加筆修正中……
「なんか、最近コロナがゴライアスの運用法に悩んでるみたいで。休み時間とかミニゴライアスを弄りながら、あーでもないこーでもないって言ってるんですよ」
「まだ新たな運用法を編み出すつもりか。勝利に貪欲だな」
「コロナさんは使用魔法の都合上、強くするならどうしてもゴライアスの運用法に行き着きますからね」
「コロナって、あのゴーレム使いの子かぁ……あれで戦えてるのが凄いよね。操作系の魔法って扱い難しいのに」
それから暫くの間、俺たちはテーブルを挟んで椅子に座って談笑していた。
狭くもなく、かといって広くもないリビングには俺を含めて4人居る。その男女比はなんと1:3と大変酷い差だ。
その辺の男子高校生が聞けば羨ましいとか血涙を流しながら言うのだろうが、俺からすれば代わってもらいたいくらい落ち着かない。やっぱり、1人も同性が居ないと色々辛い。
「なあリンネ。そろそろコレ外さないか?お互い不便だろ」
「なんで?私は嬉しいよ。お兄ちゃんを感じられて。……お兄ちゃんは私と繋がってるの、嫌?」
左手はリンネの右手と、俗に言う恋人繋ぎで繋がっている。
最初は俺がこの繋ぎ方は俺よりもっと好きな人にやるべきだとリンネを諭そうとしたのだが、「お兄ちゃんと同じくらい好きな人は居ても、お兄ちゃんより好きな人は居ないもん」という言葉と涙目上目遣いのコンボにあえなく敗北したのがついさっきだ。
「嫌って訳じゃないけど……」
「じゃあ良いじゃん。私も幸せ、お兄ちゃんも幸せ。悪い事なんてなんにも無いよ」
「シュウさん。そこでガツンと言えないからリンネさんがこうなってるって自覚、あります?」
「……はい、自覚してます」
対面のアインハルトに暗に甘やかしていると言われてしまい、俺は思わずバツの悪い表情を作ってアインハルトの非難の眼差しから逃れるように窓の外を見た。夕暮れが少し窓際を照らしている。
「リンネさんもその辺で止めたらどうですか?シュウさんが嫌がってるじゃないですか。ていうか、なんでさっきから言葉選びが地味に卑猥なんです?」
「なんでヴィヴィオさんがそう言うのかは分からないですけど……お兄ちゃんは嫌じゃないって言ってますし」
「世辞って物が分からないんですかね……」
ヴィヴィオもリンネの説得には難儀しているみたいだ。リンネ、俺が絡むと途端に頑固になるからなぁ。……あー分かった分かった。俺がなんとかするから、2人してそんな目で俺を見ないでくれ。
「なあリンネ」
「なーに?」
「もしこれを外してくれるなら、そうだな……些細なお願い事を2つまで、出来る範囲で叶えて(ガシャン)や、る……」
「ん?」
「今なんでもするって」
「言ったよね、お兄ちゃん?」
あ、ありのまま(ry
残像すら残さない圧倒的すぎる速度で、音がした時にはもう手錠はリンネのポケットの中に入っていた。
「い、いや。出来る範囲で、しかも些細な物だからな?」
「……?言葉の意味はよく分からないけど、お兄ちゃんと一緒にお風呂に入って、同じ布団で寝れたらそれでいいよ」
「くぅ〜、謙虚ですねぇリンネさんは。あ、私もそれで良いですか?」
「は?いやいや、俺はリンネに」
「そろそろ夕飯の時間ですね。シュウさん、手伝ってもらえますか?ああ、私もそれでお願いしますね」
「ああ、今行く……おい、どさくさに紛れてアインハルトも何言ってんだ」
その後、どれほど抗議しても聞き入れてもらえず、結局この4人で風呂に入る羽目になり……
「……狭い」
一般的な物より少し広いくらいの浴室に4人。非常に狭いです。
「いやー、流石に4人はキツいですね」
「全員が密着しないと浴槽に入りきりませんね。だからシュウさんに肌という肌を密着させるのも仕方ないのです」
「お兄ちゃん。さっきからどうして上を向いてるの?」
今そっちを向くと大変な事になるからだよ……!
