異音が響いた。ドックが攻撃されたのと同じ音が耳に入った。
「あの船に伝えろ!」
「マルク4から、『魚雷注水音らしきものを感知』ですって。対魚雷防御を!」
梅津は反射的に「水中戦闘用意」
「慌てるな。ATT発射用意、アクティブデコイ及び魚雷ジャマー投射用意」
魚雷の防御方法としてはATTは魚雷に体当たりを仕掛けるか、高精度なソナーを打ち、自爆し撹乱するという手段があった。また、ECMブイ投射機には大音響、電子的妨害などで妨害する魚雷ジャマーがある。
「しかし、こちらは動いていないのに何故位置が分かるんだ?アクティブソナーも打っていないようだが」
梅津が思考する間も無く、ヘリから怒声が響いた。
「敵潜水艦、何かを射出したぞ!小僧ども、気を付けろ!」
「永田、パッシブの方には何か聞こえたか」
「ええ。確かに何かが射出されたわ。でもやけに遅いわ……」
「魚雷と見せかけての対艦ミサイルってのもあり得るな。しかも高速の」
「そんな回りくどい方法をとるか?魚雷の方がよっぽど効率が良いと思うが」
ウインドも口を開き。
「確かに対艦ミサイルの可能性もあるが非効率的すぎる。迎撃される可能性もよっぽど高い」
そして、それが水面に映る寸前、パイロットは嫌な汗が流れるのを感じた。
「あの厄病神め……これは対空ミサイルだ!」
そう叫ぶや否や即座に機体を急上昇、同時にレーダー照射を受けている警告音がヘルメット内に響いた。
「くそったれ、チャフ、フレア発射!」
機体の後部が閃光しチャフ、フレアがばら撒かれた。
やはりカプセルを突き破って上昇したのは対空ミサイルであった。即座に追尾を開始する。
「あいつ……どうやってロックしたんだ?」
『みらい』では安斎が呟いた。潜水艦発射の対空ミサイルは開発が進められていたが潜航中の状態で敵機をロックオンするのは困難を極め、中止された。
「超兵器はあの問題を解決したのか」
鼓動が高まる。警告音は壊れたように鳴りっぱなしだ。
続けざまにチャフ、フレアを放出する。
「命中まであと2秒……!」
2秒は20秒、いや2分にも感じられた。全員が死という文字がちらつくのを感じた。
対空ミサイルの近接信管が作動する。
炸裂、及び爆音と閃光。
しかし、消え去ったのは機体の尾翼付近の一部であった。
「くそ……上手く誤魔化せたようだな」
バランスが崩れる。がまだ高度には余裕があった。急上昇したのが幸いだった。
慣れた、訓練通りの手つきで機体のバランスを保つ。
「こちら『マルク4』被弾した。これより離脱する。消化車とか用意しておいてくれ」
基地からは了解とあった。
「ちくしょう。両方ともサメの餌になっちまえ」
捨て台詞をありったけ吐き、ふらつく機体を器用に操作し、一目散に基地を目指した。
「敵さんばっちり見えたわ」
「よし、そうだな……みんなモニターを見てくれ」
安斎、岡はモニターを見た途端に「さすがは梅津」「さすが艦長だ」と言った。
「……分かったな。24式対潜弾、発射」
ピーという音の後、
同時にその着水音をパッシブで感知した敵潜水艦からも魚雷が発射された。
「敵艦、魚雷発射。感2」
緊張感が高まる。
「マスカー起動。魚雷ジャマー投射」
喫水線下にある複数の穴から空気を出して、自艦が発生する音を空気の泡で包み、攻撃をそらす。
そして投射された魚雷ジャマーが妨害を仕掛ける。
魚雷は目標を捜索する。しかし、魚雷ジャマーに誘われ、魚雷ジャマーに命中。
水柱が2つ出来ていた。
「高速の魚雷だな」
「有線での誘導は行っていないようだな。パッシブ、アクティブで目標を探すタイプだ」
「このタイプの魚雷を装備しているのは……」
と、SMCの扉が開いた。
「そう『ドレッドノート』よ」
