父さん曰く、昔の人は地震親父と火事親父と雷親父を注意すべき災害として扱っていたらしい。
あの何処か適当な事に定評のある父さんの言う事だから多分、というか絶対に何処か間違っているだろうけれど、まあそうらしいのだ。
いきなりなんでそんな事を言い出したかというと、今俺は未曾有の災害に出くわしているからである。
それも、先に挙げた3つの例なんて到底及びもしない、とびきりの天災に。
「…………」
「…………」
彼女のメンポには大きく「罪」「殺」の二文字が刻まれている。その長い髪と共に風でたなびくマフラー、そして何故か所々赤黒い忍装束。
その姿は色々と日本という物を勘違いしたミッドチルダ人がイメージする忍者のそれであった。
彼女の名前はハンザイシャスレイヤー。ミッドチルダの街を、そして次元世界の安全を守る為に、ほぼ毎日犯罪者をちぎっては投げ、ちぎっては投げをリアルで繰り返している子供達のヒーローである。ちなみに得意技はパイルドライバーと、愛機バルディッシュのザンバーモードで行うケツバットの2つ。
そんな彼女が活躍するドラマ『ハンザイシャスレイヤー フロムドラマテイツク』は水曜日の午後5時からミッド12チャンネルで絶賛放送中だ!!
そんな、子供達に(何故か)人気のヒーローが、住宅地のド真ん中で誰の目線も気にする事なくパックの寿司を無言で食べているという、字面にしただけでも意味不明な状況に俺とアインハルトは遭遇していた。まさに未知との遭遇。
「……シュウさん」
「言うなアインハルト。引きずり込まれたいのか?」
彼女は我が家の郵便受けの所に立っていた。そして顔がこっちを向いている。表情はメンポに隠れてよく分からないが、それはそれで構わない。というか分かりたくない。
無言で彼女の
ガシッではなく、グワシッというのがミソらしい。前にこの人からそれだけで3時間拘束されたから、何か特別なこだわりがあるのだろうが──
「……えっ」
背後から?という疑問を持つ寸前、その思考を断ち切るように後ろから声が掛けられ、それを聞いた俺の動きが止まる。
「ドーモ、シュウ=サン。アインハルト=サン。ハンザイシャスレイヤーです」
まず横を見て、そこにハンザイシャスレイヤーの忍装束と、それを纏っている彼女が居るのを確認する。まだ無言で寿司を食べていた。
俺とアインハルトは顔を見合せると、そのまま同時にギギギ、とまるで壊れた機械のように振り向く。
すると、そこに居たのは
ある意味で予想通りといえば予想通りだが、それが当たっても全く嬉しくないのは、きっと出来れば外れて欲しかったと俺が思っているからだろう。
……ていうか──
「「ア、アイエエエエエエ!?」」
なんで2人に増えてんのさ
「…………はっ!?夢か……」
「ところがぎっちょん、夢じゃありません……ッ!これが、現実……ッ!!」
「ざわ……ざわ……」
俺とアインハルトが
……マジで記憶が無いんだが、ナニカサレタのか?
あとアインハルト、状況も把握してないのに条件反射でネタに走るのを止めてくれ。俺の腹筋に効く。
「……それで、俺とアインハルトを拉致ってどうするつもりですか」
「お泊まり会をします」
「「はぁ?」」
十中八九ロクな事ではないだろうなと思いながらフェイトさんの真意を問い質すと、返ってきたのは意外とマトモな答えだった。
……この状況自体がマトモではないんだけども、こんな状況でもまだマシな方なのだ。
「説明は家の中で!さあ入るのだ、忍術学園1年は組の勇者達よ!!」
「また懐かしくて分かりにくいネタを……お邪魔しまーっす」
俺が高町家の玄関を開けると、出迎えてくれたのは大人モードのヴィヴィオだった。
ヴィヴィオはスリッパをパタパタ言わせて玄関マットの上に立つと、よく分からないポーズを取って言う。
「おかえりなさいませ旦那様!お風呂にします?ご飯にします?それとも……わ・た・し?
