四年前の自分を見ると、こう……むず痒いですね。何故これで行けると思ったのか。
というわけで加筆修正しました。大まかな内容に変化はありません
00.ゴールしてからすぐ走る
「だぁー、やっと終わった。話長ぇんだよ畜生……」
俺が通っていた公立中学校の卒業式が終わり、俺は学校の外に出た。卒業式といえば人生で何度もやらないものだから、その貴重な瞬間を記録しようと父親か、母親か、あるいはその両方が卒業式を見にやって来ている。
そのまま子供と帰ろうと校門の辺りは大量の大人たちでごった返していて、自分の親を探すために周囲をキョロキョロと見渡している卒業生の姿が目立っていた。
そんな人達の間を縫うように俺は歩いて行く。俺の親は仕事の都合がつかなかったらしく今日は来ていないのだが、それに対して残念な感情を俺は抱いていない。大体は2ヶ月に一回のペースで家に帰ってきては猫可愛がりしてくる両親が嫌い、とまではいかなくても相手にするのが面倒だと思っていたからというのが理由だ。
……普通、親に対してこんな冷たい反応なんてしないだろうが、常識的な範囲での可愛がりならまだしも、本当にウンザリするほど面倒臭い可愛がり方なのだ。愛されないよりマシとはいえ、もうちょっと何とかならんのかと常々思っている。
さて、卒業式を終えた俺は携帯端末のメールボックスを開いた。確認する暇が無かったから確認はしていなかったのだが、卒業式が始まる前にメールが届いていたからだ。
メールは何件か届いていた。俺は1番古いのから開封する。このメールの送り主は高町ヴィヴィオ。とある出来事で仲良くなった、俺の後輩に当たる人物。
『こんにちはシュウさん!まずは御卒業おめでとうございますって言わせて下さい。
いやー、出会ってからの3年間は色々とありましたね!具体的にはチームナカジマの面々でキャンプしたりとか、合宿に行ったりとか!
卒業したからって何が変わる訳でもないとは思うんですけど、これからも沢山の楽しい思い出を作りましょう!
それじゃあ、また後で会いましょうね‼︎
シュウさん愛しのヴィヴィオより』
「最初の真面目さを最後まで貫き通してくれればなぁ……」
俺はその、良くも悪くもヴィヴィオらしい文面に苦笑いしつつ、次を開封する。
次の送り主の名前はリンネ・ベルリネッタ。父さんの親友であるダン・ベルリネッタさんが養子として迎え入れ、そして何故か俺の義妹となっている子。本当に何故なのか。
『お兄ちゃん、卒業おめでとう。お兄ちゃんもとうとう高校生になるんだね。また一歩、大人への階段を登っていくお兄ちゃんの背中は大きくて、そしてとてもカッコいいよ。
今年で私も3年生。今年までは我慢を強いられるけど、来年からは私も一緒に学校に行けるよね?
それじゃあ、また後で。
……ところでお兄ちゃん、昨日ポン酢を使い切ってたみたいだったから買っておいたよ。あと、そろそろ野菜が萎びてきそうだから今夜辺り鍋にでもして大量消費した方が良いんじゃないかな?
