蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
少女、ヴィルベルヴィント。謎多きメンタルモデルであったが彼女の謎を探る間も無く、出る杭を打たんとする者によって梅津たちは拘束されてしまう。
イ401のクルーが、つまり「蒼き鋼」のメンバーが何者かに連行された。
それはイ401が横須賀に来るならば有り得ない事では無い、と統制軍内の情報通には予想されていた事態だつたが
、次官補の上陰は慌てていた。
「401クルーの行方は?」
「依然掴めていません!」
「北良寛代議士の仕業である事は間違いありません」
「……」
一方「深き蒼」の部屋にも瞬く間数人のサングラスを掛け一張羅のスーツを着た男達が入って来た。
「流石は陸軍さんだ。もう嗅ぎつけたか」
梅津の腰には黒く、無機質な物が押し当てられていた。
「……いいでしょう」
恐らく陸軍の所へでも連れていかれるのだろうと予想した。
移動中、渡瀬が梅津に小声で
「軍務省令7項第12条に基づく出動が陸軍内で発令されています」
「俺は海軍だからそんな物は知らん」
「恐らく『北良寛』代議士の仕業です」
安斎が首を突っ込み
「北、誰だそりゃ…ああ、あのオッサンね」
「……」梅津は無視した。
「ウインド、船は?」
「ダメ。
「……クソッ」
「済まない、私が不完全で」
「いや、ウインドをやむ無しとはいえ傷つけた俺たちの方が謝りたい位だ」
「むしろウインドはちゃんと命令に従った。俺の様に勝手に動き回るヤツよりかはマシだ」
「感謝する。気遣ってくれて」
「そこはありがとうって言った方がカワイイぜ」
安斎はニヤっとした。
「フン、これ以上ペチャクチャ喋るな」
「……チッ」
途端に黙った安斎の腰にも冷たい金属で出来た物が押し当てられていた。
梅津の携帯が震えた。緊急着信用にセットした方である。
陸軍の男の内のリーダー格も「それ」を察知したようである。
「…電話だ。出させてくれ」
男達は手を伸ばしてきたがリーダー格が遮った。
「どうした?」
相手は永田祐司だった。
「霧の大戦艦が401を拐いに来た。海の方で霧が発生している」
「そうですか。分かりました」
とだけ言って切った。
「…と言うワケです」
リーダー格
「……仕方ない。行け」
「私の出番ですこちらへ」
と渡瀬が走った。それにつられて走った。
「霧のヤツが来たぞ」
警戒中だった
「横須賀周辺に霧が発生している」
その報告は直ちに海・空統制軍指揮所に伝わった。
「気象庁によりますとこの条件下での霧の発生はあり得ないとの事です!」
再び警戒機より通信が入った。
「間違い無い。霧の大戦艦級2隻確認!横須賀へと向かっている!」
たちまち指揮所は朝の目覚めの様な喧騒に包まれた。
「直ちに避難指示を」
「横須賀停泊中の全艦に緊急コード01を送れ!」
「狙いは恐らく401かと」
「攻撃機を全部出せ!急げ!」
「壁の外側に横須賀以外の艦隊を集結させます」
「了解」
梅津たちは外へと出た。轟音が耳をつんざいた。
「あれはF/A-4 震電Ⅱ!」
前進翼が特徴的なその機体は「キリシマ」・「ハルナ」からの対空砲火を回避していたが、たちまち炎に包まれた。
「ボルト2が撃墜された!」
「クソッ!敵は取るぞ!」
もう一機が禍々しく緑に輝く「キリシマ」に対して対艦ミサイルを発射するも緑の
「このままでは攻撃隊は全滅です!」
空軍指揮長は動揺を隠せていない。
「ああ、わかっている…体制を立て直すぞ、残存機はエリア3Aに集結させろ」
「了解」
エリア3Aは横須賀より離れた場所、つまりこの指揮所付近の上空を指す座標である。
「壁の外の艦隊は何をやっている!」
海軍指揮長に怒鳴り掛けた。
「モニターを見たら分かるでしょう。今集結させている所ですよ」
「途中でも攻撃出来るだろう!」
「ここを知られたら終了ですよ。まずは隠密に動かさせます」
横須賀港内では複数の護衛艦が死ぬにも狂いで砲撃を続けていた。
「クラインフィールド作動率……3パーセント」
「無害とはいえうるさいね」
「少し、黙らそうか」
自身の体よりも大きいコートを纏った「ハルナ」。
と活発な印象を受ける「キリシマ」は艦橋部分が二つに割かれ雷撃ユニットを発射した。
「この武装…どこかで…うわっ!」
横須賀港全体への雷撃が加えられ大混乱に陥った。
一方、梅津や岡も知らないルートで特秘ドックへと足を進め、そのまま「みらい」へと乗り込んだ。
「かなり押されていますよ」