なんて1度は言ってみたかったんですよ!あっ、でもシュウさんが望むなら、1度だけじゃなくて何度でも、どんな衣装でだってやりますよ!」
「ああ、うん。そうだな」
「ヴィヴィオさん……これは貴女の仕業ですか?」
若干怒り顔のアインハルトに、しかしヴィヴィオはキョトンとした表情で相対する。その顔は、まるでどうしてアインハルトが怒っているかが分からない、とでも言いたげだった。
「えっ?なんの事ですか?」
「フェイトさんをけしかけた事に決まっているでしょう!!」
「いやいやいや、我が家の常識的に考えて下さいって。フェイトママを、私が、コントロール出来る訳がないでしょう?今回は寧ろ巻き込まれ側ですよ。
自分のママをdisるのも嫌ですけど、フェイトママは私の知りうる誰よりもキチってますからね?」
「ああ……」
それで納得出来てしまう時点で、今までフェイトさんが何をして来たかが推して知れる。
次元世界広しといえども、犯罪者の捕縛にケツバットを採用する執務官は恐らく2人と居ないだろう。というか居て欲しくない。……抵抗しなくなるまでケツバットは普通に犯罪だと思います。
そして、その捕縛方法の所為でケツバットが癖になってしまった犯罪者が多くて、取り調べ中に事あるごとにケツバットを要求されて頭を抱えているだなんていうティアナさんの愚痴も知らない。知らないったら知らない。
「ほら3人とも、話してないで早くリビング入って」
「……いつの間にリビングに移動したとか、靴を仕舞った音とかしなかったよなとか、色々言いたいことはあるけど、取り敢えず手を洗ってきても良いですかね?」
「どうぞー」
フェイトさんはやはりフェイトさんだった。最近は姿を見てなかったから、俺の知らない間に更生しているかも、という僅かな希望もあったのだが……
「無いです」
「無いですねー」
「やっぱり?俺も言ってて無いわーって思ってたんだよな」
治るどころか寧ろ酷くなっている辺りがフェイトさんクオリティ。今も尚、フェイトさんの
「こんばんはシュウ君、アインハルトちゃん。ごめんねー、フェイトちゃんが急に暴走しちゃって」
「こんばんはー。いえ、父さんに比べたらフェイトさんのは、まだまだ優しいですよ」
「お久しぶりですなのはさん。シュウさんの言う通りですよ。この程度なら、まだ許容範囲内です」
リビングに入ると、そこには「反省中」と書かれたホワイトボードを首に掛けて正座しているフェイトさんと、5人分の料理をテーブルに並べているなのはさんの姿があった。
2人の力関係が一目で分かる状況と、後ろでジャンケンをしているアインハルトとヴィヴィオをスルーしつつ椅子へ座る。
高町家には何故か、俺とアインハルト専用の食器が用意されている。これは度重なるフェイトさんの襲撃の所為で用意されるようになった物だ。
「よし勝った!第三部、完ッ!」
「私が……負けた……?」
コロンビアしてるヴィヴィオと、見事なorzポーズのアインハルト。
そして、その横で残像を出しながらセルフChooChooTRAINしているフェイトさん。そのフェイトさんに迷うこと無くアクセルシューターを叩きつけるなのはさん。
なんだ、いつも通りだな!…………うん、マジでいつも通りだ。
「ほら皆、シュウ君が待ってるから早く座って」
『はーい』
ヴィヴィオは俺の隣に、アインハルトは俺の前に、フェイトさんはアインハルトの隣に、なのはさんはヴィヴィオとフェイトさんの間に、それぞれ座った。
「さて、それじゃあ」
『いただきます』
伊達に長年主婦をやってはいないらしく、なのはさんの料理はとても美味しかった。
「第何回?どきどきパジャマパーティー!イェーイ!」
「いぇーい」
時は移ろって、もうそろそろ寝る時間に差し掛かろうかという時。
あの後、俺とアインハルトは着替えが無い事を理由に(主にフェイトさんから)逃げ帰ろうとしたのだが、どういう訳か旅行用バッグに詰められた着替えを手渡されて逃げられなくなってしまった。
あの時、「これで心配は無くなったね!」と笑うなのはさんの笑顔に「誰が逃がすか」と書かれていたように俺は思えた。
「……でも、パジャマパーティーって何すればいいんでしょう?」
「適当にお話してればいいんじゃね?」
「じゃあそうしましょうか。
という訳で言い出しっぺのシュウさん!好みの女性のタイプとか、その他諸々を私たちに暴露プリーズ!」
「やけにテンション高いな……えーっと……」
