蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結)   作:チキンブロス

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第一部
1kt:航路を持てなかった者達


――3時間程前――

アメリカ海軍はようやくアラスカ方面奪還へと動いた。

空母打撃群司令エイブル少将

「まともな戦力も持たずこれまでアメリカの威を借りていた様な軍がよく我々と一戦交えようとはな」

エンタープライズ級空母2番艦「コンステレーション」

元々エンタープライズ級は退役し解体中であったが、霧の艦隊との大戦で失った戦力の補充として急遽1番艦「エンタープライズ」の船体を再利用して建造された。

「久しぶりにまともな戦闘が出来ると兵の士気も高まっている」

「よし、航空機を上げろ」

 

しかし、その海域にいる全ての者が我が目を疑った。

「……ん?」

前方から船とおぼしき物が押し寄せてきた。

「なんだアレは……島か?」

 

 

先行するアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「サンプソン」

「馬鹿な……速過ぎる……」

「一体何ノット出しているんだ?」

敵艦の主砲らしき物が「変形」した。

 

「……え?」

次の瞬間サンプソンは一瞬で海の藻屑と化した。

遅れて他の艦が攻撃を開始したが全く寄せ付けない。

エイブル、足を震わせて

「クラインフィールドは展開していないのに…何故だ!」

「現海域から離脱!急げ!」

「クソッ、たった一隻にッ」

艦橋にいた誰かが悔し紛れに言った。

 

その日の内に召集命令がかかった。

 

梅津士郎(うめづしろう)特務少尉は重い足取りでブリーフィングルームへと向かった。

自衛隊が軍として統制軍として統合されてからは階級は旧帝国海軍のものに戻された。

 

一人とすれ違った。

「よぉ梅津お前んトコは仕事なくて楽だよなぁ」

誰が聞いても嫌味たっぷりと分かる。

(軍こそあいつら(蒼き鋼)の力を借りなければ何も出来ないくせに)

と口に出そうになったがこらえて表情ひとつ変えずに無視した。

 

 

梅津の家庭は複雑であった。梅津の父、梅津三郎(うめづさぶろう)は海上自衛官だったが、数十年前に極秘裏に行われた新型イージス艦の試験航行中にイージス艦は乗員もろとも行方不明となった。旧自衛隊はこの事件を闇に葬った。

母は夫を失った衝撃に耐えかねて日に日に精神を参らせていった。

 

 

そして、梅津がこの事実を知ったのはつい半年程前でありそれまで梅津は父が自分の意志で姿を消したと思い込んでおり、今でもこの事実は受け入れにくい状態だった。

 

梅津が飛び級を繰り返した海洋技術総合学院から推薦枠で海軍に入隊したのはこの真実を知るためだった。

逆に言えばこの真実を知る為に入隊したも同然である。

そして梅津はどんな訓練でも冷静にこなし、成績は優秀だった。

彼をよく思っている人物は少なかった。彼は若さ故に周りの人間から疎まれ、海軍内では飛び抜けて浮いた存在となっている。勿論上層部も彼の事を良く思っておらず、彼を意図的にここへと左遷した。

左遷とあるのは実情はこの部隊は軍としての戦力外となった者達の寄せ集めでありこれまで3人ほどが軍地上層部によってこの部隊に左遷、追放となっていた。

海洋技術総合学院から海軍に入隊した人々はこの部隊を「追い出し部屋」と呼んでいる。

また、彼がここに左遷されたのは彼は成績優秀だが軍は新型イージス艦失踪事件の真相の奥深くまで探られたくなかったから、というのもある。

 

 

ブリーフィングルームでは既にガルトナー、安斎などが集まっていた。

安斎、梅津を見るなり

「よぅ、俺たちに仕事が回って来たぜ」

と意気揚々に話しかけた。

が、梅津はそれを無視するように席に着いた。

「全員揃ったな」

ガルトナーがそう言うや部屋の照明が落ち、スクリーンにアラスカ半島周辺海域の地図が映し出された。

ガルトナーがリモコンのボタンを押すとスクリーンに船の形を模した図形複数が映りその最前線の図形は撃沈された「サンプソン」と表示された。

「見ての通りアメリカのアラスカ奪還艦隊はウィルキア帝国の超兵器に敗北した」

再びボタンを押すと「UNKNOWN」と表示された図形がアメリカの艦隊の速度と比べ物にならない速度で「サンプソン」に接近した。

するとスクリーンの「サンプソン」は×印に変わり「LOST」と表示された。

やはり祖国の所業だと考えると胸が痛んで来る。

スクリーンには進行方向を逆にして敵艦に背を向けた形でアメリカ艦隊が映っていた。

完全に意表を突かれたことが窺い知る事ができる。

「スゴイねぇ帝国の力は」

安斎が勿体振った口調で言った。

かなりひねくれていることを匂わせる言動や、あまりに緊張感のない態度が災いして安斎はこの部隊に左遷されて来たのだ。

ガルトナーが沈鬱な表情になったと同時に彼の心中を察したのか梅津が「おい」とたしなめた。

「で、その超兵器は何ノットで走っていたんです?」

長机の奥のほうで一人私物のノートパソコンをいじっていた少年が口を開いた。

「ええと…君は岡君か」

いつものような沈黙が来るのではないかと予測していた梅津は内心ほっとした。

「およそ70~80ノットだ」

すると岡は間髪入れずに

「なら大体時速129.68~148.16キロですね」

安斎は「計算早くね?」と感嘆した。

 

