蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結)   作:チキンブロス

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——前回のあらすじ——
梅津からの連絡が途絶え、メンバーは彼を探す。咲嘩部と安斎は彼の部屋である物を発見するが、それを詮索する間も無く梅津が拉致されたとの情報が入った。


25kt:仮面の少女 その1

ドアの先に佇んでいる影に向かい、拳銃の弾を全弾撃ち込む。

しかし効果は無いようであった。

「たかが9mm弾では……貫通出来ないね」

男が自信ありげに言った。

「チッ」

すると今度は素早く無機質な仮面を着けた少女に蹴りを入れた。

(よし、手応えはあった)

そして、少女が怯んだ隙にドアを閉めマガジンをセットし直す。

今度は男に向けた。

「あれはメンタルモデルか?」

「ご明察。まああれはメンタルモデルとは呼べない代物だがね」

「でも防御重力場を展開出来るだけマシさ」

「どういう事――」

 

梅津が言い終える前に、後方に衝撃が走った。

ドアが吹き飛ばされ、梅津を直撃した。

はずみで頭を机に強打し転げた。

起き上がろうとしたが、さらに背中に痛みが走る。

「うう……くそっ」

少女が踏みつけているのだ。しかも徐々に力が強くなっていく。

「俺はそういう趣味じゃねぇ……ええい」

なおも銃を男に向けようとしたが少女が腕を片方の足で踏みつけた。

梅津、さらに呻く。

男は梅津に見やった

「なるほど、軍務省内だったら安全だと考えたのか」

「しかしまだまだ甘いな」

「そんなもの、メンタルモデルが居るなんて分かりっこあるか」

梅津は声を絞り出す。

「負け惜しみを」

男がせせら笑う。

「俺をどうするつもりだ?殺すのか?」

「そんな短絡な事は出来んよ。第一上からは殺すなってお達しでね」

「やはりお前は親帝国派、いや帝国の人間か」

「十中八九そうだな。まあ我々も後が無いんでね」

「しばらくの間付き合ってもらうよ」

男がそう言うと少女がかがみ、腕を上げた。

「俺をさらっても直ぐに気付かれるぞ――」

直後、首辺りに打撃が加えられた。

梅津はピクリとも動かなくなった。

「ま、こんなもの素人がやると絶対成功しないがね。メンタルモデルありきの技さ」

「担いでってくれ」

男と少女は足早に軍務省を後にした。

 

 

横須賀港、ヴィルベルヴィントの甲板上に集まっていたがまだ一人、来ていなかった。

「珍しく今日は梅津待ちか」

「全く、人を集めておいて……」

安斎が呆れ口調で言った。

「どこかほっつき歩いてるんだろうな」

「梅津が行きそうな場所って限られてるよね」

「すぐそこの喫茶店かあるいは軍務省の中、もしくは自分の部屋。ま大体こんなもんか」

付き合いが比較的長い安斎が例をあげる。

「梅津が時間に遅れるなんて事は滅多に無いよね」

咲嘩部が言う。

「確かに不自然ですね」

「たまにはこういう事もあるだろうな」

しかし、もう一人いなくなっている事に気付いた。

「あれ?ウインドちゃんはいずこに?」

「さっきまで居た筈ですがね」

「これは何か匂うな……」

安斎が言う。

「探しに行ってみましょう」

「分かった。私がここを探すから雪は寮、岡君は軍務省、安斎はそこら辺を探して」

咲嘩部が口早く言う。

「そこら辺か」

「全く、こんな大袈裟にやる必要は無いと思うぜ。確かにあの二人が同時に居なくなるのは珍しいが」

「あと、渡瀬さんに連絡をお願い」

「無視かよ」

「渡瀬さんね……もう殆ど空気みたいな人になってしまっているな」

「やれやれ――で俺はどこを探せば良いのかな」

「あんたねぇ」

「まるで歩調が合いませんね」

「梅津がいないとこうなってしまうのね」

永田が感心する。

「それで、僕はどこに行けば?」

永田は嘆息する。

 

