アイツ"ら"の愛は重い?   作:因幡の白ウサギ

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今話は3本同時投稿の1本目になります。だからなんだって話ですが。


ノーヴェ・ナカジマは動けない

「休み明け早々にテストぶっ込んでくるとか死ねばいいのに」

 

 1時間目が終わって、机に突っ伏したシュウさんの第一声がそれだった。

 

「でもシュウさんなら余裕だったんじゃないですか?暇を見つけては勉強してましたよね」

 

「アインハルト、こういうのはテストの出来がどうこうじゃないんだ。"休み明け早々にテストをぶっ込んできた"っていう行為そのものが問題なんだよ」

 

 心臓に悪い。と呟きながら次の授業の準備を進めるシュウさん。2時間目は魔導基礎学で、担当教師は宿題を多く出すので生徒達からの評判は良くないらしい。

 私個人の感想としては、別にSt.ヒルデ程ではないから大した事はない、といった感じ。難易度も量も遥かに優しい。

 

「この調子だと次の授業も同じ感じですよね」

 

「だろうなー。しっかし、リンカーコアを持ってない俺が基礎理論なんて学んでどうすんだか」

 

「シュウさん達だけ別の科目を設定するのが面倒だったからでは?」

 

 表向きはシュウさんのように魔力が無い人達でも、もしかしたらリンカーコアが発生する可能性があるから……だったか。

 

 表向きという言葉からも分かる通り、こんなのはただの建前にすぎない。

 そもそもリンカーコアは先天的な物で、後天的に発生したという報告は一度も無いそうだ。

 

 そんな訳だから、本音は別枠でカリキュラムを用意するのが面倒だからでほぼ間違いないだろう。

 

「それはそうとアインハルト。お前は教科書を一読もしなくて平気なのか?」

 

「実はこの基礎理論、St.ヒルデでは中等科の一年で習って、それ以降ずっと使う基礎中の基礎なんですよ」

 

 だから今更になって教科書とか見なくても良く、ぶっちゃけ暗記してるレベルなので問題は無い……というか、暗記しないとやっていけなかった。

 でももしかしたら万が一が起こるかもしれないので、シュウさんとこうして話している最中にもマルチタスクを使って復習はしっかり行っている。

 

「公立と私立の差ってスゲー…………ん?それってつまり、裏を返すと此処で躓けば……」

 

「この後の応用まで全部が死にます」

 

「うへぇ」

 

 しかし、私はシュウさんに関してそれほど心配はしていない。なんだかんだでキッチリ勉強をしているという事実があるし、仮にダメだったとしても自宅で個人レッスンのチャンスが生まれるというメリットがある。

 まさに一石二鳥。我ながら自分の明晰な頭脳が恐ろしい。

 

「安心して下さいシュウさん。例えダメでも世界の終わりではありませんし、私が補助もしますから」

 

「そうならないように頑張るさ」

 

 シュウさんがそう言い切るのと同時にチャイムが鳴って、私はシュウさんの頭の上でじゃれていたティオを回収して自分の席に戻ったのと、教師が教室に入って来たのはほぼ同時だった。

 

 

 02-E

 

 

 

 体操着に着替えて校庭に出る生徒達。9割5分は何処となく嬉しそうな感情を滲ませているが、残る4分はそれとは逆に嫌そうな雰囲気を隠していない。

 

「やっぱり体操着はハーフパンツが一番ですよね」

 

「あー……そういえばSt.ヒルデってブルマだったな」

 

 そしてそのどちらでもない私達。

 体育がある度に思う事だが、ブルマという時代錯誤な一品を採用しているSt.ヒルデは女子の敵。間違いない。

 ネット上に漂う紳士達によるとSt.ヒルデは広い次元世界に唯一残った最後の希望だとかなんとからしいが、そんな希望は早く潰れてしまえと常々思っている。

 