大好きなお兄ちゃんの妹、リンネより』
「……なんでリンネが家の冷蔵庫事情を知ってるんだ?」
おかしいな、昨日はリンネが家に来なかった日の筈なのに。なんで昨日俺がポン酢を切らした事を知ってるんだろう。
……考えても仕方ないか。合言葉は「リンネなら仕方ない」だ。そう考えないとプライバシー諸々がヤバい事にも目を向けなきゃいけなくなる。
義妹からの麗しい兄妹愛という事にして、今起こっている問題を見ないフリする事も時には必要だと俺は思う。
最後のメールを開封する。送り主の名前はアインハルト・ストラトス。アインハルトとの関係を一言で表すのなら、同居人。
『シュウさん。ありきたりな言葉ですが、御卒業おめでとうございます。という言葉を慎んで送らせて頂きます。他にも色々と伝えたい言葉があるのですが、それは後で会った時にしましょう。
……ところでですね。そちらの卒業式が終わり次第、こちらに迎えに来てくれませんか?帰りに買い物をして帰りたいので。
ああそれと。今朝、冷蔵庫を見たら切らしてた筈のポン酢が補充されてたんですけど、あれってリンネさんの仕業ですよね?後でお礼を言っておいて下さい。
愛しのハルにゃんより』
「なんでリンネの仕業だって分か……そりゃ分かるか」
むしろ分からない筈がないなと俺が納得していると、俺の背中を誰かが叩いた。
自慢じゃないが、俺は友達が少ない。俺にこんな気安く触る奴は、この中学では1人しか知らなかった。
「なんだよロイ。俺はいま忙しいんだが」
「どうせ美人の同居人さんからのラブレターに返信でもしてたんでしょ」
「ラブレターじゃねーよ」
俺が振り返ると、そこに居たのはイケメンだった。
サラサラの金髪、常に浮かべている柔和な笑み、普通の家の生まれではない事を悟らせるその佇まい。お伽話の王子様をそのまま現実に引っ張り出して来たような、そんな男。
ロイ・アーノイド
それが、この性格
「美人の同居人さんからのメールなのは否定しないんだ」
「否定してどうすんだよ。事実だぞ」
「うーん清々しい。僕じゃなかったら嫉妬で刺してるね。でも、そういうところ僕は好きだよ」
ロイとは中学2年からの付き合いだが、たった2年とは思えないほど濃い付き合いをした。時々、どうして俺はこの変人の友人をしているんだろう、と考える時もあるが。それでも変人である事を除けば頼れる奴だ。
「お前に好きって言われてもなぁ」
「言ってから僕も鳥肌が立ったよ……っと、引き止めてゴメン。急いでるんでしょ?」
「まあ、急いでるといえば急いでるけど……そんな事言ったか?」
「雰囲気で察した」
二度目になるが、こいつは性格以外は完璧だ。だから相手の気持ちを読み取る事を平然とやって来るし、相手が望む事をそれとなくやって好感度を稼いだり、自分の本性を隠して好青年を演じる事も余裕なのだろう。
……どういう訳か、俺には素で接してきているようだけれども。何故かは知らんし、聞いても答えてくれないだろうが、悪いことではないから別に構わない。
「流石。俺が女だったら惚れてたね」
「知ってる。僕ってほら、自他共に認めるイケメンだからさ」
「うっぜー」
俺とロイは普通の友達のように笑いあって、そしてハイタッチを一回すると俺はレールウェイの駅へ、ロイは迎えの車へと足を向けた。
随分とアッサリとした別れ方に見えるだろうが、男友達の別れなんてこんなもんだろ……だよな?
————————
St.ヒルデ魔法学院の卒業式は来賓の祝辞を全部読み上げたり、来賓が一人ずつお祝いの言葉を言ったり、身も蓋もなく言ってしまえば面倒な物が何個か増えているだけで、やる事は公立の卒業式となんら変わりはない。だが、その面倒な物が増えた分の時間だけ、卒業式が長くなる。
俺がSt.ヒルデ魔法学院の正門に到着した時、まだ中で卒業式をやっているらしかった。
周囲には名刺やパンフレットを準備した人達が居て、此処が進学校である事を嫌でも痛感させられた。きっと、出来るだけ早く有能な人を自分の塾やらなんやらにキャッチする為に出待ちをしているのだろう、という想像は容易に出来る。ウチの公立とは大違いだ。
後で聞いた話になるが、ここ、St.ヒルデ魔法学院は有名な進学校であるからか、こうした争奪戦は毎年恒例行事と化しているらしく、テレビや雑誌に取り上げられる程の出来事であるとか。
「どんだけ長いんだよ……」
レールウェイでここまで来るのにそれなりの時間が掛かったが、それでもまだやっている。公立と私立で開始時間にも差があるかもしれないので一概には言えないが、ちょっと長すぎじゃないだろうか。
