蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
新たなメンバー、永田雪を迎えようやくこの閉ざされた海へと舵を切り出した梅津たち。しかし、超兵器との戦いに用意された彼らの戦力となる艦は、梅津にとっては因縁深いものであった。
そこにあったのは、一隻のイージス艦であった。
「これって……イージス艦?」
咲嘩部が梅津に聞いた。
が、梅津は驚きの表情を浮かべ、こちらの話など聞いていないようだった。
(覚悟はしていたもののやはり、この艦か……)
「こんごう型?あたご型?」
雪も不思議そうに言った。
突然、奥の方から1人の研究員らしき男が現れ
「DDH-X 『みらい』だ」
と言った。
すると表紙に「DDH-X『みらい』概要」と書かれた冊子が配られた。
上陰が口を開き
「『みらい』は先進武装などの実験艦だ」
「ただのイージス艦じゃん!」
「冊子を見てくれ」
冊子には
DDH-X「みらい」
基準排水量7735トン
全長171メートル
全幅21メートル
吃水6.3メートル
速力30ノット以上
また、行き足(加速)はとても早い
とあった。
この艦は老朽化した試験艦「あすか」の置き換えとして建造された実験型イージス艦である。
改めて見ると外見はあたご型を基準としているがマストはこんごう型の物であり主砲はこんごう型のOTOメララ127ミリ54口径速射砲である。
また艦橋はむらさめ型護衛艦のヘリ運用施設を継ぎ合わせ前部艦橋と一体化した特徴的なデザインとなっていた。
研究員が自信ありげに
「そしてこの『みらい』のVLSにはASROC、SM-3、SM-6の他にハープーン、なんとトマホークが装備されていんだ。対地、対艦用のね」
トマホークミサイル。射程は1000キロをゆうに超える対地、対艦用ミサイルである。対艦用は一度退役したが最新型が配備されている。
専守防衛を鉄則としていた自衛隊では導入を一時は検討されていたが、その鉄則に反するとして許されていなかった兵器である。
「自衛隊時代に明るみになっていたら首がバタバタ飛んでいたでしょうね」
安斎が呟いた。
なるほど、冊子には
VLS
•
•
•
•
•
•
•
を発射可能
また、
17式 SSM 4連装発射管
68式3連装短魚雷発射管
ECMブイ投射機
とあった。
上陰が口を開き
「また、この艦は中身は別物でCICは武器管制、操舵など艦の全ての機能を包括したものつまりSMC(ship mission center)となっていて、僅か数名での運用も可能だ」
「だから君達に託す」
「なるほど、これなら……ま海軍さんも旧式化したやつは必要ないでしょうに」
安斎が満足したような声を出した。
「超兵器が来るまで時間が無い。マニュアルをよく読んでおいてくれ」
「梅津君が艦長、岡君が副長兼見張り員、安斎君が砲雷長、咲嘩部君がセンサー類担当、永田君が操舵手という事で頼むよ」
上陰はそう言うと格納庫から足早に去っていった。
「何で梅津が艦長なんだよ」
その夜チームが集まり打ち合わせの最中に安斎が言った。
「安斎君」
「梅津君がこの艦に一番詳しいのだからしょうがないですよ」
岡がなだめるように言った。
「じゃあ何故この艦を知っている?」
安斎が詰問口調で聞くと梅津が「ふぅ」と言い
「俺の親父はこの艦に乗って、そして姿を消した」
「え?だったらこれがあの事件の舞台になった艦なの?」
咲嘩部が驚きながら聞いた。
「表では実験艦が火災を起こした。となっているが真実は違う」
「実は消失したんだ。この艦は」
「そして数年後消失した同じ場所に無人で忽然と現れたというのが真相だ」
「へぇ〜お前の親父さんがか……」
「それはそうと明日にはあの超兵器が来る。対策を立てるぞ」
スクリーンに先日のデータを映し岡が
