正十字騎士團と裏会が業務提携する事になりました   作:駒由李

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※原作程度の良時描写 今回は捏造20代七郎が出て来ます。髪が短くなってるのは趣味。利守の性格が小学生の頃よりだいぶんクール&ドライに磨きが掛かった……というか性格が悪くなった理由についての話 
▼七郎から時音への呼び方は「雪村さん」だった気もしますが、間違ってたらすいません……あと利守は修二さん似だと思ってます勝手に バランス的にまっさん=凄く守美子さん似 良守=守美子さん寄り っぽいのでひとりぐらいお父さん似がいていいかと思い お題は「わるものマニア」(http://www.w-mania.com/)より。


傷痕

 風が吹いた。

「そこの君」

 その声が背後からかかったのならば、燐はそこまで驚かなかっただろう。あるいは前方でも、左右でも、二次元からかかったのならば。しかし、その声は真上からだった。

「……は」

「君、ここの制服を着ている上に、その猫叉と遊んでるって事は、祓魔塾の関係者だよね」

 そういって、その男は、何でもないように燐の隣に降り立った。その人の周りにだけ風が吹く――美女の形容に用いられる表現が、男の場合はそのまま当て嵌められた。人目を引く顔立ちに、風の如き爽やかな笑み。髪型こそごく短いものだが、地毛なのか染めているのかは俄に判別しがたい茶髪。服装は、夜の飲食店従業員といった派手な色合いのスーツだ。しかしそれも趣味といってしまえばそれまでだ。男の異常性は、ただ、燐の真上から――空から、風と共に、音もなく降り立った事。その一点に尽きた。一般人には見えぬ筈のクロを視認した上で、彼のプロフィールも言い当てられた。それらの衝撃で、燐は、階段に腰掛けたまま、尋ねられるがままに頷く。腕の中のクロも、同様に男を見詰めていた。男はクロを微笑ましげに見下ろしながら、「それなら丁度良かった」と、その人物の所在を尋ねる。

「なら、墨村利守君っていう子を知ってるかな」

 

 

「ホストみたいなイケメンが空から降ってきた!」

「奥村君、ジブリの見過ぎちゃう」

 塾に駆け込んできて開口一番。燐が放った言葉に、志摩はにべもない。まだ3人しか揃っていない教室。そこでポテトチップスを摘む彼は、授業の予習に努める勝呂や子猫丸の隣で肩を竦めた。

「もしくはフツーに祓魔師ちゃうのん。祓魔塾の関係者ならぴょんぴょん飛び跳ねてても可笑しゅうないやろ」

「違うんだって! 本当にふわーって風で飛んできたんだよ!」

「風ェ?」

「……ホストみたいなイケメンって、若先生みたいな感じか」

 意外にも、話に乗りだしたのは勝呂だ。ノートに走らせていたペンを止めた彼は、扉を後ろ手に閉めた燐に怪訝そうに問う。燐は首を傾げながらも、「もっと派手な感じ」と否定する。

「茶髪でホストみたいに派手なスーツ着てた。んで風でふわーって。でもあんまり激しい風じゃないっつーか……あれでどうやって飛んでたんだか」

「それ、扇の若当主やないですか」

「おうぎ」

「え、扇が何でこないなところに」

 言葉自体に聞き慣れない様子の燐に対し、志摩はもっと不可解そうだ。彼はペットボトルのコーラを呷ると、不思議そうな燐に説明する。

「風使いの扇、嵐座木の扇。どっちかっていうと騎士團より裏会寄りの、祓魔絡みの家や。日本におる悪魔関係の家なら大概扇の事は知っとる。金持ちやから騎士團への影響も強いしな」

