蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結)   作:チキンブロス

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——前回のあらすじ——
梅津は陸軍参謀部と名乗る男の話に応じる。その男はメンタルモデルはスパイと梅津に証明した。
しかし梅津は男の挙動から罠だと看破する。その男の正体は陸軍どころか軍の人間でも無かった。


24kt:統制陸軍参謀部・情報局別班

警戒任務の間を縫った期限間近の弾薬を用いたミニ射的大会は続いていた。

「50口径はそう簡単には当たらんさ」

梅津がぼやくが熱中している安斎と咲嘩部の耳には入っていないようだ。

M2重機関銃、米軍での通称マ・デュース(災厄おばちゃん)の周囲の甲板は薬莢まみれになっていた。

その割には的には掠ってもいない。

「反動は殆ど来ないがやはり振動のせいだな。やれやれ」

歓声があがった。

「やっと命中ね」

ウインドが呟いた。

 

「おいおいおい何発撃ったんだよ」

勿論安斎がむっとした表情をする。

「全く……」

「薬莢を片付けておけよ」

そして永田を手招きし港に戻る旨を伝える。

「帰ったら先生と面倒な話だ。ウインド、後片付けを頼む」

「あれをしまって置いてくれ」

「分かった」

間も無く横須賀要塞港へと入港する。

 

「そういえば3人は学院には行かないのか?」

ラッタルを降りつつ尋ねた。

「戻ってもいいが乗り気じゃないな」

「なるほどね。女子組はどうなんだ」

「安斎と同じよ」

「ヴィルベルヴィントの船体の修復はもう少し掛かるが修復が終われば……」

言葉が詰まる。

「まあその時はその時だが暫くここには戻れなくなるぞ」

「思い残した事があるなら片付けるのは今のうちだ」

「その忠告はお前の経験からか?」

「まあそうだな。学院の事なんて思い出したくもない」

「しかし、確かに思い残した事ならあるわ」

ラッタルを降りきり、少し歩いた後梅津が振り返る。

「今日は解散だ。各自好きにしてくれ」

やはり横須賀港の雰囲気は張り詰めている。

現在進行中の陸軍の作戦の影響である。

また、作戦には海軍の教習揚陸艦が動員されているせいもある。

作戦の推移は黒田に聞けば明らかになるであろう。

 

思案しながら歩いているとウインドが横に付いた。

「梅津は昔の事は思い出したくないようね」

「痛い所を突くな……」

「ごめん」

「いや、いいさ。しかしウインドになら話してもいいかもしれんな」

「まあ学院を出る間と軍に入った辺りは思い出したくない」

「お父さんの失踪に関連した事?」

「あの頃は失踪の原因の追求以外には眼中に無かった」

「失踪されてからはかなりきつかったな」

「政府の対応が機密の一辺倒だったから共産圏にイージス艦を売り渡したやらアメリカが絡んでいるとか根も葉もな噂が流れて……」

「あと住所が特定されるのは直ぐだったと聞いたな」

「そういうのは部屋で語ってくれる?」

突然の声の主は黒田であった。

「黒田先生」

梅津、ぞんざいに敬礼する。

「こんな大っぴらに話されると面倒な事になるからね。第一アレはタブーよ。何重にも封印が施された」

「すいません。つい……」

「よりによってそのコに話すなんて」

「まさか疑っているんですか?」

「失礼。こんな事言うのは梅津クンの逆鱗に触れそうね」

「とにかく私のデスクへ」

「分かりました」

 

