蒼き鋼、深き蒼のアルペジオ-credenza- (凍結)   作:チキンブロス

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——前回のあらすじ——
超兵器との電子戦を制し梅津たちは超兵器「ヴィントシュトース」の撃破に成功する。しかし帝国は着々と次なる行動に移ろうとしていた。


8kt:彼特有の事情

育ての親はプロだった。

その事もあってか人類の脅威――霧の艦隊について知ったのは一般人より遅かった。

戦後世代とか言われている、そんな世代だった。

今思うと山を2、3越えれば霧が見張っているというのに皆楽天的だった。

周りがそうだったので当然自分も楽天的な気分だった。

 

海洋統合技術学院に推薦で入学したがその時も同じような気分だった。

むろん、入学してからはそんな気分ではいられなくなったが。

むしろいられなくなるような方針だった。

 

入学から少し経った頃、両親がこちらに来た。

学院と実家では距離があるので寮生活を送っていた。

親戚の家に行くという名目でだ。

 

その家は普通の、一般的な家庭とは全く異なっていた。

表札の字は読まなかったので名字は分からなかった。

メイドも沢山いた。

だが、彼女らには違和感を覚えた。がそれは普段メイドを見ないせいだと思い込んだ。

邸内にその人物がいた。

執事のローレンスですと名乗った。

主人は長い間いないようだ。

彼は若く見えた。しかしその髪は塗料をぶっかけられたかのような白い髪だった。

染めているのかと聞いた。

笑いながら、生まれつきだとローレンス。

一見すると面倒見の良さそうな執事だったがその笑いはどこか寂しいものだった。

 

一通りの挨拶は済んだのでぶらぶらと屋敷の中を散策した。

途中、大きな縫いぐるみを抱えた少女が屋敷の塀を無理矢理乗り越えて外へと出て行ってしまった。

メイドが後を追いかけて行く。

散策している中でやはり違和感を覚えた。

既視感、デ・ジャブなどという感覚であった。

 

帰り道に両親にそれを話したがうやむやにされた。

 

学院での生活は充実したものだった。

成績優秀、かつ模擬戦においても勝率は90パーセント近かった。

贅沢を言うならばもう少し顔つきを良くして欲しいが。

 

しかし、禍福はあざなえるなんとやらである。

上手くいかない時期もあった。

失恋を経験した時期だった。

名前は響……何とかだったが。

相手が悪かった。顔つきで「万年2位」に負けたのである。

負けは負けだと認めざるを得なかった。

噂は学院中に広まった。

違う意味での「勇者」だと讃える者もいれば、冷やかす者もいた。

しかし冷やかしだとしてもそれは成績優秀な自分に対する嫉妬と捉えられる。

表面上は平然としていたが、モチベーションは確実に下がっていた。

模擬戦での戦績も芳しくない。

その事はずっと引っかかっていた。罪人に付けられる足枷のようにだ。

一般人ならばここまで引きずる人はいないだろう。

ここまで引っかかるのは友人と呼べる友人がいないからでもあった。

この学院においては成績上位はほんの数パーセントでありしかもその数パーセントは一つのグループと化していた。

今更入る事も出来ないだろう。

そもそも自分は謎の人物というレッテルが貼られていた事も問題だった。

 

授業の間の休みの時間、身体の不調を気にしつつ机に突っ伏していると声をかけられた。

 

「……お前さん頭ショートしてねぇか?」

こんな口調でいきなり話し掛けてくるのだから物好きの変人だろう。

「最近調子が良くないように見えるぞ」

「……」

その時は無視したがそいつは寮まで付いてきた。

「あんた、誰……?」

「ようやく口を開いたか」

「名前は?」

と聞くと

「安斎」

と答えた。どこかヘラヘラしていて卑屈そうな印象をじわじわと受ける。

「俺は物好きでね」

それから安斎との会話は続いた。

見かけとは裏腹に性格の奥底には世話好きだと感じた。

 

「俺を見つけるのは簡単だ。下から数えた方が早いからな」

「あんたに似た人物は見た事があるよ。数日前に海軍に引き抜かれたが」

「失恋をここまで引きづる奴は初めて見るぜ」

安斎は矢継ぎ早に話題を投げてくる。

キャッチボールと言うよりかは向こうが一方的にボールを投げて来るようなものだった。

 

安斎と名乗る少年との会話が増えてきてからはマシになったが体の不調は治らなかった。

 

その頃、鎖骨の下辺りのアザが特に気になっていた。

アザというよりかは見る方向によっては文字に見えた。

 

Aα-0150

 

とも見えた。

勿論両親に相談したがアザ。の一辺倒だった。

募っていく不信感。

 

しかし、ある人物が突発的に頭に浮かんだ。

ローレンス。あの屋敷の執事である。

彼なら何か知っているかもしれない、自分はあの屋敷に対して既視感があるのできっと訳があるはずだと勝手に確信し、その屋敷へと押しかけた。

 

「岡紐楼君……私は君に謝――いや、謝罪しなければいけない」

 

その長い話の後、抱えていたわだかまりが全て取り除かれた気分になった。

いわばすっきりした。というのが一番伝わりやすいだろう

 

そして、横須賀。

「――で、岡あの超兵器の詳細は?」

「はい。あの超兵器の名称は『ヴィントシュトース』、直訳すると『暴風』です。名が示す通りこの船の速力はかなり高いです。解釈によっては『ヴィルベルヴィント』の前型とも捉えられます」

