アインハルト・ストラトスという少女はクールだ、と殆どの人は思っている。
それは彼女の表情筋が外部では殆ど仕事をしないからであるし、言動や所作も非常に落ち着いているからであった。
同じジムのヴィヴィオと比べれば、2人は何もかもが対称的だ。
リングに立てば、片や制圧前進という"動"、片や防衛特化という"静"。しかし、日常ではアインハルトが"静"となり、ヴィヴィオが"動"となるのだから、これほど分かりやすく面白いペアもそうは居ない。
だからという訳でもないだろうが、ヴィヴィオとアインハルトは特集などを組まれる時は大抵がペアである。
対外的には人当たりの良く、しかも美人な2人はU19でも屈指の人気選手というのも、特集を組むのに一役買っているのだろう。
そんな感じで、世間一般からは"誰にも分け隔て無い美少女ファイター"という扱いを受けている2人であるが、しかし、彼女達を良く知るシュウ・レドイは苦笑いしながら「それは違う」と言い、そしてこう付け足す筈だ。
「アイツら、実はかーなーりの激情家で、しかもナチュラルに他人を区別してるから、その称号とは1番縁遠い筈なんだけどなー」
と。
「ふぅぅぅぅ……」
その日、アインハルトは軽くキレていた。
手に入る力もいつもより強く、ともすれば手にしたシャーペンを今にも握り潰してしまいそうである。というか、現在進行形でミシミシいっている。シャーペンの寿命が握力でマッハである。
「あー……そんなに気にするなよ。人の噂もなんとやら。いずれ飽きるさ」
「にゃー……」
今のアインハルトには、そんなシュウのフォローも聞こえていないようである。窓の方を向いたまま、無言でシャーペンをカチカチ鳴らし続けていた。
その様子を見たシュウは肩を竦め、シュウの肩の上に乗っているティオは主の姿を見て怯えていた。
あのヴィヴィオの必殺技を考えた時から時間は過ぎ去り、とうとう此処、ミッドチルダ第三高校の入学式の日がやって来ていた。
今は長く面倒な入学式が終わり、それぞれのクラスで初めてのホームルームが行われる……前の休み時間。
やはりというべきか、インターミドル上位陣の1人であるアインハルトが、これといった特徴も無い公立高校に来るのは大きな衝撃だったようで、時間が経過した今も大いに人が騒いでいる。
それはいい。それはいいのだ。注目される事は慣れているし、有名税だと割り切ってもいる。
だが貴様ら。私の、わ・た・し・の・専属マネージャーのシュウさんにナマ言うとかどういう了見だオラ。
かなり要約したアインハルトの内心はこんな感じである。
つまりどういう事かというと、シュウが思った以上に陰口を言われてた事に対してキレているのであった。
アインハルトの中で、他人は「好き」か「嫌い」か、という2つに大きく分けられる。
「好き」な相手にならば幾ら行動を縛られても構わないし、寧ろ縛ってほしいという隷属願望すら持ち合わせるアインハルトであるが、それが「嫌い」な相手となると話は全く変わる。
そんな非常に淡白かつ差別的な対応を当たり前のように行え、そこに良心の呵責なんて物は存在しない。
もちろんだが、処世術として表面を取り繕う事は出来る。だが、それは心の機敏に聡い人が見れば一発で見抜かれるような程度の脆い物だ。
要するに、アインハルトは他人が思っているよりも自分勝手なのだという事だ。
そして、ほぼ全ての初対面の人はアインハルトの「嫌い」な人に分類される。
「嫌い」な奴が「好き」な人の悪口を言っているのを聞いて、気分の良くなる人は居ないだろう。……それにしてもやりすぎだろ、とシュウは思っているが。
「俺は気にしてないから、だから機嫌直せ。な?」
「シュウさんは平気でも私がダメなんです。……もう全員張り倒して来ましょうか」
「マジで止めろ」
だいぶ精神にキているらしい。アインハルトの目が据わっていて、ついでにハイライトが仕事を放棄し始めている。