「武器が更新されています」
幾つかの火器が新調されているようだが、いちいち確認している暇など無かった。
ウインドは梅津の座るシートの隣に立っていた。
「よし、みらい出航する!両舷前進微速」
「ウインド、この船を包める程のクラインフィールドはだせるか?」
「やってみる…あまりアテにしないで」
「ああ分かっている」
みらいは壁の南西へと出た。
既に数十隻が艦隊を形成している。
咲嘩部がパネルを操作しながら言った。
「識別しました」
「旗艦、『
「かなりの数だな。寄せ集めにしては」
「元第七艦隊も入ってますね」
「おい、安斎武器は?」
「へへ…聞いて驚いてください」
「振動弾頭ミサイルが2発、ありますぜ」
「一体どこから……?」
しかし今は考える時間など無かった。
「このままあの艦隊と合流する」
指揮所では新たな動きがあった。
「横須賀港からです」
「白鯨級が一隻、それに401が出撃しました」
「そうか、もう我々には祈ることしか出来んな……」
その声には諦めの気分も要り混じっていた。
『なんだ貴様らは!』
旗艦である白鯨級からだみ声が飛んで来た。
咲嘩部は思わずヘッドホンを投げ捨てた。
続いて落ち着いた声が飛んで来た。
『こちらは白鯨艦長である。貴艦は?』
「…こちらはDDH-Xみらい、艦長の梅津士郎だ」
『梅津……?』
白鯨の艦長の疑問の声にまたあのだみ声の男が割り込んだ。
『だから何なんだ貴様らは!』
やれやれと思っていると向こうからは明らかに耳打ちをしている声が聞こえた。
「向こうの原潜はよく音を拾うねェ」
『…そうか!先日の訳のわからん船を沈めたガキどもか!』
これだけの大声を吐くのは陸軍によくいる鬼軍曹に違い無い。
「っていうか海軍の船に陸軍が幅を利かせている事が分かんねぇよ」
安斎はヘッドセットの集音部を手で覆って言った。
「あなたは蚊帳の外に居ておいてください」
『なんだぁその物言いは!霧の奴らには何も出来ないオモチャを与えられた程度で調子に乗るな!』
「おもちゃ…か…」
安斎は梅津の異変にいち早く気付いた。
「オイオイ、落ち着けって」
安斎がどかした手の下にあったパネルには対潜ミサイルの標準をだみ声の乗った艦へとセットし、タッチ一つで発射できる状態にあった。
「…頭冷やせよ」
「ふぅ、白鯨艦長に告げます」
『何だ?』
「単刀直入に言います。この戦い、我々の出る幕はありません」
『……どういう事だ』
「湾をこの艦隊で封鎖、またはここから援護を行おうにも既に壁の周辺には複数の霧の艦艇がいます」
「加えて、もう一隻大戦艦がこちらに向かっています」
この情報はウインドが霧の共同戦術ネットワークをハッキングして得た情報である。
「そして本艦隊は寄せ集めに過ぎず接近した所で一掃されるのがオチです」
『…ま、確かにそうだな』
白鯨は対霧を想定して建造された原子力潜水艦なので艦長はしつこく反論をしてくるかと予想していたが、あっさりと認めたので拍子抜けをした。
『で、どうしろと。このまま「戦術的」撤退をしろというのか?』
「確かにそう具申したい所ですが」
『何だと!憎き相手が目と鼻の先にいるというのに何様だ!』
状況をようやく理解したらしい鬼軍曹の声が一段と強く響いた。
「あと、コレは海軍だけがが行うべき作戦なのに陸軍の人がいる有様です」
『……』
恐らく白鯨の艦長の後ろではあの鬼軍曹が何か喚き散らしてるだろう。
「しかし、撤退はあくまでこの『みらい』がいなかったらの話です」
「本艦には霧への唯一とも言える対抗兵器振動弾頭ミサイルがVLSに装填されています」
『何!?』
艦隊内ではどよめきが起きた。
「本艦を旗艦とした戦闘を具申します」
『ほぅ、確かにそれは名案だな』
『しかしだ、もしこの戦闘に敗北した際の責任は誰が取る?君達が取れるわけが無いだろう』
『君達が指揮した戦いで我々が責任を取るのもおかしな話だろう』
岡がポツリと
「まあ、我々はまだ子どもですしね」
子どもが指揮した戦いでも先日の超兵器戦は勝利出来た。
梅津にはある程度の自信があったが見事に打ち砕かれた。
しかし、梅津は思い切った顔をしてこう言った。
「では、白鯨率いる艦隊が支援をし、我々は防護壁付近まで移動し振動弾頭ミサイルによる湾内の大戦艦に攻撃。という案を意見具申します」
(死ぬ気か?)
誰もが思った事だった。
ひとまず第5話まで読んでて頂きありがとうございます。
現在、この物語は原作2巻中盤という所です。これからもよろしくお願いします。