そう思った矢先に体育館の方から盛大な拍手の音が聞こえ、そして周囲の人達が道を開けるように横一列に並んだ。それを見て、俺も正門から離れた場所にあったブロック塀に座ってお目当ての人物を待つ。
程なくして、St.ヒルデ魔法学院の卒業生が出てきた。そして飛び交う名刺やパンフレット。いや、本当に飛び交っている訳ではないが、そんな感じの勢いだ。
そんな中を悠然と歩く、もう少女というには些か成長しすぎた女性と呼ぶべき女の子が俺に向かって歩いて来ていた。その女性は、周囲の注目を一身に集めながら、しかし差し出された名刺やパンフレットの一切をガン無視しながら俺の前で立ち止まって一言。
「お待たせしました、貴方のアインハルトが戻って来ましたよ。私が居なくて寂しかったですか?」
「頼むから黙ってくれ」
黙っていれば美人なのに口を開いた途端に残念になる奴である。これが平常運転なのだから救えない。
俺はブロック塀から立ち上がると、来た道を引き返すようにレールウェイの駅へと歩を進めた。アインハルトは俺の隣をピッタリ離れずに歩く。
「シュウさん、ご卒業おめでとうございます。これで私たちは高校生になる訳ですが、そうなると若さゆえの過ちをしても良い年頃ということになりますね。チャンスですよシュウさん」
「秒で狂うのやめてくれないか」
「私は至って真面目ですが」
「だからタチ悪いんだよなぁ……」
人目が消え始めた途端にエンジン全開フルスロットルだ。人前で堂々と言い出さない辺りに僅かばかりの理性を感じはするが、だから何だというのだろう。こいつの辞書に手加減という文字は無い。
「……こう、あれだな。ヴィヴィオやリンネとかもそうだけど、メディアのお前と普段のお前って雲泥の差があるよな」
「人には誰しも、表の顔と裏の顔を持っているものです。私が持っているのは、表向きの寡黙な美女の面と、裏……つまりは素である1人の青年を一途に想い続ける乙女の面ですね。シュウさん、好きです」
「はいはい、俺も好きだよ……その表の寡黙さを、もう少しだけ裏にも輸入してくれれば……」
「黙っていては負けるじゃないですか。嫌ですよ私は。誰がみすみす愛する人を逃すものですか」
「負けるって、何に負け……いや、やっぱり言うな。俺にもなんとなく分かる」
俺の脳内では、最近アプローチが過激になってきたオッドアイなアインハルトの後輩が薄着のまま良い笑顔で迫って来ていた。ご丁寧にも大人バージョンで、である。
その隣には同じく大人モードの義妹が、何故か首輪を持って此方に迫って来ている。
「でしたら説明は不要でしょう。私が黙っていたら、自称聖王系オッドアイかぶり女と義妹&ヤンデレ属性持ちにシュウさんが寝取られてしまいますから」
「待て。寝取るもクソも、俺とお前はそんな関係じゃねーからな?」
アインハルトの所為で親しい人間には良く勘違いされるのだが、俺とアインハルトは結婚しているわけでもなければ正式に付き合っている訳でもない。
アインハルト側が付いて来るだけだと断固として主張する。
「酷いですね。昨日は散々、いい笑顔で私をなぶっていたのに……」
「マ○カで甲羅ぶつけまくっただけだろ」
「抵抗できない私の身包みを剥がしたのは何処の誰だと思っているんですか?」
「北○の拳の事を言ってるのなら、それはきっと○イ相手にマ○ヤを選んだお前が悪い」
「ゲームのキャラを剥いたら、興奮して私に襲いかかってくれると思ってました」
「バッカじゃねぇのお前」
そんな事を話している間に、レールウェイの駅構内に到着。次が来るまで、あと2分くらいの時間がある。
通常、こういった行事のある日は帰宅時間が大体同じになるため、レールウェイの駅は近隣校の生徒が纏めて利用する事になり大混雑するのだが、ここは近くにSt.ヒルデ魔法学院しか無いためか、まだ人影は疎らだ。
「買い物だっけ。今日って何が安かった?」
「さあ……?確認忘れてました。でも、現場に行けば分かる事ですよ」
「まあそうなんだけどさ……あっそうだ。ついでにケーキでも買って帰ろうぜ」
「ケーキを?なんでまた。誰かの誕生日ではありませんよ」
「誕生日以外にケーキを買っちゃいけない、なんて決まりは無いぞ。折角学校を卒業したってお祝い事があるんだし、こういう時に食わなきゃ何時食うのかと。
それに、今日もどうせヴィヴィオとリンネが来るんだろ?何も出さないって訳にはいかない」
「そういう考えもありますか」
今日は目出度い(?)日だし、多少の贅沢はあっても良いだろう。
帰りにケーキ屋に寄る事を決めた俺たちは、ちょうどやって来たレールウェイに乗り込んだ。