「抜剣──!!」
腹に衝撃を受け、思い切り吹き飛ばされた。体内の空気という空気を無理矢理吐き出させられて一瞬視界が暗くなる。
だが、まだだ。遠ざかる意識を無理に繋ぎ止め、吹き飛ぶ方へと顔を向けると、そこには呆然とした表情が。その顔はつまり、この行動があまりに予想外だったという事を如実に表している。
それもそうだろう。確かに球の指定は無かったが、それでも人間を球にするなんて予想もしていなかったに違いない。だが、だからこそ、これこそが真正面から裏をかく致命の一撃となるのだ。
「えっ、ちょ、それって──」
「人呼んで、南斗人間砲弾!」
「ボールは友達!」
「友達をボールにしながら言うセリフじゃないでしょそれ!?」
私はそのまま勢いを緩める事なく、『9』と書かれた板を身体で撃ち抜き、そして勢い余って川へと落ちた。
「よしっ!ボク達の勝ちですねヴィヴィオさん!」
「あれは反則でしょう!?やり直しを求めます!ノーカン!ノーカン!!」
ノーカン!ノーカン!!と1人で騒ぐ声や、勝てばよかろうなのだァァァァァァァ!と叫ぶ声がするのを横目に川の流れに身を任せて同化しながら私は空を見た。所々に混じる白い雲がまるでわたあめのように見えて、そういえば近所のお祭りがそろそろだった事を思い出す。今年もチーム全員で行く事になるだろう。
それで思い出した。浴衣どこに仕舞ったっけ。
そんな事を思いながら私は下流の方へと流されていった。
「……ところでハルさんは?」
「さっき川に落ちて……流されてる!?」
「アインハルトォォォォォォ!!?」
青春のクック先生
事の発端は、ストラックアウト用の大きな器具をルーテシアさんが持ってきた事からだった。
「そういえばボク、これでヴィヴィオさんに勝ったこと無いんですよね」
「文化祭の奴か。まあ仕方ないんじゃね?専守防衛系になるとヴィヴィオは途端に強くなるからな」
「ふっふーん、まあそうでしょう。どこぞの制圧前進しか能のないような気がしないでもない王様よりも、背後への気配りもできて尽くすタイプの聖王の方が優れているのは確定的に明らかですからね!」
「なぜ私に流れ弾が」
しかも露骨にこちらをチラッチラッと見ての発言。どう考えても故意に流したとしか思えない。それは果たして流れ弾なのかという疑問はともかく落ち着け私、あんな安っぽい挑発に乗ってはいけない……
「まあ史実の面から見ても?覇王が聖王に勝てないのは明らかですし?これはつまりアインハルトさんは最後に私に負けるという事を暗示しているのでは?」
「よし、表へ出なさい」
何だっていい、ヴィヴィオさんをボコるチャンスだ!
そんな考えを読み取られたのか、シュウさんはジト目でこちらを見た後に溜息を一つして私に言う。
「ああ、挑発に乗って……でもどうするんだ?お前、去年の文化祭ではそうやって乗せられてヤムチャしてたじゃん」
「安心してください。今回の私には、切り札がありますから」
「2連敗ですよ!ってならないといいけどな」
思い返すのは、去年の文化祭で見るも無残に敗北した時。しかし、あれから幾千ものイメトレを重ねてきた私に、もはや"敗北"の二文字など無い。
「勝利の方程式は全て揃っています。必ず勝ってみせますよ」
「ほほう、結構な自信ですね。なら勝った方は負けた方にジュースを奢るというのはどうでしょう?」
「構いません。私が勝ったら9本でいいですよ」
「強欲で謙虚だなー憧れないなー」
「私は壺か何かですか?」
回想終了。
とまあ、こんな感じで私は南斗人間砲弾を披露したのである。その後のヴィヴィオさんの「ほう?経験が生きたな(震え声)」という負け惜しみが耳に心地よかった。ちなみにジュースは1本だけにした。さっきのは言葉の綾で、私はそこまで鬼ではない。
「今日のお昼は冷やしにゅうめんだよ〜〜」
「それ、そうめんですよね」
「冷やしにゅうめんだよ〜〜?」
なのはさんとティアナさんのコントを聞きつつ、目の前山盛りとなった冷やしにゅうめんを見る。どこからどう見てもそうめんだが、なのはさんからすればこれは冷やしにゅうめんであるらしい。見ただけでは違いが分からない。
その横にはどう考えても冷し中華に使う為に用意していたとしか思えないようなキュウリやカニカマが用意されていた。一体全体なにを作るつもりだったのか。
「冷やし中華風冷やしにゅうめんか……これもうわかんねぇな?」
「食べましょう。細かい事を気にするといけない気がします」
