蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
「わざわざご足労様、シュトゥルムヴィント」
『私速力では容易い』
「それで、伝言の内容は?」
『アルケオプテリクスの捜索任務をシュトゥルムヴィントに移行、硫黄島へ急行せよ』
シュトゥルムヴィントは機械的に情報を表示した。
「コアの捜索を諦めろ、か」
『そういう事だ』
「じゃあ後はよろしく」
『任せろ、私は姉たちの轍は踏まない』
「そろそろメンタルモデルでも持ったら?」
『姉たちの轍は踏まない。メンタルモデルなどという不安定な要素が多い領域には踏み込まない』
「石橋を叩いて渡るか」
『何だそれは』
「人間たちが使っている諺というものよ」
「メンタルモデルを作ったらより深く分かるのに」
『現在稼働可能なヴィント級はもう私しかいない。次々と人類側につくなどという失態を繰り返してはならない』
「ふーん……そういえば面白い事が起こっているそうよ、日本で」
『余計な事を言うな、私に興味を沸かせるようなやつは特にだ』
「堅物ね、島に行くまでまた退屈になるわ」
『余計な情報が入るメンタルモデルなどを形成するからだ』
「全く頑固ね」
「宮戸とかいう男、面白い事をしているそうよ」
『……』
シュトゥルムヴィントは興味が無さそうに艦尾を向けた。
「ドレッドノートは生きていたそうよ」
『何?』
「情報収集艦であるあなたが知らないなんて意外ね」
『事の推移は戦術ネットワークに上げて』
「あら、興味津々ね」
『これは情報収集艦としての基本的なものだ』
「硫黄島から中継してあげる」
硫黄島にこの双胴型の教習揚陸艦を派遣する意図は見え見えである。
「
『今の言葉、伝えようか?』
「そうなったら道連れにしてやるわ。あんたも壁の前に立たせるわよ」
『統制陸軍、木更津駐屯地から先ほど発進したヘリコプターは静岡方面へと向かって行きました』
『陸軍は大規模な演習を実施すると発表しましたが、一部情報によると避難勧告が発令されている地域もあるとの事です』
『この演習については統制空軍との合同との事ですが東富士において空軍との演習は前例が無く、軍縮を訴える市民団体は避難勧告を発令してまでの演習は言語道断と――』
テレビのチャンネルを切り替える。
『先日横須賀市内でテログループの鎮圧作戦を実施したばかりでしょ、海軍への牽制ですかね、今回の動きは』
『確かに規模縮小が続く陸軍――』
またチャンネルを切り替える、今度は抗議の様子が映し出されていた。
「我々の動きに気付いたのかな」
宮戸が言った。
「そのようですね、期限まであと1日ですからね」
キーボードを打っていた右腕の秋吉が答えた。
期限とは宮戸らが梅津を解放する条件としてメンタルモデルの返還の日の事である。
「ま、正味海軍内で動けるメンタルモデルはたったの二体だけだからね。しかも一体は眠っている」
「ここを襲っても梅津を盾に出来るし、指定場所に来たらこっちの思惑通りになるね」
「そうですね」
椅子を回転させつつ「さて、明日が楽しみだ」と宮戸。
しかしおもむろに回転を止め、「あの二人を呼んでくれ」
「誰の事です」
「高貴君と鈴乃君だよ、焦らさないでくれ」
間も無くその二人がやって来た。
「明日に備えて君らに名誉挽回のチャンスをあげよう」
「場所は、東富士だ」
「峯岡山のレーダーサイトが
統制特殊作戦軍、その司令部は海軍特殊戦のそれの二倍近くの広さがある。
「データを持ってこい」
中央のメインモニターにレーダーの画面が映し出される。
「確認急げ」
「
「見失うなよ」
渡瀬が念を押す。
「アンノウン、真っ直ぐ西へ向かっています。当該機ありません」
「スクランブルはかけるな」
「了解」
「アンノウンを標的、『
「行き先は間違いない、富士山麓だ」
