蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
梅津の罠は多段的に仕掛けられ、どれも潜水艦型の超兵器「ドレッドノート」の意表を突くものであり、損耗させていく。しかし「ドレッドノート」も脆いイージス艦に格闘戦を挑む。
「あ~暑い」
初夏の太陽が暑さに慣れていない人間などお構い無しに照りつける。
安斎が根を上げた。一番先に文句を垂れるのは予想出来た。
梅津は黙々と歩き続けた。
梅津は早朝から呼び出され、数種の出撃レポートを仕上げていた。
光熱費の削減のため冷房などついていない部屋で仕上げたのだ。安斎はサウナルームと評するだろう。
そして仮眠を取ったと思えばまた呼び出された。
「岡、軍務省まではあと何分?」
「5分ですね」
「もう建物は見えるのによ」
しかしヴィルベルヴィント――ウインドも黙々と歩いていた。
「暑く無いのか?」
「不快指数センサーをオフにしているからな」
「オンにしろオンに!平等にこの暑さを食らえ」
安斎の暑苦しい言葉をよそに梅津は内心悶々としていた。
(また面倒な事を頼まれるな……)
戦場にいた次の日にこれはさすがの梅津でも参っていた。
ビームが艦橋横を掠める。
「きゃああ!」
咲嘩部が悲鳴をあげる
「フルファイアだ。撃て、撃ち続けろ!」
「面舵、取り舵を交互に取れ」
「り……了解」
毎分45発の発射速度を誇る主砲、127mm速射砲はがむしゃらに撃つのでは無く、丸裸となった超兵器の潜水艦「ドレッドノート」の武装を的確に狙っていた。
「主砲、オーバーヒート直前!」
「構わん、破壊出来るまで撃て」
「そんな無茶な」
敵ミサイルも接近していた。
全後部に設置されたCIWSは作動しっ放しだ。全自動モードなので最も脅威度の高いミサイルから撃ち落とす。
ウインドが叫ぶ。
「紐楼!艦橋から離れろ!」
衝撃が襲った。
「……ッ、どうなった?」
「マストが吹っ飛びました!」
「岡!」
「たはは……大丈夫ですよ」
間一髪のところでSMCに駆け込んだようだった。
「もうミサイルは役に立たん。レーダーを全て切れ」
「光学射撃……出来るか?」
再び衝撃があった。
「ドレッドノート」の主砲が跡形も無く吹っ飛ぶ。そして、VLSや各兵装も誘爆を起こした。
轟音。艦橋へと梅津は向かった。
「梅津、危ない」
ウインドが駆け寄った。艦橋はマストの破片が刺さっていた。
床には窓ガラスが散乱している。
しかし外の様子は確認出来た。
アフターバーナーの光が煌めいた。空軍機である。
さらに「ドレッドノート」に
蒼いその胴体が微かに見えた。
岡が呟く。
「F-3Eだ……ミサイルはウエポンベイに装備されていない……」
「よく分かるなー」
安斎は危機が過ぎ去るとすぐに呑気な調子に戻った。
「ドレッドノート」は黒煙を上げていたが完全に沈んではいなかった。
「!ドレッドノートが呼んでいる……」
「ドレッドノート」は切断仕掛けているデータベースを通じて呼び出されたのだ。
「こちらにもう攻撃の意思は無い。と言ってるが、どうする?梅津」
「フム……彼女らの考えが分かれば良いが、彼女らは好奇心の塊だからな」
そう言うと梅津はおもむろにサングラスを掛けた。
「人相悪いよ」
永田から指摘されるが御構い無しに岡に船を寄せるように言った。
「空軍機は攻撃を中断してくれ」
するとウインドの体に文様が浮かんだ。
ダイレクトに通信を送ったのである。
「何を始めるつもりだ……?」
「分からん。とにかく指示には従うのが最善だ」
「いや、潜水艦に寄っている、話し合いでも始めるつもりだな」
戦闘機乗りには堅物は少ない。すんなりとこちらの意図を掴み、上空の旋回を始めた。
手を伸ばせば届きそうな距離にまで近づいた。
「ドレッドノート」から六角形をした物体が足元に続いている。
