アイツ"ら"の愛は重い?   作:因幡の白ウサギ

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3本同時投稿の2本目です。3つの中で1番書くのが楽しかった(小並感)


学生だもの。ゔぃゔぃを

 椅子に座った私の前に置かれているのは、面倒な方程式で答えを導き出す問題が印刷された紙が1枚。私はこの問題を全て制限時間内に解かなければならない。

 

 つまりテストのことなんだけど、これで4時間連続で授業内テストをやらされた事に。中間テストでもないのに休み時間ぶっ続けで知識を詰め込むこっちの身にもなって欲しい。

 昼休みにアインハルトさんから聞いた話によると、どうやら公立の方でも休み明け一発目にテストを入れているようなので、ミッドチルダの連休明けは殆どの学校がテストをやっているみたいだ。

 

 時計を見る為に顔を上げた視界の端ではリオが力尽きていた。机に突っ伏しているその背中が今は煤けて見える。

 度重なるテストに心が折れかけたのか「体育が最後だからチクショウ!」とか言って錯乱していたのを制圧したのは、ついさっきの事だ。

 

 左手を右肩に当て、ぐるりと一回転させて一息つく。時間はまだ折り返し、自分に喝を入れる。

 そうして左手を離して思った。右肩が少し寂しい。

 

 テストなんだし、当然の事ながらカンニングの恐れがある道具は持ち込めない。

 デバイス、つまりクリスはアウトに決まっている。なので今は鞄の中でお留守番。

 

(違和感が凄い)

 

 しかし、いつも肩にある物が無いと、なんとなく違和感がする。授業中は集中しているからか気にならないのに、こうして意識しだすと途端に気持ち悪い。

 ううむ、今度からクリスを肩に乗せるのは止めるべきかな。

 

 それは後でクリスに相談する事として、兎に角、今はテストに集中だ。

 恋に勉強に殴り合い(趣味)にと、全てをそつなくこなしてこそ高町ヴィヴィオである。

 

 2人のママに負けないように、私も頑張らなきゃ。

 

 そうやって決意を新たにした午後は、お昼休み終わり一発目なので激烈に眠くなる時間だった。

 前に座っている何人かが、うつらうつらしているのが分かるし、ぶっちゃけ私も眠い。

 

 リオは真っ白になっていた。

 

 

 

 03-V

 

 

 

 聖王教会が教会というからには、信ずるべき教義とか宗教のルール的な物と一緒に御神体なんかが存在するわけで。

 

 そして聖王教会というからには、その御神体は言わずもがな、私の複製母体(オリジナル)であるオリヴィエなわけで。

 

 表向きには、私はその直系の子孫となっているわけで。

 

「やっほー陛下。サボりに……おおう、なにこれ」

 

「良く言えばお布施。悪く言えば貢ぎ物、かな」

 

 つまり何が言いたいのかと言うと、私はものすっごい祀られかたをしているということだ。

 この前、公務で教会直営の老人ホームに出向いた事があるけれど、その時のお爺さんお婆さん側の反応がヤバすぎて、内心引いてしまった。

 

 一言、二言、声を掛けて手を握っただけでガチ泣きされるとは流石に思いませんわ。流石聖王、ちょっと人気の度合いを舐めてた。

 あそこは全次元世界でも屈指の敬虔な教徒しか居ないからこその反応らしいけれど、それにしたってもっと緩いと思っていたのに。

 

「先週も同じセリフ聞いたような気がするんだけど、あたしの気の所為?」

 

「気の所為じゃないね。その証拠に、シャンテの体重は先週から増加してるし。それ以外にも──」

 

「ストップ。なんで知ってんの」

 

「私にはセインっていう優秀な諜報員が居るから」

 

「乙女の秘密をなにバラしてやがんだあの水色」

 

 セイン絶対ボコす。と意気込んでいるシャンテに無造作に取り出したお菓子を投げつけ、小山になった貢ぎ物の中から適当に幾つか持って袋に詰め込む。

 

 

 世間一般の認識として、オリヴィエという存在は色々末期だった古代ベルカの戦乱を終わらせた救世主(メシア)だ。

 自らの命を投げ打って戦争を終わらせた救国の聖女というストーリーは、今なお人々に美談として語り継がれている。

 

 もう何百年と経っているというのに、オリヴィエの偉業に感謝の気持ちを持ち続ける人も多い。

 それが現在の聖王教会に貢がれる多額のお布施となって表れている。

 

 私の机に積まれたこれらもまた、その一部。

 

 僅かな額のお金、市販のお菓子、手紙。こういった物が机の上に積み重なるのは、別に今日が始めてじゃない。

 

 そしてこれはどうでもいい話だが、私が来てからお布施の量と額の棒線グラフが50度くらいの角度で跳ね上がったらしい。

 

「ところでシャンテ。なんか最近、置いてあるお布施がやけに多いような気がするんだけどさ」

 

「あの水色ォ……ん?ああ、気の所為じゃないよ。オットーとディード調べだけど、量は確かに増えてるってさ」

 