管理人が怪訝な顏をして鍵を開けた

荷物は纏められているようであった。

恐らく、量は梅津が最も少ないだろう。

梅津には趣味とかは持っていなさそうだ。

「部屋は探し終わったのか?」

安斎がやって来た。何かと面倒な奴である。

「もう部屋の中はね」

「あいつの荷物はあれだけか」

「梅津は何か趣味でもあるの?」

「あいつの趣味は……昔はあったけどな」

「どんな?」

「プラモさ。あいつによく似合っていた」

「あの写真だ」

安斎は机の上に素っ気なく立ててあった写真を手に取った。

「ほら、見ろ。今とはまるで違うだろう」

写真の中の笑顔はいつもの薄ら笑いでは無かった。

眩しいくらいである。

「学院の生活が中盤が過ぎてからかな。あいつが冷酷になったのは」

永田は改めて何が梅津を変えたのかを訝しんだ。

「安斎はどうだった?」

「喫茶店には三十分前にはいたらしいとの事だ」

「それを早く言ってよね……」

永田が嘆息した。

「他には?」

「さあな、あまり詮索していねえ」

「こういう時に限って役に立たないわね」

「バカ。俺を梅津や岡だと思ったら大間違いだぜ」手振りを入れつつ言う。

その拍子に写真のスタンドを落としてしまった。

裏側の部品が衝撃で外れ写真の台紙と本体が滑り、あらわになる。

台紙と合わせ、二枚の筈であったが滑り落ちたのは三枚であった。

「おやおや」

安斎が興味深そうに手に取る。

「いつ撮ったんだ?この写真」

「見せて」

「大分昔の梅津ね」

少し不貞腐れてはいた梅津のいたその場所は学院の正門であった。

「なるほど、入学式か。ここは幼稚園からあったような――ムムッ」

永田から写真を取り上げ、目を凝らした。

「ちょっと」

「待て待て」

「見ろよ。ほら、梅津の隣にいる人物だ」

「誰……かしら」

「くそう、見えねぇな。顏の部分が日光……意図的かもしれんが白く見えなくなっている」

「初恋の相手ね」

きっぱりと言い放った。

(梅津の学院の生活で最初で最後の、幸福な付き合いか)

「なるほどな」嘲るように笑った。

永田はばつの悪い顏をした。

そして、話題をそらした

「……とにかく咲嘩部に連絡とるわよ」

 

ウインドは少し乱雑になっている椅子、机を眼前にした。

そして、状況を悟った。

「梅津……何処にいる……」

 

 

「何?梅津が拉致された可能性が高い?」

黒田が顔上げた。

「それは本当よね?」

「はい。一時間程前に喫茶店に男と何か話していたとの事です」

渡瀬がメモを読み上げる。

「昨日言ったばかりでしょう……注意しなさいって」

椅子を回転させ、空を見上げる。

「それで、これ、まだ他の情報筋に伝わっていないわよね」

「はい」

「よし、仕方がないわね」

再び、デスクの向こう側の渡瀬の方を向いた。

「情報局、軍団、どっちが早くそして隠密に動かせる?」

「は……情報局ですが」

「やはりね」

「比較的小規模ですから」

「直ぐに探させて」

「陸軍がドンパチやってるこの状況よ。騒ぎを大きくさせないように注意させて」

「分かりました」

「参ったわね……こんな時に」

 

 

ヴィルベルヴィント艦内、指揮所とおぼしき場所に集められた。

渡瀬が一枚の写真を提示した。

「確かに梅津特務中尉は拉致された、と考えた方がいい」

「その証拠にあのブリーフィングルームには、薬莢が散らばっていた」

そして薬莢をちらつかせる。

「そしてドアが派手に壊されていた」

もう一枚の写真を机に置いた。

「渡瀬さん……まるで人が違うわね」

咲嘩部が小さな声で話した。

「なんかのスイッチが入ったみてぇだな」

「部屋に血が無かった事は誰も怪我はしていない、と推測される」

渡瀬は人が変わったかのような強気な態度であった。

岡が挙手し「ところで、銃声にはその階の人は気がつかなかったのですか」

「ああ、完璧にしてやられた」

「この件は引き続いて我々、つまり情報局とメンタルモデルが捜索を行う。君らは何もしなくても結構だ」

態度も大きくなったようである。

「渡瀬さん、実は情報局解析部の部長らしいですよ」

「実質的なトップだな」

 

