俺達が保護され、そして流れ作業のようにトーマ(別次元)達も確保してから1日が経過した。
あれから事件解決の目処が立たぬままに今日という日も終わろうとしている。
果たして、俺達は帰る事が出来るのだろうか?
時間移動の犯人、キリエと名乗ったピンク髪さんも持ち合わせない世界線移動の技術は、この時代はもちろん、俺達の居た時間軸でも机上にすら乗らない絵空事である。
そんなある種の奇跡が俺達の身に降り掛かったわけだが、出来るなら帰りの分の奇跡もしっかり用意しておいてくれと、もしかしたら居るかもしれない神様に文句の一つも付けたくなる。片道切符が必要なのは死んだ時だけで良いと思うんだが、そこのところはどう考える?
とまあ、こんな風に空想の存在に疑問を投げ掛ける程度には俺は暇で、そしてやる事が無い。
今、海鳴では"闇の欠片"という偽物が大量に出現しているらしく、未来組もその対処に追われている。今のアースラには戦力を遊ばせておく余裕などありはしない、という事だろう。実際、武装局員が幾ら集まっても、偽物で劣化しているとはいえなのはさんやフェイトさん……?に敵うとは到底思えないから。
だから今の室内は生憎とリンカーコアを持ち合わせていない俺以外に誰も居なくて、まるで大きなホテルの一室を1人で利用しているような状態なのだ。
アースラの居住エリアは艦橋エリアから少し離れた場所に位置しているから、艦橋の緊張感と喧騒は此処までは届かない。それは休憩する局員への配慮だろうが、今はそれが少し恨めしかった。
先ほど今日という日が終わろうとしている、という表現を使ったが、それはあくまで日が落ちる事を比喩した表現で、つまりはまだ夜という名の後半戦が残っているという事だ。場合によっては徹夜という名の延長戦も有り得る。
次にヴィヴィオ達が帰ってくるのは、果たして何時になるのだろう。
「はぁ……」
人気も無い場所に1人、しかも暇を潰せる娯楽も無い。と、ある意味で拷問を受けているに等しい状態である俺はベッドに寝転がっている。
といっても眠くはない。規則正しい生活が刻まれた身体は、定時になるまでその意識をシャットダウンする事を許さなかったのだ。
小説の一つでもあれば、それを何十周とする前に飽きて放り投げ、更にそれを的にして的当てに興じる事くらいは出来そうだが、それは無い物ねだりという物だろう。
だから、という訳でもないが、俺は何をするでもなしにボーッとしていた。不思議と空腹や尿意は感じず、だから俺はベッドから微動だにしない。俺が手を組みながら目を閉じているのを誰かが発見したら、もしかすると俺が死んだものと勘違いするかもしれない。すると研究者は狂喜乱舞し、翌日の朝刊には、『人は退屈で殺す事が出来る』という見出しで一面に掲載される事だろう。きっと無駄に専門用語を散りばめた一件マトモそうに見える論文に違いない。
……こんな事を思い付く辺り、今の俺の頭は相当愉快な事になっているらしい。まあそれくらい暇だという事で一つ。
…………
………
……
…
…………ああ、それにしても暇だ。こうして一人語りでなんとか紛らわしているが、それでも浜辺に打ち付ける波のように襲ってくる退屈には敵わない。まだ若いのにボケてしまいそうだ。寄ってくるのは年波だけで充分だろうにな。
と、今まで散々愚痴っていたのが神様にとっては聞くに耐えない雑音の類いであったのか。それともそんな俺の事を哀れんだのか。まあ兎に角、廊下の方が俄に騒がしくなった。耳を澄ませば、それが俺の知るヴィヴィオとアインハルトの声であると分かる。
俺が身体を起こしたのと、部屋の扉が開いて2人が飛び込んで来たのは、ほぼ同時の事だ。
12.実はもう終盤
今の俺の状況は、簡潔に言ってしまえばタダ飯食らいである。
それはつまり、ニートも真っ青のスネかじりという事で、そんな俺に愛を囁く2人はさながらダメ男に捕まった哀れな女である。食虫植物に捕まった虫、キャバ嬢に貢ぐリーマンと言い換えてもいいだろう。
俺だって、このままで良いなんて考えは持ち合わせていないが、残念な事に手伝える事は何一つとして無い。らしい。
らしい。というのは、俺の意を汲み取ってクロノさんに予め聞いていたらしいアインハルトの言であり、クロノさん本人に確認した訳ではないからだ。
と、ここまで考えてからはたと気付く。コイツら仮面剥がれてね?