「なんで?」

 

「神頼みじゃない?あたしの勝手な考えだけど、今の不安定な世の中を聖王様ならなんとかしてくれるって考えてるんじゃないかな」

 

 投げつけたお菓子をボリボリ食べながら、こっそりお布施の山に手を伸ばしているシャンテはそう答えた。

 

「そんなものかな」

 

「そんなもんだよ。人間、何か辛いことがあると何かに頼りたくなるし、何かのせいにしたくなる。自分達の苦しい状況もあの人ならなんとかしてくれる。あるいは、自分達が苦しいのはアイツらのせいだ。みたいな」

 

「わっかんないなぁ。苛立ちを他人にぶつけてどうするんだろう。何が変わるわけでもないのに」

 

「陛下は分かんなくて良いよ。分からないなら、分からないままの方がいいし」

 

 どうやらシャンテは答える気がないみたいで、これ以上は喋らないと言わんばかりに口を閉ざした。

 

 暫く私が届いた手紙の文面に目を通していると、もう3箱目のお菓子を開封したシャンテが不意に何かを思い出したように言った。

 

「あ、神頼みといえば……地球にもそういう風習があるって聞いたけど」

 

「お賽銭の事かな」

 

「そうそう、きっとそれ。同じ理屈じゃない?」

 

 しかしその理屈だと、その祈られる神様は私という事になるんだけど……

 

「実際そうなんでしょ。だってほら、聖王様が御神体だよ?」

 

「教徒からの期待が重すぎて全私が泣いた」

 

 いや、あの老人ホームの視察の時から薄々勘付いてはいたけど、こうして言葉にされると思ったよりクるものがある。

 

 祈る、あるいは頼る側は楽でいいだろうけれども、それをされる側になって始めて大変さが分かった。正月にお賽銭をポイされる神様もこんな気持ちなんだろうか。

 

 

「諦めなさい。それが王として産まれた者の務めです」

 

 という思いをアインハルトさんにそのままぶつけたら、返ってきた答えがそれだった。

 

「アインハルトさんが言うと説得力が違いますね」

 

「これでも元キングですから。二重の意味で」

 

「ああ。国が滅んでるのと、性別のダブルミーニング……って何上手いこと言ってるんですか」

 

 しかし、王としての務めね……

 まだ実感が湧かないのは、私が未だに聖王である自覚が無いからなのか。それともアインハルトさんみたいにオリヴィエの記憶を持っていないからか。

 

「それにしても、どうしたんですかいきなり。らしくないじゃないですか」

 

「自覚はあるんですけどねー、最近になって私宛に届く色々が多くなりまして。無視できなくなったと言いますか……」

 

「色々って、トラブルとかですか?」

 

「それもそうなんですけど、救いを求める声とか、こう、ね?」

 

「ね?と言われましても」

 

「だからアインハルトさんには、そういう時の心構え的なものを教えて欲しくて」

 

「そんな事を言われても……」

 

 といいつつも考えてくれる辺り、やはり、いざという時には頼りになる先輩だという事を再認識。私の状況が状況なだけに、リオやコロナどころか2人のママに話してもしょうがない事だから、とても心強い。

 

「そうですね、常に平静である事。くらいしか言える事は無いかと」

 

「それだけですか?」

 

「結構難しいですよ。常に平静である──少なくとも表面上はそう装うというのは」

 

「アインハルトさんを見てるとそうは思えないんですがね」

 

 この人、あんまり表情を変えないし。シュウさん曰く「良く見ると分かりやすい」らしいけれど、私は良く見ても分からないので、まだシュウさんの領域には到達していないみたいだ。

 

「これでも苦労しているんです」

 

「学校でも、偶にシャーペンカチカチで周囲を威嚇したりしてるしな」

 

 此処でアインハルトさんの学校での話を携えてシュウさんが乱入。なんというか、とてもじゃないけどアインハルトさんらしいとは言えないような行動に思えた。

 

「えっ、そうなんですか?」

 

「クールなのはヴィヴィオ達とテレビカメラの前だけだしな。この前も……」

 

「シュウさん?何か私たちに伝えたい事があるから来たんじゃないんですか?」

 

 もっと聞きたかった(イジるネタが増える的な意味で)のだけど、そこで当のアインハルトさんが遮って強引に話題を転換させた。

 ………後でこっそり聞いてみようかな。

 

「ああ、そうだった。そろそろ練習再開するってさ」

 

「もうそんな時間ですか。ヴィヴィオさん、この話はまた後で」

 

「はーい」

 

 汗を拭ったタオルをシュウさんに渡して、空気を読んで距離を置いてくれていたリオ達の元に戻る…………その前に、一つだけ言っておかなきゃいけない。

 

「シュウさん」

 

「どした?」

 

「そのタオルは好きにして構いませんからね。シュウさんの部屋に持って帰って、私の汗で悶々ムラムラした劣情を思いっきりリビドーして本番までの予行演習をしておいて下さい」

 

「お前がいつも通りで安心した」

 

