蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
米国は超兵器「アルケオプテリクス」の迎撃に多くの戦力を注ぎ込み、成功する。通常兵器のみを用いての迎撃成功という事実は梅津を深く思考させる。
通常兵器のみを用いての超兵器の撃破は大きな進展とも言える。
もっとも、超大国の名を持つアメリカだからこそ成し得た事でもあるが。
しかし作戦には実戦配備間もない新鋭兵器「AL-2」や大量のミサイル、そして海上からの砲撃までの時間稼ぎとしての陽動と多くの戦力を投入する結果となった。
勿論、戦略核兵器の使用の声も政府内からは挙がっていたが、あくまで大統領は通常兵器のみでの作戦を強行した。
霧との戦闘に幾度となく使用した「前科」があるからである。また、核兵器の使用という「汚点」大統領戦においても対立候補にとっては格好の、この上ない標的となるからでもある。
今回の戦闘においては政治的な判断が働いた節が多少ある。
やって来た敵を迎撃、これまでのこの特務艦隊の戦いはこの一言に尽きる。
また霧、及び超兵器との戦いは始まった時から青天井のように予算が組まれても防戦一方であった。今回の米軍の戦闘もそうであった。
しかし数年のうちには状況は一変する筈である。
そう、振動弾頭であった。その効果は横須賀港海戦に於いては超兵器相手には十分に通用した。
霧の艦隊に対しては小型の魚雷艇には通用した、と上陰は映像で見せた。
しかし状況が一変するのは数年、それに「蒼き艦隊」及び原潜白鯨の第2遊撃隊が振動弾頭の設計図を無事にアメリカに届けた前提での話であった。
ここ最近では陸軍の動きがここ数年に無い程活発となっていた。
刑部邸事件ではその動きはクーデターそのものだったが陸軍の圧力を受けた戦略軍情報局の暗躍により事なきを得た。
そして現在進行形なのが硫黄島への出兵であった。
この動きは公式のものであったが「北良寛」議員の議員人生と引き換えに行われた。
弾道ミサイル迎撃戦の為、状況ははっきりとは掴めていないが硫黄島付近の霧の
やはりこれからの戦いには陸軍には白羽の矢は立たないだろう、あったとしてもアメリカがアラスカ半島奪還に本腰を入れた時のみだろうが。
しかしいずれにせよ現状は陸軍内、いや軍部にはウィルキア帝国への内通者「親帝国派」が存在するのは事実である。
既に情報局・情報軍団が調査を進めているが成果は芳しいものとは言えない。
また、親帝国派の存在を裏付けるのは刑部邸事件時の詳細な無人機のデータ、そしてウインドが話していた謎の男の存在である。
部屋に入るなり軽く頭を下げた。
「何だいいきなり頭下げるなんて、心当たりは無いぞ」
「ごめん。梅津」
「一体何があったんだ」
「勝手に行動して多分迷惑掛けたと思う……梅津はそういう所は厳しいから……」
確かに、安斎や咲嘩部に対しては注意する事もあるが。
「いやいや、迷惑なんてかかっていないぞ。それに怒ってもいないよ」
「一体何があったんだ?」
「一昨日の海戦での超兵器のコアを探していたの」
「ああ、そうか。確かにあの超兵器『ヴィントシュトース』はウインドの姉妹艦だったな」
「それで?」
「後一歩の所で回収し損ねた。謎の男が回収していったの」
「その男は誰なんだ」
「分からない。データベースを当たっても一致する人物はいなかった」
「それでその男は私に仲間が梅津に危害を加えに行くって……」
「今の所何も無いが?」
「うん。結局ハッタリだって今日分かった」
「しかしその男は厄介だな。銃も持っていたんだって?」
「そう。見た所闇で出回っているものじゃなかった」
「公的な所にいる人物か。要するに親帝国派だな」
「よし、分かった。今後注意しておこう」
この会話の後に恐らくその男は行動に移ったと思われる。
ウインドによればその男は去り際に陸軍について言及していたからである。
刑部邸襲撃事件である。公式には人質奪還作戦となっており刑部博士は霧の艦隊に抹殺されたとなっている。
また、北管区の要請で発進した三沢基地の攻撃機も陸軍鎮圧であったがこれも真実は葬られ、近接航空支援の名目で出撃したとなっている。
しかし、この事件に絡んだ岡の境遇には驚きと同時に、頼もしさも芽生えた。
彼は通常の人間では無かった。
本人もその事に気付いたのもかなり後であった。
刑部博士が生み出したデザインチャイルド、その試験型として遺伝子操作を加えられた「個体」であった。
遺伝子操作といっても殆ど影響の無いレベルで加えられたものであったが、知能面に於いてはトップレベルであった。
海洋技術総合学院の成績はトップを抑えていた。
しかしその後退学してしまったと聞いていた。退学後はその能力を買われ、軍部に所属していたらしいがこのチームに配属されるその前後は不明であった。
このチームに配属される以前に安斎と交友があったのは驚いた。
岡はスランプに陥っていた時期に安斎が支えてくれたと語っていたが、安斎にそんな一面があったとは驚きである。
また、岡には近親者がいた。
それはこのチームに加わって間も無い永田雪であった。
こんな閑静な住宅街に秘密基地のような地下があったとは思いもよらなかった。
その部屋はありとあらゆる資料が散乱していた。
これらは雪の養父であり元海上自衛官の永田裕二が失敬してきたものであった。
岡は目を輝かせて資料を拝見していた。
その中でも目玉と言えるのが大戦艦「ヒュウガ」の船体の一部であった。ナノマテリアルであったが無力化せずにそのまま形になって残っていた。
永田自身も解析を試みたが、いつ無力化するか分からないので円柱形のケースに入れっぱなしであった。
