蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
万に一つなのか、梅津たちはイージス艦「みらい」を駆り超兵器「ヴィルベルヴィント」の撃破に成功する。
再び日常が戻る事に悶々としている梅津であったが、彼らの前に変革をもたらす者が現れる。
「超兵器は現在陸軍が制圧中です」
そう言った永田のすぐ近くでは、艦橋が黒く焦げ付いている超兵器があった。
陸軍が制圧中である。
「……持って帰った所で誰か使うのですかね」
「知らないわよ」
「みらい」の艦橋から聞こえて来る声をよそに梅津はシートの肘掛に指を一定のリズムで軽く叩きながら待っていた。
モニターに新たな情報が表示されると同時に咲嘩部が
「制圧、完了したそうです。えっと艦内は無人との事です」
その報告に梅津は
「無人?本当に誰も乗っていなかったのか?」
届いたメッセージを見ても確かに「艦内は無人」と書かれていた。
(もしかして霧と同じ感じなのか)と心の内では思っていた。
やがてその超兵器は複数のタグボートに曳航されて横須賀へと向かった。
みらいも同行している。
しかし横須賀の防護壁の直前で停船を命じられ、船から降ろされてしまった。
「ったくトントン拍子でイージス艦乗りになったと思ったら」
「相手はまだ俺たちをただの子供として見ている」
「いいこと言うねぇ艦長」
安斎がやたらと馴れ馴れしく話して来るが勿論無視した。
その防護壁の中には人類側の唯一とも言える戦力、イ401と人類側の切り札「振動魚雷」があった。
翌朝。
岡達はやはり異様な視線に囲まれていた。
休憩の時間でも授業の時間でも周囲机一個分は意図的に空いている。
教官ですら気にも留めていない。
安斎は小さな声で「オイオイ、妬まれているからってここまで来るとはな」
「気にしたら負けってやつよ」
「……」
「岡紐楼、安斎壮、咲嘩部秕、話があるので来て」
その声は教室の後ろの方から聞こえた。
その声の主に全員が刮目していた。
「全く、教官殿が俺たちをお呼びか?」
「いやこんな声の教官はいない」
安斎は後ろを見るとその動作のまま硬直してしまった。
そこに立っていたのは艶めき黒く長い髪を後ろで束ね穏やかそうな目をした、薄桃色の唇をそこまで固く結んでいない一見、気が強そうな印象を受け「どこと無く」イ401のメンタルモデルの雰囲気と似ていて垢抜けた感じがする美少女が立っていた。
が、確かに安斎はその少女の容姿を見て硬直したが別な事でも硬直していた。
その少女の左目は白い布、つまり眼帯で隠されていて、右手は包帯で包まれていた誰が見ても重症の怪我を負った患者である。
学院内できっての情報通だと自称する安斎ならこんな怪我を負った少女の事は知っていて当然の事だがこの瞬間に初めて知った。
「早く、来て」
急かされた岡達は仕方無くその少女に着いて行った。
廊下ではただでさえ妬まれている岡達だが注目される要素がまた増えてしまい、好奇の目、(あんな美少女と一緒に歩きやがって)とでも言いたそうな目、様々な視線を受けた。
途中複数の男子生徒に絡まれたがその少女は全て「あなたは、関係無い。どいて」
と撃退していた。
しかし包帯などを見ていると岡達は痛々しい思いがした。
学院の中で話をすると思っていたが、学院の外に出てしまった。
その少女はまだ授業の時間内で無いように堂々と外へ出た。
20分近く歩かされた挙句、着いたのは軍務省の例の会議室であった。
「ヒィー、こんなとこまで来るんだったら迎えぐらいだしてくれよ」
「迎えが出せない位偉く無くて悪かったな」
やはり梅津がいた。
それにあと先日、次官補室まで案内したあの若い男もいた。
安斎は少し驚いた様子で言った。
「……お前さんに女友達がいたとは驚いたぜ、雪でも降りそうだ」
「知り合いな訳が無いだろう、俺も連れて来られた」
「全員揃ったようだな」
その少女がそう言うと若い男の方を向き、「あなたは関係無いので少し外へ出てください」
「!はい」
若い男は足早に出て行った。
「……で、俺たちを呼んだのは何故なんだ?」
全員の視線がその少女へ集中した。
「まず『第四施設焼失事故』は知っているか?」
「50名以上が亡くなったあの事故ですかね」
岡が問い掛けるように言いその少女は頷いた。
「君達は前世で巻き込まれて、そこで亡くなった」
「は?」
一番最初に口を開いたのは安斎だった。
「俺たちをここへ連れ出してそれからいきなり妄言か?」
梅津は溜まっていたものを吐き出す様に言い、
「全く、あんたは何者なんだ?学院の全生徒と照会しても当てはまらないぞ」
「それとも陸軍か統制軍の俺たちへの嫌がらせのためお粗末な刺客か?」
矢継ぎ早に言った。
安斎は大きく頷きまるで小学生の様に「そーだそーだ」と言った。
一呼吸おいてその少女はさらに驚愕の事実を述べた事を知ったのは数秒後である。
その少女はこういい放った。
