正十字騎士團と裏会が業務提携する事になりました   作:駒由李

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雪男と利守のお喋り(+京都組が名前だけ)
▼「【結界師未来パラレル】私立烏森学園生徒会長・墨村利守(中1)」(https://novel.syosetu.org/85849/)(結界師20代半ば正守+中坊利守SS)からの派生。小学校の時は児童会長を、中学時代は生徒会長をやってた利守。そうして所謂責任の伴う役目をこなしておきながら、責任というものにピンと来なかった
▼この利守のイメージは「答えを得た守美子母さん」。個人的に、彼女は精神が酷く幼かったんじゃないかなーと思ってます。利守は結界師としてはか弱い故に護られてきて、何でも兄達の動向を見て色々な事を学んだものの、実感が伴わなかった。痛みを伴わないと成長は出来ない。それでも覚えているから、生きてはいける お題は「わるものマニア」(http://www.w-mania.com/)より。


嫉妬

 責任とは、思い入れを持って、はじめて果たせる。

「道理で、今まではピンと来なかった筈ですよ」

 

 さて、そんな話になったのは何が切欠だっただろうか。雪男はそれが思い出せない。体育の時間。利守と志摩のいるクラスと雪男達のクラスの合同授業。記録測定の順番待ちをしていた時、偶々近くに座った為だろうか。志摩は、向こうの女子のサッカーに気を取られている。勝呂はそれを窘めるのに忙しそうだ。それを尻目に、雪男は思い出そうとする。日差しが黒髪に熱い。それは墨色の髪をした利守もそう見えたが、横顔はただ真っ新だった。

(確か、中学の時の話を訊いてたんだった)

「墨村君は、中学の時、生徒会長をしてたんですよね」

「えぇまぁ」

 話し掛けると、淡々とした肯定が返ってきた。返事が来るだけ宝よりはまともなのだろう、雪男はそう思い込もうとした。しかし、塾の生徒であり、同学年の男子生徒であるこの少年は、雪男にとっては得体が知れない事が多かった。だから、雪男にしては珍しく、機会があれば積極的に交流を持つ事にしていた――それが上層部からの「裏会からの交換留学生だ。出来るだけ接触を以て情報を引き出せ」という指示が根底にあっても。

(実際、興味深かった。烏森という1級の霊地。400年も荒ぶっていたそこの封印に成功した兄を持つ少年。……騎士團ですら情報を引き出せていないのに僕なんかが聞き出せるものかと思ったけど、それでも、サタンの事や……兄さんに何か役立つ事がわかるかも知れない。そんな下心を持ったのは事実だ。けれど)

 問えば、それなりの答えが返ってくる。それは講師として着任する直前、墨村利守の予備知識として与えられたものとほぼ相違ないものだった。

 小学校4年生の秋、当時、当選したばかりの児童会長をリコール。その後、規約上は許されていたにも関わらず、自身は直ぐに会長になる事はなかった。そして1年後、リコールの後の再選挙で奇跡の当選を果たした対抗馬の6年生が補助演説を買って出た。利守はそれと、その1年前のショッキングなデビューがあまりに鮮烈だった。飽くまで他薦の立候補という形で児童会長に就任した。その後、烏森学園に入学後、その年の秋に直ぐに中高等部生徒会の会長に立候補、当選――この際には、利守が小学校4年生当時、校舎が「謎の事故」で全壊した為に、近隣の小学校に身を寄せていた中等部の生徒が多くまだ在学していた事が鍵となったといわれる。同じ校舎にいれば、満9歳でリコールなどを行い、重箱の隅を突くような指摘を挙げ連ねるような児童の存在は聞こえてくる。少しでも高等部の生徒に印象が残っているうちに立候補した事が得策だった。そう分析する者もいたという。それでも、同校舎内にある中高一貫校の生徒会長は高等部の生徒がなるのが通例だ。少なくとも烏森学園はその筈だった。弱冠中学1年で会長に当選したのは、あまりに異常だった。リコールもあった。だが、彼はその全てを退け続けた。頑ななまでに。