忘れていた設定だが、コイツらは身内以外の人目のある場所ではそれなりに自重していた筈である。
「そこの所はどうなんだ?」
「だって此処、また来れるかも分からない過去の平行世界じゃないですか。そんな場所でまで自分を偽る気は無いですよ」
と、いう事らしい。なるほど。
それにしてもざる蕎麦が美味い。
「シュウさんそれで足りるんですか?」
そう言った隣のヴィヴィオは天ぷら蕎麦セット。俺のざる蕎麦よりも遥かに量が多い。凡そ男性一人前分である。対する俺はざる蕎麦だけであるから、量的には逆の方が丁度いいのかもしれない。
だがしかし、魔法という物は存外にカロリーやら何やらを消費するらしく、そのため結構な量を食べても問題無いのだとか。というか食べないとマズイらしい。
連続で魔法を使う方が、下手な運動よりも痩せるのだと最近テレビで見たような記憶がある。だから魔導師はスリムな人が多いんだなー、と俺は1人で納得していた。
「丸1日死体みたいになってみろ、嫌でも腹なんて減らないから」
ズルズルー、ちゅるちゅる、ズザザザーという三重奏が響く。左から順にざる蕎麦、天ぷら蕎麦、カレーうどんを啜る音だ。
「それで、さっきからスルーしようと思ってたんだが……」
「言いたい事は分かります。そこでカレーうどん食べてるフェイトさん……?の2Pカラーの人の事でしょう?」
俺の前で天丼を食べていたアインハルトは一旦食事の手を止めると、まだ豪快にカレーうどんを頬張るフェイトさん……?にそっくりな2Pカラーの人を見る。
さっきからヴィヴィオとアインハルトの背中を付いて回っていたのだ。この状況で新顔とか、どう考えても厄介事を引っ提げているとしか思えない。
「美味い!もう一杯!」
そんな、胡散臭い者を見るようなこちらの視線に頓着せずカレーうどんを食べ続ける彼女の食事を邪魔したのは、背後から早歩きで寄って来た2人組だった。
「何をしておるかレヴィーッ!?」
「おおっ!?ちょっと王様!いくら王様でも、ボクをカレーうどんから引き離そうとするなら容赦はしないよ!!」
「だから言ったじゃないですか。せめて食事が終わるまで待った方が良いと」
「妙なのが来たな……」
本当にその一言に尽きる。フェイトさん……?の2Pカラーだけでもわけわかめなのに、更になのはさんっぽいのとはやてさんっぽいのまで追加とは。
なんだなんだ。最近の海鳴ではコスプレをするのが流行っているのか?
「コスプレ乙」
「誰がコスプレかぁ!?おいそこのモブ顔!少しそこに直れぃ!!」
「面白い表現ですね、気に入りました。殺すのは最後にしてあげます」
「おお、シュテルンがやる気だ……!」
しかも声まで似てると来たもんだ。随分とレベルの高いコスプレだな。
「将来は有望だな」
「シュ、シュテルちゃん達見て最初の意見がそれって……」
「いや、もちろん冗談ですよ。場を和ませる小粋なジョークです」
「キツいジョークですね……」
「黙らっしゃいアインハルト。ところで、なのはさんは何を頼んだんですか?」
「肉うどん。はやてちゃんから食券貰ったんだ」
そう言ってアインハルトの隣で肉うどんを啜り始めたなのはさん。
そこで周囲を見渡すと、少し向こうのテーブルでヴィヴィオ(小)とアインハルト(小)がフェイトさん……?に、トーマ(常識人)がはやてさんに絡まれていた。トーマ(常識人)の顔が隣のリリィさん諸共引き攣っているのは、はやてさん絡みで未来に何か起こったのだろうか?