スクリーンに映し出された建物を指差した。
「人質がいると思われる建物はこれだ」
梅津の救出を担当する陸軍、特殊作戦群及び第56レンジャー連隊であった。
「武装兵が数十人規模で重火器も確認された」
「警備はどうです?巡回型か迎撃型かです」
「おそらく巡回型だ、見張り塔がある。対空ミサイルが設置できるだろう」
「そして問題が、メンタルモデルもどきだ」
「またそれを操作する人間は民間人だ。訓練通りやれ、撃つなよ」
「しかしメンタルモデルもどきはどうしますか?」
「そこで、今回の作戦にはメンタルモデルを加える」
場がざわつく。
「それはすごいですね!仕事が楽になりますよ!」
「慎め、森本」
説明を行なっていた男が嗜める。
そしてメンタルモデル、ヴィルベルヴィントが部屋に入った。
一礼し「よろしく頼む」と無愛想に言った。
「あんたがいれば百人力だな」
「森本!」
「もはや死に体のヘリ部隊を叩き起こしての作戦か」
海軍省長官の男が陸軍からの資料を一瞥する。
「見ものですね」
デスクの向かいの黒田が言った。
「しかしうまく考えてあるな、どう転んでも陸軍が喜ぶように作ってある」
「私は行き当たりばったりと感じます」
「それは否めないな。でもメンタルモデルが味方に付いている、失敗はするまい」
「それと
「分かっています」
「この前のようにはならんようにな。ミサイルは撃たれる前に片付けてくれよ」
SOSUSは異常を捉えてはいないが宮戸の脅しは虚勢では無いように感じられた。
「
高高度で飛行中のグローバルホークとP-1哨戒機がこの司令部に状況を中継する。
また、遥か後方には
「できるだけ後方に留意されろ、気付かれるな」
「ドレッドノート、行動開始しました。」
「真っ直ぐ指定場所へ向かっています」
「了解。全部隊へ、“A-3”」
この甲三号作戦は開始暗号「A-3」で展開される。
なお、この作戦に於いては運用部隊は全て特殊作戦軍の指揮下に置かれることとなる。
作戦の手順としては、まずメンタルモデル「ドレッドノート」が取引場所へと向かい、相手の出方を窺う。
ドレッドノートは帝国側の認識としては梅津らに撃沈され、コアは破壊されたと見なされている。簡単に言うと死んでいると思われていたのであった。
ここからはプランA、Bに分岐する。
もし宮戸らが素直に梅津を差し出せばドレッドノートが確保し離脱。
そして取引場所に近い宮戸らの拠点は、
プランBは要求に応じなかった場合のものである。
その場合は拠点にヘリ部隊が急襲し、梅津を確保する。
また、梅津が監禁されている建物は判明しているのでそれ以外の見張り塔などはヘリに搭載されている誘導弾を撃ち込み破壊する。
その際には、監視員がレーザー照射装置を用いて誘導弾の終末誘導を行う。
これが作戦の大まかな概要であった。
陸軍主導であったが指揮をとるのは渡瀬であった。
副指揮として陸軍特殊戦のトップが置かれた。
『全部隊へ、A-3作戦開始』
東富士も演習場に設けられた
空軍浜松基地からは空爆用のステルス戦闘攻撃機 F-3Cが発進し、プランA・Bに備える。
こうして統制軍各軍が足並みを揃えた戦闘遂行システムのスイッチが入る。
「ハッ!」
防御重力場の力を相乗した蹴りを入れる。
向こうは防御の構えを取ったが吹き飛ばされ、木々がなぎ倒される。
しかしこちらも息が切れ始める。重力場に蓄積されたダメージが無視できなくなる。
重力場が無効化されたら本体の脆さは人間と変わらない。
吹き飛ばした仮面の少女、「フォージャー」は大したダメージは受けていないようだ。
飛翔音、その数瞬後にロケット推進擲弾がドレッドノートに殺到する。
回避は間に合わない、避けた所で爆風を受ける。
仕方なくドレッドノートは重力場を展開、擲弾は壁に阻まれる。
彼女は思わず片膝をついた。
