蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
一進一退の戦いの制したのはイージス艦「みらい」であった。が、「みらい」もマストが破壊され艦橋も損傷を受ける。
「ドレッドノート」との会合に応じた梅津は「ドレッドノート」の言葉から「ヴィルベルヴィント」の真意を知る。
「――硫黄島へ動いたか」
「全ては予定通りだ」
「今日こそ世界が灰燼に帰す時だな」
「……
「全艦、浮上開始」
「メインタンク・ブロー」
霧、そして超兵器が跋扈している海であるが、その艦隊は我が物顔で航行していた。
「万が一の場合もあります。地上迎撃ミサイルの設置を具申します。上陰さん」
「間に合わんだろう。それに今は陸軍の動きを監視するので手一杯だ」
「現在は陸軍の特殊作戦群それに第1旅団もしくは第12旅団の部隊、海軍第二輸送隊が動いている。臨戦態勢だ」
「一応三宅島絶対防衛ラインに警戒命令が出されている」
現在陸軍は硫黄島へと向かっていた。霧のピケット艦が移動したのを境目にである。
しかし、この出撃は北良寛と引き換えに動いたのである。先日の刑部邸での一件の尻拭いと言っても良い。
しかし、「後世」においては霧とは別の勢力に日本を狙われている状況であった。
各国から軍を離反した、志を同じくする者が集まった組織、「2BFN(
むろん彼らが運用するのは既存の兵器であったがこの海を自由に行き来する事が可能であった。
やはりウィルキア帝国が一枚噛んでいるのだろうと予想されている。
彼らの主戦力は潜水艦であったが多数の
「こういう時に限って事態がややこしくなる」
安斎が呆れた声を出した。
既に2BFNからは声明が日本に向けて出されていた。
その声明は映像ではなく文字が表示されていた。
古いラテン語ではあったが何とか岡が解読した。
が、その言葉の真意は掴めていなかった。
その言葉は「レクイエム 怒りの日」の歌詞と酷似したものであり終末を暗示したものであった。
この声明を受け、海軍はすぐさま数少ない各艦隊群に命令を下し
しかし霧の艦艇がいる都合上、展開は基地の周辺のみと留まった。
空軍は無人警戒機などを24時間体制で警戒に当たらせている。
また梅津たちの特務艦隊にも命令が下ったが「みらい」は修理中であった為待機となっていた。
悶々とした雰囲気であったが梅津は気には留めなかった。
「しかし修理は通常の半分以下の時間で完了するようですよ」
「ドレッドノートはよく乗り気になったな」
「人間の世界に溶け込もうとしているのね」
「雑談はここまでだ。港へと向かうぞ」
一同は地下の横須賀港へと向かう。
「借りは返した……と言っておこうか」
ドレッドノートが立っていた。どうやら「みらい」の修理は終わったようだ。
「どうもご苦労様」
梅津、軽く敬礼。
と作業員の一人が耳打ちした。
「梅津さん。ありゃあ人間業じゃあありませんよ。何者なんです?」
「想像に任せます」
「……こんな所にふらつかせて大丈夫なんですか?」
「上には話してあります。心配要りません」
「それよりもミサイルは大丈夫なんですか?」
梅津はしれっと話題をそらせた。
「ああ、はい。SM-3及びSM-6の搭載は完了しましたが……スタンダードミサイルなんて気休め程度ですよ」
霧の艦隊が跋扈したこの世界では米露、国は関係無く監視衛星の類は悉く撃ち落とされている。
しかもSLBMとあって日本近海で発射された場合には着弾まで30分とかからない。
「分かっています。こちらも出来る限りの手は打ちましたから」
「頑張ってください」
近海には第1艦隊所属の第1、6水上戦隊の内BMD能力がある「
「あまつかぜ型」は大量の造船には成功したが、深刻な人手不足により満足に機能していない艦も存在する。勿論この問題は「あまつかぜ型」に限ったことでは無い。
「……これって迎撃出来なかったらどうなるんだろう?」
咲嘩部が神妙な面持ちで尋ねた。