「私の与えられた名前は『超兵器』ヴィルベルヴィント」
「この傷は君達がつけたもの。私は不完全だから船のダメージがこうして伝わる」
「ビ……びるべる?」
咲嘩部が噛みそうな勢いで言った側から梅津が苛立ちのこもった拳を机にぶつけ静かに言った。
「証拠は……?」
「!?」
その場にいた全員が驚愕した。
少女の体には蒼碧色をした模様が表れた。
「イ401」のメンタル・モデルも同様のものを表示出来ると聞いている。
「マジか……」
そう言ったのは以外にも梅津であった。軍人だが若さは抜けきれないものである。
「……さっきの話の続き。あなた達のこの世界は異世界」
「?」全員の頭にはこの記号しか頭に浮かばない。
「つまり、ここは『後世の世界』ということ」
「俺たちは生まれ変わり平行世界に来たというのか、あの事件を境に」
「そういうこと」
「しかしまだ確証が無いわ、前世と違う点は無い?」
疑問の声を投げ掛けたのは永田である。
「前の世界に私たちはいない」
「前の世界って超兵器ウィルキア帝国?」
「そう」
「それも大きな違い。でも一番の違いは“失われた13年間”」
「前世では『千早群像』達が振動弾頭の輸送を始めたのは2056年」
「え?今俺たちがいるのは2043年だぜ」
「そう。この世界も2056年になる筈だった」
「しかし?」安斎が興味深そうに尋ねると「私たちの出現によって一変した。時間が13年分失われてしまった」
「でもこの歪みを戻そうと私たちは従って動こうとした」
「何にだ?」
「アドミラリティコード・リフォールに」
「帝国には従順なふりをして隠密に動こうとした」
「アド……なんとか?人名か?」
安斎も咲嘩部の様に噛みそうに言った。
「それは分からない」
「ただ、あの命令に従っておけば元に戻る筈だった」
「それで俺たちは沈めてしまってそれをおじゃんになっちまったというワケか」
安斎が自信ありげに言った。
「そういうこと」
その少女は淡々と答えたので安斎の表情は面白くもなさそうな顔になった。
「だったらこの先はもうなる様にしかならないという事ですね」
「帝国はこれを狙っていたんだろうな」
「このまま帝国の好きにさせる訳にはいかない。勿論霧の艦隊もな」
「自分たちで切り開くしか無いわね」
咲嘩部の言葉に少女以外が頷いた。
「俺たちでこの『失われた17年間』を取り戻すしか無い」
「付いて行きますぜ。艦長」
「あなた達の願いはその17年間を取り戻す事」
その言葉を言い終わった瞬間少女に紋様が浮き出た。
「命令を受けた。アドミラリティコード・リフォールからの脱却を確認」
「は?」
「今から私はあなた達の『力』になる」
安斎が笑みを浮かべ
「そう来なくちゃなあんたはもう俺たちチームの一員だ。ヴィルなんとかちゃんよ」
「…ヴィルベルヴィント、旋風という意味ですね」
岡が自慢の博識で解説した。
「そうね、ややこしいからウインドちゃんで良く無い?」
永田の提案に安斎も賛同の意を示した。
梅津はこの世界の風向きを変える力になると確信した。
(風穴は開けられなくとも、風向きを変える事位は出来るだろう)
ウインドは無表情のままだった。
「対策チーム、のままじゃアレだからこのチームの名前変えようぜ」
安斎からそんな提案が出たのは数分後であった。
「何がいいですかね……」
しばらくの間沈黙に包まれた。
しかし、その沈黙を破ったのは梅津だった。
「千早群像たちが『蒼き鋼・蒼き艦隊』と名乗っているのならば」
「俺たちは『深き蒼・
「珍しいな梅津がそんなこと言うなんて」
安斎が小馬鹿にする様に言ったがこの名前に否定する気持ちは0だと感じた。
「私もそれが良いと思いますね」
「海軍の上へはうまく言っておく」
「頼んだぜ」
「……あの~」
完璧に上司に対しての口調で先の若い男が顔を覗かせた。
「私の紹介をしてもよろしいでしょうか…?」
「俺たちゃ上司か?」
やはりどこか頼り無さそうに見えるその男は全員に名刺を配った。
「へぇ」
【渡瀬・
「ホッパーって……あのホッパーさんですか?」
「ホッパー?」
「この人の父親は永田さんと関わりがあって——」
「はいはい分かったから」
岡の説明が止まりそうに無い事を察した咲嘩部が無理矢理止めた。
「それで私は専任のアドバイザーとして……」
「兼、お目付役って事だろうな」
「……」
梅津に急所を突かれた渡瀬はただ黙るしか無かった。
どうやら自分との相性は最悪らしい。
「ま、いいでしょう。勝手に行動させてもらいますけど」
「腐っても私は海軍人なんでね」
「日本最後の艦隊か」
安斎が意味深に呟いた。
ドアが開いた。
部外者である事は明らかだ。
「楽しいおしゃべりの時間中、申し訳無く思うが御同行を願おう」
「え?」
瞬く間に部屋には数人のサングラスを掛け一張羅のスーツを着た男達が入って来た。
「流石は陸軍さんだ。もう嗅ぎつけたか」
梅津の腰には黒く、無機質な物が押し当てられていた。