占い師「カズマ、貴方は仲間に三回殺されます」カズマ「えっ」 作:500MB
旅の占い師から受けた突然の死の宣告。
そもそもなぜこんな胡散臭い占いなんて聞いているんだ。どれもこれも待ち合わせをしたというのに、時間になってもなかなか来ないダクネスのせいなんだが。
「まあ、三回殺される以上蘇生方法もあるのでしょう。では、私は次の町へ行きますね」
いや待て、こっちは死ぬ未来を予言されただけか。それ以上何も言ってくれないのか。
そういって占い師はそそくさと荷物の片づけを始めようとする。
立ち去られる前にと、その手を止めようとして差し出した手は――
「カズマーーー!!」
後ろから何かの足音とともに現れたダクネスの声でつかむことはなかった。
「ったくダクネス、ようやく来たのか。こっちはお前が遅れてきたせいで変な占いをされ……」
ダクネスに対して苦言を呈そうと振り向くと、そこには暴れ馬に乗っているダクネスの姿が……
あれ、俺の立っている位置って馬の進行方向なんじゃ――
俺は想像通り馬に轢かれ、やばそうな音とともに空に舞った。
その瞬間、一緒に巻き上げられていた紙が視界の端にちらりと映った。
『アクシズ教、入信届』
なんでアクシズ教徒から馬を借りたのかという文句を口にする間もなく、頭に強い衝撃を受け俺の意識は闇に飲まれた。
「カズマさん、今度はまたどのようなご用向きですか?」
目を開けるとよく見る光景が目の前に広がった。
「御用向きと言いますか……死んだんですね」
「えーっと、みたいですね」
やはり馬に轢かれて俺はそのまま死んだらしい。
頭が痛くなる思いをしながら、ゴロっとその場で横になった。
「すっかりくつろいでますね」
エリス様が苦笑いを浮かべる。
「そりゃそうですよ。何度ここに来たと思っているんですか?」
あんまりいいことではないんですけどね……と口に出さないまでも、そう言いたそうな表情を浮かべる。
そう思っても口に出さないあたり、エリス様も嫌がっているわけではないようだ。仮にそう思っていなかったとしても、そう思っていることにしよう。
「そういえば、俺の死体はどうなっているんですか?」
「死因は頭を強打したことですが、手足が曲がってはいけない方向に曲がってたりしますね」
聞かなきゃよかった。
どうせアクアがヒールをかけてくれるだろう。自分の体がどうなっているのか想像するのはやめることにした。
おっと、そういえばエリス様に伝えておくことがあった。
できればただの妄言であってほしいが、もし本当であれば今日はまたお世話になるだろう。
「そういえばエリス様、今日は俺三回死ぬらしいです」
「えっ」
突然の告白に目を丸くするエリス様。
驚いた顔を見ることはあまりないので、これだけでも伝えたかいがあったというものだ。
いや、死にたくはないけど。
《カズマー! カズマさーん! 手足がバキボキになって人と思えない形になっていたカズマさーん! 早く帰ってきなさーい!》
そこで思ったよりも早くアクアの声が聞こえてきた。
「あの、三回死ぬとはどういう……」
《カズマさーん! 早くしないとダクネスが……あっ、ちょっと、馬は、馬はさすがのカズマさんでも耐えられないわ!》
馬!? なんで馬が出てくるんだ!?
《そんなことしたらカズマさんが壊れちゃう! 体の傷だけで済まなくなっちゃう!》
今回マジで何やってるの!? というか体の傷じゃすまないって!
「す、すみませんエリス様、その話は次会ったとき……!」
「は、はい。頑張ってくださいね?」
事情を呑み込めないエリス様は微妙な表情のまま送り出してくれた。
「あ、起きた」
アクアのそんな間抜けな声で目覚めた。
「まさか、馬に轢かれるなんて、ププ、カズマさんださーい」
「アクシズ教徒の馬だったけどな」
「なんでもかんでも私の可愛い信者のせいにしないで!」
「なーにが可愛い信者だ! この邪教徒!」
アクアが何か文句を言っているが、変な紙があった以上アクシズ教徒以外にあり得るはずがあるまい。
「で、ダクネスは?」
「衛兵に連れていかれたわよ」
どうやらアクアの狂言だったらしい。念の為身だしなみを確認し、ほっと息をつく。
「蘇生早かったけど、近くにいたのか?」
「ウィズの店に行く途中でね。まさかカズマさんが空を舞っているところが見られるとは思ってなかったけど」
「舞いたくて舞った訳じゃ無いからな!」
アクアはまだクスクスと笑っている。
こいつが女神だっていまだに疑わしい。死んだのに笑ってるってどうよ。
「……お前がウィズの店に行くなんて珍しいな」
「暇だから冷やかしに行くのよ」
何時までも笑われるのは癪に障るので話を逸らそうとする。
その返答は女神だという事を疑わせるようなもの。
それはいつもの事だが、屋敷に返って安静にしようと思っていた心を引き留めるのに十分な物だった。
これ、絶対変なもの買ってきて被害をこうむる流れだ。