「本州で核が落ちるか硫黄島に落ちるかのどちらだ。正直言ってかなり不安だ。こんな経験は初めてだからな」
「警戒衛星が捉えてくれるのを祈るだけよね」
永田が操舵輪を握った。「みらい」はこの修理によって、艦の操舵などの機能もSMCに集約した。通常ならば途方も無く時間が掛かるが、実験艦であるこの「みらい」はその事も想定してあった。
「よーし、お前ら。用意はいいか?」
狭い潜水艦の中であるがその男は威勢良く言い放った。
「はい艦長!」
「俺は黙示録なんてのは興味はねぇが仕事はこなすぞ!」
「座標は転送してきたのをそのまま打ち込め」
「……発射命令、来ました!」
「よし!発射だ」
SLBMの安全装置が解除され、艦長格の男は発射ボタンを押した。
警告音と共にミサイルが発射管より勢い良く打ち出され、そのまま海面に飛び出した。
そのまま第一段エンジンが点火、同時に凄まじい勢いで上昇を開始した。
そして、空に6つもの禁忌の兵器、
黙示録には興味は無いがこの世界を力ずくで変えるという理念には共感出来る。
それを見守る暇も無くソナー員が叫ぶ。
「ソナーに感あり!霧の奴らだ!」
自分たちのテリトリーを荒らされたのがやはり気に食わなかったようだ。
「フン、スーパーウエポンの威光が薄らいだか」
「急速潜航!潜れ潜れ潜れ!」
艦長格の男が叫ぶ。
オハイオ級、「
「ミサイル発射音多数!数、多分17!」
「重高圧弾頭魚雷発射!自分たちの兵器をお見舞いしてやれ!」
水中に飛び込んだ対潜ミサイルは潜水艦に殺到する。
しかし、重高圧弾頭魚雷によって多数が誘爆、無力化される。
「必要に応じて高重圧弾頭魚雷発射だ。いいな」
「了解!」
「前進全速。逃げ切るぞ」
しかし、執拗に霧の対潜ミサイルが迫る。
「第3波、来る!」
途端に轟音が響いた。
「どうなっている!」
「北鮮のやつがやられた!」
舌打ちをする。しかし随伴など最初から当てにしていない。このご時世、自分が生き残ればそれで良い。
「構うな。前進全速そのまま!」
向こうは50ノットは軽く出せるだろう。こちらはせいぜい20ノット越えが限界だ。逃げ切れる可能性は低いと見る。
「駆逐艦クラスのやつが潜ったぞ!」
「くそう。距離が2000を切ったか」
距離は見る見る縮んでいく、恐らく魚雷の一斉射で事は済むだろう。
「ダメか……」
しかし、追跡していた駆逐艦数隻が我に返ったかのように180度の回頭を行い、去っていった。
「命拾いしたな……」
「ミサイルはもう中間軌道に突入しただろうな」
「このまま300mまで潜航。第2集結地点へと向かう」
「了解」
衛星は血眼になって捜索していたがSLBM発射から数分後、日本唯一の監視衛星「オオトリ」及び米軍の早期警戒衛星がそのミサイルをとらえた。
「捉えました!トライデントⅡ及び
「いえ、2発が上昇中に墜落したものと思われます」
「間も無く、イージス艦の探知範囲に入ります」
「よし、よし、良くやった!後は迎撃だ!」
「迎撃は第1艦隊、第1、第6水上戦隊『みょうこう』『ときつかぜ』それと第3特務艦隊の『みらい』にさせる。その他の艦は対水上、空、水中警戒を厳となせ」
「目標情報入りました!日本海より6発のトライデントⅡ、キロ・ノベンバー13、スタージョンSLBMの発射を確認!内2発は墜落!」
「了解。以後目標を
「みょうこう」CIC
「目標が配分されました。本艦はターゲットAを担当」
「システムをBMDモードに!万一の事もある、
MMRPS、これにより「みょうこう」は弾道弾の迎撃と通常の戦闘の同時進行が可能になる。艦が不足している中で極めて有効なシステムである。
「指示が来たわ。『みらい』はターゲットC、Dを迎撃せよ」
咲嘩部が読み上げる。梅津は速やかに指示を下した。
「システムをBMDモードに。ウインド」
「ええ」
メンタルモデルとの同期を開始する。これにより「みらい」は演算や電子戦能力が格段に向上した。
