蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結)   作:チキンブロス

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——前回のあらすじ——
梅津の救出はメンタルモデルらしき仮面の少女に妨害されながらも何とか成功する。梅津の無事に喜ぶメンバーであったが、「ヴィルベルヴィント」は何故か梅津に銃を向け、射殺してしまった。


26kt:仮面の少女 その2

「無事なのね」

『ええ、何とか』

「迎えを送るわ。保護してもらいなさい」

『了解しました』

『それと、場所は――』

黒田が遮る。

「公衆電話から掛けているんでしょう。これは一般回線よ」

『ああ、すみません……』

「場所はこちらから分かるから」

『やはり誰かに見られている感覚があります』

「迎えに行くのは武装した情報局の実働部隊よ。安心しなさい」

『お願いします』

「その付近から移動しないでよ」

『分かっています』

「無事を祈っておく」

これで一件落着、といって欲しいものである。

敵は誘い込んでいるのかもしれないが。

「しかし、それにしても梅津がこんなヘマをするかしらね……」

夕日に向かい呟いた。

 

車が到着する頃には辺りは夕闇に包まれつつあった。

車二台で駆けつけたようであった。

気配を察し、梅津は繋留されてあった廃船から顔を出した。

「梅津士郎か」

運転席に座っていた男が呼びかけた。

「はい」

「よし、とっとと帰るぞ」

男が車へと促す。

 

「こちら甲隊、荷を回収した。これより帰投する、オーバー」

了解した。と返答が来る筈である。

「本部。こちら甲隊。本部」

聞こえてくるのは雑音だけであった。

「そっちはどうだ」

「本部。こちら乙隊、本部――ダメだ」

「このおんぼろ車め」

「電波妨害を受けているのかもしれん」

「車に来い!はやく!」

梅津が駆け出す。

車までの距離は近い。

しかし、梅津が一歩を踏み出した瞬間、地面が弾けた。

見下ろすとコンクリートの一部が砕けていた。

「隠れろ!」男が反射的に叫んだ。

慌てて船の縁へと飛び降りた。

その間もコンクリートが弾ける。何者かに撃たれているのだ。

男たちも車を急発進させ、倉庫の影へと隠す。

「早く車から出ろ!」

「トランクに武器がある!」

「分かった!」

後部座席に座っていた男がトランクを開ける間、車の隠れきれなかった部分が容赦無く撃たれていく。

「こっちに来い!」

後部座席の男はトランクからありったけの武器を持ち出した。

人数分の自動拳銃、それと50発もの大容量の弾倉を備えた小口径高速弾を撃ち出すPDWを持ち出す。勿論予備の弾倉もである。

そして命からがら、奥へと逃げ込んだ。

車には無数の弾痕が付けられていった。

やがて、エンジンから出火し爆散した。

「くそぉ!」

「何て事だ!」

「大丈夫か!中尉!」

「はい!そっちはどうですか!」

梅津も状況を把握しようとする。

「車が吹っ飛んだだけだ!」

もう一台は無事なようだ。さっさと乱射している相手を片付けたいものだ。

「どこから撃っている?」

「分からん――」男の言葉が途切れた。

「どうした」振り返る。

 

そきには人影があった。

逆光で全体像は掴めなかったが、顔ははっきりと確認できた。

その顔は目も、鼻も口も無かった。

起伏がない顔、無機質な仮面を付けているようであった。

手には銃を持っていた。

安物のトイガンのように見える。

仮面、そして銃に気を取られ、一瞬反応が遅れる。

「急げ!隠れろ!」

「もっと奥に行かないと」

四人は散り散りに隠れる、が一人が転ぶ。

「撃たれた!撃たれた!」

 