「なによ、じっと見て。もしかして、ついに女神の私に」「それは無い」
「せめて言い終わらせなさいよ!」
怪しい占い師の言葉を信じた訳では無いが、いつものパターンになりそうなことは目に見えている。
せめて、事前になにかしらの対策を練ろうと、アクアについて行くことにした。
「エリス様、さっきぶりです」
「さっきぶりとあいさつをしてくる人はカズマさんが初めてですよ」
何とも早い事だが、またしても死んでしまったようだ。
俺とてスペランカーのようにポコポコ死にたくはないのだが、まさかこう簡単に死んでしまうとは思わなかった。
どれもこれもあの駄女神が警戒心なく変なツボのふたを開けるからだ。
「それで、前に話そうとした事を教えて頂けませんか?」
「前に?」
「はい、三回……ここを訪れるという話です」
エリス様は気を使ってくれたのか、少しぼかして話を急かしてきた。
こういう気を使ってくれるところとか、まさにあの駄女神と違うところなんだなぁとしみじみ思う。
「待ち合わせをしているところに、占い師から声を掛けられたんですよ」
「占い師から?」
「はい、占ってあげると言われて、そこから三回死ぬと」
「……」
エリス様は考えるように顔を俯かせる。
俺のためにこうして一生懸命考えてくれる姿はそれこそまさに女神さまっぽく……
「名前は呼ばれましたか?」
「え? ええ、はい」
「悪魔の仕業ですね」
「悪魔? 悪魔ってあの? 人の神経を逆撫でしたり、口だけで特に何もすることなく終わったり、大嘘の設定を作ったりするあの?」
「あ、悪魔にも色々な性格がありますから」
悪魔と言われるとあんまりいい思い出は無い。あんまりというか、良い思い出は無い。
「悪魔の仕業って言いますけど、何をされたんですか、一体」
「呪いです」
呪い? お呪いでなく?
「でもおかしいですね……こういった呪いはそう簡単に掛けられるものではないのですが……」
再びエリス様は深く考え込むしぐさをする。
「解呪は出来ますか?」
「可能です。でも、体に掛けられたものですから、私からでは効果が出ないんです」
「ということは、ここから解呪は出来ないということですか」
「はい、先輩に掛けて貰ってください」
アクアに頭を下げるのは癪だが、あと一回とはいえ三回も死ぬほうが簡便だ。
《カズマさーん! 二回も死んだカズマさーん! 早く帰ってこないとウィズがー!》
そこで丁度良くアクアからの声が聞こえて来た。
でもウィズは嘘だろ。ウィズが何をしようとしてるんだよ。
《ウィズが責任を感じて変な薬を使おうとしてるの! 戻る先が無くなるわよカズマさーん!》
やべえ、ウィズならやりかねん。しかもウィズの店には副作用が恐ろしい道具もたくさんあったはず……。
「すみませんエリス様! 元の体が無くなりそうなのですぐに戻ります!」
「ちゃんと先輩に解呪して貰ってくださいね」
そんなエリス様の優しい言葉を聞きながら、本日二回目のこの世界をお別れする。
なるべく、こんな状態での三度目は訪れたくはないが。
結論から言うと、解呪はしてもらえなかった。
正しく話すとすると、アクアがその場に居なかったのだ。
「あいつはどこへいったんだ。さっきまではいたはずだよな」
「その、私が使った魔道具がテレポートの副作用があって……」
「何処か飛ばされたってことか……」
「すみません! 魔力からして、そう遠くない場所に飛ばされていると思うので、アクアさんのことなら心配しなくても大丈夫だと思いますけど……」
アクアのことなら元から心配していない。あいつは殺しても死ななさそうだしな。
というかちょっとまて、ってことは俺の呪いは解呪できない訳で……
「そういえば、カズマさんからどこか禍々しい気が感じられますが、どうかしたんですか?」
「そうだ、ウィズはリッチーだったよな。なら、呪いとかどうにかできるんじゃないのか?」
「呪い、ですか? すみません……私はかける事は出来ても、解く事は出来ないんです」
申し訳なさそうな顔のウィズ。
こちらとしても無理を言ったと思うので、そんな顔されるとこちらも申し訳なくなる。
「アクアさえいればよかったんだから、そこまで気にしなくていいからな?」
「すみません……魔道具を発動させてすみません……」
しまった。
どことない疲労感を感じつつ、ようやく屋敷へと帰ってきた。
占い師によればあと一回俺は死ななくてはならないらしい。
これはいっそダクネスやめぐみんに説明して、殺されることを防いでもらうべきではないだろうか。
そんな事を考えながら、汚れた体を洗い流す為、脱衣所の扉を開けた。
「あ……」
「は……」
そこには今まさに服を脱ごうとしているめぐみん。
これはラッキースケベと喜ぶべきであろうか。
いや、否。
この展開は今日に限り確実に予想できる。
きっとめぐみんは手近な物を投げて来るに違いない。ならば、それを予想してそんな事をされる前に扉を閉めるのみ。
――が!