「St.ヒルデで唯一の欠点はあのブルマでした。それさえ無ければ女子人気も今よりずっと高かったでしょうに」

 

「由緒ある学園なんだし、何かしらの理由はありそうだけどな。伝統保持とか?」

 

「今を生きる我々には関係ないですよね、それ」

 

 ところで、ミッドチルダの学生達の間で「あなたの一番好きな科目は?」とアンケートを取ったところ、2位を大きく突き放して体育がトップに輝いたと教育委員会が発表していた。

 その理由は単純で、机にへばりついて面倒な公式を覚える作業よりも何も考えずに身体を動かす方が楽だし、何より楽しいから。

 

 私も体育は一番好きな科目だ。身体を動かすというのが私に合っているのだろう。

 

「はい、じゃあ2人組作ってー」

 

「ですってシュウさん」

 

「はいはい、いつものいつもの」

 

 しかし体育が学生人気を得続ける最大の理由は、この授業中に限って(軽い物に限定されるが)魔法の扱いが認められているからなんじゃないかと私は思う。

 

 魔法という力は強大だが、だからこそ扱いに強い制約が掛けられている。詳しい説明は省くが、街中で1発でも射撃魔法を使おうものなら、その時点でブタ箱送り待ったなしなくらいには厳しい。

 街中での魔法の扱いは地球での質量兵器の扱いと大差無い。もし無制限になんてしたら行き着く先はリアル北斗の拳状態だろうから、それは是非もないと思う。

 

 だから魔法を使いたいと思った時には、基本的に市民公園の中にある公共の魔法練習場を使う事になる。

 ……平日は兎も角、休日はごった返してるけれど。遊園地もかくやという感じで。

 

「俺には無縁の場所だな。魔力無いし」

 

「私にとっても無縁の場所なんですよね。あそこじゃマトモな修行なんて出来ませんし」

 

 混雑を嫌うお金持ちは自分の家の庭を管理局から認可を受けて練習場に変えたりするらしい(ベルリネッタ邸がそうだ)が、そんな事が出来ない一般人は混雑の中に飛び入るか、あるいは夜の空いてる時に使うかしか選択肢が無い。

 そんな事情だから、実習という名目で、ある程度自由に魔法が扱える体育はダントツ人気なのだろう。

 

「だがしかし、その体育は魔力を持たない人達からすれば地獄なのであった、と」

 

 何故かといえば、それは魔力の有無で分けられる格差と差別の延長といえばいいだろうか。

 最近になって漸く問題になりつつある学生の自殺の一因が此処にはあった。

 

 ド直球に言ってしまうと、魔法を使った陰湿なイジメの温床と化している。

 

「陰湿な嫌がらせの温床ですからね。教師の目も全てに届く訳ではありませんから」

 

 この時間は魔力の無い人にとって一番嫌な時間だろう。なにせ、常に何処からか飛んで来る射撃魔法に怯えなければならないのだから。

 あまりに直接的な物は教師が止めに入るが、監視の目はいつまでも有る物じゃない。教師の意識が逸れた一瞬に、射撃魔法を足下にワザと撃ち込まれるのは良くある事だ。

 

 体育の授業は魔力が無い人達の為に、バドミントン等の魔力の有無に左右されずに楽しめるスポーツ用品も用意してある。

 しかし、彼らが心ゆくまで楽しめた事は1回も無く、常に周囲に気を配っているのを私は分かっていた。いつ嫌がらせを受けるか分からないから、結果としてそうなったんだろう。

 

「まあ、私はもちろんシュウさんにも関係のない話ですが」

 

「アインハルトのお陰でな」

 

 シュウさんは野球用のボールを籠から手に取った。

 

「……そうです、ねッ」

 

 そーれっと軽い掛け声と共に飛んできた豪速球を普段より若干強めの身体強化で受け止める。

 

 

 

