鬱これ:財前提督シリーズ   作:駒由李

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※非公式且つ独自解釈鬱設定、男が男(Ω)に絡むアッー描写有 α大和×Ωアイオワが前提の、Ω男性提督(→β明石前提)とアイオワの話。アイオワのかわいさにめろめろです。古いな。
▼艦これバース過去作
「コンプレックス【提督+赤賀】」(https://novel.syosetu.org/85854/12.html)(α赤城×Ω加賀)
アイオワってどの程度英単語混ぜればいいんだろう。辞書とにらめっこです。
▼これは派生作品なので、財前提督シリーズ本編と異なり3年経っても明石との関係は煮え切らないままです。
▼そういえばこの鎮守府の街はどうなってるんだろう。日本人街とは決めてるけど。鎮守府に勤める一般軍人と彼らを目当てに日本から来た商人とかが住みはじめたみたいなのはずっとイマゲしてる。
お題は「わるものマニア」(http://www.w-mania.com/)より。


【派生オメガバースパロ】体温【大和×アイオワ(+提督)】

 日本から離れたこの地、鎮守府を取り巻く日本人街。日本人は地元に馴染む傾向があり、所謂中華街のように独自の文化を発展させる事はほとんどない。なので、この土地でも、住民の多くが仕事でやって来た日本人が多いというだけで、人種の様々な人々が日々、昼夜問わず賑わっているのだ。それが良くも悪くも。

(地獄だ)

 私服で、それもひとりで出歩いていたのが悪かったらしい。誰もまさか、噂には聞いていても自分のような青二才が、あの海軍基地の司令官だとは思わないだろう――。地元住民と思しき男性達に絡まれながら、提督は端的にそう思った。白人、黒人、あるいは彼らとの日系人か。軍人としては小柄な自身より筋骨隆々とした彼らは、にやにやと笑いながら自分を取り巻いている。彼らから漂うのは、汗や香水などの体臭だけではない。Ωの自分にはわかってしまう「α」のフェロモンも強烈に混じっていた。自分の肩に手を置いている男がそうだ。他の男達はβのようだけれど、どちらにせよ、危機的状況には変わらない。肩を掴む手に全筋力で抵抗しながら、彼らが話している言葉を聞く。

『おいおい兄ちゃん、あんたオメガだろ。アルファの言う事は聴いておこうぜ』

『そうそう、別にこいつはあんたとつがいになりたいって訳じゃねーよ。ただこの辺じゃ日本人の美人の女は艦娘だらけで安心してナンパができねぇ。だがあんたはどう見ても男だし、匂いでオメガだってわかるんだってよ。男でもオメガならあちらの具合がいいんだってな。なぁ、ちょっと遊ぶだけだって。明日の朝にはおうちに帰してやるよ坊や』

(地獄だ)

 大事な事だから2回思った。現地訛りの英語の言葉は、出来るだけ上品に訳したものが先述だ。こういった事ははじめてでないから、内心で溜息を吐く。3年前に着任して、幼い見てくれから、ひとりで歩いている時にカツアゲや暴力の対象になる事は屡々あった。以前はもっと狭い街だったから、その度に艦娘が通りがかって助けてくれたし、以前は艦娘が美しい見目の下にとんでもない馬力を秘めている事など知られていなかった。しかし、街が広まっていくうちに、この町の事実上の統治者である自身の眼の届かない部分も大きくなっているようだ。艦娘には反撃して相手に致命傷を与えても許される特殊な法律がある。しかし、自分を含めて「一般」の軍人や住民などが心配になってきた。反応の薄い彼に焦れてきたらしい男達が手を伸ばしてくるのを避けながら、提督は考える。

(帰ったら、憲兵の方に街の治安について聞いておくか。見回りの強化も頼んでおこう)

『おい聴いてんのか?!』

「ああ、聴いてなかった。それでなんだっけ、遊びに行くって話だっけ。悪いけど俺はこれから予定がだね」

「Hey!! こんなところにいたのね、my friend!!」

 不意に、明るい声と大きなゴム鞠が腕にぶつかった。否、それは女性だった。心地よい体温を伴う、柔らかで、それもとびきり華やかな。蹌踉めいて、そして視界に飛び込んできた金髪に眼が眩む。そして名を呼びかけそうになる。

「あ、アイオ」

「もう、待ち合わせ場所からmissingしてると思ったら! rendezvousに遅れちゃうじゃない! Darlingが待ってるわ、そういう訳で貴男達」

 突然、男達の群れに飛び込んできた英語混じりの女性――アイオワは、力任せに提督の体をアルファの男の腕から引き千切った。そしていまだ目を瞬いている彼らに、極上の笑顔を振りまいてみせる。

『悪いけど、私達はダーリンと待ち合わせしてるの。また今度、もっと人の多い場所で会いましょ』

『……そ、そうか』

『それなら、仕方ないな……』

 その勢いに押し負けたのだろう。あるいは、「若い美人=艦娘」という公式に思い当たったか。彼らは眩しそうにしながら、オメガの少年という獲物をみすみす逃していった。

 のちに、彼らは酒場で、鎮守府に勤める一般軍人から、若い司令官の顔を知るのだが、これは余談である。

 