永田は放射性物質を含んでいるとの見解を示していた。
そして、その奥に雪がいた。
瓶底眼鏡を掛けた姿は印象に残っている。
眼鏡を外すと中々の美人であったが、外すと何も見えないらしい。
部屋は薄暗かった。当然視力はガタ落ちするであろう。
現在はその家には岡も住んでいた。実家は信州であったが岡は連絡は取っていなかった。
因みに雪は「みらい」の舵を握っている。また彼女は操艦のセンスやソナー類も使いこなせる何でも屋であった。
実際学院ではワンマン(ウーマン)シップとあだ名されていた。
いずれにせよ、このチームのメンバーは軍部の鼻摘まみ者の集団では無い事は改めて確信した。
そして、このチームの中核とも言えるのがヴィルベルヴィント——ウインドであった。
本来の艦名は「ヴィント級高速海域情報収集巡洋艦 2番艦」であるらしいが。
彼女と出会ったのは寮の部屋であった。
あの日は高揚した気分を何とか抑えている状態であった。
初めての実戦から一夜明けたばかりだったからである
不意にドアを叩く音がした。
自分を訪ねて来る人物は軍部の人間か余程の物好きであろう。
ドアスコープを覗くと少女が立っていた。どうやら後者のようだ。
「……誰ですか?」
「梅津士郎、で間違いないか」
突拍子も無い、おおよそドアの向こうにいる少女が言っているとは思えない口調に警戒感を強める。
「だから誰です?」
「部屋に入れて」
思わず返す言葉を失う。
呆然と立ち尽くしていたら再び叩く音がした。
「とにかく部屋に入れて」
拒否しても帰りそうには無かった。その少女の瞳には強い決心の心を感じ取った。
仕方がない。
梅津はドアを開けた。
そして、その少女は目の前で立ち止まった。
「迎えに来た。梅津士郎」
「は?」
「詳しい事は後で話す。とにかくあなたの仲間も集めるから例のブリーフィングルームに行って」
何もかもお見通しのようである。
そしてウインドはそのブリーフィングルームで真実を告げた。
思い返すとウインドとの出会いはかなり衝撃的であった。
見ず知らずの少女がいきなり部屋に入れろと行っていたのだから。
しかし、ウインドの行動には不可解な点が多い。
まず敵として横須賀に来襲した時は長距離からの対地攻撃を全く行わなかった点、そして攻撃を加えても主砲は使わずにミサイルのみを用いて攻撃した点である。
が、これについては解決している。
最初は敵意が無いか手加減をしていると推測したが実際は艦の制御を奪われていた、との事であった。
つまりウインドは最初から「みらい」に梅津たちが乗っていると知っていたとも言える。
次の点は霧の艦隊の「アドミラリティ・コード」の超兵器版ともいえる「アドミラリティコード・リフォール」であった。
リフォールは直訳すると「改正する」などの意味だがこれも霧のアドミラリティ・コードと同様に謎に包まれている。
ウインドが梅津を捜していたのは、そのコードの命令と言っているが曖昧な点が多い。
おまけにそのコードの拘束力は低く、独自に行動している超兵器も多いとの事である。
そしてウインドは防御壁として何故かクラインフィールドの展開が可能であった。
通常、超兵器は現状では質量兵器を無力化する「防御重力場」のみを展開する。
霧の紛い物である超兵器はクラインフィールドの展開は不可能な筈である。
もしくはウインドは霧の者である可能性も捨てきれないが。
だが霧の者が接続可能なネットワークにはウインドはハッキングといった手段でしかアクセス出来なかった。
やはり曖昧な存在である。
しかしウインドはスパイでは無い事は確信している。
ウインドの態度は忠実、忠義そのものでもあった。きっと「蒼き艦隊」のイ401も同様の雰囲気であろう。
忠義というとその意識は低いが協力者は他にもいた。
ヴィント級の1番艦、「ヴィントシュトース」であった。
彼女は姉妹意識は強く梅津らの作戦にも積極的に協力していた。
また、彼女も艦の制御を奪われ実験台にされていた。
結果的にヴィントシュトースは船体を失ったもののそのしがらみからの解放に感謝していた。
そしてドレッドノート戦では魚雷キャスターの設置や沈没艦の整備などで梅津たちの勝利への功績を挙げている。
文章を打ち込む手が思わず止まった。
その一瞬前から耳をつんざく音が響いた。
「うおっ!うひょぉぉぉ!」
奇声を上げているのは決まっている。安斎である。
見やるとどうやら護衛艦の各艦艇に搭載されている個人装備の不審船対処用のM2重機関銃を乱射しているようであった。
「ストレス発散だなぁぁ!」
と同時に期限が切れかけている弾薬の処分でもあったが。
「みらい」はその艦歴の故細部の部分は放置されていたので弾薬の劣化が進んでいた。
梅津は嘆息する。
安斎の隣の咲嘩部が替われとせがんでいるようであった。
乱射していたのであっという間に弾が尽きる。
安斎はすぐさまカバーを開けずに弾をねじ込んだ。
そしてコッキングハンドルを2回引けば発射準備完了……なのだが50口径もの反動に耐えるバネであるのでそう簡単には引けない。
咲嘩部も手伝ったが引けない。
ウインドがやれやれといった調子で、軽々とコッキングハンドルを引いた。
そして再び大騒音が響く。
こんな無駄な乱射はほんの数年前ならば全員首が飛んでいるだろう。
しかし上が目を瞑ってしまうのがこの艦の特権でもある。
今度はウインドが的を作り海へと投げ入れた。
ミニ射的でも始めるようである。しかし銃は破壊力抜群のものであったが。
なんとまあ規律の低いメンバーであろう。
仕方がない事でもある。
しかしこんな仲間でも無能はいないのは救いであった。