蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結)   作:チキンブロス

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——前回のあらすじ——
梅津を拉致したのは宮戸であった。宮戸は犯行声明を政府に送り付ける。
軍は「ヴィントシュトース」の入手した情報から救出作戦を立案し、切り込みとして「ドレッドノート」を前面に押し立てた。


28kt:作戦準備

『ウイ……える……か……じ……だ……』

ほとんど雑音であったが声は聞き取ることができた。

梅津の肉声であった。

「あの通信機を使ったのね……あれは本物の梅津だわ」

「発信源の特定……はヴィントシュトースが済ませていたわ。場所は、東富士」

「奪還作戦、か」

「陸軍はいい顔をしないでしょうね」

「フフ」

黒田が鼻で笑う。

「陸軍もそこまでの馬鹿では無いわ」

「奪還作戦、上はすぐにでも発動までもっていくと思うわ」

「彼は必要な人間だ」

ウインドが言う。

「やれやれ……今夜はレトルトか」

安斎がぼやく。

「私が作ろうか?」

「……お前も料理に凝りだしたのか」

「色々と忙しいだろうに大丈夫何ですか」

岡がねぎらいの言葉を掛けた。

「そんな事で根を上げてていたら梅津のパートナーはつとまらないわ」

ウインドは淡々と言い放ったが、周りの人物はパートナーという発言に驚いていた。

「……梅津の秘書かよ」

 

 

梅津は血を舐めた。

殴られた事は、訓練生時代に経験していたが、こいつの殴る時の心情は違う。

「全く、余計な事を」

宮戸が拳をさすりながら言った。

「もう遅いさ」

「……生れながらの反骨者だな」

梅津はまた歯を食いしばった。

しかし宮戸は話題を変えた。

「……今日、イギリスである重大な発表が行われた」

「それを見てもらおう」

そばにいた女性にノートパソコンを持ってこさせた。

そこに映っていたのは、千早翔像そして「ムサシ」であった。

《我が艦隊はここに誓う、『霧の力』の下に再び海を太平なる物にする事を人類のさらなる飛躍を》

《今この時より我が艦隊に背く者達は人類、『霧の艦』そして『超兵器』の別なく我が砲火の前に倒れるであろう》

《我が艦隊の最初の目的は欧州統一、再びこの地に安寧を取り戻す》

《霧の力に抑制されてこそ初めて人類は永遠の平和を希求でき得るのだ》

《この条約が偏に我々人類の繁栄の為のモデルケースとならん事を――》

「イギリスが『霧』と安全保障条約を締結した」

「そんな事があったのか」

「そうだ、世界は再び目まぐるしく動くようになったのさ。君が寝ている間にね」

「超兵器という文言は『前』は無かったんだけどなぁ」

その男、宮戸は確かにそう呟いた。

宮戸はここが並行世界という事に気付いているのか?