 連れ去られた提督はといえば、腕に大きくよく弾むゴム鞠を押しつけてくる金髪の美女にようやっと言葉をかけたのは現場から離れてきっかり1分経過してからの事だ。敢えて腕を振り払わなかった理由については察して欲しい。オメガといえど提督も男性だった。

「……アイオワ、さすがだね。助け方が洗練してる」

「Admiralもterriblyね。JapanのOMEGAの男の子となれば、こっちじゃ良いpreyよ。Meが来た時で3年でしょ、もっと危機感を持たないと」

 間近の――しかし目線の位置が上になる――アイオワは、やっと腕から豊かな胸を外すと、しかし提督の腕を手で掴んだまま、真顔で人差し指を振る。大柄で豊かな肢体は、明るい表情によくマッチしていた。

「Me達オメガは、いつだって狙われるpositionなんだから」

「……そうだね」

 肯かざるを得ない。この鎮守府はベータが大多数だ。しかし、比例してオメガの艦娘が多い。それは、司令官である青年がオメガであり、彼女達への配慮を出来るだろうという試みからだ。同じ「アイオワ」でも、オメガの彼女が、先日の春の合同殲滅作戦で報酬艦としてやって来たのは。当初は必要以上に居丈高に振る舞っていた彼女だが、この鎮守府の内情を知ると次第に態度を軟化させていった事は記憶に新しい。性差別はどの国でも存在する。ただ、日本よりも他国は、直截的に生存に関わる事が多いと、話には聴いていた。オメガの彼女が、ただでさえ海域を封鎖されて窮状に陥っている米国で、どんな人生を歩んできたかは想像に難くない。出来れば、戦う事を強いられる日々でも、この任地ではせめて少しでも心穏やかに過ごしてくれればいい。「同性」の提督はそう思いながらも、気軽に苦笑しながらいう。

「今までは何だかんだと、毎回艦娘か親切な人に助けて貰うか逃げるかしてたからね……かといって軍人が殴ると問題になるし。士官学校時代から、程度の差はあれどこんなんだったし。学校側も配慮してくれたけど、妊娠して一緒に卒業できなかった同期もいたよ」

「Oh......想像しただけでhelish......Are you OK? ケツ穴fuckされなかった?」

「全部逃げ切ったから大丈夫、あと出来ればもっと穏当な話し方して欲しい」

 並びながら、何となくアイオワが赴く方へ歩いていく。元々、春の作戦が終わり、久し振りの非番を楽しむ為に街を漫ろ歩くつもりだったのだ。初っ端から思わぬ障害に出くわしてしまったけれど。人気の増えてきた町中は、健全な賑わいに染まってきていた。時間帯は昼に近い。こんな明るい時間帯から絡まれた事を考えると、思ったよりも治安は悪化しているのかも知れない。非番明けには憲兵の屯所に直接向かう事を視野に入れた。そして、どうやらある目的地に向かっているらしい事に気付いた彼は、「賑やかな街ね」と嬉しそうにしているアイオワに話しかける。

「ところでアイオワ。俺はそろそろどこかの店に入って、同じく非番の誰かを呼ぶよ。だから安心して、埠頭で待ってる大和とデートしてきなよ」

 途端、振り返る。長い金髪が当たった。星を抱いた眼を見開いて、彼女は声を上げる。

「……obnoxiousな男ね、いつからわかってたの?!」

「確信を持ったのは、さっきの男達と遭遇した時だよ」

 ここで煙草でも咥えれば様になるのだろう。しかし生憎と手ぶらだった。だから代わりに、ポケットに手を突っ込む。目を瞠ってくる彼女に、提督は語る。

 春の作戦が終わって暫く経つ。作戦を立てる都合上、ヒートの時期については密かに申請しておいてくれといわれていた。つがいが出来てもヒートはやって来る。しかし、つがいがいるのといないのとでは、大きく差異があった。この鎮守府においては、加賀がその最たる例だった。

「あいつら、つがいを持ってない俺のにおいには気付いたのに、お前がオメガだって気付いてなかった。つがいが出来れば、オメガはヒートは起きてもアルファを引き寄せるフェロモンを発しなくなる――俺らオメガが、性教育で重点的に教わる事でしょ」

「Admiral、貴男食えない奴ね」

「それに、更に今のお前のリアクションで確信した。日本だと、薬は倦厭される傾向にある。でも欧米、特に米国だとオメガの為のヒートの抑制剤だけじゃなく、フェロモンを抑制する薬も積極的に摂取すると聴いてる。艦娘に処方されてるピルと同じ感覚でな。――アメリカ人で、且つ艦娘のお前がそれを飲んでたからこそ、あいつらも気付かなかったって可能性も考えていたんだけどな」