「防御壁を応用した足場だ。意外と丁寧にもてなすんだな」
ウインドが感心していた。
「万一の事もある。ついて来てくれ」
「最初から付いて行くと思っている」
「なら結構」
「あともう一つ」
ウインドは顔を上げた。
「この話し合いは霧に傍受される危険性が潜んでいる」
「すまないがECMは作動させっ放しで頼む」
「分かった」
黒煙を上げる船体にそのメンタルモデルは立っていた。
「あんたが……潜水艦ドレッドノートか」
「ええ。いかにも」
その姿は旧海軍の純白の士官の軍衣に身を包んだ梅津と同じ年齢と推測出来る人物が立っていた。
きっとした目をし、稀にみる女性士官と印象を受けた。
しかし服装を始め姿全体がぼんやりと見えた。
「……本当にメンタルモデルなのか?少しぼんやりと見えるが……」
「それはすまない。生成が間に合っていない部分もあるのでな」
「本当はコアのままが良かったんでしょう」
「痛い所を突くな……ああそうだ。それが本来の姿なのだからな」
梅津が咳払いをした。
「本題に戻ろう……何が目的なんだ?ドレッドノート」
「ドレッドノート」はウインドをちらりと見た。
「何故お前はヴィルベルヴィント――お前たちはウインドと呼んでいるが、何故お前たちは行動を共にする?」
「そんなもの決まっているさ。俺たちゃずっと肩身の狭い思いをしてきたんだ。まあ、利用出来るものは最大限利用させてもらうのが主義なんでね」
「二重スパイとは思わんのか!そもそもヴィルベルヴィントがデータベースにアクセス出来る時点で――」
「アドミラリティコード・リフォール」
ウインドが言った。
「それに従っている。日本統制海軍特務少尉、今は中尉の梅津士郎にその全てを捧げよと」
「全てを捧げよって……」
このウインドの言葉は「ドレッドノート」だけでは無く梅津も驚いた。
「運命づけられたものと言ってもいい。梅津に従う理由としてはもう一つあるがそれは言えない」
「……そんな命令はアドミラリティコード・リフォールからは発せられていない」
「とある部分から命令されている」
「しかし他の超兵器もヴァイセンヘルガーに服従するようプログラムされているからな」
「?では超兵器は今何に頼っているんだ」
「たまに送られるヴァイセンヘルガーからの命令がアドミラリティコード・リフォールが代理するシステムだ」
「それは絶対命令と言われるものだ。私の奇襲もそれだ」
「現在は霧の艦隊と同調しつつある」
「なるほど、よく分かった。話し合いに応じたのは良かったな。最初は疑っていたがな」
「こちらも人間について知れて良かったよ」
「さて、これからどうする?ドレッドノート」
「お前がさっき言ったとある部分というのが気になった」
「アドミラリティコード・リフォールの真意を探るのも悪くない」
しかし突然、「ドレッドノート」の様子が一変した。
妙に寂しげな目をした。
「いや……その時間も無さそうだ」
船体が轟音を立てた。
「なんだ?」
「絶対命令がたった今出たよ……超重力砲が起動している……」
「ドレッドノート」の体の一部が徐々に銀砂となりつつあった。
「……」
ウインド、文様を浮かばせた。
「キーコード回収。コアもナノマテリアルも回収する」
「でも船体の中枢部だけでも撃てる仕掛けだ……」
「いや、大丈夫だ。演算能力を借りるぞ」
すると、凄まじい勢いで形を保っていた「ドレッドノート」の船体がナノマテリアルに変化し、「みらい」へと向かっていた。
それは融合とも言える現象が起きていた。
「コア回収」
まだかろうじて残っていた足場を踏みしめ、「みらい」に戻った。
後ろを振り返ると禍々しい円形状のものが光っていた。
「安斎、安斎壮!侵食魚雷を装填した。右舷魚雷発射管だ」
「り、了解!」
梅津が叫ぶ。
「撃て!」
空気圧で押し出された侵食魚雷は真っ直ぐ超重力砲ユニットへと向かった。