「風使い……? それって俺みたいな悪魔の血が流れてるって事か」

「その辺の分類は騎士團とは違うらしいからよぉわからん。墨村かてこっちじゃ悪魔の末裔っちゅー事になるけど、トリプルC濃度の聖水を頭から被っても平気やったろ」

「そういえば……」

 勝呂に説明を継がれて、燐は思い出す。夏休み前に起きたアマイモンが絡んだ事件。裏会からの交換留学生である利守も、その時、事件に巻き込まれた。結界を作る時はその専門の家系である為かより改良を加える事に活き活きしていた印象の方が燐には強い。しかし確かに、結界術と呼ばれるらしい異能を使う彼は、その人外の力をふるいながら、確かに聖水に火傷を負っていた覚えはない。勝呂は教科書を閉じる。

「どっちかっていうと、虚無界や悪魔……向こうじゃ霊地って呼ばれとる、虚無界との境界が薄かったりして色々なモンに影響を与える土地の力を家系的に受け続けて異能を持つっちゅー解釈らしいわ。せやから生まれた時から当たり前のように悪魔が見えるっつー話や。墨村もその口やから、悪魔に動じない方なんやろ。元々の性格もあると思うけど」

「な、成る程……」

「話は逸れたけど、つまり扇もそういう事らしいわ。風に関する悪魔の影響を代々受けとる。その人口はめっちゃ多いらしいけどな……でも、歴代でも今の当主の力は強すぎるらしい。ホストみたいな派手なイケメンで目立つ上、当代は、何年か前に裏会が生まれ変わってから新たに食い込んどるっていうし。裏会にとっても重要人物の筈や」

「それでそのイケメンがどないしてん」

 勝呂の説明に圧倒されながらも、志摩の問い掛けに目を白黒させながら、燐は思い出したようにいった。

「そうだ、墨村はどこかって聞かれたんだ。んでさっき、墨村がいたところまで案内したんだ」

「墨村君に……何でですかね」

「……意外やな。下の弟とも仲ええんか」

「弟」

 首を傾げる燐。勝呂は事もなげだ。

「さっき、扇の当主は裏会に食い込んどるっていうたやろ。そこの1番若い幹部の墨村正守と扇当主の七郎、それに正守の元正統継承者の上の弟とは、その頃から交流があるっていう話や。でも下の弟とまで交流しとるとはなぁ」

「しかし仕事ですかね、扇が来たのは。最近は騎士團にも働きかけてるっていう話ですし」

「案外それなら、そのお兄さん達に弟の様子を見てきてくれっていわれたんちゃいます」

 感慨深げな勝呂と、不思議そうな子猫丸。それに冗談交じりに笑う志摩。燐はといえば、漸く慣れてきた騎士團の構造に、また違う体系を持つらしい裏会の構造の1部を説かれて頭が混乱しており、「も、もう少しちゃんと説明してくれねーか」と、塾がはじまるまで彼らに裏会と騎士團の構造を比較して教えを請う事となる。

 

 

 

「本当はここの理事長……支部長と会議するのが仕事なんだけどね。ついでに君の様子を見てきてくれって正守さんに頼まれて」

「そうですか」

 志摩の予想は当たった。しかし同級生のそんな当てずっぽうな推測を建てられているとは、利守は勿論、彼の事を知らない七郎も知らない。正十字学園の片隅。そこのベンチに腰掛け、聖書の暗記に努めていた利守。彼を訪ねてきたのは、利守が小学生の頃から何となく付き合いの絶えない青年だった。出会った当初はまだ家を継いだばかりで、面差しにもあどけなさの残っていた七郎は、今ではすっかり扇の当主として貫禄があるように利守には見える。しかしその感想は口に出す事はなく、案内してきた燐が立ち去った後、当たり前のように隣に腰掛けてきた七郎を見ずに彼はいう。

「どこの出張ホストかと思いましたよ。頼んだ覚えもないのにデリヘルの如く押し掛けてきたのかと。相変わらずその服の趣味を改める気はないんですね」

「……正守さんにも良守君にも似ないね、君は。年々かわいげがなくなってきてるっていわれない、お兄さん達に」

 淡々と紡がれた悪口に、閉口しかける七郎。端整な顔立ちも引き攣る。対して、可愛らしい部類の利守の表情は微塵も動かない。普段はそれなりに喜怒哀楽を示す顔は、七郎に対しては何の反応も示さなかった。否。彼をよく知る者ならば、示さないようにしているようにも見えただろう。刹那には、口の端を釣り上げて肩を竦める。聖書を閉じた。