そこにはびしょ濡れのヴィントシュトースが立っていた。
梅津が依頼した「仕事」を終えたヴィントシュトースは壁に寄りかかって言った。
「ご苦労だった。ヴィントシュトース」
「仕事は終わったわ。ここに居ておくから」
「って話を逸らさないでよ」
「俺が最初に言ったのを無視すりゃ良かったのに」
「やれやれ……ドレッドノートは巨大な潜水艦よ。としか言えないわ」
「何故分かるんだ?」
「私を先日監視していた超兵器よ。因みに私は戦術ネットワークから切られてる。撃沈扱いになっている」
「捜すのはデカいからままラクだな」
安斎が楽観的に言う。
「敵は超兵器と断定する」
「早期決着の方針で、つまりこれから思いきった手でいかしてもらう。いいな」
「異論は無いな」
声は上がらなかった。
「よし、両舷前進最大戦速。直進しつつ24式を発射」
「24式の残りは?」
「あと32発」
「ならば結構。『作戦』開始」
「例のポイントへとおびき寄せろ」
「了解」
真っ直ぐに30ノットを超える速さで走る。一定のタイミングで
大騒音を放ちつつ移動するその姿は死に急ぐように見えた。
ドレッドノートの
しかし、「みらい」のクルーはそれほど焦った様子は見せなかった。
「さて、『こちらも』動くとするか」
「あれはじきに沈められますね……」
「フフン、時間稼ぎは充分だろう?」
梅津、口端を少し吊り上げ「ああそうだな」
「よし……敵艦の位置はどうだ?永田」
「ええ。もうばっちりだわ」
「諸君、ヴィントシュトースに感謝するんだな」
安斎が強調して言った。
もちろんそんな言い方をされたヴィントシュトースは嬉しくも無かった。
「何よ。そんな言い方されても嬉しくもないわ」
梅津はちらりと安斎を見て「まあ、ヴィントシュトースのおかげでここまで出来た」
「そ……それはどうも」
「咲嘩部も永田の補助に行ってくれ。岡、操舵頼む」
「了解」
「ドレッドノートは?」
「依然追っています」
「やはりそうか。ドレッドノートは疑り深いからな。単純すぎる罠に混乱している」
ウインドが言う。
「ウインド。『シーハンター』との接続を全面カット」
「みらいに接続。連携システム作動」
梅津が張った罠とは、無人対潜艦「シーハンター」を利用したものであった。潜水艦は自らの位置の判明を避ける為、基本的ににアクティブソナーを使わない。
梅津はそれを利用し繋留してあった「シーハンター」をウインドが強制接続、「みらい」の指揮下におき、あたかもその無人艦が「みらい」であるかのように見せかけていた。
そして全力航行させ、ドレッドノートの思考を狂わせた。罠にしては余りにもお粗末だと思わせる事が目的であった。
「まだドレッドノートには傷一つ入っていないようだな」
「今あいつは囮に興味深々だ。『シーハンター』、面舵一杯。かき回せ」
「りょーかい。面舵一杯」
ウインドの体に文様が浮き出た。傷はほとんど治ったが、まだ眼帯はつけたままである。
梅津はウインドの傷はメンタルモデル形成と艦の損傷の弊害。どの超兵器にも有り得る現象と聞いていたが、梅津は超兵器はどうやらメンタルモデルの形成に一苦労するもの、あるいは霧の紛い物の宿命かと思った。
「シーハンター」は急速に回頭をしていた。面舵である。恐らくこれが「シーハンター」への最後の命令になるだろう。破壊される前にどこかに退避させる暇があるならば別だが。
「これで奴の頭はますます『?』で一杯だな。『何故人間はこんな死に急ぐような行為をするんだ?』とでも思っていそうだな」
「ぼやっとしていないで侵食弾頭ミサイルの諸元入力急げ」
「へいへい」
ドレッドノートのコアは安斎の言う通りこの一連の行動が理解出来ないでいた。
既に梅津の考えた「作戦」は終盤へと差し掛かっていた。