岡紐楼(おかじゅうろう)。ルックスはそこそこであるが、海洋技術総合学院の成績は入学時より全ての分野において天羽琴乃を抑えて常にトップであり模擬戦では彼が指揮したチームは必ず霧の艦艇の撃破できるという10年に一度現れるかどうかの逸材である。

しかし彼の出自、待遇に於いては謎が多くなぜこのチームに回されたのかは謎に包まれている。

 

ちなみに、日本政府は自国のことで手一杯でありウィルキア自治区からの亡命者などは受け入れる余裕などなかったがガルトナーから通信が入った時には既に領海内だったので仕方なく少年たち(蒼き鋼)に護衛させたのである。またこのチームにガルトナーを「アドバイザー」として回したのだから政府がウィルキア自治区に関しては及び腰だという事が理解できる。

 

「えーと、それでその超兵器どのような感じなのですか?」

口を開いたのは冷静な梅津とは真逆の性格であるこのチームの紅一点である咲嘩部秕(さかべしいな)である。

勿論咲嘩部も成績は申し分無くあの千早群像達とも知り合いであるがなぜかこの部隊に配属されている。ちなみに咲嘩部はなにかと衝突する梅津と安斎との緩衝剤的な役割もしている。

ガルトナーがリモコンのボタンを押すと霧の戦艦を思わせる姿が映し出された。

「無人機からの画像だ。全長はおよそ180m、戦艦と重巡洋艦の間ほどの大きさだ。」

安斎がすかさず「中途半端だねぇ」と呆れ声で言った。

梅津の反応を見ずに咲嘩部が「見た所主砲4門、両舷に魚雷発射管が3基ずつですね」

「戦艦並みの火力を持ち、霧のヤツより早い重巡という所か」

岡がまとめるように言った。

「クラインフィールドは……」と咲嘩部が不安気に聞くと即座に安斎が「ないよ」と言った。

「アメリカの空母打撃群が敗れたのも想定外の敵だったからでしょうね。この程度の敵なら海軍サンに任せても大丈夫でしょう?」

と岡が言ったがガルトナーは重い顔で「実は…あの超兵器は我々の部隊で倒せと命じられている…亡命した身だ。文句は言えなかった」

これにはさすがの安斎でも顔を暗くさせた。

すると先程の若い男がまたノックもせずに入ってきて安斎が口を開きかけたが若い男は「ウィルキア帝国の超兵器が日本に向かっています!それで…その…この部隊で何とかしろと…」

安斎が机を叩き「冗談じゃないよ、何ぁにも持っていないのに倒せだなんてなぁ!」

咲嘩部が頷いた。

梅津は「千早達が好き勝手しているツケが俺達に回って来たのか…」と呟いた。

安斎が立ち上がり若い男を睨み付け、「おい、上陰に会わせろ」

その言葉は真剣そのものだった。

咲嘩部は

(珍しい……安斎がここまでマジになって物を言うなんて……)

と内心驚いていた。

岡が少し躊躇いの表情を見せ、

「上陰サンは蒼き鋼派で俺達の事を多分嫌っていますよ」

安斎は表情を変えずに

「構わん、直談判だ」

若い男は怖気付き、

「わ……分かりました」と少し震えた声で言った。

 

「俺達には何もくれずにアレを倒せってのは少々無理があると思いますがね」

安斎が少したどたどしい敬語で言った。

上陰は現在長崎に居るのでモニター越しでの話となった。

 

上陰はふぅと一息ついた。

するとモニターにある男が映った。

「まずは、これを見てくれ」

「コイツは……」

がっしりとした体つきで野心家と一目で分かる顔をしている人物だった。

「フリードリヒ・ヴァイセンベルガーか」

 

「日本政府の諸君、君達に通告する。先日アメリカの艦隊が敗北したという事は知っているかね?超兵器の力、これで分かっただろう。さて本題はここからだ。あの超兵器の餌食となるのは次は君達の出番だ。まあ、そうなりたくなければ振動弾頭のデータを渡したまえ、条件はそれだけだ。あと48時間以内に回答がなければ…分かっているよな、日本政府の判断に期待する。回答は霧の艦艇に送ってくれたまえ以上だ」

上陰が口を開き

「つい先程届いた映像だ。本来なら蒼き鋼にこの超兵器を倒してもらいたいが、今は紀伊半島沖で足止めを食らっている。だから君達に任せたんだ分かってくれ」

安斎が腑に落ちない顔で「なるほど、理由は分かりました。それで俺達は何を使えと」

上陰は少し眉を上げ

「君達に見せたいモノがある」

「東京に着いたら連絡する」

安斎がようやく納得したと顔になって

「どうも、ありがとうございます」といつものどこか皮肉が入った口調で言った。

「48時間か…」

梅津が呟いた。

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