「そんな事ありませんよ。僕はいつまで経ってもかわいい末っ子なので。大体、貴男をそうして様子見役に頼んでいる辺りでわかりそうなものでしょう」

「君、ひょっとして僕の事が嫌いなのかな」

「そんな事ありませんよ」

 同じ言葉を繰り返す。そして利守はいう。

「貴男が遠慮なく僕に接してくるので、同じ態度で返しているだけです」

「……そこは気の置けない相手だと思ってくれているという事でいいかな」

「お好きにどうぞ」

 完璧な愛想笑いを貼りつけた、年少の知人に七郎は最早苦笑するしかない。七郎は背もたれに凭り掛かり、空を見上げる。自分が渡ってきた空は、うっすらと白い雲が棚引いていた。そのままの姿勢で、七郎は呟く。

「ところでさ、利守君。良守君は、君がこの学校に通っている事を知っているのかな」

 それは唐突な質問に聞こえた。実際、タイミングとしては突然だった。しかし、その問い掛けがしっかりと耳に届いた利守にとっては、違ったものに受け止められた。聖書を握る、その手は強張っている。だが、声だけは落ち着き払っていた。

「通っている事自体は、知っていると思いますよ。時姉の就職先な訳ですし、実家に1度も帰ってきてない訳じゃないですから」

「じゃあ訊き方を変えようか。利守君」

 いって、七郎は身体を起こす。その眼が、利守の黒い頭を見下ろした。母親似なのか、次兄よりも直毛の傾向が強い髪だ。どちらかというと父親似の顔立ちに対し、風に靡くそれは、七郎に彼女を思い起こさせる。それを眺めながら、彼は尋ねた。酷く深刻な表情だった。墨色の目が、七郎を見詰め返していた。

「良守君は、君が裏会の政治的判断で正十字学園に入学した。そして、祓魔塾に通っている。――その事を、君の口から伝えた事はあるかな」

「……良兄が知ったら、間違いなく反対するでしょう」

 直ぐにその視線は逸らされる。その言葉が、七郎の質問を肯定していた。彼は嘆息をする。

(道理で、良守君の口からその話を聞いた事がない訳だ)

「正守さんがいう訳がないとは思ったけど、まさか君もとはね。良守君が知ったらどうする気だい、今のところ雪村さんはその事を彼に伝えていないようだけど、恋人だ。いつか耐えきれなくなった彼女が彼に漏らしたらどうする気かな」

「その時は僕が庇いますよ。実際、時姉は悪くありませんから。仕事です」

 そう言い切る、利守の横顔は頑なだ。その表情は、彼の長兄を思い起こさせる。だからこそ、七郎は言葉を連ねる。

「良守君、もしこの事を知ったらどう思うだろうね。彼が嘗て、烏森の封印を頑張ったのは、家族にこういう危ない事に関わらせない為だったろうに」

「そんなの良兄の勝手です。僕がやると決めた事ですから。良兄だって、烏森の封印は良兄自身が決めた事でしょう。これは僕がやると決めた事だ」

「その言い方は、ちょっとあんまりじゃないかな」

「……わかってますよ、これが自分勝手だって事ぐらい。でも、僕だって譲れない事はあるんです」

 七郎に窘められ、利守の目線がやや地面に近くなる。その眼には罪悪感によるものか、澱んだものが見えた。七郎はそれを見て、もう6年程前になる事件の事を思い出す。

 烏森の封印に伴う、主のすげ替え。自身も神殺しという大罪を密かに負った。けれど、七郎はそれが自身の役割だと感じていた。

 だが、利守は幼かった。か弱かった。まだ、小学生の子供でしかなかった。力も、家の中で最も弱く――しかしながら、確かに持っていた。

(それでも彼に出来たのは、待つ事だけだった)