 そのタオルはジムの備品だから持ち帰れねーぞ。というノーヴェからのツッコミが背中の方から聞こえた。

 

 

 

 04-V

 

 

 

 ヴィヴィオが去った後の部屋、そこに1人居たシャンテは、背を向けている扉が空いた音を聞いた。

 足音は2人分。この時間の、それも聖王陛下の部屋にノックも無く入れる2人組は、シャンテの知る中ではあの双子くらいだ。

 

「どしたの。陛下ならもうナカジマジムに向かったけど」

 

「今回、用があるのは貴女ですよシャンテ」

 

「……へえ、それはまた。今回は随分と早いんだね」

 

 シャンテが向けた目線の先には、予想通りヴィヴィオの護衛役であるオットーとディードの姿があった。

 しかし、その目には普段は湛えている優しい光は無く、ただ厳しい色が残るのみ。

 

「カリム様も、シスターシャッハも気を張っていますから」

 

「なるほど、セインか。乙女の秘密だけじゃなくて、友達同士の心温まる会話まで盗み出すってわけ?」

 

「万が一という事もある。そういう事です。それに……あまり言いたくはありませんが、貴女は出地が出地ですからね」

 

「疑われても仕方ない、と。まあそうだね。特に最近は物騒だし、内通者も出たって話も聞いたし。疑いの目を向けられるのは仕方ないかな」

 

 そういう事もあるだろう。とシャンテは1人で納得した。

 様々な人間が居る聖王教会内でも、シャンテの出地は良いとは言えない。そして、それ故の偏見がある事はシャンテが一番良く承知していた。

 

「でもなんで?こう言うのはアレだけど、まだサボり以外で怒られるような事をした覚えは無いんだけどな」

 

「サボりも十二分に問題ですが、そんな事よりもカリム様は水晶玉に傷や汚れが付く事を恐れています」

 

 この時、オットーとディードから見える横向きの顔では分からない事だが、シャンテの眉は不快そうに動いている。

 シャンテは発言の内容を咀嚼するように少し黙って、口を再び開いた。

 

「……ふーん、なるほど?つまりこれはアレか。余計な事はするなと、そういう訳だ」

 

「理解が早くて助かります。今後、そういった行動は控えるようにと……」

 

 

 

「だが断る」

 

 

 

 ディードの眉が僅かに吊り上がった。ディードの代わりに、今度はオットーが前に一歩出る。

 

「ンッン〜、やっぱり自分の命令が絶対だと思っている奴にNOを突きつけるのは最高の気分って奴だね。ハイハイ言ってるだけのイエスマンとは違うって気にさせてくれる」

 

「シャンテ。これは聖王教会の意向なんだ。君一人が反対した所で、どうこう出来る物じゃない」

 

「だから従えって?はっ、カリム様もシスターシャッハも、随分と甘っちょろい考えをお持ちのようで」

 

「シャンテ!」

 

 咎めるように声を荒らげたオットー。しかし、そんなオットーと眉を吊り上げたままのディードをシャンテは睨み返した。

 

「……白が白である為にはどうすればいいか。

 オットー、ディード。あんた達なら分かるよね、この答え」

 

 2人は何も答えなかったが、それに満足したようにシャンテは首元にぶら下がった、待機状態のファンタズマを弄った。

 

「……だとしても、それがシャンテの行動を正当化する理由にはならない」

 

「そりゃそうでしょ。そもそもあたし、自分の行動を正当化するつもりなんて最初から無いし」

 

 開き直ったように取れるシャンテの発言。しかし、オットーとディードはその発言の真意を知っている。

 

「それに、大事な事を一つ忘れてる」

 

 あの賢い陛下が、まさかその事に気付いていないとでも?

 

 半ば挑発的な声色で発せられたその言葉にも2人は沈黙を保つ。しかし、その沈黙こそが2人の答えを雄弁に語っていた。

 

「陛下はカリム様やシスターシャッハ程度で抑えられるような方じゃない。自分で物事を考えられるし、正しいと思う事に力を使ってる。

 最近の陛下の意向も、本当は教会側としては不服なんじゃないのかな?」

 

「……一部からは、そういう声が聞こえてきますが」

 

「それが証拠さ」

 

 窓から見える日が落ちる。ビル群の間を縫って沈んでいく夕日の光が、部屋の中を茜色に染め上げていた。

 

「陛下は布に大人しく包まれて箱に仕舞われるような、そんな性格じゃない。

 もうこの計画は破綻してるよ。いや、前提条件から達成されてないんだから、始まってすらいない。の方が正しいかもしれない」

 

 ここでシャンテは、この部屋に入って始めて、イタズラが成功した子供のような笑みを浮かべた。

 

「それにねオットー。さっき君一人が〜って言ってたけど、それは間違ってる」

 

「なに?」

 

「反対してるのは私一人じゃなくて、十八人。私が最大分身すれば十八人になるんだから、一人っていうのは間違ってるよね?」

 

 そんな頓智のようなオチが、この話の締め括りだった。それを聞いたオットーとディードは、静かに肩を落とした。

 

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