しかし、問いただすのはよした方が良さそうだ。余計な情報を与えてはならない。

「イギリスは霧に屈し、それ以外は帝国に屈した。まあヨーロッパは大人しく移譲するだろうね」

梅津はまた別な苛立ちを感じた。昂りも混じっている。

あの中継の一語一語が梅津をそうさせた。

世界随一の海軍大国としての誇りは何処に行ったのだろうか。「霧の艦隊」の出現はある種の福音となった筈である、日本も再軍備を果たした。反撃の狼煙はたちつつある。

「――霧の艦隊は福音のままであるべきでだ。平和の為の存在では無い」

「うん?」

宮戸が反応する。

「霧の力による抑制と平和?支配の間違いだな。そんなもの、手に余る核兵器で十分だ」

「千早翔像は『アドミラリティ・コード』の独占が目的だろうな。まあ、あの条約の中継は頭の固いお偉い方にはいい目覚ましにはなっただろうな」

「あんな言葉は幻想だ」

「フフン」

宮戸が鼻で笑う、小馬鹿にしていた。

そんな事は分かっている。今のはただ心に渦巻いたどす黒いものを言葉にして吐き出しただけだ。

「子どもっぽいな、だからこんな閑職に就いているんだねぇ」

「此の期に及んでまで美辞麗句を使う必要は無いさ」

「屁理屈だな、実際海洋に出られるのは一部だけ――どうだ、この際我々と組まないか?自由に七つの海で能力を発揮できる」

「上は君の『特異性』には気付いている」

「無理な話だな」

「では君は何の為に戦っている?まさか、軍とか国の為とか言わないよなぁ」

「目には目を、だ。俺は彼女と共にこの世界の風向きを変えたい、それだけだ」

「それは暴力になるな」

「誰に対して振るうかでそれは希望になる」

「何とでも言うといいさ、君はここではどうする事も出来ない」

「確かにそうだな」

「しかし、まずはここから逃げ出す!それだけだ!」

梅津は机を蹴った。脚はキャスターであったので簡単に動く。

向かいの宮戸の腹に直撃、次に椅子を投げつけた。

そのまま廊下に飛び出す事もできるが、そこにいる女性を人質に取ればベターである。

梅津はその女性に駆け寄る。

武器は無い、しかしどうにかはなるだろう。

が、梅津はその考えの甘さを痛感した。身をもってである。

電撃が走ったこれは殴られた時のものでは無い、本当に電流が走ったようであった。

「全く、油断も隙も無いな。君は」

「逃げようたって無駄。ここには部下が大勢いるからな」

ドアが開いた。

「何かあったんスか――?」

「ム」

梅津はその顔に見覚えがあった。

「こんな所にまで落ちぶれたか、高貴」

何かと因縁を付けてくる同級生であった。岡の件でのレストランのいざこざを起こした男であった。

すると一発、拳が入った。

「いつ見てもイラつくなぁ、その薄ら笑いは」

「ここがPMCだと思うか?テロ組織だぞ」

「その減らず口、聞けなくしてやろうか」

「こんな所にいても長くは持たない」

「黙れ。この反骨者」

すると天井を突き破って、何かが落ちた。

「これは……」

無機質な仮面を着けた、人型のものであった。

「これが俺のフォージャーさこれさえあれば苦労はしない」

(フォージャー……旧ソ連のVTOL機にあったような)

そして、その単語の意味を確認する。

「フォージャー、まがい物か。確かにピッタリだな」

「ああ?」

その人形から銃が形成された。

「まあまあ、落ち着いて。彼を殺すなって命令だからね」

「フン」

高貴はばつの悪い顔をして、梅津の腹に蹴りを入れた。

何も食べていなかったので反吐は吐かずに済んだ。

「しかし持たないのはお前の方が早い」

そう言い捨て、高貴は去っていった。

 

「手ひどくやられたな」

隣人、ヴェルナー・ヨシフの声であった。

「同級生がいましたよ」

「学院のか?」

「はい」

「奴の元へは血の気の多い者が集まる……鉄砲玉って事を知らずにな」

「あの、フォージャーって知っていますか?」

「フォージャー……ああ、あの人形の事か」

「メンタルモデルが言う事を聞くとは限らない。だったら自分自身がメンタルモデルになればいい、そういう考えで生み出された人形だよ」

「なるほど」

「しっかしお前さんはついこの前まで学生だったのか」

ヴェルナーが咳込む。

「若いのは良いもんだ。無茶ができる」

「もし脱出となってもこのお節介な爺さんは置いていってくれ」

「まさか、そんな事出来ませんよ。親身になって話してくれる数少ない人ですから」

ヴェルナーが嘆息する。

「お前の行く末が心配だな……厳しい所もあるかと思えば妙な所で優しさも見せる。全く、先が思いやられる……」

ヴェルナーはまた一段と強く、咳込んだ。

 

 

「小癪ね」

黒田が吐き捨てるように言った。

「知っているんですか」

岡が尋ねる。

「宮戸巽、デザインチャイルドの軍事利用を頑なに主張し、刑部博士に付き纏って彼の研究データをいくらか持ち去って姿を消した。そして死んだ筈の男よ」

「死んだ筈?」

「死体が見つかったのよ。数年前にね」

「戸籍上には存在しない男か」

安斎が呟いた。

「とにかくビデオの続きを」

永田が再生する。

『彼は我々には協力しないつもりでいる。拷問に掛けたいが上からは慎重に扱えと念押しされている。さあ我々はどうしようかと考えた』

『このまま彼を捕らえておいても時間の無駄だ。そこでだ、我々はもうこの際梅津中尉は諦めようと考えた。しかし諦める為には君らに動いてもらわないといけない』

『単刀直入に言おう。そちらにはメンタルモデルがいるだろう?二体だっけ。それと交換だ。簡単だろう?君らは恐れているんだから』

『取引場所はこのビデオのデータにある。陸軍にも渡しておいたからね』

『もし要求に応じなければ……核弾道ミサイルを撃ち込む、三都市全部にだ』

「この手の脅しは大抵虚勢だな、映画で飽きるほど見た」

「しかしSOSUS(潜水艦監視線)には不審な雑音を拾ったという報告があるわよ」

「え?」

「2BFNね」

安斎はぼう然となった。

安斎を尻目に咲嘩部があけすけに笑っている。

 

