蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結) 作:チキンブロス
横須賀港に突如「霧」の大戦艦、そして超兵器も出現する。クラインフィールドを装備していない超兵器は一方的な攻撃を受ける。しかし超兵器も盾、つまり防御重力場の存在が明らかとなる。
必殺の武器を有した梅津らは変わらず単艦による特攻を敢行する。
双眼鏡の光景を見て岡は即座に報告した。
「敵超兵器、第二波のミサイル発射!」
「おそろしく速いぞ、向こうの迎撃はは多分間に合わないだろうな」
モニターに映る影を見て梅津に言った。
「……仕方が無い。迎撃態勢を取れ」
「特装モードで対応します」
イージスシステムは米海軍が開発した同時に250もの目標を捉えかつ、10以上ものミサイルや航空機を迎撃が可能な防空システムである。
日本では海上自衛隊の時代から導入しており、「こんごう型」などが装備していた。海上自衛隊の時代には事実上のブラックボックスだったが霧の艦隊の出現以降システムの解析が行われ、日本独自の改良が加えられた。
それを海軍内では「特装モード」と呼称している。
「イルミネーターとリンクさせておけ」
「はいよ」
言うより早く、安斎の手はパネルを既に操作していた。
「よし、一斉発射だ」
ピーという耳障りな音を立てると「みらい」のVLSからヴィントシュトースの第2波の攻撃の分のSM-6対空ミサイルが放たれた。
「……あんなところに…たった1隻で?」
ドレッドノートは理解に苦しんだ。
あのように近づいて来るなど自殺行為としか答えは出なかった。
「さあ、バレたぞ」
しかし梅津は慌てずに
「両舷前進一杯、ジグザグに進め」
凄まじい勢いで加速した「みらい」は攻撃をかわすべく、ジグザグに進路を取った。
永田は操蛇輪を一定のタイミングで大きく左右に回した。
艦内の固定していない小物などが床に落ち、音を立てる。
「……ロックされている」
「なるほど、それはいい知らせだな」
梅津はそう言うと小さな笑みを浮かべ
「超兵器はこちらで引き付けている、今のうちに攻撃機を湾内に向かわせろ!」
『了解』と返ってきた途端、轟音を立ててF/A-4が湾内へと向かって行った。
「敵のレーダーを撹乱させる、ECMブイ発射」
発射されたと同時にECMブイは強力な妨害電波を発生させた。
と同時に「みらい」もECMを作動させた。
ヴィントシュトースの主砲は狙いが定まっていない。
「妨害電波?、小賢しい……」
数十キロ離れた所にいたドレッドノートは30秒程で解析し
「ECCMで打ち消された」
「主砲の一斉射で沈めなさい」
ドレッドノートのモニターには了解。とあった。
「ウインド!足掻けるだけ足掻くぞ!」
「了解」
すると「みらい」はウインドの処理能力を上乗せし
ECMブイも「みらい」に合わせた。
「突破される前にここでカタを付ける」
「緒元入力完了!」
「一斉。撃ち方」
「解析が進まない?このパターンは……人間業では無い……まさか」
『ミサイルが迫っている!迎撃しろ!』
『こちらも援護を――!?ロックされている!援護できない』
ドレッドノートは叫ぶ。
「みらい」からのECCCMの効果もあり、対空システムの作動率は芳しく無い。
ヴィントシュトースに迫る多数の対艦ミサイルのうち、2発の切り札、つまり振動弾頭ミサイルか含まれていた。
着弾、むろん防御重力場に遮られる。
しかし振動弾頭ミサイルの1発目が防御重力場「そのもの」と共振、一時的に無効化させた。
するとなだれ込むように対艦ミサイルが次々に着弾、爆裂音が響く。
『コアは回収……やる……出を…早く……』
ドレッドノートからの通信が途切れ初める。攻撃は誘爆の恐れありとコンピュータは警告していた。思考が短絡的になる。ヴィントシュトース自身の「感覚」が薄れていった。
崩れゆく船体から極小の何かが破片の中にあった事は勿論「みらい」のクルーは気付かなかった。
「流石ですね梅津特務少尉、防御重力場にも対応しているとは、これは計算済みですよねぇ」
緊張感の欠片も無いセリフを安斎が吐いたが梅津は「バカ、憶測だ」
「……とんだ性能テストですね」
それを言ったのは永田だった。
「さて、湾内に向かうぞ」
梅津は意気揚々と言ったが咲嘩部が情報を提示し
「無理ですって、機関が悲鳴を上げています」
「つまりこれ以上の航行は無理~」
安斎の単語一つ一つが癪に触ったが確かに、機関部の映像を見るとウインドの分身体が奮闘していた。
梅津が言った「両舷前進一杯」の一杯は機関の耐久力を無視した出力を出すので損傷する危険があった。
「花火にしては汚いですね」
艦橋へ行くと湾内からは激しい閃光の後凄まじい轟音が響いた。
そして轟音の他にも横須賀全体からは歓喜の声も上がった。
梅津たちに対してでは無くイ401、白鯨に向けたものであった。
「ところで何でそんな不機嫌な顔なんだ?」
梅津にではなくウインドに尋ねると淡々と答えた。