そう叫びたい衝動を必死に抑える。
浴槽に4人を無理に詰め込んだ結果、右隣にアインハルトが、左隣にはヴィヴィオが、そして目の前にはリンネが居る。その全員が俺に密着しているのだ。
「あれあれ〜?シュウさん、一体どうしたんですかぁ?」
「……天井にカビが無いか気になっただけだよ」
「無いです。さあ、諦めて現実を見ましょう」
グイッと、恐らくアインハルトの手で半ば強引に下を向かせられる。ヴィヴィオが妖しげな笑みを、アインハルトが微笑みを、リンネが満面の笑みを、それぞれ浮かべていた。
「感想はどうです?自分で言うのもどうかとは思いますけど、この3人はレベル高いと思いますよ。外見、内面共に」
「なんの感想だよ」
「こんな可愛い女の子達にタオル無しで密着されてる感想ですよ。サラリーマンが通う高級お風呂屋さんでも滅多に出来ない事だと思いますが」
「狭い」
期待されているところ誠に残念だが、ただひたすらに、この一言に尽きる。
もう少し広い浴室だったら柔らかいとか言えるのだろうが、幸か不幸か家の浴室は一般家庭のそれだ。柔らかいというよりも、むしろ狭いという感想が先行する。
「むう、にべもないですね……」
「それよりさ、ヴィヴィオとリンネは泊まる気満々なの?」
「そのつもりです。ママ達から許可は貰ってますし……あっ、もしかしてダメでした?」
「私も……もしかして迷惑だったりする?」
途端にしゅんと落ち込む2人。なんだかんだで根は善良だから、こっちの予定を聞かずに押しかけてきたことに罪悪感を感じているのだろう。その善良な部分を、もう少し慎みに回してくれれば俺の苦労も軽減されるんだけど……この慎みの無さこそ日常って感じもするから難しい。
「いや、そういう訳じゃないさ。確認だよ、確認」
「薄々と気付いてはいたんでしょう?」
「まあな。夕飯一緒だった時点で察してた」
リビングに合宿で使うようなバッグが置いてあったし、明日は休みだし。
「なら良かったです!」
ヴィヴィオとリンネが泊まりに来るのは、別に今回が初めてではない。翌日が休みの時とかは結構な頻度で泊まりに来る。
「ふっふっふっ……今夜は寝かせませんよ?」
「お兄ちゃんに話したい事、いっぱいあるんだ」
「……お手柔らかにな」
どうやら今夜は、夜通しベッドの上で3人の相手をしなきゃいけないみたいだ。もちろん卑猥な意味ではなく、話し相手的な意味で。
「ところでお兄ちゃん。さっきアインハルトさんが言ってた高いお風呂屋さんって何?」
「…………リンネには、まだ早い場所かな」
「無垢すぎる……ッ!」
「こういう人を見ると、「ああ、私って汚れてるんだなぁ……」って思うんですよね」
首を傾げるリンネに、程度の差はあれどダメージを受ける俺たち。大人になるって悲しい事なんだなと、そう思った瞬間だった。
「ベッド一番乗り!どーん‼︎」
「待ちなさいヴィヴィオさん。壁側は私の聖域ですよ」
「早い者勝ちですよーだ!」
「よろしい、ならば聖戦です!」
「聖王の前で聖戦とは良い度胸ですね、返り討ちです!」
「子供かおまえら……リンネはああなるなよ?」
「うん、分かった」
さて、風呂から上がって撮り溜めしていた録画を消化していたら、寝るのにちょうど良い時間になった。なので寝室に向かったのだが……何故か全員の足は俺の部屋に向いていた。自分の部屋があるアインハルトもだ。
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
「あーっとヴィヴィオ選手、ベッドから転がり落ちたー」
「やりました。流石に気分が高揚します」
そして何故かベッドの壁際を巡ってヴィヴィオとアインハルトが大乱闘している。お互いに本気ではなく、どう見てもじゃれあってるだけだし俺が止める理由は無い。
「ふふん。無様ですねヴィヴィオさん」
「シャラップ、ルート固定丸」
「烈風拳‼︎」
「グワーッ!」
ヴィヴィオに追撃としてコブラツイストを掛けているアインハルトを横目に、俺はベッドに寝っ転がった。
「お兄ちゃん、隣良い?」
「ん、良いぞ」