「なぜ私の位置が分かるんだ……目視でしか索敵は不可能な筈なのに……」
同時にドレッドノート自身のレーダーも大した使い物にはならない。
船体を失っている以上スペックはかなり落ちている。
このままレーダーを使用しても木々がクラッターとして映ってしまい重力子は検知できない、パッシブレーダーの場合もであった。
逆に敵にこちらの居場所を教える事になってしまう。
あれほど見下ろしていた人間の兵器がこの場面では必要としている事を彼女は意識していた。
やはりあのメンタルモデルもどきを甘く見ていたのは屈辱だ。
人間でも倒せた、その過信が自分を追い詰めた。梅津に戦いを挑んだあの時と同じだ。あの時も過信していた、自分の絶対的有利を。
結果その過信で先制攻撃を受けてしまった。そのダメージはまだ癒えていない。
あのメンタルモデルもどきを操っているのは人間だ。人間は失敗を糧に成長する。それは我々機械の予想を超えるスピード、質であった。
しかし泣き言は言っていられない。立候補したのは自分だ。
飛翔する仮面の少女を見やる、人型ではあるが片肘から先は変形しロケット弾ポッドとなっていた。
重火器を生成できる程成長しているというのか。
「ハイドラ70……とかいうやつか」
こういうのはヴィルベルヴィントが詳しそうだ。
ドレッドノートはそれを注意深く見る、残弾は十発程であった。
弾を消費する事は続いて撃つには再装填が必要となる。
その際には無防備になる筈である。
勿論敵がこちらに姿を晒しながら装填を行う事はまず無いのでどこかに隠れるであろう。
全弾を撃ち尽くし、姿を消した瞬間が最大のチャンスとなる。
これを逃せば負けとなる。
まずは少女に全弾発射させなくてはならない。
そうなると、取るべき行動は一つである。
「こっちだッ!メンタルモデルもどき!」ドレッドノートは駆け出した。
多少の被弾は覚悟の上であった。
少女はドレッドノートめがけて迷わずロケット弾を全弾叩き込む、ドレッドノートの読み通りであった。
開けた場所に飛び出したドレッドノートに全弾命中する。
「これで仕留めたわね」
メンタルモデルもどき、「フォージャー」を操る鈴乃は勝利を噛み締めて言った。
「メンタルモデルといっても所詮は霧の不完全なコピーに過ぎないわ」
「最後は万策尽きての特攻ね」
「お前のプライドの高さには呆れるよ」
隣にいた少年、高貴が言った。彼もフォージャーを操る。
「メンタルモデルに勝ったよのよ。もっと自信を持つべきよ」
鈴乃が諭すように言った。
しかし次の瞬間、煙の中から白服の少年が飛び出した。
「何!?」
ロケット弾ポッドを向ける、しかし弾は出ない。
「ぐっ!」
殴られた感覚が伝わる。
態勢を立て直す暇もなく、ドレッドノートが猛攻する。
「おおッ!」
ドレッドノートはさらに蹴りを入れる。仮面の少年が吹っ飛び、地面が抉れた。
「これでとどめッ!」
ドレッドノートは走り込んだ。
しかし、今度は弾丸の雨が降った。
「え?」
「うわァッ!」
体に無数の弾痕が残り、周囲に銀砂が撒き散らされた。コアのみを何とか防護した。
「もう一体いたのか!」
通りでこちらの位置が掴めた筈である。
立ち上がろうとするが、さらに銀砂が彼女の体からこぼれ落ちた。
このまま立ち上がると自分の姿を維持できなくなってしまう。
銃を持ったもう一体の仮面の少女がじりじりと歩み寄った。
彼女の頭の中に死という文字がよぎった。
(こんな一瞬で立場が逆転するとは……願わくば刺し違えられたら……)
「全く手こずらせてくれたわね、楽に逝かせてあげる」
飛翔音が響いた。
(例のロケット弾か……刺し違えもできないのか……)
彼女はゆっくりと目を閉じた。
滝のような涙がこぼれ落ちる。
しかし、それは明後日の方向から飛来する。
「!」
そしてそれは、仮面の少女の体をいとも簡単に貫いた。
次話で暫く更新を停止します。