「ですね。なのはママのボケは今に始まった事でもないですし」
というわけで食べ始める。汁まで冷やし中華の物な辺り、どうやら本当に冷やし中華風なつもりらしい。
ずるずるーと啜って、そこで私は疑問を覚えた。ちょっと麺がぬるいような、具体的に言うと無理やり冷やしたような、そんな気がする。
シュウさんの方を見ると、なんとも言えない表情で冷やしにゅうめんを見つめている。
「これ……もしかしてマジでにゅうめん作ってから冷やした奴か……?」
「Exactlyよシュウ君」
メガーヌさんがサムズアップと共にそう答えた。どういう事だと全員の目線がメガーヌさんに集中する。
「私は手が離せない用事があったから料理の方をなのはちゃんに任せたんだけど、間違ってにゅうめんを作っちゃってね〜。仕方ないから麺は急いで冷やして、汁の方はスープ的な感じに仕上げたんだけど……」
「なのはママェ……塩と砂糖を間違えるだけでは飽き足らず、今度は温冷すらも間違えるなんて」
「ちっ、違うよ!えっと、そう!スパイダーマッが勝手に!!」
「すり替えておいたのさ!」
「シュウさんは座ってください」
娘にすら哀れまれる
「まあ、ちょっとぬるいような気がするだけで特に影響はないから、安心して食べてね」
『はーい』
ハプニングこそあったものの、そんな感じで昼食は進んでいった。そうめんは一定量を食べると嫌になる筈なのだが、やはりスバルさんとエリオさんの食欲は圧倒的だった事は記録しておきたい。
◇◇
「よし、わしの数は20!いくら引き運の強いヴィヴィさんでも流石に超えられんじゃろう!」
「ふっふっふっ。甘い、甘すぎますねフーカさん。運命は既に決しているんですよ……私のターン、ドロー!」
全員がヴィヴィオの一挙手一投足に注目するなか、不敵に笑ったヴィヴィオは自然な手つきで山札からカードを1枚引く。その絵柄を確認して、そして勝ち誇ったようにそれを掲げた。
「どれほど足掻こうと、運命の輪から逃れる事は出来ない……私が引いたのは、レベル8のアルカナフォース
「なっ……!?」
「そして私の手札は、レベル6のアルカナフォース
この3枚の合計レベルは当然二十一ィ!!」
「さ、3回連続で21を出すなんて……」
昼食後、俺達は例によってトランプの代わりにかき集めた遊戯王カードを使ってブラックジャックをやっていた。現在ヴィヴィオの一強状態である。3回連続で21ピッタリとか、イカサマを疑われても仕方のない事をやっているが、ヴィヴィオの服装は半袖で装飾品も無いから、リストバンドからカードをドローなんてイカサマはない。
「今のヴィヴィオさん、なんか乗り移ってません?具体的に言うと顔芸が得意そうなテラ子安が」
「最高にハイテンションだしな…………それにしても、まだ止まないか。あ、それツインツイスターで割るから」
「やっぱりミラフォは仕事しないんですね」
外からは強い雨が窓を打ち付ける音がする。午後になっていきなり湧いた雨雲がその猛威を振るっていた。
「なんかボクたち、今年はここでマトモに特訓できてないような気がするんですけど……」
「一応早朝ランニングとかはしてますけどねー。確かにジムに居た時ほどは出来てないような気がします」
カードを片手に対面しているミウラとコロナも外を見て、そしてすぐに盤面に目を戻した。コロナの方が優勢なのか、ミウラの表情は苦々しい。
「絶対に体鈍ってるよ……帰ったら会長キレるだろうなぁ」
「無言でビキビキ青筋立ててから怒鳴るんだよね……」
チェス盤を挟んで向き合っているリオとユミナさんもその後に続けて言う。
容易に想像できるノーヴェさんの姿に、全員の溜息が重なった。
「体育館みたいな設備があればいいんだが……ここ合宿所じゃなくてホテルだからなぁ」
「こんなこともあろうかと!って言えたらカッコよかったんだろうけど、残念ながら我がホテルアルピーノの売りは雄大な大自然の中を動き回るアウトドアだからねぇ。
いや、こういう時に備えて身体を動かす空間もあるにはあるんだけど、期待されてるようなものじゃないだろうし……今度作るか、別に大きいの」
「そこで作ろうという発想に至る辺りが実にルールー」
「流石、このホテルを設計図から引いたルーテシアは格が違った」
ドヤ顔のルーテシアを全員の拍手が襲う。数分ほどそれをやった後、叩き疲れた手をだらんと垂らしながらリオが言った。
「でも今、身体を動かす空間はあるって言ってたよね?そこでやればいいんじゃないの?」