こんなアインハルトは久しぶりに見たな、と思いながらシュウが苦笑していると、そんな彼の肩が後ろから突っつかれた。
はて、誰だろう、と振り向く。話し掛ける勇気が無いのか、同学年はおろかクラスメイトですら遠巻きに眺めているというのに。
こんな事を思いながらシュウは行動を起こした勇者の姿を確認して、そして深い溜息をついた。
「……人の顔を見るなりそれかい?ちょっと失礼だと思わない?」
「失礼?お前相手に?バカ言うなよ」
「親しい仲にも、いや、親しい仲だからこそ礼儀が必要だと思わないかな」
そこに居たのは、控えめに言ってイケメンだった。
サラッと風に靡く短く切りそろえた金髪、碧色の目、柔和な笑み。その身からセレブリティなオーラを撒き散らす、まるで物語に語られる王子様のような出で立ち。
アインハルトと同じく、やはり公立高校には相応しくない彼を見たシュウは更に肩を落とし、内心で(問題児が増えた)と思いつつも口を開く。
「じゃあ聞くけどな、俺がお前相手に礼節を尽くしたらどうするよ?」
「病院に叩き込む」
コンマの合間もない即答であった。言った後にシュウの礼節を尽くした姿を想像したのか、ぶるりと体を震わせると抗議するような口調で彼は続ける。
「おーいやだ。想像したら鳥肌立っちゃったじゃん。一体全体、どう責任を取ってくれるのさ」
「勝手に想像したお前が悪い。そのまま風邪ひけ」
「なにおう!?」
「えっと、あの、シュウさん?この人は……」
キレ気味のアインハルトが、放っておくと何時までもコレが続く事を察して会話に割り込む。すると、シュウはイケメン君を指差しながら言った。
「こいつはロイ。中学時代の俺の友人だ」
「どうも、ご紹介に預かったロイ・アーノイドです。ストラトスさんの話はシュウからよく聞いてるよ」
「ああ、貴方が……アインハルト・ストラトスです。シュウさんからは愉快な方と聞いています」
表面上は穏やかな挨拶。しかし、その実はお互いの腹の探り合いだ。
アインハルトは
双方の間になんとも言えない緊張感が漂うが、その空気を察知できない野次馬的には2人が見つめ合っているように見えるらしい。全く見当違いの予想を立てているのをシュウは聞いた。
「初日から胃が痛ぇ……」
どうすんだよこの空気。
そう思いながらシュウは一刻も早い教師の到着を祈る事しかできなかった。
私こと、高町ヴィヴィオはSt.ヒルデ魔法学院の、もうすぐで2年生に進級する中等科1年生。
とっても強い、凄い、優しい、の三拍子が揃った2人のママと多くの友達に囲まれて、なんとかグレずに元気に育っています。
「はぁ……」
そんな私ですが、今は少し考え事をしている最中。一向に答えの出ない問いに悪戦苦闘中です。
「ヴィヴィオー、さっきからどしたの?溜息ばっかりついてるけど」
「どうせまたシュウさん絡みだと思うけど……あっ、そうだ。私の家に屋上あるんだけど」
「寄らないよ?」
サラッと失礼な事を言いつつ隙あらば魔窟へと誘うコロナ。一昨年までは普通だったのに、一体何が彼女をそこまで変えたのか?興味が無くはないけれど、そんな目に見えた地雷よりも目下の問題の方が大事なので華麗にスルー。私はまだ病院で栄養食を食べたくはないので、分かりきった地雷を踏み抜くなんて愚は犯さない。
「リオ〜コロナ〜助けてー」
「それは別に構わないけど、内容次第じゃ私たち役立たずだよ?」
「良いけど、後で同人誌の仕上げ手伝ってね」
「ヴィヴィオ、ガンバっ!」
「リオ、逃がさないからね?」
お互いがお互いに地獄への片道切符を押し付ける醜い争いの最中に、ヴィヴィ×アイだけど構いませんねッ!?と無駄な火種を投げ込むコロナに殺意を抱きつつも、しかし誰かに相談出来る事に安堵する。やはり困った時は誰かに相談するのが一番だ。
「で、内容は?」
「うん。まあ大した事ある……というか、割と切実な問題なんだけどね」
そこで一旦言葉を切って深呼吸。
その動きで私の抱えた問題がマジなのを悟ったのか、リオとコロナの表情も自然と鋭くなるのが分かった。