コンピュータ群が唸りを上げた。
しかし、その分メンタルモデルと艦の負荷が大きくなる諸刃のシステムでもある。
「SM-3発射準備。中間軌道を超える前に落とす」
「どんなミサイルか分かるか?」
岡が分厚い本を慣れた手つきでめくる。
「トライデントはアメリカのSLBM。キロ・ノベンバー13は北朝鮮のSLBMで本名は北極星3号です。スタージョンはロシアの『タイフーン級』が発射可能なSLBNです。これは冷戦時のものです」
「全く、骨董品レベルの核兵器を使いやがって。でも墜落して良かったな」
「しかし、骨董品とはいえ『核』だ。死に物狂いでも撃ち落とす!」
梅津が語気を強める。緊張感が漂った。
しかし梅津には今漂った緊張感は何かが違うと感じた。しかし今はそれどころではない。
「SM-3、4発発射用意」
「
「発射。
「みらい」のVLSから爆炎を上げてSM-3が大気圏外へと向かった。
同時に「みょうこう」、「ときつかぜ」からもSM-3が発射された。
「目標群、第2ブースター切り離しを確認!」
「SM-3、第1段パージ!」
固体燃料ロケットの燃焼が終了すると同時に切り離し、燃焼パターンの変化が可能な
この間もSM-3はGPS、及び艦からのデータに誘導される。今回はメンタルモデルの演算能力をも上乗せしているので迎撃成功の可能性は格段に上がった。
「第2段パージ!第3段点火!」
第3段固体ロケットモーター点火。そしてSM-3は大気圏外を突破して飛行する。
「弾頭保護カバー分離、弾頭露出を確認!」
そして第3段固体ロケットモーターが再点火し音速の9倍もの速度に加速。
「インターセプト30秒前!」
切り離させたキネティック弾頭は自身の赤外線センサーと艦からのデータを頼りに調整を行い、直接ぶつかり目標を迎撃する。
「インターセプト10秒前!」
全員が祈るようにモニターを注視した。
「5……4……3……2……1……
モニター上の輝点が次々と消失する。
「やったか!?」
しかし、1発だけ輝点は消失しなかった。
モニターの軌跡は真っ直ぐ硫黄島を指していた。
「ええええ!」
「くそったれ!」安斎が声を荒げる。
「落ち着け!SM-6!弾道弾迎撃モード!」
梅津が次の指示を下した。同じく各艦もSM-6の発射体制に入る。
「遅い。他の艦に割り込みをかける」
ウインドがぴしゃりと言い放つ。梅津は無言で頷く。
「他のフネは大騒ぎだろうな」
「ぼさっとするな。手伝え」
「了解であります中尉どの」
内心むっとしたが普段と変わらない態度、変に気負いをしていないと読み取れた。
しかし自分はどうだろう。今まで3度も超兵器と戦って来たが「普段の日常」と「みらいに乗った時」、と区別を付けてしまっているのでは無いか。
霧の艦隊や超兵器が存在する以上、普段の日常と有事は関係無く国家、いや人類が危機に晒されている状況、つまり常に「有事」なのである。
そして現在、自分が語気を強めたという事はやはり区別を付けてしまっていると確信した。
特務中尉という軍人としての威厳などを振りまいていたが、それははただ自分の中にある弱さを隠している事であった。
自衛隊から軍へという激動の時代を生き、建前だけの軍、専守防衛から離れたつもりになっている軍、申し訳程度に「統制」と名付け中途半端な立ち位置になってしまった組織の中でも自分を貫いたという父のようにはいかない。
今の自分は父の失踪にずっと囚われ、それで自分から学院時代の友人を離れさせ、立場には遠回りに不平不満を言い続け、仕方無しに船に乗り込みそして「
やはり未熟であり、どこかずれていた。
(くそっ。だめだだめだだめだ)
「……諸元入力完了」
「……梅津?」
ウインドが覗き込む。
「あ……ああ、撃て!」
まだSLBMの迎撃は完了していない。これでは焦っている事を宣伝しているようなものだ。
「
安斎が言い放つ。
※SM-6の弾道弾迎撃はTHAADとSM-3の中間的なものという筆者の独断と偏見の設定です。