「本作戦には『みらい』地上からの援護、空軍も協力してくれるそうです」
「この超兵器はあり得ない速度で移動しますが航路を予想する事は可能です。そこで我々は横須賀の浦賀水道の端で待ち伏せします」
「また超兵器はアメリカ艦隊の撤退を妨害しなかったので恐らく人が乗っています」
「だから我々は攻撃を艦橋に集中させるか。または武装をピンポイントで狙い撃ちにしてこれを撃破する、という事です」
「人が乗ってるという事は俺らはいきなり手を汚すのかよ……」
「嫌なら乗るな、むしろ超兵器は対地攻撃もしてくる。そっちの方が流れる血は数倍、いや数百倍だ」
「……」
安斎は黙り込んだ
「作戦内容は以上です」
翌朝、「みらい」艦内SMC
操舵エリアには艦の周囲の様子がモニターに映っており、また艦橋とは通路一本で直結している。
また最低限の人数で運用している為、ヘリコプターの運用能力は現在喪失している。
艦の外見自体はさほど変わっていないが内部は艦の殆どの機能を集約したSMCによって大幅な改装が行われており、余裕が生まれた為居住スペースは以前とは比べ物にならない程広くなった。
それでも最低人数で運用している為ベッドは余ってくる。
またこの改装によって弾道ミサイル防衛能力を与えられ、SM-2は最新の「SM-6」に置き換えられハープーンは国産の「17式艦対艦誘導弾」に換装され、後部には新武装である「ECMブイ」発射機を装備、さらにVLSはあたご型と同じ物になった。
「X」とあるようにこの艦は先進武装の試験用として運用され型は「こんごう型」と「あたご型」との中間となっている。
「帝国には徹底抗戦するつもりなんですね……」
操舵輪を握る永田は岡に呟いた。
「仕方無いですよ、データを渡す訳にはいかないんですからね」
岡はそう言いながら丘の方を見た。
ミサイル車が配備されているがやはり心許無い。
それに僚艦もいない。
「哨戒機より敵超兵器発見との事です。来ました!」
「分かった。哨戒機は直ちに帰還するように伝えてくれ」
哨戒していたE-2Cはその命令を受けると逃げるように離脱した
超兵器は現代に存在する艦船よりも早い速度で進んでいた。
「敵さんのおでましだ」
梅津はふぅと心中で思い、
「対空、対水上戦闘用意。以後、敵超兵器を『マークα』とする。落ち着いて行動するように」
「分かってますって艦長」
「まずはトマホークによって敵の射程圏外からマークαの副砲を破壊する」
「マークαのデータ入力、完了しているな?」
艦長のシートから右手の方にいる咲嘩部に念を入れて問いかけた。
「ええ、勿論ですよ」
超兵器の艦の形状などは無人機からの画像などによって3Dデータ化されていた。
「トマホーク、発射弾数
安斎、パネルをを素早く操作し、「了解ぃ」
「前部VLS解放、トマホーク攻撃始め!」
梅津の指示で艦橋前のVLSから弾頭と硝煙が解き放たれた。
ほんの数秒遅れて二発目のトマホークも硝煙とともに空へと向かった。
「トマホーク進路問題なし、大丈夫なんでしょうね」
艦橋では岡が双眼鏡を構えてトマホークを見送った
勢い良く解き放たれたトマホークはそのまま亜音速で視界の外の超兵器へと向かって、やがて岡たちには見えなくなった。
「トマホーク命中まで残りおよそ2分です」
「亜音速だから迎撃されるかもしれんぞ」
咲嘩部の報告に安斎が不安そうに言ったが
「不意打ちですから大丈夫でしょう」
艦橋から岡が声を響かせた。
トマホークの速度はハープーンと比べると遅く、ハープーンが約時速1040kmなのに対しトマホークは約時速840kmと速度の違いは明らかである。故に迎撃されやすいが、射程ではハープーンは約140kmだがそれに対してトマホークは1000km以上あるので長距離からの攻撃にはもってこいである。また、威力も上である。