 それが利守の現在の行動原理に影響している――それだけは間違いない。それは力を持つ兄達への嫉妬。守られている事への歯痒さ。待つ事しか出来ない幼い自身への悔しさ。

 そこで不意に与えられた役割。それに縋るのは、当然だろう。七郎は、彼の長兄を見ていたから、それがわかってしまった。深い深い傷痕。それによる、墨村利守という少年に与えた歪みを。

 だから、七郎は立ち上がる。顔を上げる利守に、彼は打って変わったように笑った。貼りつけた笑みだとは自覚していた。

「そうだね、誰にでも譲れない事はある。僕にだってあるしね。……長話しすぎたね。僕はファウスト支部長のところに行くよ。君も塾があるんだったね」

「えぇ、今日は小テストがあるので。理事長室はわかりますか」

「ここに来るのははじめてじゃないから」

 いって、利守も立ち上がる。そしてベンチの傍らに置いていた鞄を持った。その彼の後ろ姿に、七郎は声をかけた。それは、忠告。

「ところで、さっき僕を君のところに案内してくれた、奥村君だっけ。彼が、例の落胤だったかな」

「……良い奴ですよ」

「見ればわかるよ。僕の『利守君を知らないか』っていう尋ね事をあっさり請け負ってくれたし。随分素直だよね、詐欺に引っ掛かりそう」

「あぁ……それはちょっと心配してます」

 今の七郎からは利守の顔は見えない。しかし、出会った頃から変声を経て低くなった声に、本当に心配そうな色が滲んでいる事は伝わってきた。自身への態度の差異に、七郎は内心で肩を竦める。そして、いった。

「良守君に似てるよね」

「――それも、ちょっと思ってます」

 途端に、声が固くなる。それが、利守がちょっとどころか、随分とそれを認め、そして思い詰めている事を七郎に示した。

 それは、先程。自身を案内してきた彼と七郎という組み合わせを見た時。利守が一瞬見せた表情が、彼にその疑問を呈していた。そして今、確信を以て、七郎はいった。

 

 

 塾の扉を開く。すると、真っ先に利守に気付いたのは志摩だった。

「おー、墨村君間に合うたな」

「……何してるの」

「裏会と騎士團の組織構造比較即席勉強会。みんなー現場出身の講師が来たったでー」

 志摩の言葉と同時に、勝呂と燐を中心に集まっていた塾生達がワラワラと顔を上げる。利守は頬を引き攣らせた。燐が中心にいる事でどうしてそんな会が勃発したのかは察しがついたが、その中に雪男の姿まであるのはどういった訳か。しかし幸い、雪男は講師としての本分は忘れていなかったらしい。燐達に教授する側だったらしい雪男は、利守に気付いた立ち上がった。

「はいはい皆さん、もう時間ですから授業をはじめますよ」

「えー」

「雪男ーもう少しで理解出来そうだから教えてくれよー」

「授業が終わったら現場の人に訊いてください。墨村君、理由は奥村君から聞いていますけどギリギリですよ」

「すいません若先生」

 頭を軽く下げてから、利守はいつもの席に着こうとする。そして不意に、通路で燐と目が合う。彼は青い眼を瞬かせると、へらりと破顔した。擦れ違い様に利守も笑みを返した。

 そして、思い出すのは、先程の七郎との会話。それが、利守の胸を痛ませる。

『利守君。君は3年間、ここで無事に祓魔師としての修行を終える事が今の役目だ。それは、わかっているね』

『……それが何か』

『だから、もし、奥村君に何かしらの処断が下されても――君は、それに関わってはいけないよ。助けようなんて考えちゃいけない。そこで君の立場は崩れて、役目を果たせなくなる。君は、そんな中途半端な奴になる気はないだろう』

(わかってるよ、そんな事)

「……墨村君、大丈夫か?」

 斜め後ろから、志摩が声を掛けてくる。利守はこの時、振り返る事は出来ず、ただ頭を振った。

 あの日に負った傷痕が、彼を今も苛む。それは形を変えても。

 

 

 

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