部屋に入るなり呆れ声を出した。

「しっかしまあよくあんな弾薬の処理が出来たわねぇ」

「三宅島防衛ラインに警戒命令が出てるのに」

「みらいはアレな船ですからまあ何かと好きに動けますよ」

しれっと答える。

「でも横須賀港海戦での後始末にどれだけ苦労したか」

「もう過ぎた事でしょう」

「過ぎた事を延々言う癖はお互い様」

「でしょうな」

「それで今度はどんな話なんです?」

「今後の話」

「ヴィルベルヴィントの修理が終わってから、の話ですか」

梅津はちらりとウインドに見やる

「そうね」

「自分は周辺海域の霧を蹴散らし晴らすつもりですがね」

「聞いている限りでは主砲4基12門、魚雷発射管30門に水中魚雷発射管。そしてミサイル一式に超重力砲」

「恐らく一個艦隊分の働きは出来ますよ」

「そういう暴走は破滅を招くわよ」

「軍の立場からした忠告か、あるいは……」

黒田は顔をしかめた。

「とにかくその時はその時ですよ」

「ところで陸軍の作戦の推移はどうなったんですか?」

話題を逸らした。

「やはり今の事で精一杯なのね。皆は」

「陸軍特殊作戦コマンドは全て順調との事よ。401の奪還にも成功したって」

「401のクルーは?」

「済んだらしいね」

「そうですか」

401のクルーの事である。向こうは戦闘のプロであるが簡単に殺される訳が無い。

第一、陸軍の襲来は秘密裏に白鯨か海軍特殊作戦コマンドが伝えている筈だ。

上陰も動いていないのも証拠である。

「失敗するって思ってるでしょう」

「当たり前ですよ。これで失敗したら陸軍の面子が丸崩れですね」

「また暴走するかもしれませんよ」

「暴走する可能性は高いわ。次の標的はそう、あなた達ね」

「陸軍とあの謎の男と板挟みね」

ウインドが言う。

「私の考えではここが一番安全だと思う」

「軍務省が?冗談だろう」

「いえ、確かに理想的ではある」

黒田が補足した。

「やれやれ。話題を変えなきゃ良かった」

「今更遅いわ」

ウインドが笑む。

「くそ。面倒くさい」

「あの4人に掛け合ってみますよ」

梅津はブリーフィングルームを後にした。ウインドも後を追う。

ブラインドから見える線切られた空に向かって黒田は嘆息する。

「ますます面倒な事になったわね」

「全く、中間管理職は辛いねぇ」

 

 

学院内では勿論好奇の目が浴びせられた。

「やっぱり来るんじゃ無かったわ」

永田が呟く。

「荷物をまとめるだけだ。長居は無用」

「ですね」

 

安斎にはこの学院が存在する意味は未だに分からない。

ここを出て、海軍に正式に入隊しても長くは続くまい。己の無力さにショックを受けるであろう。

何しろ成績の上位者は優越感に浸り、偏屈したプライドを持っている為でもあるが。

安斎からしてみれば学院は遊び半分で来ているも同然である。

成績上位者は反面教師見なしていた。だから梅津とは上手く噛み合わなかった。

が、岡との付き合いは別であった。

岡も成績上位者であったが彼の場合は成績上位者にありがちな別段気取っている態度も取っていなかった。

 

思案が続き、部屋の片付けは一向に進まなかった。

「後は安斎だけなんですけどー」

咲嘩部が呆れ声を出した。

「全く片付かねぇ」

ドアの向こうから悲痛な声が響いた。

「どれも名残惜しくて捨てられないな」

「後5分ー」

永田が随分古びた腕時計を見た。

「その腕時計……かなりの年季が入ってますね」

「米軍の官給品ロレックスですか」

「そうよ。父さんから貰ったの」

「え?でもお父さんは海自の人でしょ」

「いつぞやの海軍の人から貰ったんだって」

 

「よし、今の内だ……」

岡たちが談笑している内に見られてはマズいあれやこれやをそそくさと片付ける。

咲嘩部が嫌悪するものである。特に露出度が高いものは。

急いではいるが、しかしそれらはぞんざいには扱えない。

梱包にこだわった為余計に時間を食っていた

「……もう中に入って手伝いましょうよ」

岡の声である。

くそ。こういう時に限って親切になる。

「入りますよ。このままじゃ間に合わなくなります」

「咲嘩部は入れるなよ!いいな!」

「はいはい」

「はいはいじゃないでしょ。安斎の奴、私に見られてはマズいのを片付けているわね」

 

 