「……戦いの間ずっとピアノと歌が延々回線から流れていた」
「へ?」
「ど、どんな歌?」
「……『もりのくまさん』だ」
「何かの暗号か?にしては随分と垢抜けたもので」
誰がその歌を流しているかは分からなかった。
――欧州――どこまでも続くなだらかな草原には戦いの余波などとは無関係であった。
しかし、そのどこかの地下にはその「戦い」をおおかた収めた主がいた。
独裁者ウリードリヒ・ヴァイセンヘルガーは平安をもたらした、という達成感に浸っていられる時間は短かった。
薄暗い部屋には複数のモニターがあった。
モニターに映っている人物は皆ヴァイセンヘルガーを見ている。
ある者は侮蔑の目またある者は苛立ちがこもっていた。
『全く、君の書いたシナリオはコメディかね?』
他の人物もそれに同調するように、『確かに日本の横須賀に2隻とあと、ご自慢の超兵器を送り込んだ結果がこれだとはね』
『おまけに、あの戦いの後反応はどうだったと思うかね』
『アメリカは日本に振動弾頭の量産する表明を再度出し、君があらかた支配している欧州も不穏だぞ』
ヴァイセンヘルガーも負けじと言う。
「しかし私は横須賀に『もうじき』2隻の大戦艦が襲撃すると――」
『ふむ、君の言うその〈予想〉は数ヶ月前から当たっているがどうかね?』
『前に虎の子超兵器を送り込んでからは2連続で外れたではないか?』
『……しかしまだほんの少しの誤差ですよ。この程度の誤差は計算の範囲内でしょう、ヴァイセンヘルガーさん。大目に見てもいいのでは無いですか』
一国の王でもあるヴァイセンヘルガーを多少傲慢に庇うその人物は並大抵の者では無い。
ヴァイセンヘルガーもつくろうように
「ええ、
ヴァイセンヘルガーは椅子に座る姿勢を直しそして高々と言い放った。
「次の戦いでは『あの』若者達は敗北する」
『ほう、また君の妄言か』
『皆さん聞くだけ聞きましょうよ。それで誰にですか?』
「
『なるほど、確かにそうかもしれんな』
他の者もお同様に頷いた。
先程までヴァイセンヘルガーを批判していた者も口調を変え、『ふーむ……見直してみればその2回とも予想しなかった勢力のせいですしね』
『まあ仕方無いでしょう』
そしてヴァイセンヘルガーは強い口調で言う。
「シナリオはまた書き直せば良いのですよ。臨機応変に対応するためにね」
その一言には既に次の一手が存在しているとある人物は推測した。
「帝国が欧州のほとんどを制圧?」
渡瀬が見せたタブレットにはそうあった。
「ええ、先程帝国が発表しました」
映像にはヴァイセンヘルガーが力強く演説を行っていた。
その言葉の中には所々、協力者であるはずの霧の艦隊に向けた批判もあった。
「あらら?こいつ仲間の悪口言ってるぞ」
安斎が尋ねた。
素早く岡が「ああ、それは霧の艦隊内の別勢力『緋色の艦隊』に向けた物ですよ」
「へぇ」
「それに欧州制圧には勿論、超兵器が使用されていました」
極秘に送らられて来た画像があった。
極秘と言ってもそこいらのハッカーでも簡単に見られるようなものだった。
霧のスパイがいれば筒抜けだろう。
その画像は今までの、霧の船も含め自分たちが知っている軍艦の常識では考えられないような光景が写っていた。
その画像には巨大な、2つの胴体を持った強襲揚陸艦らしきもの、巨大な飛行機が写っていた。
「……ウインド、この艦は?」
梅津が尋ねたがウインドは首を左右に振った。
「でも名前は分かるかもしれない」
「デュアルクレイターとアルケオプテリクスだ」
「名前だけ聞いてもな~」
安斎が嘆息した。
「……そういえばさ、あの事まだ渡瀬サンには行ってないよね」
「ああ、そういえば」
「信じてくれるかァ?」
渡瀬をブリーフィングルームに呼び、ウインドからの告白を一通り説明。
「……で、君たちはいわゆる生まれ変わりでこの世界並行世界。というわけですか」
「そしてこの世界は前の世界とは全く異なるものになってしまったと」
「――そして、君たちはその超兵器のメンタルモデルと共に行動する事になった。だな?」
「事情は上陰さんから聞いている」
ガルトナーが口を挟んだ。
「ガルトナーさん?最近見かけませんけど」
永田の問いにガルトナーは笑みを浮かべ
「私も色々と忙しくなったものでね。私の代わりに渡瀬君が」
一呼吸おいて、
「では君たちはこれからどうするつもりと?」
壁に寄りかかっていた梅津が
「この世界の風向きを良い方向へと動かす、という感じですよ」
「ふむ、私も祖国への帰還を目指しつつ政府のお手伝いを続ける。後は頼んだぞ渡瀬君」
ガルトナーは足早に去った。
「あ、えっはい!」
やはりその返事はどこか頼りなかった。
「ところで岡、『ヴィルベルヴィント』の修復は?」
「中々進みませんね……『キリシマ』と『ハルナ』の船体も回収し利用していますが」
「ドックの人たちは協力的ですが現状はどうしても401が優先されてしまいますね」
「ま、当たり前だろう」
梅津は別に悲観的にも捉えていなかった。