 

当然軍はこの事態を重く受け止め、情報局を中心とした戦略会議を開いた。会議には陸海空それぞれの重鎮が出席した。

勿論陸軍参謀部は要求に応じるべきと意見した。

他も自然とそれに同調する。

しかし、この会議はあくまで情報局が主役ではある。黒田もそれを示そうとする。

「ですが、メンタルモデルの返還の要求だけで終わるとお思いですか?彼らがこれで手を引くと思いますか?」

「今後も彼らは揺さぶりをかけるでしょう。例えば『振動弾頭』の設計図をよこせ、など」

場がざわめく。黒田はしめたと思い説明を続けた。

「ご存知の通り今設計図は我々の手元を離れています。取り返そうとした所で今は硫黄島かどこかです――硫黄島の作戦、上手くいっていますか」

陸軍の男は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「我々が命じたのはイ401の奪還だ。今回はきちんと総理にも申し上げた」

「今回は、ですか」

「今はそんな事で言い合っている場合ではないだろう」

今度は海軍参謀部の男が言った。

「話を戻します……今我々に打つ手はありません。メンタルモデルの恐ろしさは陸軍が証明しました」

「しかし、梅津中尉の場所は掴めています」

すると陸軍の男がすがるように言った。

「そうだ。我々は今特殊部隊の隊員にOPを設置し監視を行っている。救出の訓練も今行っている所だ」

OPとは人質が監禁されている施設の人の動きや規模などを監視するものである。OPにはカモフラージュが施され、周囲の景色に溶け込んでいなければならない。監視任務は睡眠、食事、排泄が制限されるかなり過酷なものである。

「奪還作戦、甲三号作戦の立案を具申する」

「陸軍を活躍させるのは良い機会だ」

海軍の男が言う、各人もうなづく。

「これが最後のチャンスだと思っている」

「では、総理に打診してみます。下命を確認次第具体的な作戦要項を纏めましょう」

 

「作戦名は甲三号作戦、作戦目的は人質の救出とする……ですか」

岡が資料を読み上げる。

「陸軍主導の今作戦はプランAとプランBが存在しメンタルモデルを我々の元から意図的に離れたと見せかけ取引場所に向かわせる。そして対象が現れた場合、メンタルモデルが実力をもって奪還、同時に敵基地を叩く。これがプランA。プランBは取引そのものが罠であった場合は敵基地を急襲、対象を救出する」

「プランBの場合は、メンタルモデルの援護に即応性の高いヘリを向かわせる――という算段よ」

「取引場所にメンタルモデルを始末する為『フォージャー』が現れる可能性がある、という事ですか」

「希望的観測、ね」

資料に目を通したウインドがばっさりと言い放つ。

「何だそれ」

「何かに対して、この場合は宮戸たちの動きがこうあって欲しい、こう動いて欲しい、という発想よ」

「ふーん」

「梅津も同じような事を言うだろうな」

安斎の言葉ウインドが少し笑む。

「確かにね、人間は自分が見たい未来に考えが引っ張られるものと分かった。このご時世ではね」

「観察結果、か?」

安斎がニヒルな笑みを浮かべる。

「ちょっと安斎」

すぐさま咲嘩部が嗜める。

「……それで取引場所に向かうメンタルモデルだけど」

黒田が横目に言う。

「私が行こう」

ドレッドノートであった。

「私は今、戦術ネットワークからは完全に切り離されている。つまりあの戦いで撃沈されたと思われている。都合が良い」

「なるほど。マジでこちらから逃げ出したと思わせられるか」

「ヴィルベルヴィントはどうするんだ」

「私はプランBに備えて救出部隊に同行するわ。基地にはフォージャーがうようよいるかもしれない」

「今の内容を上に言っておくから、準備して頂戴」

「了解」

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