「梅津史郎特務中尉ですか?」

「……」

唐突に声を掛けられるのは良くない兆候である。

相手は若い男性か。

「歩きながらもあれですから、そこの喫茶店ででもお話しましょう」

勝手に話が進んでいく、ますます面倒な事になった。

梅津は仕方なくその男の話に応じた。

場所は、男が指した喫茶店である。

ヴィントシュトースと一悶着があった場所でもあるが。

「——私はこういう者です」

渡された名刺を読み上げる。

「陸軍参謀部情報局別班……ですか。『NSOCOM(海軍特殊作戦コマンド)(エヌソコム)』に居ますが初めて聞きますね」

「色々と事情がありましてね」

「本題に入る前に一つ見てもらいたいものがありましてね」

「これなんですが」

そう言うと男はタブレットを取り出した。

「この人物なんですが」

男は横須賀港内での映像に映っていた少女を指した」

旧帝国海軍風の白い軍服を纏った、ドレッドノートであった。

「この人物、超兵器のメンタルモデルで間違いありませんね?」

「そうですが」

梅津は警戒感を強める。

ドレッドノートに関しては「みらい」の修理以降連絡が取れず、梅津はどっち付かずという印象を受けていたからである。

「では次にこの映像を」

その映像には同じく白い軍服を纏った人物がもう一人の少女と何か話しているように見えた。

「……それで?」

「梅津特務中尉ほどの人でしたら分かるでしょう。もう一人は霧のメンタルモデルです」

「……」

「どう見てもスパイ、ですね」

その男が不敵な笑みを浮かべた。

「俺を強請る気ですか」

「まさか。そんな卑屈な手は使いませんよ。我々なら気付いた時点であなたを即拘束していますよ」

「居所が掴めているのに何故ドレッドノートは捕まえないんですか?」

愚問ではあると自覚していた。

「前に我々がやって見事に失敗しましたよ」

男が笑った。

「で、何の為に俺を捕まえたんです?」

「これに関しては事情が複雑化していてね。最近は」

「陸軍は元より、今や軍上層部に厭戦気分が広まっているのは事実である」

男は話題を逸らした。

「確かにそうですね」

「そもそも我々はこの動きに乗じて『有利』に動こうとしている輩を処理しているんだがね」

「親帝国派ですか」

「その通りだ」

「だからメンタルモデルとなると——一筋縄では行かないですよね」

「スパイと決め付けないでくださいよ」

「いや、君にも疑いが掛かりつつあるのも現状ですよ」

「それは忠告ですか」

ますます男への不審感が高まる。

男は梅津の言葉を無視し「何故なら超兵器の潜水艦と戦った時に君に不可解な動きがあったものでね」

「では、そのような話なら我々のオフィスでじっくりと話し合いましょう」

この様な素性の知れない人物は「敵地」へと足を運べば正体は明らかになるであろう。

敵地とはこの男が本当に梅津たちの失脚を狙っている人物であればの表現であるが。

梅津は相手の反応をじっくりと見るように意識した。

男は一考し、「……良いでしょう。確かにこんな喫茶店では不味いですからね」と応えた。

 

軍務省、例のブリーフィングルームへと足を運んだ。

男の運転する車での移動となった。

梅津はいよいよ警戒感をメーターで例えるならば振り切れるまで高めた。

濃い青のジャケットに隠し持っている小型の拳銃(グロック26)のグリップに取り付けられたロックを解除した。

「そう言えば、車の中なら外に話が漏れる心配は無いよね」

男が微笑しながら言った。

「あ、確かに」

「まあ我々陸軍の情報部が君を話に誘ったのは別の理由がありましてね」

「我々としても海軍とはある程度のパイプを持っておきたいんでね」

「君らの活躍、裏では話題になっていますよ」

「影の蒼の艦隊なんて呼ばれているよ——正式な愛称は深き蒼の艦隊だっけ」

「そうですが」

 

特に重要な事項が話された訳でも無く、軍務省に着いた。

「こっちです」

男は別段不審な挙動を取らずに梅津の後を付いて行った。

 

梅津と男は向かいになって座った。

「本題に入りましょう。先ほど話したそのメンタルモデル、ドレッドノート後日を連れて来てください」

「そしてスパイでは無いという証明をして頂ければ十分です」

「ドレッドノートとは連絡が取れませんが……ウインドを呼びましょう。彼女ならアポが取れるかもしれない」

「いえ、そんなメンタルモデルを呼ぶまでの事ではありません」

「何ならあなたがその証明をしても良いですよ」

「しかしはっきり言って俺には証明できません、ですからウインドを呼んでも構いませんか」

「それは許可できませんね」

「じゃあヴィントシュトースはどうです」

「それもダメです」

「何故です?」

「我々がこの非公式な場でメンタルモデルと接触するのは不味いです」

梅津は嘆息した。

「これって非公式だったんですか。では俺との接触も不味いですね」

「さっきから支離滅裂な内容を話していますよ。あんた」

「ウインドを呼べば一発なのにそれはやけに嫌がりますね」

「話にならないな。黒田副司令を呼びますね」

梅津がドアを開けた。向こう側に影が見えた。

 

梅津は素早く拳銃を取り出した。

チェンバーに弾を込めそして銃を影に向けた。

そこには少女が立っていた。

「やっぱりな」

その頭部は無機質な仮面に覆われ、正体は確認出来ない。

引き金に指を掛け、発砲。

乾いた音が響いた。肩辺りに当たっている筈である。

しかし拳銃から発射された弾丸は眼前で停止していた。

構わず梅津は連写する、そして十発目でスライドが後ろ一杯まで下がったまま動かなくなった。

弾丸がは全て初弾と同じく停止していた。

「9mm弾では——貫通できないね」

梅津は、男は不敵な笑みを浮かべているだろうと予測した。

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