「やっと命中か、この下手くそ」

「うるさいわね!こんなややこしいやつ持ったこと無いんだから!」

目の前にいる、走っている男四人に銃を向ける。

これは実際の映像であった。

一人がよろめき、倒れる。

倒れた男の足からは大量の血が流れていた。

もう一人の男が引きずって隠れる。

「やれやれ、お前はスキャンが下手だからな」

「次は当ててみせるわ」

その港にいる仮面の少女から伝わる感覚は本物である。

銃を撃った反動、そして地に足を着けていることもである。

「隠れても無駄よ」

歩み寄る、実際歩み寄っているのは仮面の少女の方である。

鈴乃は感覚で操作していた。いわばこれは五感とリンクしたアンドロイドでもある。

「うっ!」

撃ち返される、しかし大した痛みでは無い。ゴム鉄砲の方が痛い位である。

 

「やはり」

防御重力場であった。弾丸はその少女の手前で静止していた。

「構わん。撃って足を止めろ」

リーダー格の男が指示する。

「フン、無駄よ」

少女は飛び交う銃弾の中を文字通りお構いなしに歩んでいく。

そして、とどめを刺すべく引き金を引いた――しかし弾は出ない。

カチッと虚しく響くだけであった。

「弾切れだな」

「予備のマガジンをセットしろ」

「くっ」

その隙を突き、倉庫の裏側まで落ちぶれる。

「どうだ、痛みは」

「くそう……死ぬほど痛い」

弾丸はふくらはぎを貫通しているようだった。

流れた血が自分たちの隠れている場所を示していた。

「これでは直ぐにバレる」

「すまん」

撃たれた男が絞り出すように言った。

「仕方が無いさ……上着を貸せ」

薄い上着を脱がせ、引き裂く。

それをふくらはぎに巻き、血止めの包帯代わりとした。

これで少しは持つはずである。

「高かったんだぞ……」

「バカ、そんな事言っている場合か」

「あいつをどうにかしないと」

「索敵能力は高くはなさそうだな」

「目視での索敵しか出来なさそうだな」

覗き込むとまだマガジンの交換に手間取っているようであった。

「確かにそうだな。『おつむ』の方はどうだと思う」リーダー格の男が笑みを浮かべる。

 

「どこに隠れたのかしら」

周囲を見回す、その前に眼下に血の跡が続いていた。

「どこに逃げたかバレバレ」

呆れた声で言った。

倉庫と倉庫の間にそれは続いていた。

「今度は仕留めるわ」

歩み寄る。

しかし大した突然何かに引っ張られる。

「きゃあ」

そして首が締められる。呼吸が苦しくなる、鈴乃にその感覚が忠実に伝わる。

「はう!」

「このバケモノめ!」

動きを封じ、頭部に拳銃を突きつけ、容赦無く撃つ。

発泡する度に砂のようなものが飛び散る。

「くそ!カタすぎる!」

今度はその仮面の少女を壁に突きつける。

拳銃を投げ捨て、FN社製のPDW(P90)を突き立て零距離で小口径高速弾を撃つ。

大容量のマガジンから吐き出される薬莢はまだ冷え切っていない。

しかしかなりのダメージは与えられる筈だ。

「アキ!カットだ!痛みに耐えきれなくなるぞ!」

高貴が忠告するように言った。

「う……うるさいわね!やってるわよ!」

「うわっ!」

鈴乃が吹き飛ばされ、頭を打った。

現実の痛みが襲う。

そして瞬時に視界が元の場所に戻った。

同時に仮面の少女も、さらに無機質な砂へと変化した。

「倒したのか……?しかしこの砂は……」

「大丈夫か!」思考する間も無く、呼び掛けられた。

「何とかな……」

 

 

車に乗り込む、一台を失ったが目標の確保には成功した。

帰ったら黒田や渡瀬に根掘り葉掘り聞かれるだろう。

「あのバケモノは待ち伏せをしていたのか」

「どうやら、そうらしいな」

「この疫病神め……」

撃たれた男が呻く。

「そんな事は口にするな」

リーダー格がたしなめる。

「それより連絡を入れるぞ」

車内無線を規定値にセットする。

自動で接続される仕組みであったが……繋がらない。

「爆発でやられたかな」

数値をセットし直す。

しかし聞こえるのは雑音だけだ。

「携帯もダメだ」

男たちは反射的に警戒する。

追っ手の可能性はゼロでは無い。敵はあの一体とは限らない。

「また妨害を受けている――繋がった、向こうから繋げてきたぞ」

『梅津』

少女の声、ウインドであった。憔悴しているようであった。

「俺は大丈夫だ」

「ウインド、それよりも港の様子はどうだ?陸軍は?」

『陸軍か。特になにも動きは無いわ』

『これは他には知られていないから』

「硫黄島は」

『それは分からない。特殊戦が情報収集を行なっている』

「特殊戦――?まあいい、直ぐに戻る」

『分かった』

 