「えー、あと君らはこの事件が解決するまではこの横須賀要塞港からの一切の外出は禁ずる」

「食事は我々が何でも取り寄せる」

「別に……ヴィントシュトースがいるからいいですけれど」

「うむ、そうか。ならそうしてくれ」

「では以上だ」

渡瀬は足早に立ち去った。

「そう言えば渡瀬さんヴィントシュトースの行動に注意しろ云々~とは言わなかったよね」

「下手に言うとえらい事になるって分かってるんだよ。陸軍の轍は踏めないからな」

「梅津は無事なのかな……」

咲嘩部が心配そうに言った。

「やれやれ、梅津ばかりかウインドもいないぞ」

「血眼で探しているんだろうな」

「ウインドにとってはかなりの衝撃ですよね」

「あの2人は仲間を超えている気がするな……」

安斎がさらりと言う。

咲嘩部が反射的に睨みつけた。

「よしてよ。こんな時にそういう事言うのは」

「バカ、独り言だ」

しかし咲嘩部はまんざらでも無いようであった。

「そりゃ、惚れるよなぁ」

安斎が呟いた。

咲嘩部が立ち上がった瞬間、着信音が響いた。

「梅津からだわ」

「はっ早く出ろ!」

「もしもし?」

『咲嘩部か?俺だ』

酷く息を切らしているようであった。

「大丈夫なの?」

『ああ、大した怪我は無い。頭がジンジンするがな』

咲嘩部は思わず安堵の息を漏らした。

『いやはや俺とした事がしくじった』

「何処にいるの?」

『どっかの廃港の近くだ。公衆電話から掛けている。場所は直ぐに割り出せる筈だ』

「直ぐに黒田さんに伝えるわ」

『奴らは船の中に放り出しやがった。もしかすると何かの罠かもしれん。注意してくれ』

「分かったわ」

遅れてヴィントシュトースがやって来た。

「よっ」

「電話はこの地点から掛けられたと思う」

ディスプレイに地図が表示され、発信源を光点が示していた。

「協力してくれるのか?」

「あんたらは缶詰め状態で動けないからね。アタシが動くしか無いでしょう」

「恩は返させてもらう」

恩とは横須賀港海戦においてヴィントシュトースは実験台にされていたからであった。

「よろしく頼む」

 

「分かった。直ぐに実働部隊を向かわせる」

「ヴィントシュトースをエスコートさせる予定だから。安心しなさい」

「これでひとまず一件落着……となるといいわね」

 

 

「遅いぞ。アキ」

カラオケボックスの重厚な扉が開いた。

「フフン。あのね、世の中には待たせられる人間と待たせる人間が存在するの」

「それがどうした」

「私は常に待たせる人間だから」

「ハッ、訳わかんねぇ」

男が呆れ声を出す。

「やれやれ、お前を待っている間に10曲も歌ったぜ。喉が痛いな」

「さて……役者は揃ったみたいだね」

もう一人のひょろっとした男が周囲を細い目で見回す。

「何でこんなカラオケボックス何ですか?ミヤコさん」

「話が漏れないからに決まっているでしょうが。バカ」

女が言った。

「そうだ。鈴乃さんの言う通りさ」

「準備は出来ているのかい?」

「ええ、もちろんですよ」

「まずは高野君から見せてもらおうか」

高貴は銀に輝く砂を袋から取り出し、手のひらにのせた。

「見ていて下さい」

するとその砂が変形し、拳銃に変化した。

「何これ?銃?」

「俺の趣味でね。M1911さ」

「ほう」

ミヤコと呼ばれた男が興味深そうに見る。

「こんなものも出来ますよ」

高貴は得意げに、もう一つの袋からさっきと同じ砂をテーブルの上にのせ、今度は砂を自動小銃へと変形させた。

「AK-47か、シンプルだね」

「もちろん撃てますよ」

「なるべくこんな物は使いたくは無いがね、しかし上出来だ」

「早くお前も使えるようになれよ」

「フン、スキャン精度が悪いのはたまたまよ」

「せめて作動原理だけでも把握しておけ」

「こんなもの――」

すると鈴乃も同じように自動小銃を出現させた。

そして、コックして弾薬を薬室に送り込む。

「ちょっ」

高貴が止めに掛かったが、既に引き金は奥に引かれていた。

不快な音が響いた。

「弾が出ないけど」

「ジャムっているのかな」

ガリッと、嫌な音を立て続ける。

「バカ、暴発するぞ!」

それでも鈴乃は引き金を何度も引いた。

すると破裂音が響き、銃は元の姿である砂に戻った。

「あーあ、スキャン精度高めておけよ」

「うるさいわねぇ。あんたのやつがダメだったんじゃないの」

「俺はもう試し撃ちは済んでいるけどな……」

高貴は嘆息した。

 

二人のやりとりを横目に見ていた宮戸がやれやれといった調子で言う。

「……手順は覚えているよね」

「もちろんです」

「では早いとこ行ってくれ」

「目にもの見せてあげますよ――行くぞアキ」

部屋から出ようとした二人を引き止める。

「料金は私が払っておこう」

「あんた気前がいいんだな」

高貴が宮戸の肩を叩いた。

「二人の活躍を期待してのこんな投資は惜しくも無いさ。期待している」

そして、二人は得意げに部屋を出た。

 

 

「……もっとも君らの行く末は決まっているがね」

 

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