「あぁ、もう、いいわよ! Youが頭の良い男っていうのはよくわかったわ!」

 大仰に頭を振ると、街角の壁。そこで顔を手で覆う。そんな彼女を見上げながら、提督は思い出す。

 事前に、オメガのアイオワが着任するとは聴いていた。大体の「艦娘」としての人柄も聴いていた。想定外だったのは、春の総力戦の為に、大型艦建造で着任していた大和に「ジャパニーズヤマトナデシコ!」とひと目ぼれした事だった。

 大和は心底困った様子だった。ベータならば火遊び程度で済んだかも知れない。ただ、大和はアルファだったのだ。

 艦娘の恋愛関係については、余程の事がない限りは顔を突っ込まない事にしている。それでもアルファとオメガに関わる事ならば、作戦にも響くから無視は出来ない。ましてや、彼女は米国から預かっている艦娘なのだ。

「全く、ヤマトのいう通りね。……heatの時期が来たら、いうつもりだったわよ。その、Meにだって恥ずかしい事はあるのよ」

「あんなに大っぴらに大和にくっついておいて……」

「あんなの挨拶よ!」

「でも、俺、大和に相談されてたよ。ちょっと前まで。『アイオワさんがかわいくって困る』って。今にして思えば惚気だったんだろうけど」

「……Oh,Darlingったら! 相変わらず慎ましやか!」

「とりあえず、次のヒートの時期が来たら、正式に書類手続きしてね。つがいになったなら、フェロモンが出なくなる。ひいては深海棲艦も引き寄せなくなるから、戦域に出せる」

 今度は心から嬉しそうに、辺り構わず頬に手で覆って身を振る。アメリカ人は賑やかだ。そんな事を思いながら、溜息混じりに肩を竦める。

 オメガもアルファも面倒な事だ。色々と。恐らく深海棲艦側でも同じような事を考えているだろうけれど。

「……あいつらが何を考えてるかは知らないけど、オメガがヒートの時期に出撃すると、潜水艦娘さえ無視して攻撃してくるっていう実例があるからね。大井はお前みたいに早々に北上とつがいになったからバンバン活躍してくれてる。お前らにも是非活躍して貰いたいから、その辺はお願いね」

「Yes sir!」

 先程までの怒りはどこへやら、上機嫌に腕を上げる彼女に溜息を吐く。脳内では、数日前の大和のぼやきが再生されていた。

『アイオワさん、あんまり無邪気でかわいくって、………………』

 音声化されなかった部分は、どんな顔をしていたか。思わず身を引いた程度には、アルファの本能が剥き出しだった事は覚えている。

 ハリウッド映画のような恋でもしたのだろうか。この短期間で何があったのか。同じオメガの自分は身を守る事に精いっぱいだから、いつか彼女達の口から語られるまで待とう。喫茶店を見つけて、スマートフォンを取り出す。さて、誰にヘルプを出そうか。別れようとした矢先、ふと、アイオワは尋ねてきた。

「そういえばAdmiral、何で待ち合わせ先までわかったの」

「あれは出任せ。このまま歩いていけば行き着く先はあそこだろうなあって思っただけ」

「……本当! unreliable!! 次またナンパされても助けないから!!」

「ははは、デート楽しめよ。それと、さっきは本当に有難う。気を付けるよ」

 ジェスチャーを交えて怒るアイオワに、笑って手を振りながら店に入る。ここはカツサンドの美味しい店なのだ。足音荒く去っていく彼女を見送り、店員に挨拶されながら席を選ぶ。メニューを眺めて、ふと溜息を吐いた。

 既に3年だ。オメガはアルファとつがいを作る事を推奨されている。スマートフォンのLINEグループ「鎮守府」、今日が非番の艦娘の中に見つけた名前に、連絡する事は大分躊躇された。

(明石がアルファであってくれれば、せめてオメガ同士なら、まだ今頃もっと進展があっただろうに。……アイオワが羨ましい。自身の甲斐性のなさを性別に押しつけるのはよくないのはわかってるけど)

 LINEグループにひとまず、「アルファの男にナンパされた。●●店でヘルプ乞う」と投稿する。

 すると、すぐさま通知が入った。

『大丈夫ですか?! 私、大淀と近くにいるので直ぐ行きますね!』

「…………明石は優しいなあ」

 「┌(┌^o^)┐」「アッー」「乙wwwwwwww」という暖かさの籠もったリプの中、まともな返答をくれた意中の彼女に心中で苦笑する。

 優しい子だ。だから好きになったのだ。でもこの3年、ずっとこのままだ。彼女の体温を乞うて、3年が経っていた。無邪気な笑顔の温かな優しさに。

 

体温

 

 

 

「早く行ってあげないと! それにしても、提督って艦娘の誰かとつがいになる気はないのかな」

「……私はこっちに用があるから、明石。貴女がひとりで行ってあげなさい」

「えーでも、人数が多い方が」

「いいから!」

 

 

 

End.


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