「トマホーク、命中を確認」
「装甲が薄いといわれている副砲を狙ったはずだからダメージは0、ではない筈ですね」
「マークα、依然横須賀に向かっています!」
「おいおいダメージ受けても進むって霧のヤツみたいだな」
「どうします?艦長?」
安斎がせかすように言うが梅津はあくまでも冷静に
「だったらもう一度トマホークで攻撃する。発射弾数
「はいよ」言い終わる頃には安斎はデータの入力を終わらせていた。
「よし、トマホーク発射」
再び前部VLSからトマホークミサイルが発射され、硝煙が艦橋を覆った。
「咲嘩部、マークαとの距離は?」
「およそ24kmです」
(マズイな……このまま進んで来られたら対地攻撃をしてくる)
横須賀には完成したばかりの防護壁があるが超兵器の射撃に耐えられるかどうか怪しく、せいぜい時間稼ぎ程にしかならないだろうと梅津は考えた。
「僚艦がいればラクだったのに」
安斎の呟きにはこの時ばかりは梅津も同意できた。
「トマホーク、命中」
「! マークα急に速度が上がりました!」
「ここで本領発揮かよ!」
艦橋からも岡が
「うっすらと見えるようになりました。確かにダメージはうけているようです」
双眼鏡には黒煙を上げつつ侵攻してくる超兵器が見えた。
安斎が叫んでいるうちにも超兵器は迫ってくる。
「ミサイル発射の兆候を感知!」
すると超兵器から無数の白い硝煙の柱を上げた
岡と咲嘩部がほぼ同時に
「マークα、ミサイル発射!」
SMCのスクリーン上に多数のミサイルが映った。
それでも梅津は冷静に
「
「SM-6、シースパロー、攻撃始め」
「SM-6、シースパロー、発射! サルボー!」
安斎の声と共に対空ミサイルが前部、後部VLSから解き放たれ艦全体が硝煙に包まれた。
しばらくして空中で多数の爆発があり、兵器からのミサイルを撃ち落としていく。
それでも撃ち落とし損ねたミサイルが「みらい」に迫ってくる。
岡が艦橋から大声で
「回避する!両舷前進最大戦速!面舵25度!」
「みらい」は素早く加速し右へと転進した。
「主砲、発射初め」
「撃ち方初め!」
安斎がトリガーの引き金を引くと艦首にある速射砲が轟音と共に射撃を始める。
これでもまだ迫ってくるミサイルに対してはCIWSが厚い弾幕を張り、チャフがミサイルを惑わせた。
数発がチャフに命中し、艦に衝撃が走る。艦橋からは小さな悲鳴が聞こえた。
「……全弾、何とか撃墜しました……」
安堵の空気が流れるが岡が
「かなり超兵器に近づかれました!」
と報告した。
梅津は不機嫌に「チッ、こうなったら艦橋に直接攻撃するしかないな」
「確かにそうですね」
岡も同意した。
「人が乗っていない可能性もあるがその時はどうするんだ?」
梅津がきっぱりと「迷っている暇はもはや無い、マークαの艦橋に直接攻撃する」
「17式対艦誘導弾、トマホーク、主砲で攻撃する。一か八かだ。ありったけ撃て」
安斎が少しおどけて
「博打打つのは止めてくださいよ」
と言ったが梅津は勿論無視し
「地上のミサイル車にも援護要請を」
安斎がパネルを操作し
「データ、入力完了」
「攻撃始め!」
梅津がそう言うと、主砲が火を吹き発射筒からは17式対艦誘導弾が、前部VLSからは数発のトマホークが発射され地上からも次々と88式対艦誘導弾が弾頭と硝煙を放った。
超兵器の艦橋に向かって四方八方からミサイルが迫っていく、何発かは迎撃されてしまったが、10発以上は命中した筈だ。
超兵器の艦橋からは凄まじい爆裂音がし、煙と炎が上がった。
「マークα、艦橋大破!速力が低下していきます」
超兵器はそのまま減速していき、やがて停止した。
攻撃する気配も無い。
「はぁ〜助かった」
安斎が安堵の息をした。
「よし、横須賀に帰投する。手土産も持ってな」
「アレ持って帰るんですか!?」
この艦にいた誰もが自分の耳を疑った。