「おい!我を無視するなぁ!」
「そこの水色ちゃん。食うか?」
「えっ、良いの?」
「レヴィーーーーッ!!」
なんだか満腹になったので、恐らく食欲旺盛であろう
他称:王様は怒りをマグマのように噴出させながら、こちらにズビシッと効果音が付きそうな勢いで俺を指さして言う。
「貴様ァ!我が臣下を懐柔するとはなんと卑怯な!」
「懐柔?」
「レヴィが食料で釣られると知っての狼藉ですね。そうやって私達の秘密を暴く気でしょう、エロ同人みたいに。エロ同人みたいに」
「はぁ?」
話を聞けば、なんとレヴィはソーダ飴で機密情報をボロボロ零したらしい。どうやら思慮深さをフェイトさん……?からは受け継がなかったようだ。
「素直に頭のネジが何本か足りないみたいだ。と仰って構いませんよ」
「なあ、さっきからなんで2Pカラーのなのはさんだけ当たり強いわけ?」
「キャラ付けです。ドヤァ」
表情一つ変えずに声だけでドヤる2Pカラーなのはさん。その姿が俺の知るなのはさんと似ても似つかなくて、俺は2Pカラーなのはさんとなのはさんを交互に見比べた。
俺の目線の意味に気が付いたのか、なのはさんは肉うどんを啜るのを一旦止めると手をわたわたさせながら言う。
「いや、シュテルちゃんの性格は私と一切関係ないからね!?」
「誰も性格についてなんて一言も言ってないんですが」
「あっ」
語るに落ちる、とはこういう時に使うべき言葉なのだろう。
途端に肉うどん啜りに戻ったなのはさんの顔は真っ赤で、それが湯気の類でそうなったとは到底思えない物だった。
しかしそうか。そっくりなのは見た目とバリアジャケットだけか。どうやら性格は違うらしい。
「ところでなのはさん」
「な、なにかな?」
「そんなに警戒しなくても……あの、見た限りだと戦える魔導師の全員が揃ってるみたいなんですが、何が始まるんです?」
「それは「大惨事大戦です。いや、ホントに、マジで」……あう」
話に割り込んできたヴィヴィオとアインハルト曰く、元居た世界線に帰る為には、"永遠結晶エグザミア"という名の凄いアイテムを持ったシステムU-Dという少女を象ったメッチャ強いプログラム相手に戦って勝つ必要があるらしい。
その強さは闇の書の防衛プログラムに匹敵するらしく、冗談抜きで死人が出る可能性もあるのだとか。
「あと、声がやけにシャンテに似てます」
「それ必要な情報か?」
で、今は作戦前の腹ごしらえタイムらしい。
それを聞いてから再び周囲を見渡すと、この場にいる全員に少なからず緊張の色が見え隠れしているのが分かった。あのはやてさんですら、若干笑みに違和感があると言えば、この後の戦いがどれくらい壮絶な物になるのかは俺の貧相な想像力でも容易に想像できた。
「……大丈夫、なんだよな?」
だからこそ俺は2人に問う。返ってくる答えなんて分かりきっているのに、俺は問わずには居られなかった。
「ええ。平気です、心配ないですよ」
「此処にはフェイトママ……?やなのはママ達オールスターが揃ってますから。それに、本当にヤバくなったら私も切り札使いますし」
こういう時、リンカーコアが無いのがもどかしく感じてしまう。
後輩や同居人、現時点では年下のなのはさん達。皆が命を懸けて戦うというのに、俺はそれを安全圏から眺める事しか出来ないのだ。
「…………ああ畜生」
幸か不幸か、俺のボヤきは周囲の喧騒に溶けて消えた。
せめて、せめて地上だけで戦ってくれるならなぁ。そしたらまだやりようはあるのに。
あるいは、俺が空を自由に飛べたらな。だが残念ながらこの世界にはタケ○プターも、空飛ぶ絨毯も、魔法の箒も無いのである。
だから、大怪我無しで帰って来た皆を見て、その場にへたりこんだ俺は悪くない……筈。
おまけ、放課後あとがき同盟
前回のあらすじ:リンネ、まさか(?)の裏切り
「クソッ、盲点じゃった……!リンネが此処に居るのは、某EXPがちゃりん娘を出すようなノリで……つまりはお気に入りだから出していたのを見落としていたなんて!」
「そうなのかな……?」
「やはり男はドスケベボディに惹かれるのか……!?くっ、わしの貧相なボディじゃいかんという事か!」
「ドスケベボディって何?!ちょっ、止めてよフーちゃん!!」
「そのドスケベボディにあやからせろぉぉぉぉ!!」