「あー、うん。まあそうなんだけど」
と、歯切れが悪そうに吃ったルーテシア。そのまましばらくうんうん唸って、やがて立ち上がった。
「まあ……直接見てもらった方が早いかな」
「……もうなんか嫌な予感しかしないんだが」
「でもとりあえず行ってみましょうよ。ルールーの事ですし、まず間違いなく碌でもないことでしょうけど」
「ヴィヴィオからの信頼が厚すぎて全私が泣いた。主に悲しみで」
という訳でルーテシアに連れられるままホイホイとやって来たのは、体育館のような趣きの広いスペース。どんな奇天烈なものが襲ってくるのかと多少身構えたが、そこは至って普通のなにもない広いだけのスペースだった。……床に何かマークがあるのは何故だろう。
「はいこれ」
手渡されたそれが、このだだっ広いだけに見える空間が色々と危ない事を示している。仄かな不安が裏付けられた瞬間だった。
「なにこれ、プロテクターとヘルメットとグローブ?」
「そう。魔法使えないシュウだと下手したら命の危険もあるから」
「やっぱり碌でもない……」
「いや、でも見た目は普通の体育かァァァァァァァァァァ!!?」
「リオォォォォォォォォォ!?」
無防備にもスペースに足を踏み入れてリオが上に吹き飛ばされた。全員で上を見上げると、そこにあったのは支えも無しに浮遊している足場やらなんやら。浮遊型のアスレチックといったところか。
「このスペースは全年齢版の室内アスレチックでね。床の至る所にマークあるでしょ?そこに打ち上げジャンプ台を仕込んであって、超強引に空中に打ち上げるの。それで空中に設置したアスレチックまで飛ばす」
「なんでそんな事を……」
「誰も彼もが魔法を使えるとでも?」
「何故俺を見た」
「いい例が居たから、つい」
そこであからさまにこっちを見るな。確かに使えないけども。そして俺を見て納得する面々。ひどくね?確かにこの場で魔法の魔の字もないのは俺だけだけど。めっちゃフィジカル頼りだけど。やっぱり筋肉は裏切らないんだなって……
「そして空中に設置したアスレチックと同じ高度まで浮遊して遊ぶ。上の方は無限書庫みたいな感じで意図的に重力を弱めた空間にしてあるから、無重力酔いには注意ね」
「リオが飛び込んだ、あそこにあるやけに長い滑り台は?」
「私の趣味。ウォータースライダーが欲しかったけど、雰囲気ぶち壊しになるから温泉に付けれないという無念を此処で晴らした感じ」
「雰囲気とか気にしてたのか」
「屋上」
やけに長くウネウネとしている滑り台の中をリオが滑っている。隣でイイ笑顔のまま肩をポンポン叩いてくるルーテシアをスルーしながら、その姿を眺め続けること30秒くらいで地面にリオが吐き出されてきた。
「楽しい!」
「ああ、うん。良かったね……」
もうコイツのこと心配してもしょうがねーや。みたいな顔してるヴィヴィオがやけに新鮮な気がした。コロナはコロナで「丸呑み……アリかな」なんて言ってサラサラとペンを動かしている。
「まあこんな感じで、期待されてるようなものではないだろうけど……動かないよりはマシって事で」
「いや、十分だよ。動かないよりはだいぶマシだろうし」
「イヤッホォォォォォォォォォォ!!」
「リオなんて奇声をあげながらジャンプ台に乗って打ち上がっては降りてきてを繰り返してるし……」
「謝れ!○田さんに謝れぇ!!」
「ええっ?!いきなりどうしたんですかシュウさん!」
ちょっと面白いだけの普通の声をあげながら激しく上下運動をしているリオは楽しそうである。でもあのペースで動き続ければいずれ吐くだろう。
「質問」
「はいシュウ君」
「えっ、私はスルーですか?」
「重力が弱い空間でリバースするとどうなる?」
「それは…………」
<リオさんが吐いたー!!
<誰かー!誰かおらんですかー!リオさんに、リオさんにゲロ袋をー!!
<ウォボロロロロロロロロ…………
「ああなる」
「なるほど」
「なんで冷静に見てるんですか!?い、今行きまーすっ!!」
おまけ:ふーりん
「ガラメカはゴールデン・マシンブラスターが至高だと思う。どーも、フーカです」
「メルモビームって名前でわがままなフェアリーを思い出す。どうも、リンネです」
「それミルモじゃろ?」
「そうだよ。……このネタ通じるの?」
「通じる事を信じる。さて次回!「ガガガ銀河のコマンドーってタイトルは今考えるとネタまみれ(仮題)」。お楽しみは、これからじゃ!」
「ビデオミサイルはいいおもちゃ。みんなもガラメカゲットだよ!」