空間変異を起こし、ユニットはバランスを崩した。
同時に爆裂しそれは「何か」に引きずられていった。
「あれは!」
先日の「キリシマ」、「ハルナ」の戦いの傷跡であった。
そして超重力砲ユニットは暴発、途端に自己崩壊し粉々となって失せた。
「危機一髪だったな……」
「ああ」
「……何故私を助けた?」
そこには何とかナノマテリアルを得て再生したドレッドノートが立っていた。
「人間以外には分からん感情が働いた、としか言えないな」
「そうか……」
ドレッドノートはうつむきつつ言った。
「それで、ドレッドノートは?」
永田が尋ねた。
「色々話し合ったが、ドレッドノートは人間の世界に溶け込むのを望んでいる。だから解放したわ。――心配はいらない。だいたいの事は把握している」
「そのうちメンタルモデルがうじゃうじゃ居るようになるかもな」
安斎が薄笑いを浮かべて言った。
「……」
梅津は相手にはしなかった。
梅津は周囲からの視線は気にせずに真っ直ぐ例のブリーフィングルームへと向かった。
こんな視線にはもう慣れきっている。
予想通り部屋は蒸し暑かったが、冷房がじきに効いてくるだろう。
「安斎、無駄だ。設定温度はそれ以上下がらない」
「帰還した戦士に対する扱いがこれではな」
梅津たちに対する扱いは階級とは関係は無かった。
「私が下げてやろう」
ウインドが安斎をちらりと見る。
やれやれといった表情で梅津もウインドに任せた。
外部との気温差が開いたところで例の人物が入室した。梅津、ラフに敬礼する。
上陰次官補である。今回はやや神妙な面持ちであった。
「……船は出せませんよ」梅津が言った。
マストを損傷した「みらい」は現在急ピッチで修理中であった。恐らくドレッドノートが手伝っているであろう。
上陰は昨日の出来事は知っていない訳は無いのだが、忠告という口調をとった。
「それは承知している――昨日はご苦労だった」
「それはお互い様ですよ」
「いや、メンタルモデルを無理に抑えようとすると痛い目に遭うのは陸軍が証明した。お偉い方もそれは認めざるを得ないからな」
「本題に戻ろう」
そう言うと渡瀬がプロジェクターを用いてある図を映し出した。
「……硫黄島の件ですか」
「君たちは知っているかもしれないが、先日硫黄島付近の霧のピケット艦が移動した」
「誘い込んでいるように見えるわ」
永田が顎に手をやった。
「その通りだが、これに陸軍が見事に引っかかった」
「しかしタダで出かける訳では無い。北良寛議員と引き換えに動く」
「阻止しろだなんて言うんじゃあ無いでしょうね」
「そんな必要は無い」
「では、どうしろと」
「ここからが本題だ」
「この霧のピケット艦の件は極めて異例だ」
「過去数年間こんな動きは見せなかった」
「フム」
「そして、これにはあらゆる勢力が注目するだろう」
「そこで君たちも監視に駆り出される。ただそれだけだ」
「なるほど」
「特に、2BFNの動きに対してだ」
それは梅津にも初耳であった。これも「歪み」の影響だろうか。
「その組織は一体?」
「知らないのか?2BFN、Bonum Finis・Bonum Nascentの略だ」
「ラテン語で『良き終末・良き新生』……ですかね
「厨二臭い組織だな」
梅津はラテン語をも理解できる事に驚いていたが、組織名で大体どのような組織なのかは想像できた。
「こんな事をしているから帝国も生まれたんだな」
「かなり大規模な組織で各国軍隊から離反した者が集まっている」
「そして彼らは、恐らく切り札として弾道ミサイルを所持している」
「なっ……!」
「今使われたら……」
「そうだ。ピケット艦の件は恐らく霧も予想出来ない事態だ」
「だから霧が迎撃してくれるかどうかは怪しい」
「だから、君たちも動員した。メンタルモデルを仲間としている君たちがだ」