「自慢の足も披露出来ずに……可哀想に」

「安斎、ここから先に於いてはそんな可哀想も何も無い」

「ふーん、あっそう」

上目使いに見る、御機嫌は斜めのようだ。

「……それで私たちの名もあがったでしょう」

永田が遠慮気味に尋ねる。

「いや、手柄は白鯨のものになっていた。『新型魚雷で撃沈』とな」

「残念~これで待遇良くなると確信していたのに」

咲嘩部が頭を机に垂れる。

「しかし」の一言で再び起こす。

「甚大な被害を被っても、作業の進捗具合は良くなりましたよ」

「うむ、それだけでも有難いと思っておこう」

「確かに」

 

「議題は全て消化できたな?では解散」

「用があれば俺は『みらい』かドックをうろついている」

全員ラフに敬礼。

 

秘特ドック内はいつも活気で溢れている。未だ来ぬ「大反抗」の日に備えて。

梅津はこの場所が好きだった。破片程度の記憶だったが幼い頃、父によく連れられてやって来たものである。

比較的小柄な姿を持つイージス艦ばかりだったがその中には異彩を放つ艦艇が2つ、ある。

横須賀海戦後一方は出て行ったきりだがもう一方は現在修復中である。

「梅津さん」

作業員だろう、進捗状況の報告かと思い振り替える。もう完全に打ち解けた作業員もいる。

がそこにいたのは私服の学生だった。

「……岡か」

「こんな時間でもいるんですね」

時計の短針は12を指そうとしている。

「俺はここが好きなんだ。まあ他にもいるが」

「こことは昔馴染みだ。父さんがいなくなってもここの人は俺を励ましてくれた。そう、船にもだ。ものは言わんげどな」

「いいですね、そういうのは」

「ここの船はまた少なくなったな……」

視線の先には2、3スペースに空きがある。

 

このスペースはアメリカ海軍の「アーレイバーク級」を元にした「あまつかぜ型」のエリアだ。姿は「アーレイバーク級」をライセンス生産したような姿だが。

「やっぱりここは家みたいなものですかね、梅津さんにとっては」

「船も家族。みたいですね」

「そうかもしれんな」

梅津は笑みを浮かべる。

 

「そういえば前はぶっきらぼうに『親父』って言ってましたがさっきは『父さん』って……?」

「痛い所を突くな」

「えっいや……」

しかし梅津は首を左右に降り

「構わんよ、うん」

「みらいに乗って、父さんと同じ艦長になると見えなかったものが見えるようになったよ」

「そりゃあ良かったですね」

「岡、もう戻った方がいいと思うぞ」

「そうしますよ」

 

梅津は岡の背中が見えなくなるまで見送った。

謎が多い人物という噂はデマに違いない。

「みらいに戻るか」

 

「人間側の方が今まで知らなかった事項に溢れている。私はそう思うが?」

ウインドは天を仰いで呟いた。

 

警報音が目覚まし代わりになった。

「どうした?」

濃い青のジャケットを身に纏いつつ小型のヘッドセットで尋ねる。

着心地は上々だ。

ウインドのお手製である。興味、好奇心はこんなこともなし得るのかと一人感心する。

『401が襲撃を受けています。敵勢力は現在不明』

「不明?」

『俺だ。どこからともなく撃ってきたって言ってたぜ』

『海上に艦影は認められません』

「じゃあ潜水艦か」

「対水中戦用意――と言いたい所だが何処からか横槍が入ってきてそうだな」

自動ドアが開く。全員がモニターを注視している。

「ビンゴ、軍務省からだ」

「なになに……余計な刺激は加えるな。だってさ」

「あいつらは軍属では無いからだ」

「どういう意味だ」

「つまり、勝手にドンパチやってるに過ぎないという訳だ」

「高みの見物しか出来ねえな……」

安斎はさも残念そうに呟く。

モニター上で「観戦」していても苦戦を強いられている事が伺える。401の残弾は僅かだと聞いている。

「ウインド、敵艦の詳細は分かるか?」

「ウム、調べてみる」

ウインドの、いまだに傷が残った体に模様が浮き出た。

「U-2501」

「ユーボート?」

 

ユーボート。

それはドイツが開発した潜水艦の事を指す。語源はドイツ語の「Unterseeboot」による。第一次、第二次世界大戦では猛威をふるった。

「現在、霧の艦隊内ではロストとなっている。数時間前に『ナガト』が補足した」

「複数いるな……」

「群狼作戦ですね」

「なんだ、そりゃ」

 

群狼作戦とは複数の潜水艦によって行われる通商破壊手段の一つである。

まず先発の潜水艦が、偵察機から送られてきた情報から進行方向を予測し、予測海域で待ち伏せをし、目標が海域に侵入したのを確認したら各艦で海域に侵入したのを確認したら各艦で包囲陣形を取り、これを撃滅するという作戦である。

これは作戦というよりも戦術に近いものでもある

またこの作戦によってユーボートは猛威をふるったのである。

 

霧の艦隊においては航空機は廃止されておりその代わりに高度なレーダーによって偵察機の代わりとなっている。

 

「401は満身創痍……勝てる見込みは無いな」

そして401を示す輝点は動きを止めた。

「停止した?」

しばらくするとU-2501の輝点はレーダーの捕捉圏内から外れ、消滅した。

「何もせずに外洋に出ていった、か」

「何が目的なんだ?」

結局2501の目的を理解出来ないまま、朝が過ぎた。

だがその「結果」にほくそ笑む人物は勿論存在した。

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