 しかし、それも中学3年の秋まで。彼は「自分より会長に相応しい人を見つけた」と別の候補者を擁立。その人物が当選したのを見届けると、あっさりと退任。その後、烏森学園を中等部で辞し、正十字学園高等部に進学を決める――学業面で天才と呼ばれた雪男とはまた違った方面の、華々しい経歴だった。しかし、現在の利守は、生徒会になどまるで興味を示す様子はない。志摩に訊けば、クラスの係でさえ1番楽なものを選んだと聞いている。委員会も、本人が本好きの為に図書委員であるという。それはまるで、昔に戻ったようだと、雪男は利守の調査書を見て思ったものだ。

 小学校4年生の、「烏森の封印」に絡んだ一連の事件の前。利守はただの優等生であり、ただの図書委員で、児童会などに特に興味を示す事もない大人しい子供だったという。

(まるで烏森の封印が、彼の何かを呼び覚ましたようだ。そう感じた)

「この学校では、生徒会活動をやらないんですか」

「塾が忙しいですから。それに、僕は留学生の身ですからね。“こちら”に力を注ぎたいんです」

 雪男が尋ね、利守がそう答えた時。はじめて、利守の目に光が宿ったように見えた。だから、雪男は思わず、更に尋ねたのだ。気になって、しまったから。

(好奇心は猫をも殺す)

「貴男にとって、生徒会活動は、熱意を持って行っているものじゃなかったんですか」

 尋ねた瞬間、後悔した。利守の横顔に、明らかな落胆を見出したからだ。それが何に対しての感情かはわからない。しかし、利守はその雰囲気も消さぬまま、淡々と答える。瞳は、また暗さを取り戻した。

「僕にとっては、リコールとか、児童会長とか、生徒会長とか。そんなのは、ただの手段でした。目的ではなかった。今は別の目的があります。だから、そんなの、要りません」

「目的」

「今は、裏会と騎士團の橋渡し役。そういう重い、そして、どうあっても果たさなければならない責任がありますから。僕が欲しかったのは、こういう、責任ある立場というものだったんですよ」

「……?」

 ――そんなもの、何だって欲しいんだ。ただ重たいだけなのに。

 雪男の気持ちを表情からごく正確に読み取ったらしい。利守は苦笑を浮かべる。それは、1度、仕事で逢った事のある彼の長兄のそれによく似ていた。若くして裏会の幹部にまでのし上がった彼は、どこか、何かを悟ったような雰囲気をしていた覚えが彼にはある。

(あぁ、正統継承者ではない。そういう点において彼らは同じなのか)

 けれど、口にする内容は、その声音に対して軽やかなものではない。

「若先生。言い方は悪いようですけど、僕と貴男じゃ立場に雲泥の差がある。貴男は天才祓魔師。騎士團という場所の中で、最も認められる立場だ。責任もそれ相応に任されている。片や、僕は、ここでは裏会からの橋渡し役として丁重に扱われてますが、家では最弱の結界師です。……そうですね。立場でいえば、志摩と近い。責任を負う事のない立場です。逆にいえば、負わせてすら貰えない」

「……護られてきたんですね」

 その声に嘲りが混じった事は雪男は認めるところだ。だが、返す利守はそれを肯定するばかりだ。

「えぇ。甘やかされ、護られてきた。人間としての自立が難しくなるぐらいに。だから、気になったんですよ。責任を負う立場というのはどういうものか。けれど、結局、何をやっても、兄達の持つそれに近付けられる気がしなかった。責任に、実感が伴わなかったんですよ。あれだけ、兄達が、人間らしく生きられる、責任ある立場……児童会長や生徒会長なんて、常識や良識では最後まで果たすべきだとわかっていても、兄達へ感じた嫉妬心ほどには自分の感情をそこまで揺らせてくれませんでした」