 ところで話は変わるが、人間というのは関わりたくない事に関して、巻き込まれまいと距離を置こうとする生物だ。

 例えば公園でガラの悪い男達が騒いでいるのに、そのド真ん中を"真っ直ぐ行けば近いから"という理由で突っ切ろうとする人はあんまり居ないだろう。大体の人は時間を掛けてでも迂回を選択するはずだ。

 

 ちなみに私は押し通る。

 

 この場合の関わりたくないには色んな意味が内包されているが、その中でも一番多いのは"自分に害が及ぶから"だろう。

 逆に自分の安全が保証されていると途端に野次馬と化すのも、この辺りの心理が大いに関係していそうである。

 

 

 

 話を戻そう。

 シュウさんの身体は、母親のお腹の中に頭の大事なネジ(自重)を置いて、代わりにチートコードで埋め合わせたかのように、通常では有り得ないような意味不明の能力を持つ。

 お互いを殺害する前提かつ陸戦限定であればフェイトさんですら破れそうなその力は、当たり前だが制御が非常に難しい。

 

「っと、悪い。ちょっと力を込めすぎた」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 この力が魔法による一時的な物なら、即座に術式を解除する事で一般人相応の力に戻す。

 あるいはリミッターを課して意図的に出力制限を行う。

 

 これらの方法で力を抑える事ができるのだが、それは彼には出来ない。マジカルでもロジカルでもない、ただのフィジカルだからだ。

 だから必然的に手加減や、あえて力を抜く技術を覚える事となった。

 

 今でこそ普通に生活が出来ているが、かつてはロクに物も掴めなかったらしい事を聞いている。

 その時のシュウさんと握手なんてしようものなら、当然のように骨が粉砕されるに違いない。

 

「サンドバッグが無いのが悔やまれますね」

 

「お前は体育の時間をなんだと思ってんだ」

 

 しかしだ。幾ら日常を送れるくらいに力の制御が出来るからといっても、予想外が起こると不意に本来の力を発揮してしまう事だってある。

 現に、シュウさんが驚いた拍子にシャーペンを握り潰して木っ端微塵にしてしまった回数は4月だけで3回もあった。

 

「なんだと言われましても……」

 

 日常から時々見える異常の片鱗は周囲からのヘイトを畏怖に変換する役割を担い、いつしか人々に「関わらない方が得策」と判断されるまでに至っている事を、彼だけが知らない。

 

 私に睨まれる事とシュウさんからの手痛い(物理)しっぺ返しを喰らう可能性を天秤に乗せて、それでも尚シュウさんにイジメの矛先を向けられる程のガッツの持ち主は、少なくともこの学校には居ないようだ。

 

「……貴重な時間ですかね。こうして公に身体を動かせる訳ですしっ」

 

 さっきのお返しも兼ねて、ちょっと強めに投げつけた筈のボールは、さも当然であるかのように片手で受け止められた。

 

「……片手で受け止めると、結構ビリビリ来るな」

 

「まあそうでしょうね。こっちは身体強化使ってますし」

 

「やっぱズルいわそれ(魔法)

 

「シュウさんにだけは言われたくないです」

 

 ちょっと力みすぎたような気がしたけれど、流石はシュウさん。なんともない。

 

 

 

 03-E

 

 

 

 午後から保護者会があるんだとかで、今日に限って午後の授業は無い。

 つまり体育の後、本来なら昼休みである筈のこの時間から放課後となっていた。

 

「おっ、珍しくフーカちゃんからメール来てる」

 

 今日に限って完全下校時刻が午後の1時とかに設定されているからなのか、全くと言っていいほど人気の無くなった廊下を歩いていると、端末を取り出してシュウさんが驚いたような声を出した。

 

「フーカから?」

 

「おう。えっと……『リンネが風邪引いたって聞いたんですけど、シュウさんは知っとりましたか?』だとさ。えっ、マジ?」

 

「リンネさんが風邪ですか。珍しいですね」

 