「あれが、あの声がメンタルモデルか」

運転手が呟いた。

噂は知れ渡っていた。姿も人間と変わらないのだろう。

しかし、その梅津という少年の言動は少し不可解ではあるが。

そして、海軍特殊戦のメンバーはあの少年一人だけではない筈だが――

「おい」

助手席の相棒に呼びかけられる。

「どうした」

「あの車」サイドミラーに見やる。

「付けてきているぞ」

面倒な事になりそうである。

「追っ手だ、シートベルトは締めているよな」

「あまり無茶な運転は止めてくれよ。怪我人がいる」

「ああ」

ちょいとフットワークをきかせた。

再開発が行われている横須賀の街中は複雑である。

細い路地一本に至るまで頭の中に叩き込んでいる。

急加速、急ハンドルを繰り返し追っ手を惑わせる。

「ムッ」

再びサイドミラーを見る、車は消えていた。

「いないぞ」

停車し周囲を確認する、例の車は通らなかった。

「今のうちだ」

再度急加速、一路横須賀港へと向かう。

 

 

梅津は意外なまでにあっさりと解放された。

あの異形のモノについては一言も話さなかった。

無論、あの実働部隊であったあの男たちはうんざりするほど話させられるであろうが。

そして、みらいSMCにではなくヴィルベルヴィントの指揮所で梅津は解放された。

「無事だったか」

安斎の声であった。

ふと振り返ると咲嘩部が飛びかかった。

反射的に身をかわす。

「何だよ一体」

「良かった……無事で」

目には涙を浮かべていた。

「全く……」

梅津は呆れた声で言った。

 

 

彼女は走った、重要な事実に気がついたからである。

彼女でも見破ることの出来ない策が張ってあった。

最初から最後まで全く抜かりのない策であった。

逆に彼女が感心するまでの「こだわり」であった。人間業ではないものであった。そして自分自身を恥じた。

最初から罠であった事に気がつかなかったからである。

彼女は急いだ、うっかり敵を本拠地にまで招いてしまった。

まして彼女の「本体」に招いてしまった。

これが最後のチャンスであった。間に合わなければこれまでの事が全て水泡に帰してしまう。

彼女の頭にふと最悪の事態が浮かぶ、しかしそれはあまりにナンセンスなものとして掻き消された。

「待っていてくれ……梅津」

 

 

「ヴィントシュトースを呼びましょう。帰還記念の食事会でもどうでしょう」

「それは名案ね」

永田が同調する。

「ここでするのか?案外狭いぞ」

「ウインドに部屋を一つ増やしてもらおう」

「あいつが帰ってきたらな」

「梅津」

別な声が響いた。ウインドであった。

「ウインド」

梅津が言う。

「丁度良かった。岡から提案があるんだが――」

言葉を手で制される。安斎はたじろいだ。

ウインドは無事を喜ぶ素ぶりは見せず、声も掛けなかった。

 

そして、その代わりに拳銃を向けた。

場が凍りついた。

沈黙が支配する。この沈黙は今までのものとは段違いに異なっていた。

「何……してるの」

咲嘩部が声を絞り出して言った。

「まさか……お前――」

安斎が言葉を詰まらせた。

まさか――お前がやったのかと声に出しそうになった。

あり得ない話では無い、しかし安斎にはそんな思いはこの瞬間までは毛頭なかったのである。

寝食を共にした仲間である、言い回しは古くさいがまさにウインドとの生活はそうであった。

「訳は後で話す」

 

そしてウインドは躊躇無く引き金を引いた。

梅津は力なく倒れる。

血潮がほとばしる。

さらにとどめを刺さんばかりにさらに二発、発泡した。

流れる血が床を染めた。

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