「……対抗馬の人から恨まれてそうですね。その人達はなりたくて立候補した訳ですから」

「こんな僕にすら勝てなかった人の事なんて知りませんよ。精々僕のいなくなった烏森学園で頑張ればいい。もう卒業しちゃってる人もいますが」

 雪男の皮肉にしれっと答える利守の履歴書の備考欄に、「人間関係において非常にドライで、時に敵を作る」といった趣旨が書かれていた事を彼は思い出す。今でもその傾向があるから、利守という人間の側面を、雪男は理解しつつある。利守は続けていう。その横顔に、再び和らぎが見えた。

「けれど、やっと実感が伴ったんですよ。今の立場になって。上の兄にこの役目を任された時、僕がその役目を果たすのに最適な立場にあると気付いた時。僕は、嬉しかったんです。あぁ、選ばれたんだって。……それで、はじめて、その責任を誰にも渡したくない。そう想えた。生徒会長としてリコールされ続けてもそれを死守した時とはまた違う感慨が芽生えたんです。プライド、というべきでしょうかね。僕に決定的に欠けていたそれが、この役目を得られた事でやっと、芽生えてくれたんです。どちらの兄にも出来ない事を、自分が出来る。頑張れば果たせる。それが、凄く、嬉しかった。……この気持ちに較べれば、そりゃ、道理で、今まではピンと来なかった筈ですよ。まぁ正直、同時に掛けられ慣れてないプレッシャーやらストレスやらで、ちょっと押し潰されそうですけどね。それでも、自分で選び取ったものでもあるこの責任を、誰にも譲りたくはない」

 そういって、利守ははじめて笑った。苦みが混じったものだったが、それは、だいぶん、普段の彼より人間らしく見えた。時に悪魔か上級の祓魔師にも相当するような厳しすぎる分別を見せる利守が、本当に人間なのだと、思い出させられる。

 そんな利守は、不意に後方に視線をやる。そこではまだ勝呂と志摩がじゃれついていた。染めている頭の2人をぼんやりと釣られて眺めていると、利守は苦笑を湛えたまま呟く。

「志摩は凄いですよね、その点。同じ末息子でも、同い年に勝呂と三輪っていう、自分より護るべき存在として認識されている人達がいる。護るという役目がある。そのストレスを物心つく前から浴びていたなら、僕より余程彼は強い」

「……本人にいってあげたらどうですか」

「それは何だか癪に障るんで、卒業際か彼が精神的にやばくなったらにします」

「君、志摩君の事が嫌いなんですか」

「嫌いじゃないですけど、嫉妬してはいますよ。僕は嫉妬心が強いもので」

 そういって目線を前方に戻す。そろそろ自分達の測定の順番が来る。雪男が勝呂を呼ぶのを耳にしながら、利守はいった。それがとても穏やかな表情をしていた事を、彼は残念ながら見損ねた。

「……たとえどんなに振り回されても、苦しめられても、離れたくない。離しがたい。そんな責任という名の居場所を彼は、僕と同じ末息子なのに、ずっと持っていた。それを、嫉妬せずにはいられませんよ。同じ間、僕は、兄達より才能がないからこんなに訳もわからず苦しいのだと思い込んでいた時間でしたから」

 その言葉が、ほんの少しだけ、雪男にもわかる気はした。

 どれだけ努力しても得られない居場所。それを容易く得る力。自身の望んだものでなければそれは意味がない――

 

(本当に僕が苦しかったのは、力がないゆえに人の庇護下から脱せられぬ弱さ。立場という名の、自分が人から与えられる居場所を求める事の出来ぬ弱さ。それを持っている兄達が妬ましく、嫉んだ)

 

「げ、勝呂か」

「なんや、墨村とか。加減はせぇへんで」

「僕もそんなに柔じゃないよ。せーの」

 スターターピストルの音が鳴る。雪男と志摩が見送る中、2人は100mの距離をかけ出した。

 

End.

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