 体調管理をしっかりしているイメージがあっただけに、その知らせには驚かされた。

 身体は資本みたいな事を言っていたから、そういうのには1番気を使っていると思ったのだけれど。

 

「俺もそう思う。でもあいつ、時々意味分かんないくらい無理するからなー。珍しいけど、いつかはなりそうだとは思ってたんだよ」

 

「……それはよろしいんですが、そうなるとシュウさんはリンネさんのお見舞いに向かうのですか?」

 

「そうなるかな。悪いけど、ジムに連絡しといてくれるか?」

 

 

「……分かりました。ですが、なるべく早く来て下さいね」

 

 

 分かってるさ。と言ってシュウさんは私を追い抜いた。その足取りは普段より早いが、多分というか間違いなく気が逸っているだろう。

 普段とは違い、完全に見送る側に立った私だが、なるほど、これはいけない。

 

 そもそも覇王が見送るという行為そのものが既にフラグだ。

 いや、正確には"ボコられて気絶している間に居なくなっていた"だけれども、それはどうでも良くて。

 

 とにかく覇王にとって見送るという行為はトラウマである。

 

「────ふーっ」

 

「にゃー?」

 

「ええ、大丈夫ですよティオ。問題はありません、無いはずです」

 

 万一は起こらない、はず。彼女の事だし、シュウさんが関わる事に抜かりがないのは信用できるからだ。

 それでもやっぱり不安なので、保険を掛けるために私は端末を手に取ったのだった。

 

 

 

「そんで来たのはアインハルト1人か……」

 

 事の顛末を聞いたノーヴェさんは、受付に立ったままそう答えた。

 ちなみに受付には何故か普段は見かけないような書類の山があって、ノーヴェさんはその山を淡々と削る作業に勤しんでいる。

 

 どう考えても会長としての業務が溜まっているとしか思えない。しかも相当切羽詰まっているように見える。

 

「フーカはまだ戻っていないんですか?」

 

「シュウと一緒に戻ってくるって連絡は来たけどな。それでもあと10分くらいは掛かりそうだ」

 

 鬼気迫るオーラを放つノーヴェさんは、出会った当初からは想像もつかないくらい老いたように見えた。見た目は変わっていない筈なのにだ。

 

「他の人に任せなかったんですか?別に会長が此処に立たなくても……」

 

「平日のこの時間は良くも悪くも人の出入りが少ないから、必要最低限の人員しか雇ってない。此処に回せる奴も、フーカを除けば誰も居ない」

 

「ならどうしてフーカを行かせたんですか……」

 

「あたしは、子供をたった1人の親友の見舞いにすら行かせられないような、そんな大人になった覚えは無いんだよ」

 

 フッとニヒルに笑っての、この発言。会長が今にも死にそうな雰囲気でなければ最高にかっこよかっただろう。

 しかし今は、その明らかな強がりが涙を誘う。

 

「あの、代わりましょうか?」

 

「え?いや……………………うん、頼めるか?」

 

 かなり長い葛藤の末に絞り出した言葉を受けて、"ああ。これはマジでヤバいパターンだ"と思った。

 普段のノーヴェさんであれば、どれほど代わると言ったところで聞かないのに、代わると言った今回のコレは想像以上にヤバい奴かもしれない。

 

「……何かフーカとシュウさんに買って来させましょうか?」

 

「そうだな……バランス栄養食と、エナジードリンクと栄養ドリンクを頼む。あ、でも赤い牛は止めてくれよ」

 

「一応、理由を聞いても?」

 

「別に大した理由じゃないんだが……」

 

 ノーヴェさんは一呼吸置いて、何処か遠い所を見ながら言った。

 

「……翼なんて授かっちまったら、そのまま何処かに逝っちまいそうだからさ」

 

 アカン、会長が死ぬ。

 

「会長。お願いですから、5分だけでも良いので休憩しましょう?」

 

「それは出来ない。もし少しでも気を抜いたら、もうヤバい所まで来てるんだ」

 

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