やっぱり、持つべきものは親身に接してくれる友人だと私は思う。
「アインハルトさん蹴落としてシュウさんの押し掛け女房になりたいんだけど、何か良い方法ない?」
「はい解散」
「お疲れー」
「ちょっ!?待って!待ってよ!!」
何故だ。何故2人は「ダメだコイツ」みたいな目をしているのか。リオは兎も角、コロナにまでそんな目をされて私は普通に傷付き深い悲しみに包まれた。
「ヴィヴィオってさ、シュウさんが絡むと途端にポンコツになるよね」
「ちょっとリオ。まるで私が色ボケしてるみたいに言わないでよ」
「まるで、とか、みたい、じゃなくて本気でそうだから言ってるんだよ」
解せない。
「それで、どうしたのさ。いきなりそんな事を言うなんて」
「現状維持でアインハルトさんに勝てる気がしないの」
私がそう告白すると、2人は納得したような表情になった。その正直な反応に私は更に傷付き、オマケに想像を絶する悲しみが私を襲った。
「確かに今のヴィヴィオじゃアインハルトさんに勝つのは難しいよね」
「アインハルトさん、女の私から見てもお嫁さんに欲しいかもって思えるくらい魅力あるしね。ヴィヴィオじゃ厳しいかもね」
「ちょっとコロナ。今、何処を見て言った?」
「…………」
「おい、こっち向けよ」
無言で顔を背けて私の糾弾の目線から逃れるコロナ。この同性愛論者、一瞬だけ私の胸見て言いやがった。
一応私の名誉の為に言っておくが、別に私の胸は絶壁ではない。アインハルトさんが同じ歳だった時と同じくらいだ。そして大人モードを見れば分かるが、私の将来は約束されている。
まあ、それは向こうも同じなんだけど……。
相手と私の差は僅か2年。しかし、その2年が勝敗を大きく左右するのは想像に難くない。向こうは私より2年早くスタイルが完成する事を意味しているのだから。
だが、女の魅力はスタイルだけじゃない。無論、あるに越したことはないけど、それだけが勝敗を分かつ絶対条件ではないのだ。
才能の壁を努力で乗り越える事があるように、優位だった筈の状況がワンコンでひっくり返るように、✩︎1が高難易度イベを攻略するように、ドアンザクがワンチャン掴めばコスト3000を殴り倒せるように、どんな事も起こりうるのが勝負。一瞬の油断が命取りな世界だ。
だから、時既に時間切れになる最後の瞬間まで私は諦めない。
「後半は何か違うような……?」
「間違ってないよ。結局私は、ワンチャンアレバカテルーっていうのを言いたい訳だし」
この後、チャイムが鳴ってお開きになり、そのまま流れで有耶無耶にされたけど、私の心は相談前より晴れやかになっていた。
やっぱり、持つべきものは友達だよね!
「じゃあ2人とも、行こうか」
「リオ、自慢の怪力でなんとかならない?」
「出来たらヴィヴィオだけ置いて逃げてる。けど、何故か今のコロナは私より力が強いんだよね」
「ちょっ!?コロナ!私これからシュウさんの所に行かなきゃいけないから離して!HA✩NA✩SE!!」
「暴れんなよ……暴れんな……」
でも、同性愛論者は勘弁してね。
コマンドーな話『次元の壁をぶち破って原作vividを見た時の反応。リオ、コロナver』
「おお……コロナがまだ正気だった頃だ」
「あぁ^〜たまらねぇぜ」
「今はこんなだけどね……変な声出すの止めてくれない?なんか寒気がするから」
「ヴィヴィ×アイとかいいっすね^~」
「いい加減にしないと虎砲打ち込むよ?」
<待て!MA✩TTEアインハルト!?誤解だから!まだギリギリ何も起こってないから!!
<チッ。あと10秒。いや、5秒あればアクエリオン出来たのに……
<ヴィヴィオさん、遺言はそれで構いませんね?
<パンチングマシンで100とか普通に出すリアルモンクな私に喧嘩を売るとか……どうやらアインハルトさんは裏世界でひっそり幕を閉じたいみたいですね
<試してみますか?私だって元
<やめて2人とも!俺の為に争わないでぇ!!
「向こうも向こうでカオスだし……はぁ、(胃が)壊れるなぁ……」