深夜テンションというのか、普段に比べてテンションアゲアゲなヴィヴィオに困惑しながら、好みの女性のタイプを想像してみる。
「「ごくり……」」
「うーん……そうだな、特に思い浮かばないなぁ」
モヤモヤっとしたイメージはあるが、それが全く形にならない。そんな俺の、少し抜けた返答に2人がギャグ漫画のように肩を落とした。
「ええ……いやいや、もっとこう、何かありません?例えば金髪オッドアイの元気系美少女とか」
「やけに具体的だな……まあ惹かれる物はあるけど」
モヤモヤっとしたイメージが、一瞬でヴィヴィオに変化する。今日見たなのはさんの行動に、大人になったヴィヴィオを重ねてみる。
……結構似合っている。
「マジですか!?よっしゃあ!!」
「シュ、シュウさん?元気系も悪くはないですが、やはり時代は常に貴方に付き従う良妻系オッドアイの寡黙な美少女ですよ。ね?」
「時代ってなんだよ……確かに、そっちにも惹かれるけども」
今度はイメージがアインハルトに変化する。こっちもそれほど違和感は感じなかった。
「そうでしょう、そうでしょうとも。
ところでシュウさん。そろそろ醤油が無くなりそうなので、明日の学校帰りにスーパーに寄って行きませんか?」
「あーそうだっけ?じゃあ買って帰らないとな」
「ぐぬぬ……」
まだ買う物あったっけ、と冷蔵庫の中を思い浮かべていると、隣で寝ているヴィヴィオが呻いた。
ちなみに今、俺達は床に3人分の布団を敷いて寝ている。アインハルトとヴィヴィオは俺に密着してくるから、実質使用されているのは一つだけだが。
「なんだ?いきなりどうしたよ」
「アインハルトさんばっかりズルい……私もシュウさんと、そんな夫婦みたいな会話したい。そしてイチャイチャしたい」
「どやぁ」
ドヤ顔で煽るアインハルトに、またもぐぬぬと呻くヴィヴィオ。何とも言えず黙る俺。
ピリリリリ ピリリリリ
そんな微妙な空気を打ち破ったのは、俺の携帯端末から鳴る着信音だった。
「誰か取って。俺は両端固められてるから動けん」
「行きます!」
「させない!」
2人が体のバネを利用して起き上がり、そのままビーチフラッグを取るが如く俺の端末目掛けて手を伸ばす。
全く同じタイミングで手を伸ばした2人の勝敗を分けるのは、どちらが端末に近いかという純粋な距離の問題のみ。腕の長さという点ではアインハルトが勝り、距離ではヴィヴィオが勝る。
2人の手が我先にと端末へ伸び、そして到達する。
一瞬が永遠にも感じられたこの勝負(?)、勝ったのは……
「はいシュウ君。リンネちゃんからだって」
「あっ、どうもフェイトさん。……ん?」
「床に置いといたらダメだよ?誰が踏んじゃうかもしれないし」
「アッハイ、スイマセン」
……まさかの
まさかの登場に固まったアインハルトとヴィヴィオを横目に、俺はやりきった感を出しているフェイトさんに問う。
「ところでフェイトさん」
「なにかな?」
「何処から入って来たんですか?扉は閉まってるんですけど」
唯一の出入口である扉は、今は閉められているし開いた気配も無かった。
完全な密室である筈のこの部屋に転移魔法も使わずに入れるのか?
「え?普通に壁抜けして入ったけど」
入れるんです。フェイトさんなら入れちゃうんです。それも壁抜けとかいう、ゲームの中でしか出来なさそうな方法で。
「幽霊か何かですか貴女は……」
「幽霊の方がマシまでありますよ。なまじ生身の分、タチ悪いですし」
「やっぱり高町家の皆さんは何処かしらネジがぶっ飛んでますね……」
「人外筆頭のママ達と同類で括るとか、アインハルトさんは私に謝って?」
「ちょっと3人とも、私への当たりが酷くない?」
『酷くない』
正当な評価だと思います。
おまけ的な話『次元の壁をぶち破って原作vividを見た時の反応。なのは、フェイトさんver』
「嘘……フェイトちゃんが真面目にママやってる……!?」
「なのはが私をどんな目で見ているのか、よーく分かったよ」
「でも実際、そう思われても仕方ない事をやってるよね?今回も壁抜けとか披露してるし」
「え?壁抜けは執務官の嗜みでしょ?」
「…………ティアナー?」
<知らないです。取り調べ中にケツバット要求してくる犯罪者も、気が付いたら私の執務室に壁抜け侵入してコーヒー飲んでるハラオウン執務官なんて知らないです。
<ティア!?しっかりして!
<かゆ、うま。ガクッ
<ティア?ティアーー!?
「ええ……(困惑)」