「あれっ、扉が閉まらな……!」
「何言い訳しているんですかぁああああああ!!」
目の前に広がるのはどうやって投げたのか知らないどでかい棚。
普段ならこれくらいじゃ確かに死なないが、既に二回死んでいる体は弱っている。
当たったら死ぬ!
「危なっ!」
「避けないでください!」
そう言われても避けなきゃ死んでしまう可能性がっ!?
頭に突然の衝撃が走る。
何か名案が思い付いた訳では無く、これは外部からの衝撃。
薄れゆく景色の中見えたのは、扉の角だった。
「この世界に来てから一番カッコ悪い死にかたしたんですけど!?」
エリス様の居る前で懺悔のように言葉を吐き出す。
まさかあれよりカッコ悪い死に方をするとは思わなかった。
「と、豆腐の角に頭をぶつけて死ぬよりはましですよ?」
「そんな人本当にいるんですか!?」
慰めているのだろうが、慰められた気がしない言葉だった。
「それで、悪魔のことについて何ですけど、いくつか分かったことがあったので聞きますか?」
「さすがにここまでされて何も知らないって気にはならないですよ」
「カズマさんがかけられたのは嫉妬の悪魔……の配下によるものですね」
嫉妬の悪魔? 元の世界ではレヴィアタンだったか。
この世界でそういう名前じゃないのかもしれないけど。
「いわゆる呪詛と呼ばれるもので、聞いた相手を呪わせるものですね」
「占いじゃ無かったのか! しかもそれ強くない!?」
「いえ、呪詛はよほど相手を恨んでいるのでなければ、効かないことが多いんです」
相手を恨んでないとって……。
「そんなに恨まれること誰かにしましたかね?」
「いえ、相手を死に至らしめるほどの強い気持ちを抱くほど、カズマさんは恨まれていませんよ」
それはそこまでじゃないけど恨まれている相手がいると。
……良く考えなくても、恨まれてそうな相手いるな。
「ただ、その悪魔が持っていた魔道具が少し曲者でして、世界中の人の感情を一か所に集める性質を持っていたんです」
「つまり、俺に対する世界中の人の悪感情を集めたら、人を殺すほどの呪詛になったと」
「そういうことですね」
なんともクソ迷惑な魔道具だ。持つ奴によっては絶対相手を殺せるなんて、チートじゃねえか。
「そのー、普通はそれでも呪詛が成功するに至らないんですよ」
「世界中から集められてもですか?」
「カズマさんは、良くも悪くも有名ですから……」
つまり、その呪詛は俺だけには効いて、他の人には作用しないと……。
あの悪魔捕まえないとヤバイ。
「あ、でも心配しないでください。どうやら先輩が倒したみたいですよ」
「アクアが!? でもどうして、あいつには呪詛なんて一言も……」
「町の外にテレポートされて、その目の前に悪魔が居たみたいなんです」
それならやりかねないな。
「魔道具も一回きりみたいですし、もう心配することはないですね」
「なんか、今日一日濃くも無いのにどっと疲れました……」
「三回も死ぬ人なんていないので、もしかしたら魂にもなにかダメージを受けているのかもしれませんね。……『蘇生せよ』!」
淡い光に包まれ、なんとなく体が楽になったような気がする。
これで元の体に戻っても少しは楽だろう。
「ありがとうございます。今度菓子折りでも持ってきますね」
「あ、本当ですか? ……って、ダメです! そんなにホイホイ来ないでください!」
「そう言えば露店で美味しいお菓子が売ってあったんですよ。今だけ限定らしいので、それを持ってきますね」
「あれ美味しいですよね。……もう!」
少し怒ったような表情を見せてくれる。
あの駄女神にもこんな茶目っ気が欲しい。
《カーズーマー! 本日三回目のカズマーさーん! 扉の角に頭をぶつけて死んだカズマさーん!》
と、そこでアクアからの呼びかけが聞こえて来た。
というか不名誉な呼びかけをするな。元の世界に戻ってからじっくりと問い詰める必要があるようだ。
「あいつは……じゃあ、そろそろ行きますね」
「はい。お気をつけてくださいね」
今日だけで三回もお世話になったエリス様に挨拶をして、門を潜ろうと歩き出す。
「しかし、いくらなんでもそんなに恨まれているとはなー……」
「ふふ、大丈夫です。それ以上に、カズマさんは好感情もたくさん持たれていますから――」
エリス様のそんな言葉を背中に、俺は門をくぐりぬけた――
「すまない、あの馬は私にとって色々と丁度良い馬だったために、こんなことになってしまって……」
「まさか避けた先で死んでしまうとは……今後は着替えを覗かれてもスポンジくらいにしておいてあげますから、避けないようにしてくださいね」
「カズマー、今日私一人で悪魔を倒したのよ! これはもう、お祝いね! 今から絶品の料理でパーティをするわよ!」
こっちに戻ってからも色々収集を付けるのに苦労した。