鬱これ:財前提督シリーズ   作:駒由李

15 / 18
(※書いた年のバレンタインは明石のバレンタインボイスは未実装でした)本命に限って貰えないのがつらいってこういう時にいうんですね(´・ω・`) なので提督から逆チョコして貰いました。いつもの青少年提督です。14日が終わりそうだったので急いで書いたら短めに。かわいそうな提督(と大淀)の話。


ついでだから。

「ん」

 どこぞのジ●リアニメか。それを彷彿とさせる仕種で、司令官はそれを差し出してきた。作業服姿の明石はきょとり、目を瞬いた。冬服の軍服、それに袖を通したここの司令官は、こちらを見ずに書類にサインを続けていた。

 小さな箱に、赤味の強い橙色の包装紙。淡い緑色のリボンが飾られている。既製品かと思ったが、よく見ればそれは手製による包装のようだ。なぜなら、鎮守府敷地内の雑貨屋で、同様の包装紙やリボンを見かけたからだ。尤も、自身は他の艦娘の買い物に付き合っただけだったが。差し出されたそれは、どうやら自身に受け取れといっているらしい。戸惑いながらも、受け取る。工廠に関する報告書の提出に来たのだが、手を洗ってきておいてよかった。それでも落としきれぬ油汚れには不釣り合いな程に、丁寧なラッピング。詳細を問う前に、書類を片付ける司令官は、こちらを見もせずに早口にいう。

「他の艦娘がチョコを作ってたから、手伝ったついで。中に黒文字代わりの小さいフォークも入れておいたから、作業しながらでも食べられるよ」

「和菓子ですか」

「生チョコ。作るの簡単だからね。それじゃ、戻って良いよ」

 そういって、サインを終えた別件の書類を差し出してくる。それをもう片方の手で受け取りながらも、明石は小首を傾げた。常ならば、急かしはしないのに。そう思いつつも、何もいわずに書類仕事を続ける司令官は、もう何も答える気はなさそうだ。小さく肩を竦めて、執務室を出る。書類と、赤い包みを手にしながら。

 幸か不幸か。明石には見えなかった。軍人にしては長めに切り揃えられた司令官の髪と、常ならば屋内では外している、軍帽の下の顔色に。

 

 首を傾げている同僚を見咎めて、声を掛ける。

「あら、明石。それ、どうしたの」

「うん、司令から貰って」

「へぇー……」

 大本営から下される任務の整理中の事。工廠へと戻ろうとするところだったらしい。作業着姿の彼女は、常ならば持たぬようなかわいらしい品を手にしている。てっきり明石から誰かへ贈る品かと思ったが、そもそもワーカホリック気味の彼女はバレンタインデーというものを把握しているかすら怪しい節がある。他の艦娘達が14日という日付が近付くにつれ色めき立つ中、彼女はいつも通りに機械油に塗れて仕事に打ち込んでいた。

 それにひっそりと落ち込んでいた司令官を見たのも、一再ではない。少々気の毒だったものの、こればかりは馬に蹴られたくはないので口出しはしなかった。その結果が、今日という日の、彼女が手に持つこれらしい。駆逐艦達に配る為、と鳳翔や間宮らと厨房に立つ姿を見かけたが、この為だったようだ。廊下で立ち話をする彼女達の横を、駆逐艦達が駆けていく。その手には、どれも同じ大きさで同じ彩りの紙袋が握られていた。実のところ、大淀も貰っている。但し、これはどちらかというと司令官達からの配給品に近いと、大淀は認識していた。駆けていく駆逐艦達の姿を見送った明石は、きょとりと目を瞬いていた。

「もしかして、艦種毎とかに違うラッピングでチョコを配布してくれたの、司令は」

「中身は同じかも知れないけどね。司令は、何かいってた?」

「生チョコだって。作るの簡単だからって。あ、あと作業しながらでも食べられるように小さいフォークも入れてくれたとかどうとか。皆も同じようにしてくれたのかな、司令は優しいし」

「……」

 大淀は、眼鏡の下。笑みを強張らせる。

(司令。普段から誰にでも優しいからこんな事になるんですよ)

 ワーカホリックの明石が、果たして他の艦娘が貰ったプレゼントの中身の違いに気付けるか。思わず心配する。

 ――さすがに違うチョコ菓子を作り分ける余裕はなかったらしい。だが、わざわざ、手作業の多い明石の為に、フォークも入れて丁寧にラッピングした。しかも、オレンジ色の包装紙とオリーブグリーンのリボンという配色。それは付き合いの長い同僚の配色によく似ていた。しかし、肝心の明石は、それに気付いている様子はない。しげしげと自身の貰ったプレゼントを眺めているだけだった。それに、眼鏡越しにうろんに見ながら、唸るように呟いた。

「……ホワイトデー、ちゃんとお礼してあげなさいね」

「え、でも司令がいくら大食らいだからって、他の艦娘からもお返し貰うだろうし」

「いいから。何なら私も買い物に付き合うから」

 思わず語気を強める。その程度には、今の大淀は司令官に同情していた。

 司令。この子を落とすのは回りくどい方法じゃ駄目ですよ。内心でつぶやきながら。

 

 

(司令。そんなツンデレは明石に通じません)

(マジか)

 

 尚、ホワイトデー当日。お返しに「司令はコーヒーを飲む事が多いから、溶かして飲めるマシュマロをあげよう」と呟いた明石の頭を大淀が思わず引っぱたいたという光景が見られた。

 

 

End.

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。