「ギブ、ギブギブ……!」
「さっきからgive giveって、何かくれるんですか?もしそうなら私は壁側の聖域を頂きましょうか」
「もう止めろアインハルト、ヴィヴィオのライフはゼロだ」
「あっはい」
パッとアインハルトがヴィヴィオから離れて、勝ち取った壁側に寝っ転がる。
グエッとヴィヴィオが潰されたカエルみたいな声を出し、背中をさすりながらベッドに這い上がってきた。
「逝ったかと思った……これはシュウさんに慰めてもらうしかないですね、ベッドの上で」
「お疲れ、はよ寝ろ」
「酷い⁉︎」
「シュウさん、電気消しましょうか?」
「頼む」
「スルーしないで下さいよ!」
電気が消えて、部屋が真っ暗くなる。アインハルトがのそのそとベッドに戻って来た。少し待つと、目が夜に慣れてきたのか、段々と暗いながらも人の輪郭なんかが分かるようになってきた。
「……」
「………」
「…………」
「……あの、何か話しません?」
「じゃあ質問だ。どうして俺の上に居るんだ?」
ヴィヴィオが寝てるのは俺の上。つまり今の俺は、ヴィヴィオにのしかかられているようにして寝ている。なんか凄い嬉しそうなヴィヴィオと俺の目が合った。
「勝者の特権です」
「質問の答えになってないぞ」
「じゃんけんで勝ちました」
そしてドヤ顔。そのまま流れるように目線だけで敗者を煽るのは流石だと思う。そんなヴィヴィオに煽られた2人がどんな顔になってるのかは分からないし、分かりたくない。つーか、いつの間にジャンケンなんてしてたんだ。
「ああ、そう」
「そうなんです」
「ふーん……」
「………」
「…………」
再び無言。静寂だけが部屋を支配する。
その静寂を破ったのは、今度はアインハルトだった。
「……………シュウさん」
「何だ、アインハルト」
「重たくないんですか?ヴィヴィオさん、最近少し太った……」
「おいィ?ちょっとアインハルトさん。いくら先輩だからって言って良い事と悪い事って物があるでしょう」
あまりに手痛い逆襲だった。しかし、重くなった?これで?というのが俺の感想。
「……って言ってましたけど」
「そうだったのか。軽すぎて全く分からなかった」
「女の子を気遣うシュウさんは天使、はっきり分かりますね。なので結婚しませんか?」
「この歳で結婚はちょっと……」
何処から出したのか、本物の婚姻届(くしゃくしゃ)を片手に持つヴィヴィオ。マジで何処から仕入れてきているのか。疑問は尽き……聖王教会からだよな。マークもあるし。
「見てて分かるレベルで必死ですねヴィヴィオさん。まるで婚期を逃しかけている女性みたいです」
「こっちはなりふり構っていられないんですよ。この状況、アインハルトさんにアドバンテージがあるのは確定的に明らかじゃないですか」
「そうでしょう、そうでしょうとも。同棲という壁はそう易々と超えられませんよ?」
「ですが、シュウさんもアインハルトさんにはいい加減に飽き飽きしている筈。それは同じ物を食べ続けると飽きる原理と何も変わりません。
そこで私が、アインハルトさんとは毛色の違う健気な清楚系後輩キャラで颯爽登場☆すれば私に夢中になる事は間違いなし!」
「清楚(笑)」
「何でそこで笑ったんです?おいちょっと、ねえ」
「シュウさんはどう思います?ヴィヴィオさん、清楚(笑)系ですよね?」
「お兄ちゃんの手……凄く暖かいね」
「昼間にもアインハルトに似た事を言われたな。俺、体温が他の人と比べて高いのか?」
「かもしれないね。……ねえ、眠るまで握ってて良い?」
「構わないけど……ああ、何か言った?」
「…………」
「…………」
ヴィヴィオは布団から顔だけ出してアインハルトと一緒に俺とリンネを交互に見て、そして決心したような表情を見せた。
「……アインハルトさん」
「リンネさんの一人勝ちになる所でしたね。冗談じゃないですよ」
「一時休戦しません?」
「奇遇ですね。私もそれを提案しようと思ってました」
腕相撲をするみたいにガッチリと握手したヴィヴィオとアインハルトを見て、俺とリンネは同時に?マークを浮かべる事になるのだった。